文献情報
文献番号
201816010A
報告書区分
総括
研究課題名
日本人認知症ゲノム解析を出発点としたオミックス-臨床情報統合解析による疾患関連パスウェーイの解析から診断、治療への応用
課題番号
H30-認知症-一般-004
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
尾崎 浩一(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター メディカルゲノムセンター 臨床ゲノム解析推進部)
研究分担者(所属機関)
- 新飯田 俊平(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター メディカルゲノムセンター)
- 重水 大智(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター メディカルゲノムセンター 臨床ゲノム解析推進部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
7,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
これまでの双子疫学研究による認知症、特に孤発性アルツハイマー病(Late-onset Alzheimer’s disease; LOAD、本文中ではADと略す)の発症に与える遺伝因子の割合は58%~79%であることが証明されており、その大部分を遺伝因子が占めていることが明らかとなっている。したがって、遺伝因子群を同定し、分子マーカーとして使用することや、その役割を精査することから疾患の分子メカニズムが解明でき、エビデンスに基づく予防法や治療法の開発に大きく貢献できる。本研究では日本人、アジア人特有のゲノムに特化したジェノタイピングアレイによるGWASと次世代シークエンサーを駆使した全RNA解析を統合することによる、疾患に直接的に関連した遺伝的バリアント、遺伝子機能、遺伝子発現、スプライスバリアントの同定、解析から真の疾患分子を同定および詳細な解析と共に、統計、機械学習的なアルゴリズムを用いた疾患の予知法や創薬のターゲットとなる分子パスウェーイを探索することを目的とする。
研究方法
国立長寿医療研究センター・メディカルゲノムセンター・バイオバンク(NCGGバイオバンク)によりリクルートされた認知症及びコントロールサンプルを用いて解析を行った。7,132例のDNAについては東北メガバンク機構にて開発されたジャポニカアレイ(東芝への外注)によるジェノタイピングを施行した。全RNA解析についてはNCGGバイオバンクのバフィーコートより高純度のRNAを抽出し、全RNA配列解析用ライブラリ作製キットを用いて、高精度のRNAライブラリを構築した。全RNA配列解析については外注にてデータを得た。全エクソーム解析は202例のAPOE e4 ADリスクアレルを持たないAD患者由来DNAについてHiseq2500(イルミナ社)を用いて配列決定をおこなった。
結果と考察
認知症を含むDNA検体7,132例についてジャポニカアレイによりジェノタイピングを行った。試験的な解析として約775万SNPを用いたAD(2,357例)と対照コントロール(3,174例)のGWASを進めた。この解析でゲノムワイド有意性を示したローカスは染色体19番長腕のAPOE座位のみであり、既報のAPOEジェノタイプがこの集団においても最も強いADとの関連を示すことが再確認できた。また、ゲノムワイド有意性は獲得できなかったが、示唆的な統計値(p < 10-5)を示し、東アジア人にしかアレル頻度を持たないいくつかの疾患候補座位を同定することもできている。遺伝的因子と遺伝子発現量の関係について精査することを目的として、全RNA配列解析について次世代シークエンサーを用いて進めてきている。これまでに約600検体について高品質RNAを抽出、全RNA配列解析ライブラリを作成し全配列解読を進めており、240例についてはパイロット的に発現解析、eQTL解析を行った。240サンプルを用いたeQTL解析では21,793遺伝子中1,393遺伝子がcis-eQTLを示した。これらの遺伝子群の中でADとコントロールで発現に差があり(10個)、かつGWASでのp値が0.05未満であったバリアントが存在する遺伝子は2個存在しており、有力なAD関連候補遺伝子であると考えることができる。
エクソーム解析からのレアバリアントの同定解析の結果、アミノ酸の置換を伴う炎症関連分子内のバリアントがADに強く関連することを同定した(オッズ比 6.1、P = ~10-5)。In vitro 解析の結果、このバリアントは炎症に中心的な役割を果たす転写因子であるNFkBの活性を制御することが判明した。今後さらなるサンプルの増加、欧米人を含む既報GWASとのメタ解析により新たな疾患感受性座位が同定できるものと考えている。全RNA解析については240例の試験的なeQTLおよび発現差異検定の結果いくつかの遺伝子がADに関連する可能性を得ており今後の検証が期待される。エクソーム解析からはこれまでに同定されていないレアバリアントを同定し、そのバリアントが炎症、免疫系の制御に関連している可能性が浮かび上がっている。
エクソーム解析からのレアバリアントの同定解析の結果、アミノ酸の置換を伴う炎症関連分子内のバリアントがADに強く関連することを同定した(オッズ比 6.1、P = ~10-5)。In vitro 解析の結果、このバリアントは炎症に中心的な役割を果たす転写因子であるNFkBの活性を制御することが判明した。今後さらなるサンプルの増加、欧米人を含む既報GWASとのメタ解析により新たな疾患感受性座位が同定できるものと考えている。全RNA解析については240例の試験的なeQTLおよび発現差異検定の結果いくつかの遺伝子がADに関連する可能性を得ており今後の検証が期待される。エクソーム解析からはこれまでに同定されていないレアバリアントを同定し、そのバリアントが炎症、免疫系の制御に関連している可能性が浮かび上がっている。
結論
日本人に特化したアレイによる日本人認知症を含む約7,000例のジェノタイピングを施行し、ADのGWASを試みた結果、APOE座位のみがゲノムワイド有意性を示したが、示唆的な統計値(p < 10-5)を示す東アジア人にしかアレル頻度を持たないいくつかの疾患候補座位も同定しており、今後のサンプル数増加による解析やメタ解析による検証が期待される。全RNA配列解析及びその統合解析においても同様に大規模化することによる真の疾患感受性パスウェーイの同定、分子機能の解明へと発展させることができる。
公開日・更新日
公開日
2020-02-13
更新日
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