女性の健康の社会経済学的影響に関する研究

文献情報

文献番号
201810002A
報告書区分
総括
研究課題名
女性の健康の社会経済学的影響に関する研究
課題番号
H29-女性-一般-002
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
飯島 佐知子(順天堂大学 医療看護学研究科 看護管理学・保健経済学)
研究分担者(所属機関)
  • 横山 和仁(国際医療福祉大学・順天堂大学医学部)
  • 福田 敬(国立保健科学院国立保健医療科学院保健医療経済評価研究センター )
  • 西岡 笑子(防衛医科大学校医学教育部看護学科 母性看護学講座)
  • 古谷 健一(防衛医科大学校医学教育部医学科 産科婦人科学講座)
  • 齊藤 光江(順天堂大学医学部 乳腺・内分泌外科)
  • 五十嵐 中(横浜市立大学医学群 健康社会医学 ユニット)
  • 遠藤 源樹 (順天堂大学医学部 公衆衛生学)
  • 坂本 めぐみ(防衛医科大学校医学教育部看護学科 母性看護学講座)
  • 三上 由美子(防衛医科大学校医学教育部看護学科 母性看護学講座)
  • 大西 麻未(順天堂大学大学院医療看護学研究科 看護管理学領域)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 女性の健康の包括的支援政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
3,443,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 平成29年度の推計では婦人科系疾患を抱えて働く女性の年間の生産性損失4.95兆円と推計された。乳がん・子宮がんの検診受診率は先進国の中で最も低く、月経関連症状を有する女性の65%が未受診であった。女性の健康情報については、87.9%の者がインターネットから情報を得ていると回答しており、自治体、事業所から情報を得ていた者は少なかった。一方、自治体と事業所がどのように女性の健康支援を実施すれば良いのか明確になっていない。以上のことから、本研究の目的は、地域と職場における女性の健康増進に係る取組の好事例の収集することとした。
研究方法
1) 自治体の事例:生涯を通じた女性の健康支援」「ライフプラン」「ライフデザイン」等の健康教育事業を実施している都道府県に焦点を当て、先駆的取り組みまたは良い取り組みを行っている自治体にインタビュー調査を実施し、事例集を作成した。
2)事業所の事例:「くるみん」「えるぼし」「健康経営」「なでしこ銘柄」等の認定を複数受けている事業所125社に、2018年8月に調査依頼を配布し、同意の得られた事業所の人事労務担当者に女性の健康支援についてインタビュー調査を行った
結果と考察
1) 自治体の事例は、都道府県における女性の健康支援の好事例集と市町村における女性の健康支援の好事例集の2冊を作成した。都道府県における女性の健康支援の好事例集に掲載した自治体は、栃木県、埼玉県、千葉県、神奈川県、富山県、石川県、静岡県、兵庫県、宮崎県であった。市町村における女性の健康支援の好事例集は、練馬区、相模原市、横須賀市、新潟市、酒田市であった。自治体が取り上げている女性の健康リスクは、乳がん、子宮がん、妊娠・出産、不妊などが多く、それ以外の婦人科疾患を対象とした自治体は、千葉県、富山県、相模原市、横須賀市であった。全ての自治体は、一次予防として、パンフレット、ポスター、チラシ、ホームページ、携帯アプリケーションを活用した広報による健康教育を実施していたが、その効果を評価している自治体は少なかった。また、地域住民、企業、中学校、高校、大学生を対象とした健康教育を実施していた。2次予防として、乳がん、子宮がんの健診受診率の向上対策、保健師、助産による健康相談窓口の設置をしている自治体は3箇所であった。自治体と他機関の連携について、企業や中学校、高校、大学は自治体が行う女性の健康教育にかかわる出張講義を思春期や青年期などの対象集団に行うための場所を提供していた。特筆すべきは、相模原市の「がん検診受診促進パートナー制度」で企業と自治体が共同して健診受診率の向上に取り組んでいた。また、大学と共同で、教育プログラムを開発していた。横須賀市では、健康相談窓口を大学教員が担当していた。しかしながら、協会けんぽとの連携をしている自治体はなかった。

