小児薬物療法における医薬品の適正使用の問題点の把握及び対策に関する研究

文献情報

文献番号
199800684A
報告書区分
総括
研究課題名
小児薬物療法における医薬品の適正使用の問題点の把握及び対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
大西 鐘壽(香川医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 松田一郎(江津湖療育園、日本小児科学会薬事委員会委員長)
  • 藤村正哲(大阪府母子保健センター副院長)
  • 辻本豪三(国立小児病院小児医療研究センター)
  • 石崎高志(熊本大学大学院薬学研究科臨床薬理研究室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,340,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
この課題は領域が非常に広範で、極めて難解で錯綜した問題を包含している。本邦のみならず、先進欧米諸国においても、製薬会社、医療行政、小児関連学会が三位一体となってこれに取り組み、莫大な資金のみならず、倫理的配慮さらに患児ないし両親の献身的な理解、これら無しには解決は不可能である。いずれも保険制度上の差はあるが、長年に亘って本邦と先進欧米諸国が共通に抱えてきた課題である。最近、米国では国策として小児医療の改善を大きな柱として取り上げ、1997年11月21日クリントン大統領が1997年のFDA近代化法に署名し、法律(Pub. L. 105-115)の成立が契機となって以来、これまで、FDA、NIH、米国小児科学会、米国製薬工業協会(PhRMA)等が総力を結集してこの問題に真正面から取り組む行動が開始されている。我が国の医療現場に目をむけると、そこまでの認識があるとは言い難い現状である。この実情を系統的且つ具体的に把握するために、本研究は本邦における小児のoff-label 医薬品の実態や4つの病院内の処方の実態と添付文書の解析を行い、医薬品等とその使用される疾患との関係を明確にして、その解決のための対策を立てることを目的した。
研究方法
小児医薬品の適応外使用の実態を把握するために8項目について以下の方法で取り組んだ。
【本邦の小児科領域における新薬に関する研究】小児科領域における新薬に関する予備的調査結果を素案として医薬品を「海外で市販されているかその直前で、至急日本で市販されるべき医薬品」を第一のカテゴリーとし、「日本で開発中(一部は外国で市販)で至急治験ないし承認を応援した方が良い医薬品」を第2のカテゴリーとしてアンケート調査表を作成し、小児医薬品調査研究班の17委員および日本小児科学会の薬事委員全員に行った。それらの医薬品68製薬会社の学術部へ国内及び海外の開発状況等を問い合わせた。【小児医薬品の開発に対する製薬会社の意識調査】製薬会社64社へ、本研究に役立つ資料の提供を求めると共に、小児用医薬品の承認・許可制度について行政や小児科医への要望を自由記述式でアンケート調査した。【小児科領域における非市販薬に関する調査と倫理的対応】非市販医薬品を、(1)現在開発中の医薬品、(2)各施設で輸入し使用している医薬品、(3)医薬品として使用している試薬、(4)各施設で合成または小児用剤形に変更している医薬品の4種類に分類し、アンケート用紙を138小児科医療施設に送付し実態調査を行なった。同時にそれらを患者に使用するときの各医療機関のインフォームドコンセントを含んだ倫理的対応方法についても調査した。【小児のオーファンドラッグに関する海外臨床研究調査】1997年FDA近代化法(Pub.L.105-115)並びに、FDA「小児情報の追加が小児患者に対して保健上の有益性をもたらすと思われる。また既承認医薬品のリスト」(ドケット番号98N-0056)を検討すると共に、米国に於ける小児薬理研究ユニットのネットワークに注目し、調査並びにそれに対応する我が国に於ける組織作りを行った。【小児病院における小児に処方された医薬品に関する研究】1997年1月1日から12月31日の一年間に大阪府立母子保健総合医療センター(総病 床数263)で18科における0~17歳の入院(3,470)及び外来患者(83,086)に処方された医薬品別(経口・外用薬と注射薬)について、特に早産児に関しては在胎期間を考慮し、ICHの年齢分類に準拠してその処方頻度と年齢別処方薬品別の患者数を調査した。【総合病院と大学附属病院において小児へ処方された医薬品とその添付文書の解析に関する研究】最近1年間に18歳未満の患者に対し処方された医薬品について、香川医科大学附属病院と他の大学附属病院と総合病院で処方された医薬品(内用・外用・注射薬)の使用頻度について小児をICHの年齢分類に準拠し調査した。同様にその小児に関する添付文書の記載についても解析し、その問題点を具体的に例を挙げて明らかにした。
