東日本大震災後に発生した小児への健康被害への対応に関する研究

文献情報

文献番号
201807016A
報告書区分
総括
研究課題名
東日本大震災後に発生した小児への健康被害への対応に関する研究
課題番号
H28-健やか-指定-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
呉 繁夫(国立大学法人 東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 栗山 進一(国立大学法人 東北大学 災害科学国際研究所)
  • 藤原 幾磨(国立大学法人 東北大学 環境遺伝医学研究センター)
  • 釣木澤 尚実(山本 尚実)(公立大学法人 横浜市立大学 大学院医学研究科呼吸器病学)
  • 渡辺 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
  • 奥山 眞紀子(国立成育医療研究センター病院 こころの診療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
15,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成24-28年度に実施した「東日本大震災被災地の小児保健に関する調査研究」の結果から、被災地では、①過体重、②アレルギー疾患、③問題行動を持つ子どもが増加していることが明らかとなった。本研究では、アレルギー疾患や過体重への介入方法の検討、問題行動への介入の基盤となる要因分析、を行い小児の健康被害への適切な対応方法を検討する。
研究方法
①昨年度、宮城県内の岩沼市および加美町の小学1年生から5年生を対象に、食事摂取頻度調査票を用いた肥満・過体重の予防・改善方法をクラスター無作為化比較試験より検討した。宮城県岩沼市と加美町の小学校に在籍する2年生から6年生の全児童の内、昨年度調査への同意が得られ、対照群に割り付けられた463人に対して簡易自己式食事歴質問票を配布した。回答が得られた226人に対して質問票から算出された食事摂取状況の判定結果を返却した。
②宮城県の3市町村(石巻市、岩沼市、加美町)及び対照地域として神奈川県大磯町において、震災被害程度、アレルギー疾患の状態、アレルゲンに関する調査を行ない、石巻市における震災による被害が大きいことが確認され、アレルギー疾患の有症率は同程度であった。寝具Der 1量は石巻市が4市町村で多く、寝具真菌コロニー数は加美町が多く、大磯町で少なかった。ダニアレルゲンに対する環境整備介入効果は石巻市で効果が高く、岩沼市・加美町では介入後の抗原の減少率に差がみられ、臨床症状の効果に影響したことが明らかになった。
③真菌がダニの増殖に関与することについてのエビデンスを得ることを目的とした実験を行った。室内に高頻度・高濃度で分布することが知られる真菌7種とダニ3種を組み合わせ、それぞれの組み合わせにおいて、ガラス試験管内での共培養によるダニの増殖率、およびガラスシャーレに真菌片およびダニを配置しての真菌への走性を調査し、比較した。その結果、室内でアレルゲンとなるダニの種類ごとに、真菌種に対する一定の嗜好がある可能性が示唆されたが、いずれのダニにおいても、酵母類と共培養した際の増殖率は有意に高く、また酵母への嗜好性が高いことが確認された。
④被災地域で増加した小児の問題行動の分析により問題行動を増悪する要因の検索、を実施した。過体重やアレルギー疾患への対応法の研究では、被災地である石巻市、岩沼市、の小学生、非被災地として加美町の小学生のコホートを設置して研究を実施した。問題行動の要因分析は、震災後に岩手県、宮城県、福島県の沿岸部に設置した保育園児のコホートの観察結果に基づいて実施した。
結果と考察
① 自記式質問紙票を用いた栄養調査の結果開示は肥満予防と;改善に有効な介入方法の一つである可能性が示唆された。本年度は昨年度対照群に割り付けられた群に対して不利益が最小限になるように介入を実施した。463人中226人が栄養調査に回答した(回答率: 48.8 %)。結果は昨年度と同様な傾向であった。本研究は個人単位ではなく学校単位の無作為化比較試験であったが、介入群と対照群の栄養状態は同等であり、両群の比較可能性が確保されていることが示唆される。従って昨年度得られた結果の妥当性は高いと考える。一方、より一層の介入効果を得るには回答率を高めることが重要である。
②石巻市では震災による被害が大きいことが確認され、アレルギー疾患の各疾患の有症率は4市町村で同程度であった。寝具Der1量は石巻市が4市町村で多く、寝具真菌コロニー数は加美町が多く、大磯町で少なかった。ダニアレルゲンに対する環境整備介入効果は石巻市で効果が高く、岩沼市・加美町では介入後の抗原の減少率に差がみられ、臨床症状の効果に影響したことが明らかになった。東日本大震災後に見られた小児のアレルギー疾患の増加が、住環境の真菌およびダニ汚染と関連したものである可能性を考慮し、室内のアレルゲンとして最も重要なダニに対する増殖要因としての真菌の寄与を明らかにすることを検討し、酵母類の発育しやすい特徴を持つ室内環境中で、ダニがより発育する可能性が考えられた。
④問題行動を増悪させる、あるいは持続させる要因として、親のメンタルヘルス上の問題や養育態度などの、介入可能な環境要因が強いことを明らかにした。