2)事業所の事例集は、7事業所から作成した。うち中小企業2社(従業員数35名、102名)、大企業5社(従業員数646から32969名)であった。女性職員割合は16.6から83.4%であった。業種は、サービス、通信、金融、医療福祉、製造3社であった。(2)健康教育:大事業所では保健師が乳がん、貧血、骨密度測定、更年期、月経随伴症状へのセルフケアの方法などを教育していた。中小事業所では女性の健康に特化した教育を実施していなかった。(3)相談窓口:大事業所では女性の医療職を配置していた。中小企業では女性の健康に特化した窓口はなった。(4)婦人科疾患の検診:7事業所で検診費用を保険者または事業所の負担で実施しており、事業所内の定期検診や会社帰りに立ち寄れる提携病院で受診できる工夫をしていた。乳がん受診率は4社で60.0%以上、子宮頸部細胞診受診率は3社で80%を超えていた。(5)仕事と治療の両立支援:大企業では乳がんなどについて産業医・保健師と病院が連携し、段階的な復職支援を実施していた。中小企業では、受診は短時間勤務で対応し必要時に上司が付き添う事業所もあった。
結論
 回答した自治体では、女性の健康に関わる健康教育のためにパンフレットなどによる広報、出張講義を実施していたが、企業との連携は少なく、協会けんぽとの連携は皆無であった。一方、回答事業所は規模に関わらず、乳がんと子宮がん検診全国平均よりも高い受診率を実現していた。しかし、中小企業では、健康教育、相談窓口、仕事と治療の両立支援が困難であった。以上のことから、自治体、企業、協会けんぽが連携して、健診勧奨を企業に依頼し、自治体が実施する健康教育や相談窓口の共同利用や、医療機関と情報共有して両立支援を行うシステムの必要性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2019-12-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-12-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201810002B
報告書区分
総合
研究課題名
女性の健康の社会経済学的影響に関する研究
課題番号
H29-女性-一般-002
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
飯島 佐知子(順天堂大学 医療看護学研究科 看護管理学・保健経済学)
研究分担者(所属機関)
  • 横山 和仁(国際医療福祉大学 順天堂大学医学部)
  • 福田 敬(国立保健科学院 保健医療経済評価研究センター)
  • 西岡 笑子(防衛医科大学校医学教育部看護学科 母性看護学講座)
  • 古谷 健一(防衛医科大学校医学教育部医学科産科 婦人科学講座)
  • 齊藤 光江(順天堂大学医学部 乳腺外科)
  • 五十嵐 中(横浜市立大学医学群 健康社会医学ユニット)
  • 遠藤 源樹(順天堂大学医学部 公衆衛生学)
  • 坂本めぐみ(防衛医科大学校医学教育部看護学科 母性看護学講座)
  • 三上由美子(防衛医科大学校医学教育部看護学科 母性看護学講座)
  • 大西 麻未(順天堂大学大学院 医療看護学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 女性の健康の包括的支援政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)月経困難症や骨粗鬆症など女性特有の疾患や、女性の生活習慣病が、女性の各ライフステージにおいてどの程度社会的損失を生み出しているかについて、労働力の観点、医療費の観点、介護費の観点などから検討し、女性の健康の社会経済学的影響について明らかにする
2)職場や地域における女性の健康増進に係る取組の好事例の収集する
3)職場の取組による健康増進の社会経済学的インパクトの評価することである。
研究方法
1)女性の罹病による医療費および生産性損失の計算: 2014年の社会医療診療行為別調査、患者調査、賃金構造基本統計調査、労働力調査の公開データを用いて計算した。
2)疾患・出産・育児・介護による離職の労働力損失の計算:総務庁統計局の2017年の労働力調査、厚生労働省:2016年賃金構造基本統計調査の概況を用いて、算定した。
3)働く女性に対するweb調査:全国で働く20~65歳未満の女性2000名に対し平成30年1月にweb調査を実施した。
4) 自治体の事例:生涯を通じた女性の健康支援」「ライフプラン」「ライフデザイン」等の健康教育事業を実施している都道府県に焦点を当て、先駆的取り組みまたは良い取り組みを行っている自治体にインタビュー調査を実施し、事例集を作成した。
5)事業所の事例:「くるみん」「えるぼし」「健康経営」「なでしこ銘柄」等の認定を複数受けている事業所125社に、2018年8月に調査依頼を配布し、同意の得られた事業所の人事労務担当者に女性の健康支援についてインタビュー調査を行った。
6) 事業所の調査:全国の「えるぼし」や「くるみん」認定企業を対象に、女性支援事業の内容、事業費、効果として、女性の休職率・離職率を調査し、費用便益を検討した。
 
