全国がん登録を基盤とした長期記述疫学研究用特定匿名化情報の整備に関する研究

文献情報

文献番号
201808015A
報告書区分
総括
研究課題名
全国がん登録を基盤とした長期記述疫学研究用特定匿名化情報の整備に関する研究
課題番号
H29-がん対策-一般-015
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
柴田 亜希子(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センターがん登録センター)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 秀美(愛知県がんセンター研究所 がん情報・対策研究分野 )
  • 井上 真奈美(国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター予防研究部)
  • 大木 いずみ((地独)栃木県立がんセンター がん予防情報相談部)
  • 金村 政輝(宮城県立がんセンター研究所 がん疫学・予防研究部)
  • 西野 善一(金沢医科大学医学部 公衆衛生学)
  • 林 櫻松(リン インソン)(愛知医科大学医学部 公衆衛生学)
  • 東 尚弘(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センターがん登録センター )
  • 片野田 耕太(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計・総合解析研究部)
  • 堀 芽久美(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター  がん統計・総合解析研究部)
  • 松田 智大(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センターがん登録センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
5,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2016年から施行されているがん登録等の推進に関する法律(がん登録推進法)では、登録情報の十分な活用と国民への結果の還元が求められている。米国では、National Cancer Instituteが、協力州から基本的な州がん登録情報その他のがん診療情報の提供を受けてSEER(The Surveillance, Epidemiology, and End Results) Dataを約40年以上にわたって整備維持している。そのデータは簡単な申請で研究者に提供されているため、定型の公表集計値以外の部位や組織型の罹患率や生存率の記述疫学研究等に幅広く活用されている。我が国ではがん登録推進法に基づき保存された2016年罹患の全国がん登録情報の提供が2019年1月に開始予定である。本研究は、全国がん登録情報の提供開始の前に、がん登録推進法その他関連法令等と照らし、我が国の実情に即して長期持続可能な、全国がん登録を基盤とする住民ベースのがん罹患の匿名化された情報の提供並びに全国がん登録届出情報以外の「がん診療情報」の収集の仕組み(日本版SEER)の提案を目的とする。
研究方法
SEERの制度や組織の仕組みを理解するために、ウェブサイト等の公開情報の調査及び公開情報で不明な点の現地聞き取り調査を、SEER Dataの内容や利用手続きを理解するためにSEER Dataを用いた記述疫学研究を2年計画で実施する計画とした。研究班は、研究分担者の実績に応じて、前者を担当する仕組み検討班と後者を担当する記述疫学研究班の2つの作業部会で構成した。仕組み検討班の研究分担者は、将来的に、SEER協力州に相当する都道府県の候補となり得る都道府県の、がん登録に見識のある研究者とした。平成30年度は、日本版SEERの提案にかかる議論の幅を広げるために、仕組み検討班は「長期持続可能性」、「がん診療情報」の収集、「匿名化処理と易利用性」に関して、米国がん登録関係者、都道府県、病院に対して追加の調査検討を行った。記述疫学研究班は、昨年度に入手したSEER Dataを用いた計4つの記述疫学研究の分析を進めた。作業部会の結果は、計3回の研究班会議にて報告され、その内容を踏まえて、日本版SEER のあり方について議論した。
結果と考察
SEER Dataの実利用、ユタ州がん登録とSEER事務局の調査分析を通して、昨年度までに、SEERの仕組みの基盤が我が国では維持されにくい長期に渡る公的研究事業であること、研究と個人情報保護のバランスに関して米国と我が国の法体系及び国民意識の違いがあることを考慮して日本版SEERを検討する必要が認識された。本年度、記述疫学研究班は、多発性骨髄腫、卵巣がん、小児胚細胞腫瘍、膵癌についてSEER Dataを用いた研究をまとめ、住民ベースであること、登録情報の質が高いこと、我が国の全国がん登録よりも詳細な診療情報を保有していることで、科学的根拠に基づくがん対策に資する調査研究成果を出せることを示した。一方、仕組み検討班は、長期持続可能性、標準化された質の高いがん診療情報の収集及び匿名化処理の程度と易利用性のバランスは、国民、学術団体、病院等、行政すべての関係者の合意形成の土台の上に成立していること、我が国では、その土台として法改正を含む国主導の運営が必要であることを明らかにした。本研究班は、全国がん登録を基盤とした長期記述疫学研究用匿名化情報の整備に関して5要件を提案する。①未来の長期記述疫学研究の継続性を確保するため、がん登録推進法の定める全国がん登録情報等の提供として整備すること。②SEERと同様に、詳細ながん診療情報を含めて、登録の完全性と正確性を備えた住民ベースの記述疫学研究が可能な情報であること。③収集する詳細ながん診療情報は、病院等への届出負担を増大させずに正確な情報となるように、臨床的意義が高く医療者が自ら届け出たくなる内容であること。④長期記述疫学研究用情報の匿名化処理は、米国を参考に、研究に用いる場合の統計学的信頼性の担保と個人識別可能性の低減のバランスを考慮して行うこと。⑤長期記述疫学研究用に匿名化処理された情報は、施設や個人を特定する目的に利用しないこと、特定しようとしないことを条件として、簡便に利用できる形で整備すること。
結論
全国がん登録を基盤とした長期記述疫学研究用匿名化情報の整備要件を満たすためにはがん登録推進法の改正が必要であるが、実現後は世界でも数少ない大規模の住民ベースのがん記述疫学データベースとなる。記述疫学研究班の研究結果は、日本版SEER によってもたらされる我が国のがん負荷の記述統計の充実と、それによる公平、効率的ながん対策企画立案への貢献の可能性を示している。