結論
東日本大震災被災地で問題となる、過体重、アレルギー疾患への介入方法と問題行動の要因分析や関する検索と検討を実施し、対応法として有効な方法を示唆した。

公開日・更新日

公開日
2019-08-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-08-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201807016B
報告書区分
総合
研究課題名
東日本大震災後に発生した小児への健康被害への対応に関する研究
課題番号
H28-健やか-指定-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
呉 繁夫(国立大学法人 東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 栗山 進一(国立大学法人 東北大学 災害科学国際研究所)
  • 藤原 幾磨(国立大学法人 東北大学 環境遺伝医学研究センター)
  • 釣木澤 尚実(山本 尚実)(公立大学法人 横浜市立大学 大学院医学研究科呼吸器病学)
  • 渡辺 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
  • 奥山 眞紀子(国立成育医療研究センター病院 こころの診療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成24-28年度に実施した「東日本大震災被災地の小児保健に関する調査研究」の結果から、被災地では、①過体重、②アレルギー疾患、③問題行動を持つ子どもが増加していることが明らかとなった。本研究では、①過体重と②アレルギー疾患を持つ児の増加に対する適切な介入の検討、および③問題行動に対する要因分析、に関する研究を行なった。
研究方法
①宮城県内の岩沼市および加美町の小学1年生から5年生を対象に、食事摂取頻度調査票を用いた肥満・過体重の予防・改善方法をクラスター無作為化比較試験より検討した。宮城県岩沼市と加美町の小学校に在籍する2年生から6年生の全児童の内、昨年度調査への同意が得られ、対照群に割り付けられた463人に対して簡易自己式食事歴質問票を配布した。回答が得られた226人に対して質問票から算出された食事摂取状況の判定結果を返却した。

②宮城県の3市町村(石巻市、岩沼市、加美町)及び対照地域として神奈川県大磯町において、震災被害程度、アレルギー疾患の状態、アレルゲンの調査を行なった。真菌がダニの増殖に関与することについてのエビデンスを得ることを目的とした実験を行った。室内に高頻度・高濃度で分布することが知られる真菌7種とダニ3種を組み合わせ、それぞれの組み合わせにおいて、ガラス試験管内での共培養によるダニの増殖率、およびガラスシャーレに真菌片およびダニを配置しての真菌への走性を調査し、比較した。

③被災地域で増加した小児の問題行動の要因分析は、震災後に岩手県、宮城県、福島県の沿岸部に設置した保育園児のコホートの観察結果に基づいて実施した。
結果と考察
①自記式質問紙票を用いた栄養調査の結果開示によるポピュレーションアプローチは肥満予防と改善に有効な介入方法の一つである可能性が示唆された。本年度は昨年度対照群に割り付けられた群に対して不利益が最小限になるように介入を実施した。463人中226人が栄養調査に回答した。結果は昨年度と同様な傾向であった。本研究は個人単位ではなく学校単位の無作為化比較試験であったが、介入群と対照群の栄養状態は同等であり、両群の比較可能性が確保されていることが示唆される。従って昨年度得られた結果の妥当性は高いと考えるが、より一層の介入効果を得るには回答率を高めることが重要である。

②石巻市では震災による被害が大きいことが確認され、アレルギー疾患の各疾患の有症率は4市町村で同程度であった。寝具Der1量は石巻市が4市町村で多く、寝具真菌コロニー数は加美町が多く、大磯町で少なかった。ダニアレルゲンに対する環境整備介入効果は石巻市で効果が高く、岩沼市・加美町では介入後の抗原の減少率に差がみられ、臨床症状の効果に影響したことが明らかになった。室内でアレルゲンとなるダニの種類ごとに、真菌種に対する一定の嗜好がある可能性が示唆されたが、いずれのダニにおいても、酵母類と共培養した際の増殖率は有意に高かった。東日本大震災後に見られた小児のアレルギー疾患の増加が、住環境の真菌およびダニ汚染と関連したものである可能性を考慮し、室内のアレルゲンとして最も重要なダニに対する増殖要因としての真菌の寄与を明らかにすることを検討し、酵母類の発育しやすい特徴を持つ室内環境中で、ダニがより発育する可能性が考えられた。