結果と考察
1)女性の罹病による社会的損失の合計は28.7兆円であり、GDPの5%に相当した。損失の大きい女性の疾患は、消化器系疾患(4.7兆円)循環器系疾患(4.6兆円)、新生物(2.7兆円)、筋骨格・結合組織の疾患(2.4兆円)であった。女性の生活習慣病の社会的損失は9.2兆円であり、女性特有の疾患の社会的損失は2.3兆円であった。
2)健康上の理由、出産・育児・介護のために離職して就職を希望しているが仕事につけない女性の労働生産性の損失は、3.7兆円であり、GDPの0.7%に該当した。
3)月経関連の不快な症状のある者のうち、産婦人科の受診者は19.0%、産業医・保健師に相談した者は1.8%であった。子宮頸がん・乳がん検診は、50~60%が未受診であった。受けない理由は、時間がない、場所が遠い、費用が高いと回答した者が80~90%であった。職場の女性の健康問題の相談窓口ついて、92%の者がない・わからないと回答した。87.9%の女性が健康情報をインターネットから得ており、事業所、自治体の情報を利用している者は少なかった。
4)8都道府県5市町村と取り組みを事例集に掲載した。自治体が乳がん、子宮がん、妊娠・出産、不妊、婦人科疾患を取り上げ、ポスター、パンフレット、ホームページを活用した健康教育、学校、企業への出張教育、乳がん、子宮がんの健診受診率の向上対策、保健師、助産による健康相談窓口の設置をしていた。しかし、企業との連携は少なく、協会けんぽとの連携は皆無であった
5)回答した7事業所は規模に関わらず、乳がんと子宮がん検診を全国平均よりも高い受診率を実現していた。しかし、中小企業では、健康教育、相談窓口、仕事と治療の両立支援を実施していなかった。
6) 14企業から回答を得た。検診実施率は乳がん超音波検査6割、子宮頸がん細胞7割であったが、マンモグラフィ、月経随伴症状の聴取、骨密度測定の実施率は4割以下であった。女性の健康の相談窓口を設置している企業は、2社に過ぎず、女性の罹患状況が把握されず、医療機関への紹介はされていなかった。1次から3次の予防対策の実施率は25%以下であった。中小企業では予防対策の費用に対して便益が得られていなかった。

結論
結論:女性の罹病による社会的損失は28.7兆円となり、GDPの5%に相当した。女性の健康にかかわる予防から治療、就労継続までの包括的な支援のために、インターネットによる女性の健康情報の提供や、自治体、企業、協会けんぽが連携して、乳がん、子宮がん健診の勧奨を企業に依頼し、自治体が実施する健康教育や相談窓口を中小企業が共同利用することや、医療機関と情報共有して両立支援を行うシステムを構築する必要性が示唆された

公開日・更新日

公開日
2019-12-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201810002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
女性の罹病による社会的損失を婦人科疾患のみならず、疾病分類全体から捉えて概算し、その総額を28.7兆円として明らかにし、社会的インパクトは2017年の実質GDPの5%に相当することを明らかにした。また、疾病分類別にその影響を生活習慣病による損失は9.2兆円、女性特有の疾患損失は2.3兆円と示し優先順位を明らかにした。女性の生活習慣病や女性特有の疾患は生産性損失が大きいことから職場を中心に予防から治療、就労継続までの包括的な支援の必要性が示された。
臨床的観点からの成果
事例収集から、自治体ではパンフレットやホームページを用いた健康教育や、職場、学校への出超講義、保健師・助産師による相談窓口、乳がん、子宮がん健診を実施しているが、住民の認知度が低くあまり利用されていなかった。一方、コール・リコールを実施している企業内では、乳がん子宮がん検診の受診率は高かった。一方で、中小企業では保健師によるパンフレット作成や集合教育、相談窓口は実施できていないため、両者を連携することで、地域の働く女性の健康支援が充実する可能性が示唆された。
ガイドライン等の開発
ガイドラインは開発していないが、市町村、都道府県と企業に向けた好事集を作成し、自治体、企業に配布した
その他行政的観点からの成果
女性の健康にかかわる予防から治療、就労継続までの包括的な支援のために、インターネットによる女性の健康情報の提供や、自治体、企業、協会けんぽが連携して、乳がん、子宮がん健診の勧奨を企業に依頼し、自治体が実施する健康教育や相談窓口を中小企業が共同利用することや、医療機関と情報共有して両立支援を行うシステムを構築することで既に存在する資源を有効活用できる可能性を示唆した。
その他のインパクト
2019年2月 依頼により社会保険労務士会で企業における女性の健康支援と医療経済について講演を行った。
2019年10月 更年期と加齢のヘルスケア学会学術集会のメインシンポジウムで講演
2021年厚生労働省のスマートライフプロジェクトのホームページに、研究成果および事例集を紹介した

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
ホームページ掲載3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2020-03-16
更新日
2022-07-14

収支報告書

文献番号
201810002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,475,000円
(2)補助金確定額
4,382,000円
差引額 [(1)-(2)]
93,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 523,434円
人件費・謝金 538,624円
旅費 320,703円
その他 1,968,062円
間接経費 1,032,000円
合計 4,382,823円

備考

備考
差額は自己負担した。

公開日・更新日

公開日
2020-02-27
更新日
-