公開日・更新日

公開日
2019-10-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
総括研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2019-10-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201808015B
報告書区分
総合
研究課題名
全国がん登録を基盤とした長期記述疫学研究用特定匿名化情報の整備に関する研究
課題番号
H29-がん対策-一般-015
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
柴田 亜希子(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センターがん登録センター)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 秀美(愛知県がんセンター研究所 がん情報・対策研究分野)
  • 井上 真奈美( 国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター予防研究部  )
  • 大木 いずみ((地独)栃木県立がんセンター がん予防情報相談部)
  • 金村 政輝(宮城県立がんセンター研究所 がん疫学・予防研究部)
  • 西野 善一(金沢医科大学医学部公衆衛生学)
  • 林 櫻松(リン インソン)(愛知医科大学医学部公衆衛生学)
  • 東 尚弘(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センターがん登録センター)
  • 片野田 耕太((国研)国立がん研究センター  がん対策情報センター がん統計・総合解析研究部)
  • 堀 芽久美((国研)国立がん研究センター  がん対策情報センター がん統計・総合解析研究部)
  • 松田 智大(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センターがん登録センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2016年から施行されているがん登録等の推進に関する法律(がん登録推進法)では、登録情報の十分な活用と国民への結果の還元が求められている。米国では、National Cancer Instituteが、協力州から基本的な州がん登録情報その他のがん診療情報の提供を受けてSEER(The Surveillance, Epidemiology, and End Results) Dataを約40年以上にわたって整備維持している。そのデータは簡単な申請で研究者に提供されているため、定型の公表集計値以外の部位や組織型の罹患率や生存率の記述疫学研究等に幅広く活用されている。我が国ではがん登録推進法に基づき保存された2016年罹患の全国がん登録情報の提供が2019年1月に開始予定である。本研究は、全国がん登録情報の提供開始の前に、がん登録推進法その他関連法令等と照らし、我が国の実情に即して長期持続可能な、全国がん登録を基盤とする住民ベースのがん罹患の匿名化された情報の提供並びに全国がん登録届出情報以外の「がん診療情報」の収集の仕組み(日本版SEER)の提案を目的とする。
研究方法
SEERの制度や組織の仕組みを理解するために、①ウェブサイト等の公開情報の調査及び公開情報で不明な点の聞き取り調査を、②SEER Dataの内容や利用手続きを理解するためにSEER Dataを用いた記述疫学研究を2年計画で実施する。研究班は、前者を担当する仕組み検討班と後者を担当する記述疫学研究班の2つの作業部会で構成し、研究分担者の実績に応じて担当した。特に、仕組み検討班の担当者、将来的に、SEER協力州に相当する都道府県の候補となり得る都道府県の、がん登録に見識のある研究者とした。2つの作業部会は、調査の効率化を図るため、それぞれの調査で知り得たことを班会議その他で共有する。仕組み検討班は、NCIのSEER部門及びSEERの古くからの協力州のユタ州がん登録訪問調査、米国がん登録協議会担当者への聞き取り調査、一部の都道府県がん登録担当の行政担当者及び分担研究者の所属する病院における臓器がん登録と院内がん登録の連携の実態調査を行った。記述疫学研究班は、SEER dataの利用申請を行い、多発性骨髄腫、卵巣癌、小児胚細胞腫、膵癌に関する記述疫学研究を行った。計6回の班会議において、それらの調査結果を土台にして、日本版SEERのあるべき姿を協議した。
結果と考察
本研究班は、全国がん登録を基盤とした長期記述疫学研究用匿名化情報の5要件を提案する。1.未来の長期記述疫学研究(最低20年以上)の継続性を確保するため、SEERとは異なり、有期の研究事業ではなく、がん登録推進法の定める全国がん登録情報等の提供として提供する情報の一つとして整備すること。2.SEERと同様に、詳細ながん診療情報を含めて、登録の完全性と正確性を備えた住民ベースの記述疫学研究が可能な情報であること。3.収集する詳細ながん診療情報は、病院等への届出負担を増大させずに正確な情報となるように、臨床的意義が高く医療者が自ら届け出たくなる内容であること。そのため、SEER と同様に、詳細ながん診療情報を収集するがん種や期間を限定する手法も考えられる。4.長期記述疫学研究用情報の匿名化処理は、米国を参考に、研究に用いる場合の統計学的信頼性の担保と個人識別可能性の低減のバランスを考慮して行うこと。5.長期記述疫学研究用に匿名化処理された情報は、施設や個人を特定する目的に利用しないこと、特定しようとしないことを条件として、簡便に利用できる形で整備すること。以上を我が国で実現するには、がん登録推進法の改正と、我が国特有の資源である学術団体によるがん登録とがん登録推進法に基づく院内がん登録及び全国がん登録が協働してデータ連携と質の向上を目指す必要がある。本研究班の議論の過程では、法改正の難しさを回避するため、日本版SEERとして、住民ベースではなく、院内がん登録を実施する病院だけを対象として詳細ながん診療情報を収集し、その活用を行う仕組みの構築も検討された。しかし、この方法で収集されるデータはがん診療を専門とする病院情報というバイアスがかかり、それを調整する統計学的手法が見当たらないことから、記述疫学研究班が行ったような日米比較とそれによる新たな知見を見出す成果は期待できない。
結論
実現すれば世界でも数少ない大規模な住民ベースの公共利用がんデータベースとなる価値がある。記述疫学研究班の研究結果は、それによってもたらされる我が国のがん負荷の記述統計の充実と、がん対策企画立案への貢献の可能性を示している。

