認知症地域包括ケア実現を目指した地域社会創生のための研究

文献情報

文献番号
201816003A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症地域包括ケア実現を目指した地域社会創生のための研究
課題番号
H28-認知症-一般-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
神崎 恒一(杏林大学 医学部高齢医学)
研究分担者(所属機関)
  • 木之下 徹(のぞみメモリークリニック)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
2,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、認知症の人の意思が尊重され、住み慣れた地域でできる限り長く暮らしていける社会を実現すること、そのような“認知症高齢者にやさしい地域”を作ることを大目的としている。これを実現するためにH28年度、29年度から継続して、以下の研究・事業を行った。
研究方法
① 認知症のひと本人が地域活動に参加することによる本人のQOLと家族介護者の介護負担度等に与える影響の客観的評価:のぞみメモリークリニックを新規受診した認知症(もしくは疑い)の診断を受けた本人、および同行する介護者111組(平成29年度64例、本年度47例を併せて評価)を対象に、地域活動(運動教室,スポーツ, 趣味の教室, 社会的活動など)への参加の有無により2群に分け、登録時と24週後に、本人の認知機能、BPSD(DBD)、QOL効用値(EQ-5D)、介護者の負担度(Zarit)ほかを評価した。
② 認知症の病期分類(軽度、中等度、重度)に基づく適時・適切な医療・介護等を提供するための生活支援策(ケアパス)構築ならびに普及:認知症の病期に基づく適時・適切な生活支援策(ケアパス)を平成28年に初版として作成し、平成29年と30年に一部を改定した。
③ 三鷹市における“認知症にやさしいまち作り”の支援:三鷹市では毎年秋に「認知症にやさしいまち三鷹」と題した市ほかが主催するイベントを開催している。平成30年度は11月17日に開催した。
④「認知症にやさしい地域作り手引き」の作成:尾島班との共同作業で「認知症の人・高齢者等にやさしい地域作り手引き~指標の利活用とともに~」を作成した。
(倫理面への配慮)研究の実施にあたって厚生労働省が定める「臨床研究に関する倫理指針」を遵守した。アンケート調査は匿名で行い、個人情報保護に努めた。また、認知症のひと本人、家族介護者を対象とするQOLや介護負担度の評価研究に関しては杏林大学医学部倫理委員会で承認を受けた。
結果と考察
111例のうち地域活動(運動教室,スポーツ, 趣味の教室, 社会的活動など)への参加群は37例、不参加群は74例であった。24週後の測定値マイナス初回測定値(変化量)で、本人のQOL効用値(+0.046 vs. -0.049, p=0.04)、ならびに家族/介護者の負担度(-2.94 vs. +5.41, p=0.04)に有意な差が検出された。すなわち、地域活動への参加が、本人のQOL向上と家族介護者の負担軽減につながることが示された。また、QOL効用値から求められるQALY評価で一人当たり約30万円の医療経済軽減効果があることが判明した。このような客観的介入効果判定方法は、日本各地で行われる認知症介入策に応用可能である。
② 認知症の病期(軽度、中等度、重度)に基づく市内での具体的な生活支援策をケアパスのなかで資源マップとともに示した。この中には、かかりつけ医または相談医、専門医療機関、在宅相談機関の3者による病・診・介護の連携体制のほか、認知症相談窓口、オレンジカフェ、家族交流の場、など、認知症の人や介護者支援を支援するための様々なサービスが示されている。このケアパスが作成されたことで、新オレンジプランの“認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供(地域包括ケア)”、“認知症の人の介護者への支援”、“認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進”に貢献することができると考えられる。
③ 平成30年度は11月17日に「認知症になる前に知っておくと得すること」をテーマに、繁田雅弘氏を講師に招き、講演会を開催した。内容は、認知症は誰もがなる可能性があること、もしなったとしても三鷹が認知症を受け入れることができるようなまちになることが大切である。というものであり、本研究テーマに合致するものであった。
④本研究の成果物として、尾島班との共同作業で「認知症の人・高齢者等にやさしい地域作り手引き~指標の利活用とともに~」を作成した。同冊子のなかで40~44ページの「まちづくりの実践例Ⅰ 認知症になっても安心して暮らせるまちづくり- 東京都三鷹市の例-」の項目を執筆した。
結論
認知症のひとが地域活動に参加することによって、本人のQOLと家族/介護者の負担の軽減に結びつき、経済効果にもつながることが示された。その他、三鷹市を中心に、認知症の病期分類(軽度、中等度、重度)に基づいた適時・適切な医療・介護等を提供するための生活支援策(ケアパス)構築ならびに普及に努め、三鷹市の“認知症にやさしいまち作り”を支援した。また最終成果物として、尾島班との共同作業で「認知症の人・高齢者等にやさしい地域作り手引き~指標の利活用とともに~」を作成した。