③問題行動を増悪させる、あるいは持続させる要因として、親のメンタルヘルス上の問題や養育態度などの、介入可能な環境要因が強いことを明らかにした。
結論
東日本大震災被災地で問題となる、過体重、アレルギー疾患、問題行動の要因分析や対応法に関する検討を行ない、自記式質問紙票を用いた過体重に対する栄養調査結果の開示、アレルギー疾患に対する寝室の環境調整、の有効性を示唆した。また、問題行動の増加には親の療育態度が影響していることが明らかになった。今回の設置したコホートは規模が小さく、参加者も少数であるため、大きな集団におけるこれらの介入方法の有効性は今後の解決すべき課題となる。この研究成果を被災地域の自治体と共有し、連携して被災地域の小児保健の向上に取り組んでいく。

公開日・更新日

公開日
2019-08-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-08-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201807016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
平成24-27年度に行なった先行研究において、東日本大震災の被災地において、増加している小児保健に関する問題として、過体重、アレルギー疾患、問題行動が明らかになった。本研究では、これらの問題に対する対応方法を小学校コホートを用いて検討した。その結果、過体重には食事内容調査の返却、アレルギー疾患に対しては住宅の環境調整の有効性が示唆された。たま、問題行動に対応するために、その要因分析を実施した。
臨床的観点からの成果
東日本震災後に増加したアレルギー疾患の背景には、住宅環境問題があり、ダニやハウスダストといったアレルゲンが、寝室や寝具に多いことが明らかになった。この対応策として、深部のアレルゲン量を粘着シール法などでモニターしながら、アレルゲンを軽減させる環境指導を行なう有効性が検証され、寝具に付着しているアレルゲンの量を低下させたばかりでなく、咳などの臨床症状の改善を確認できた。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
宮城県で行なっている健康増進運動である「スマートみやぎ健民会議」へ本研究結果を説明し、健康施策として検討をお願いした。
その他のインパクト
日本テレビから、災害後の小児保健について取材を受け、日本テレビ番組「スッキリ!」にて放映された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kuniyoshi Y, Kikuya M, Matsubara H,et al.
Association of Feeding Practice with Childhood Overweight and/or Obesity inAffected Areas Before and After the Great East Japan Earthquake.
Breastfeed Med. , in press (in press)  (2019)
10.1089/bfm.2018.0254.
原著論文2
Ono A, Isojima T, Yokoya S,et al,
Effect of theFukushima earthquake on weight in early childhood: a retrospective analysis.
BMJ Paediatr Open. , 2 (1) , e000229-  (2018)
10.1136/bmjpo-2017-000229.
原著論文3
Yokomichi H, Matsubara H, Ishikuro M,
Impact of the Great East Japan Earthquake on Body Mass Index, Weight, and Height of Infants and Toddlers
J Epidemiol , 28 (5) , 237-244  (2018)
10.2188/jea.JE20170006
原著論文4
Isojima T, Yokoya S, Ono A,
Prolonged elevated body mass index in preschool children after the Great EastJapan Earthquake.
Pediatr Int. , 59 (9) , 1002-1009  (2017)
10.1111/ped.13340.
原著論文5
Ishikuro M, Matsubara H, Kikuya M,et al
Disease prevalence among nursery school childrenafter the Great East Japan earthquake.
BMJ Glob Health. , 2 (2) , e000127-  (2017)
10.1136/bmjgh-2016-000127.
原著論文6
Kikuya M, Matsubara H, Ishikuro M,et al.
Alterations in physique among young children after the Great East Japan Earthquake: Results from a nationwide survey.
J Epidemiol. , 27 (10) , 462-468  (2017)
10.1016/j.je.2016.09.012.
原著論文7
Matsubara H, Ishikuro M, Kikuya M,et al
Design of thehealth examination survey on early childhood physical growth in the Great EastJapan Earthquake affected areas.
J Epidemiol. , 27 (3) , 135-142  (2017)
10.1016/j.je.2016.03.001.
原著論文8
Zheng W, Yokomichi H, Matsubara H,et al.
Longitudinal changes in body mass index of children affected by theGreat East Japan Earthquake.
Int J Obes (Lond). , 41 (4) , 606-612  (2017)
10.1038/ijo.2017.6.

公開日・更新日

公開日
2019-08-28
更新日
2021-06-03

収支報告書

文献番号
201807016Z