健康診査・保健指導の有効性評価に関する研究

文献情報

文献番号
201809002A
報告書区分
総括
研究課題名
健康診査・保健指導の有効性評価に関する研究
課題番号
H28-循環器等-一般-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
永井 良三(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 磯 博康(大阪大学 医学系研究科)
  • 山縣 然太朗(山梨大学大学院 総合研究部医学域社会医学講座)
  • 津下 一代(公益財団法人愛知県健康づくり振興事業団 あいち健康の森健康科学総合センター)
  • 三浦 克之(滋賀医科大学 医学部)
  • 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター 予防健診部)
  • 岡村 智教(慶應義塾大学医学部 衛生学公衆衛生学)
  • 小池 創一(自治医科大学 地域医療学センター)
  • 古井 祐司(東京大学 政策ビジョン研究センター)
  • 立石 清一郎(産業医科大学 保健センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では予測される将来の健康リスクを把握し早期予防につながる施策とするために健診や関連した事後指導等の評価方法を検討した。評価方法は保健事業における実行性を鑑みて設計し長期的、多角的な視点から有効性を検証した。
研究方法
健診のあり方検討では成人の循環器疾患や糖尿病予防を対象とした健診制度を検証した。具体的には予測される発症リスクをスクリーニングしリスク軽減を図る早期の予防介入につながる評価指標および評価方法を検討した。施策実行性の検討では健康づくり動線の構築の検討にあたりデータを活用した効果的な健康・予防の推進を目指す自治体国保のデータヘルスの活用を検討した。また予防教育の早期開始と家族単位での生活習慣改善を促すために学習指導要領に準拠しデータヘルスに基づく予防啓発プログラムによる模擬授業を実施した。
結果と考察
健診のあり方検討では、1)血管内皮機能、中心血圧、脈波増大係数に関する疫学研究により、一般地域住民における喫煙習慣はAI高値と関連した。AI検査が健診に導入可能な有用性の高い検査であると考えられる。2)ライフコース・ヘルスケアからみた妊婦健診、乳幼児健診、学校健診の項目の検討では、アウトカムである健康事象の設定、経年的な追跡項目と年齢ステージ毎の項目を選定する必要がある。これらを各健診の標準化やデータの保管状況も加味して次世代医療基盤法等の動向もみながら検討する必要がある。3)思い出し法による20歳時の体重および20歳時からの体重増加量とその後の検査データとの関連分析では、男女とも若年期から中年期まで20歳頃の体重は比較的正確に申告できている可能性があり、簡便な方法で過去の肥満状況を推測でき現在の検査データ解釈に有用と示唆された。4)人間ドック健診大規模データ活用による糖尿病・境界型糖尿病の腎機能悪化への影響検討では、正常腎機能者において2年後のeGFR<60 ml/min/1.73m2(尿蛋白は陰性のまま)には耐糖能ではなくBMI、血圧、脂質が関連しており、2年後の尿蛋白±以上(eGFR&#8805;60 ml/min/1.73m2のまま)にはBMI、喫煙に加えて耐糖能異常が境界型糖尿病の段階から影響することが確認できた。5)一般住民における潜在性冠動脈硬化進展度と冠動脈イベント予測ツールによる推算リスクとの関連を検討した結果、ツールによる違いは大きくなくツールを構成する危険因子の組み合わせの妥当性を潜在性動脈硬化のレベルで支持するものである。6)Fatty liver indexの脂肪肝診断能に関する評価は飲酒有無に関わらず良好だが中等量以上の飲酒者では脂肪肝の定量的評価に関する診断能の低下傾向が示されFLI値は慎重に評価する必要がある。7)特定健康診査の産業保健スタッフの関与に関する実態調査から、特定健康診査・特定保健指導は産業保健専門職にとって優先順位の高くない活動であり、事業そのもののメリットを示す、健康経営との連結等の方向性から検討を進める必要がある。労働者個人に対しては健康管理を確実にしてもらうための支援をする等親和性が高い。
施策実行性の検討に関しては、1)効果的な健康・予防の推進を目指す自治体国保のデータヘルスの活用方策を検討し、健康課題とその解決策の保険者相互の共有、評価指標の設定支援などを実現するツールや教育コンテンツが有用である。2)小学6年生向け予防啓発プログラムによる試行を行った。データヘルスを活用した教材は“自分ごと化”につながること、学校教育が子どもから大人への健康づくり“動線”の構築や地域の健康づくりの起点になり得る可能性がある。
結論
本研究により予測される将来のリスクを予測し介入により軽減させることができる評価指標(健康診査項目)および評価方法の検討に資する基礎資料が提示された。具体的には、簡便かつ非侵襲的に動脈硬化を評価する定量的な検査や現状の背景を把握する手法など、今後の健診に導入可能な有用性の高い指標が示された。またリスクを予測するツールを構成する危険因子の組み合わせやその妥当性に関しても知見が示された。これらは生涯を通じて健康増進を図る健康診査のあり方など今後の国の健康施策の検討に資する。一方、保健事業の現場で適用可能な予防介入施策については自治体国保におけるデータヘルスを活用して地域の健康課題を構造化しその解決策をパターン化することの有用性が示され、今後、保険者相互にノウハウを共有化したり、標準的な評価指標を提示するといった、都道府県や保険者協議会等が保険者へ支援すべき内容が提示された。学校教育を通じた予防啓発ではデータヘルスを活用した教材の有用性や学校、家庭において受容性のある実施スキームであることが示され保険者や自治体衛生部局、学校保健相互の連携の有用性と具体的な教材が示された。