公開日・更新日

公開日
2019-05-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-02-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201816003B
報告書区分
総合
研究課題名
認知症地域包括ケア実現を目指した地域社会創生のための研究
課題番号
H28-認知症-一般-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
神崎 恒一(杏林大学 医学部高齢医学)
研究分担者(所属機関)
  • 山口 晴保(群馬大学 大学院保健学研究科)
  • 櫻井 孝(国立長寿医療研究センター もの忘れセンター)
  • 木之下 徹(のぞみメモリークリニック)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、認知症の人の意思が尊重され、住み慣れた地域でできる限り長く暮らしていける社会を実現すること、そのような“認知症高齢者にやさしい地域”を作ることを大目的としている。これを実現するため主として以下の研究・事業を行った。
研究方法
3年間で以下の事業・研究を行った。
① 認知症の病期に基づく適時・適切な医療・介護等を提供するための生活支援策(ケアパス)構築ならびに普及。
②“認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進”と“認知症にやさしいまち”作りに必要なことを問う市民を対象としたアンケート調査:平成28年に市民を対象に、自分の家族が認知症になった場合と自分が認知症になった場合でまちに何が必要か、のアンケート調査を行った。
③ 家族教室の効果をランダム比較介入研究:国立長寿医療研究センター・もの忘れセンターを受診した認知症の人の介護者54名を対象に、介護者心理支援プログラム(CEP)と自習群の2群に無作為に割り付け、3カ月間の効果を検証した。
④ 認知症のひと本人が地域活動に参加することによる本人のQOLと家族介護者の介護負担度等に与える影響の客観的評価:新規に認知症(もしくは疑い)の診断を受けた本人、および介護者111組を、地域活動への参加の有無により2群に分け、登録時と24週後に、本人のQOL効用値(EQ-5D)、介護者の負担度(Zarit)ほかを評価した。
⑤ 認知症高齢者にやさしい地域を作るためのガイドラインの作成
(倫理面への配慮)研究の実施にあたって「臨床研究に関する倫理指針」を遵守し、杏林大学医学部倫理委員会で承認を得て実施した。
結果と考察
認知症の病期(軽度、中等度、重度)に基づく市内での具体的な生活支援策をケアパスのなかで資源マップとともに示した。この中には、H24-認知症-一般-002で構築した病・診・介護の連携体制のほか、認知症相談窓口、オレンジカフェ、家族交流の場など、認知症の人や介護者支援を支援するための様々なサービスが示されている。このケアパスが作成されたことで、新オレンジプランの“認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供(地域包括ケア)”、“認知症の人の介護者への支援”、“認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進”に貢献することができる。
② “認知症にやさしいまち三鷹”啓発事業を平成28、29、30年に行った。基本的なコンセプトは、認知症は誰もがなる可能性があること、認知症になったとしても本人の尊厳が保たれ生きていけるまち作りの必要性である。またアンケート結果でも、医療体制の充実、相談できる場所、サービス提供場所の明示、自分の意思を伝えておく仕組み作り、見守り体制の充実などが必要であることが判明した。この内容は一部ケアパスに反映されている。
③ 3か月間無作為割り付けでCEPの効果を検証した結果、介護者の主観的介護負担感は増大するものの、「介護コーピング」や「肯定的介護評価」が改善することによって、介護ストレス(抑うつやバーンアウト)が低減することが証明された。
④ 対象者111例のうち、地域活動(運動教室,スポーツ, 趣味の教室, 社会的活動など)への参加群は37例、不参加群は74例であった。24週間の測定値の変化量で、本人のQOL効用値(+0.046 vs. -0.049)、ならびに家族/介護者の負担度(-2.94 vs. +5.41)に有意差が検出された。すなわち、地域活動への参加が本人のQOL向上と家族介護者の負担軽減につながること。また、QOL効用値から求められるQALY評価で一人当たり約30万円の医療経済軽減効果があることが判明した。このような客観的介入効果判定方法は、日本各地での認知症介入策に応用可能である。
⑤ 尾島班との共同作業で「認知症の人・高齢者等にやさしい地域作り手引き~指標の利活用とともに~」を作成した。
結論
本研究の主な成果は以下の通り。
①認知症のひと本人が地域活動に参加することによって本人のQOLが向上し、家族/介護者の負担が軽減すること、同時にQALY評価で一人当たり約30万円の医療経済軽減効果があること、②教育的支援プログラム(家族教室)は主観的介護負担感が増加しても、「介護コーピング」や「肯定的介護評価」が改善することによって介護ストレスが低減すること、③三鷹市と近隣6市において、認知症の病期分類(軽度、中等度、重度)に基づく適時・適切な医療・介護等を提供するための生活支援策(ケアパス)を作成し、地域に普及させたこと、④三鷹市において毎秋、“認知症にやさしいまち三鷹”のイベントを開催し、市民に対する認知症啓発を図ったこと、⑤「認知症の人・高齢者等にやさしい地域作り手引き~指標の利活用とともに~」を成果物として作成した。