公開日・更新日

公開日
2019-10-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-10-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201808015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
研究班が提言する要件を満たす全国がん登録を基盤とした長期記述疫学研究用匿名化情報が整備されれば、世界でも数少ない大規模の住民ベースのがん記述疫学データベースとなる。記述疫学研究班の研究結果は、それによってもたらされる我が国のがん負荷の記述統計の充実と、それによる公平、効率的ながん対策企画立案への貢献の可能性を示している。
臨床的観点からの成果
特記事項なし。
ガイドライン等の開発
多くの診療ガイドラインでは最新の疫学情報が紹介されているが、研究班が提言する要件を満たす全国がん登録を基盤とした長期記述疫学研究用匿名化情報が整備されれば、更新のタイミングがそれぞれ異なる診療ガイドラインに対して、任意のタイミングで信頼できる最新の日本のがん罹患統計情報を提供できる。
その他行政的観点からの成果
本研究班の成果は、厚生労働科学審議会がん登録部会等への情報提供を通じて、厚生労働省・国立がん研究センターによる「全国がん登録情報の提供マニュアル」における匿名化の考え方や利用規約に反映された(厚生科学審議会がん登録部会第8回から第12回)。また、数年以内に予定されているがん登録推進法の改正手続きを前に、本研究班によって整理された同法の理念の達成のために必要な改正事項とその背景は、改正手続き時の基本資料として活用されると考えられる。
その他のインパクト
特記事項なし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
14件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kota Katanoda, Akiko Shibata, Tomohiro Matsuda et al
Childhood, adolescent and young adult cancer incidence in Japan in 2009-2011
Japanese Journal of Clinical Oncology , 47 (8) , 762-771  (2017)
10.1093/jjco/hyx070
原著論文2
Hiroyuki Masaoka, Hidemi Ito, Akira Yokomizo et al
Potential overtreatment among men aged 80 years and older with localized prostate cancer in Japan
Cancer Science , 108 (8) , 1673-1680  (2017)
10.1111/cas.13293

公開日・更新日

公開日
2020-03-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
201808015Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,200,000円
(2)補助金確定額
6,942,000円
差引額 [(1)-(2)]
258,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,604,368円
人件費・謝金 0円
旅費 3,056,497円
その他 620,249円
間接経費 1,661,000円
合計 6,942,114円

備考

備考
差額114円は自己資金である。

公開日・更新日

公開日
2020-02-17
更新日
-