公開日・更新日

公開日
2019-12-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2019-12-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201809002B
報告書区分
総合
研究課題名
健康診査・保健指導の有効性評価に関する研究
課題番号
H28-循環器等-一般-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
永井 良三(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 磯 博康(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 山縣 然太朗(山梨大学大学院 総合研究部医学域社会医学講座)
  • 津下 一代(公益財団法人愛知県健康づくり振興事業団 あいち健康の森健康科学総合センター)
  • 三浦 克之(滋賀医科大学 医学部)
  • 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター 予防健診部)
  • 岡村 智教(慶應義塾大学・医学部 衛生学公衆衛生学)
  • 小池 創一(自治医科大学 地域医療学センター)
  • 古井 祐司(東京大学 政策ビジョン研究センター)
  • 立石 清一郎(産業医科大学 保健センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、予測される将来の健康リスクを把握し、早期予防につながる施策とするために、健診や関連した事後指導等の評価方法を検討した。なお、評価方法は保健事業における実行性を鑑みて設計するものとし、長期的、多角的な視点から有効性を検証することとした。
研究方法
(1)研究体制の整備;研究フィールドとなる保険者や自治体、関連学会・研究班等との必要な連携を図ることとした。
(2)健診のあり方の検討;予測される発症リスクをスクリーニングし、リスク軽減を図る早期の予防介入につながる評価指標および評価方法を検討した。検討にあたっては、「健診見直し研究」での方法に準拠し、国内外の文献調査やコホート研究フィールドを活用した。
(3)施策実行性の検討;保健事業の現場で適用可能な予防介入施策を探るため、地域、職場、学校における健康づくり動線の構築の可能性を検討した。
結果と考察
健診のあり方検討では、健診制度を検証し、現状の制度や健診項目で期待される効果、今後充実させるべき内容、事業実施の問題点と今後の方向性について幅広く検証した。その結果、以下の知見が示された。1)メタボリックシンドローム(MetS)を有する者の保健指導参加率を50%、そのうち半分がMetSから脱却したと仮定すると約2%の糖尿病新規発生を抑制できる。しかし既に存在している糖尿病患者には事業の効果は及ばないので集団全体の糖尿病有病率はほとんど不変である。2)正常腎機能者において、耐糖能異常は2年後のeGFRの低下には関連していなかったが、尿蛋白所見の悪化には関連していた。eGFRの低下には高血圧などの他の危険因子の関連が強かった。3)脳・心血管疾患の発症予測には性別、年齢の他に古典的な危険因子(高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙)が重要であるが、高度肥満は危険因子と独立に循環器疾患発症を予測した。4)血管内皮機能(FMD)はMetSの構成要素と、脈波増大係数(AI)は喫煙と関連を認めた。いずれも非侵襲的な検査であり新しい健診項目の候補になり得る。5)糖尿病の発症予測には、肥満度よりも血糖値やHbA1cが重要である。また耐糖能異常を有さない群では、検査値から計算できる脂肪肝指標は独立した糖尿病発症の予測要因であった。6)ナショナルデータベースのビッグデータを用いて、特定保健指導のMetS改善や減量、糖尿病予防の有効性が示唆されたが、選択バイアスの問題は残されている。7)退職前の健診所見が退職後の生命予後の規定要因となることが示された。8)産業保健の現場では健診の役割に対して医療現場や臨床医との認識の相違があり、また保健指導の実施基準値の認識についても産業医間で差異があった。9)妊婦健診、乳幼児健診、学校健診についてはデータの利活用、相互のデータリンケージに課題があり、今後の法整備等を通じて生涯を通じたデータ突合のあり方について検討する必要がある。
健康に対する優先度が低い前患者段階での働きかけには、個々の健診データに基づく意識づけや日常生活の動線上への仕組みの導入が不可欠であり、そのために本研究班では健康診査によるリスク評価に加えて、健診に保健指導などの予防介入を含めること(第3期特定健診制度では健診当日における特定保健指導の面談が可能となった)や、地域、職場、学校における取組の可能性を探った。また、健康課題の可視化や課題解決策を検証する仕組みについても検討を加えた。これらの研究成果は、第4期特定健診制度や第2期データヘルス計画の中間評価・見直しなどの施策の検討や、保険者・自治体で事業運営を担う人材教育に有用と考えられる。
結論
本研究により、予測される将来のリスクを予測し介入により軽減させることができる評価指標(健康診査項目)および評価方法の検討に資する基礎資料が提示された。これは、生涯を通じて健康増進を図る健康診査のあり方など、今後の国の健康施策の検討に資する。また、疾病予防を目的としたスクリーニングおよび早期の予防介入の考え方が整理され、具体方策が提示されることは、保健事業を運営する保険者および事業主・自治体などのステークホルダが資源配分の最適化を検討することにも寄与する。

