文献情報
文献番号
201809005A
報告書区分
総括
研究課題名
健康寿命及び地域格差の要因分析と健康増進対策の効果検証に関する研究
課題番号
H28-循環器等-一般-008
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
辻 一郎(東北大学 大学院医学系研究科 公衆衛生学専攻)
研究分担者(所属機関)
- 橋本 修二(藤田医科大学 医学部)
- 津下 一代(あいち健康の森健康科学総合センター)
- 横山 徹爾(国立保健医療科学院)
- 村上 義孝(東邦大学 医学部)
- 近藤 尚己(東京大学 大学院医学系研究科)
- 田淵 貴大(大阪国際がんセンター がん対策センター)
- 相田 潤(東北大学 大学院歯学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
第1に、都道府県・大都市における健康寿命(日常生活に制限のない期間の平均)の推移を分析して、「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」と「健康寿命の都道府県格差の縮小」という健康日本21(第二次)の目標の達成状況を検証する。第2に、コホート研究により生活習慣等と健康寿命との関連を分析し、どの生活習慣をどの程度改善させることで健康寿命は何年延びるかを解明する。第3に、生活習慣病の地域格差に対する生活習慣や社会経済状況の影響を検討する。第4に、効果的な生活習慣改善につながる健康増進対策の優良事例を全国から収集し、その効果と実施方法を明らかにする。これにより、健康増進対策の効果的な展開と国民の健康寿命のさらなる延伸に資するものである。
研究方法
厚生労働省「国民生活基礎調査」データを分析して、健康寿命(日常生活に制限のない期間の平均)の都道府県値・大都市値を算定し、「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」及び「健康寿命の都道府県格差の縮小」という健康日本21(第二次)の目標の達成状況を検討した。コホート研究データを用いて、健診成績(喫煙・血圧・BMI)や教育歴が健康寿命(介護保険非該当での平均生存期間)に及ぼす影響を検討した。レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて、心疾患既往歴・肥満と運動習慣の市町村格差の要因を検討した。国民生活基礎調査データを用いて、男女別に都道府県毎の多量飲酒率(日本酒換算で、男性平均2合/日以上、女性平均1合/日以上)を計算し、平成25年から28年にかけて都道府県格差の推移をRate differenceやRate ratioなど複数の格差指標により検討した。6府県および府県下260市町村の健康増進部門を対象に健康増進・保健事業の企画立案、実施、評価の状況に関する書面調査を行い、6府県別に現状と課題について検討した。すべての研究は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守し、所属施設の倫理委員会の承認を受けている。
結果と考察
都道府県における「日常生活に制限のない期間の平均」は、男女とも、多くの都道府県で有意に延伸した。10年間の変化は男性で1.25~4.47年、女性で-0.13~4.44年と推定された。平成22年から28年にかけて「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」の目標を達成しているのは男性で10都道府県、女性で13都道府県であった。健康寿命の都道府県格差指標は、平成22、25、28年それぞれ、男性で0.58、0.47、0.37年(片側トレンドp<0.001)、女性で0.65、0.61、0.53年(片側トレンドp=0.041)で、男女ともに有意に縮小した。「健康寿命の都道府県格差の縮小」という健康日本21(第二次)の目標は、男女とも達成中と判定された。60歳健康寿命でみると、収縮期血圧とBMIが改善することで男性では0.10歳増加、女性では0.13歳増加し、収縮期血圧、BMI、喫煙が改善することで男性では0.43歳、女性では0.21歳増加することが確認された。教育歴が長い者では健康寿命が長かった。教育歴(最終学歴)が<16歳の群と比較し、16-18歳では9.0ヶ月長く、19歳では10.4ヶ月長かった。その要因として、生活習慣よりも地域活動への参加の方が大きな貢献をしていた。肥満・運動不足や心疾患・脳卒中既往に関する市町村格差は、生活習慣の違いよりも所得の格差による影響の方が大きかった。平成25年から28年にかけて都道府県別の多量飲酒率は男性では全般的にやや減少傾向を呈し、女性では横ばいの傾向を呈していた。一方、平成25年から28年にかけての日本における多量飲酒の都道府県格差は、女性でやや増加傾向にあることが分かった。6府県別では、健康増進・保健事業のテーマ別実施状況、事業開始のきっかけ、検討時の活用資料、連携状況、評価指標、健康格差の視点、健康日本21計画の策定状況等にばらつきがみられた。市町村における効果的な健康増進事業の実施のためには、都道府県の支援体制、首長のトップダウン、地域・職域との連携、評価の仕組みを組み込んだ事業、地道で継続的な取り組み等が必要であると考えられた。
結論
3年間の研究により、当初の研究目的が概ね達成されたと考えられた。これらの研究成果に基づいて、健康づくりのさらなる進展に向けた提言を作成した。提言では、健康寿命の関連要因を把握するための調査のあり方、健康の社会的決定要因に基づいた健康格差指標の設定など、健康日本21(第二次)に続く国民健康づくり運動の策定にあたって留意すべき事項・論点が示されている。
公開日・更新日
公開日
2019-09-30
更新日
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