公開日・更新日

公開日
2019-05-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-02-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201816003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
① 認知症のひと本人が地域活動に参加することによって、本人のQOLと家族介護者の負担が軽減することを、それぞれEQ-5D, Zarit介護負担度を用いて定量的に評価した。このことにより、さらにQALY評価で一人当たり約30万円の医療経済軽減効果があることも証明した。② 家族教室の効果をランダム比較介入試験で客観的に評価し、教育プログラムを受講することによって、介護ストレス(抑うつやバーンアウト)が低減することを証明した。
臨床的観点からの成果
認知症高齢者にやさしい地域を作るためには、ケアパスを用いた認知症の早期から終末期までの地域での支援体制の明示と各地域に応じたさまざまな介入策(カフェ、家族交流会など)の設定であるが、介入効果については必ずしも評価することはできない。本研究で行ったEQ-5DからQALY評価(本人の視点)や家族介護負担評価(家族の視点)は定量性をもち、かつどの地域でも実施可能である。応用性の点で本研究成果は臨床的価値があると考える。
ガイドライン等の開発
尾島班との共同作業で「認知症の人・高齢者等にやさしい地域作り手引き~指標の利活用とともに~」を作成した。このなかで具体的な事例として、本研究で行った東京都三鷹市でのケアパス「知ってあんしん認知症ガイドブック」の内容を紹介し、早期発見から医療と介護の連携、急性期の支援、認知症になっても安心して暮らせるまちづくりについて言及した。これにより、「認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくり」に貢献することができた。
その他行政的観点からの成果
東京都三鷹市をはじめ、北多摩南部医療圏6市において認知症の病期分類(軽度、中等度、重度)に基づく適時・適切な医療・介護等を提供するための生活支援策(ケアパス)を作成し、これを市内の関係各所に配布し、市民の利用につなげた。このなかには、早期発見から認知症相談窓口、病・診・介護の連携体制、交流の場など、様々なサービスが示されている。これにより、“認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供(地域包括ケア)”、“認知症の人の介護者への支援”、などに貢献することができる。
その他のインパクト
本研究では上記のほか、“認知症にやさしいまち”啓発事業を行い、市民の認知症に対する意識の向上を図っている。また、認知機能低下高齢者の運転免許更新に関する対策を北多摩南部医療圏6市で具体的に講じた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
28件
その他論文(英文等)
34件
学会発表(国内学会)
47件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件
三鷹市で「認知症にやさしいまち三鷹」の啓発事業を開催。2020年11月に日本認知症学会の企画として『〈認知症診療のための基礎知識・基本技術〉認知症を地域で支える仕組み』の教育セミナーを行った。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2019-05-16
更新日
2023-08-18

収支報告書

文献番号
201816003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,769,000円
(2)補助金確定額
3,769,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,296,446円
人件費・謝金 1,020,204円
旅費 499,553円
その他 83,797円
間接経費 869,000円
合計 3,769,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2020-02-06
更新日
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