公開日・更新日

公開日
2019-12-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-12-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201809002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究により、予測される将来のリスクを予測し介入により軽減させることができる評価指標(健康診査項目)および評価方法の検討に資する基礎資料が提示された。これは、生涯を通じて健康増進を図る健康診査のあり方など、今後の国の健康施策の検討にも資する。また、疾病予防を目的としたスクリーニングおよび予防介入の考え方が整理され、具体方策が提示されることは、保健事業を運営する保険者および事業主・自治体などのステークホルダが資源配分の最適化を検討することにも寄与する。
臨床的観点からの成果
脳・心血管疾患の発症リスクおよび発症予測能、予防介入可能性の視点から既存および新規の健診項目を検証した。その結果、簡便、かつ非侵襲的に動脈硬化を評価する定量的な検査や現状の背景を把握する手法など、今後の健診に導入可能な有用性の高い指標が示された。また、リスクを予測するツールを構成する危険因子の組み合わせやその妥当性に関しても知見が示された。これらは、健診を起点とした介入により発症リスクの低減を図ることに寄与する。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
厚生労働省第3期および第4期特定健診制度における健診項目の検討、特定保健指導のあり方検討(健診当日面談の導入および推進)、内閣府経済財政一体改革推進委員会における社会保障KPI(key Performance Indicators)等の検討に活用された。
その他のインパクト
厚生労働省・健康保険組合連合会「健康スコアリングレポートとデータヘルス・ポータルサイト活用説明会」(2018年10月、11月)、東京大学「データ利活用のための政策と戦略-より良きデータ利活用社会のために-」(2018年11月19日)、東京大学「国民皆保険制度下のデータヘルスによる健康課題の可視化ー少子高齢社会におけるイノベーションの起点ー」(2018年6月27日)等に研究成果が活用された。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
蔦谷裕美, 舟本美果, 杉山大典, 他
特定健診の標準的な健診・保健指導プログラムの標準的な質問票の生活習慣項目とメタボリックシンドローム、高血圧発症との関連:大阪府羽曳野市の特定健診受診者の追跡調査
日本公衆衛生雑誌 , 64 (5) , 258-269  (2017)
DOI:10.11236/jph.64.5_258
原著論文2
古井祐司,柿沼美智留,井出博生,他
国保データヘルス計画支援ツールに対する開発の方向性に関する検討
自治医科大学紀要  (2019)
原著論文3
小池創一,古井祐司,磯博康,他
定年退職等により新たに国民健康保険の被保険者になった者の特徴および国保連が行なう保険者支援に関する実態調査
厚生の指標 , 66 (7)  (2019)
原著論文4
Hirata A, Sugiyama D, Kuwabara K, et al.
Fatty liver index predicts incident diabetes in a Japanese general population with and without impaired fasting glucose.
Hepatol Res. , 48 (9)  (2018)
doi: 10.1111/hepr.13065.

公開日・更新日

公開日
2020-03-16
更新日
2023-06-22

収支報告書

文献番号
201809002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
19,500,000円
(2)補助金確定額
18,609,000円
差引額 [(1)-(2)]
891,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,663,753円
人件費・謝金 5,187,471円
旅費 2,139,990円
その他 5,118,463円
間接経費 4,500,000円
合計 18,609,677円

備考

備考
千円未満の端数は自己資金のため

公開日・更新日

公開日
2020-02-14
更新日
-