【The Cochran Library-1998 の未熟児における無呼吸発作に対するメチルキサンチン(Henderson-Smar DJ, Steer P)の評価法に関する検討】無呼吸発作に対するメチルキサンチン療法に関係する
The Cochran Library 1998, Issue 4で得られたレビューおよびMEDLINEから得られた論文を用いてこの治療法の評価を行なった。【日本小児科学会分科会別の適応外医薬品の優先順位表に関する研究】日本小児科学会の各分科会別の適応外医薬品の優先順位と、必須の医薬品について文献的考察を含めた報告書の作成を1998年11月24日に、第1回拡大厚生科学研究班会議を開き依頼した。その後、1999年2月5日に、第2回拡大厚生科学研究班会議を開き、その報告書を回収した。それにより、各分科会別優先順位表を作成した。
結果と考察
小児科領域における新薬に関するアンケート調査を行い「海外で市販されているかまたはその直前で至急日本で市販されるべき医薬品」と「日本で開発中で至急治験ないし承認を応援したほうがよい医薬品」がそれぞれ 30、31品目が挙げられた。これに関連して行った製薬会社67社へのアンケート調査では、全社から回答が寄せられたが、(そのうち24社から自由記述式)、本邦の現行の医薬品承認・許可制度では、小児医薬品の自発的な開発を期待することは極めて困難な状況であることが判明した。一方、全国大学附属病院および小児病院 138 施設を対象にした非市販医薬品のアンケート調査からは、現在開発中の医薬品(23品目)輸入医薬品(32品目)試薬(41品目)施設内で合成および剤形変更(26品目)が多数あることが判明し、その使用にあたって審議会を経ていない施設が約40%にものぼり責任の所在、費用の問題、およびインフォームド・コンセントについて検討する必要があることが判明した。他に大規模小児病院および2大学病院・一般病院における一年間の小児への処方せん解析をおこなった。この結果、実際臨床医は使用規制のある医薬品を規制を知りながらも医師個人の責任下において使用しなくてはならない実態が明らかとなった。この問題は速やかに解決されなくてはならないと考える。また、いずれの病院においても薬物療法は小児外科等の小児関連診療科でも行われていることが判明した。つまりこれは小児(内)科医だけの問題ではないことを示している。これらの問題点の解決について米国では、The National Institute of Child Health and Human Developmentが小児の適切な薬物治療の目的のためにThe Pediatric Pharmacology Reserach Unit Networkを構築し活動しているが、日本においてもこのようなネットワークの構築が急務である。そこで今後の対応方法のモデルケースの一つとして、日本未熟児新生児学会より早急に対応を望まれている未熟児無呼吸発作に対するメチルキサンチン療法について、The Cochrane Libraryのsystematic reviewをもとに、治療の有効性を確認し適応承認申請を行うために必要なエビデンスについて検討した。
「小児医薬品調査研究班」から提出された適応外医薬品と新薬の優先順位表の上位の医薬品については今後早急に同様の対応が求められる。
結論
小児の医薬品適応外使用について、成人のそれと異なる多くの問題点を見出すことが出来た。一般に、小児の医薬品は対象症例数や用量の少ないことなどの不採算性から製薬会社による開発治験が極めて困難な現状が知られている。今回の調査では、世界で広く使用されている医薬品でも本邦での承認・許可の困難さのため製薬会社が躊躇している状況が判明した。保険医療との関係の詳細は不明であるが、アンケート調査、小児への処方の検討および各小児科分科会からの報告より、適応外使用医薬品が日常的に使用されている実態が明らかになった。この問題に対する欧米の取り組み方および小児薬物療法の歴史的背景を考えると小児薬物療法のtherapeutic orphanの状況は米国と日本と共通であるが、日本が抱えている非常に大きな問題は米国に比べて極めて貧弱としか言い様のない小児医学教育・医療体制が根底に横たわっており、therapeutic orphanはその氷山の一角に過ぎないと把握されて、しかるべきであろう。従って、この課題を解決するため、医薬安全局の審査管理課、健康政策局の研究開発振興課、児童家庭局の母子保健課を始めとする部局で組織される厚生省は勿論、大蔵省、文部省、など全省庁が相互に緊密な連携の下に、小児薬物療法のtherapeutic orphan の状況を十分に理解され、深刻で静かなる少子化に直面しているわが国の小児医療の現場に混乱を起こすことなく、国民に利益をもたらし、円滑に解決される道が開かれることを切に願っている。

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