「不妊に悩む方への特定治療支援事業」のあり方に関する医療政策的研究

文献情報

文献番号
201807010A
報告書区分
総括
研究課題名
「不妊に悩む方への特定治療支援事業」のあり方に関する医療政策的研究
課題番号
H30-健やか-一般-002
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
前田 恵理(秋田大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 廉毅(東京大学大学院医学系研究科)
  • 石原 理(埼玉医科大学医学部)
  • 左 勝則(チャア スンチ) (埼玉医科大学医学部)
  • 桑原 章(徳島大学病院)
  • 齊藤 英和(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター)
  • 寺田 幸弘(秋田大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
5,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、生殖補助医療(ART)に関する疫学研究や諸外国の公費負担制度に関する調査等の医療政策的研究を通じて、より効果的かつ効率的な「不妊に悩む方への特定治療支援事業」(以下、特定不妊治療費助成事業)のあり方を検討する。今年度は、(1)医療経済学的分析の基礎データを入手する目的で、特定不妊治療費助成事業の実施主体を対象に事業の実施状況を調査する。得られた情報に基づき、(2)若年(35歳未満)治療者の多い都道府県の特徴を明らかにする地域相関研究を行う。(3)東京都では、妻が35歳未満の場合に限り不妊検査等助成事業を実施しているため、東京都不妊検査等助成事業が特定不妊治療費助成事業の妻の年齢に与える影響について検討する。(4・5)諸外国や国内の実施主体の一部では、ARTによる出産歴のある場合に再度公費負担を実施する場合があるが、ARTによる妊娠・出産歴とその後のART妊娠率の関連について検討した報告は少ない。そこで、徳島大学および秋田大学で実施されたARTによる妊娠歴の有無と妊娠率の関連を明らかにする。さらに(6)わが国と同様、助成形式で公費負担を行う諸外国の事例を調査し、現行の特定不妊治療費助成事業の評価点と改善点について整理する。今年度は台湾の生殖補助医療および助成事業の実施状況について訪問調査を行う。
研究方法
(1)全国の特定不妊治療費助成事業の事務担当者宛に調査票を送付し治療ステージ別の助成件数、助成人数、指定医療機関が受診等証明書に記載した領収金額の分布、女性の年齢別助成件数と助成人数、実施主体と区市町村が単独で行う公費負担事業の有無とその内容について調査を行った。(2)各都道府県における35歳未満の受給者数を算出し、20歳~35歳未満人口(1万人あたり)における35歳未満の助成利用者数を算出した。35歳未満での治療に影響する地域的要因について検討した。(3)東京都不妊検査等助成事業および特定不妊治療費助成事業の申請回数、治療開始時の妻の年齢、申請年月日に関する情報を入手し、東京都不妊検査等助成事業の開始(広報)前後で特定不妊治療費助成事業の妻の年齢を比較した。(4)徳島大学病院で実施された胚移植周期を対象に、ART妊娠歴の無い移植周期と、ART妊娠歴のある移植周期の累積妊娠率を比較検討した。(5)秋田大学医学部附属病院で実施された胚移植周期を対象に、ARTによる妊娠歴の有無と累積妊娠率の関連を検討した。(6)台湾の政府、医療関係者、女性団体、社会学者を訪問し、ARTおよび助成事業についてインタビュー調査を行った。
結果と考察
(1)治療ステージ別の単価(体外受精による新鮮胚移植は約38万円、融解胚移植は約16万円等)のほか、今後の医療経済学的検討の基礎資料を入手した。(2)都道府県別35歳未満のART助成利用率は都道府県間で大きな開きを認め、平均世帯収入やソーシャル・キャピタルと関連していることが示唆された。(3)東京都不妊検査等助成事業の広報開始後、特定不妊治療費助成事業の妻の年齢がわずかであるが有意に低くなっていた。(4・5)徳島大学と秋田大学いずれの研究でも、初回移植時の妊娠率はART妊娠歴のある群の方がART妊娠歴のない群より高い傾向にあり、特にその傾向は若い年齢層で認められた。ART妊娠歴があり若い年齢(40歳未満)で治療を再開した場合は、妊娠歴の無い症例と同等以上の妊娠率が期待できる可能性が示唆される。今後、症例数を追加し、採卵回数の影響を考慮した検討、年齢以外の関連要因を含めた解析、評価項目に出産の有無を加えた検討を行っていく。(6)台湾では人工生殖法に基づき、生殖補助医療の規制と管理が実施されており、わが国が台湾の法制度に学ぶ点は多いと考えられた。一方で、台湾の助成制度は、予算の制約があるなかで治療費全額を補助する仕組で、定額を超過した場合に医療機関側が損失を被る可能性があるため機能していなかった。不妊に対する国民的な関心と政府予算は相互に関連することが推察されるとともに、全額補助制度をわが国に導入する場合は慎重な制度設計が必要性であることが示唆された。
結論
今年度は医療経済学的検討の基礎資料を入手し、35歳未満の都道府県別ART助成利用率が平均世帯収入やソーシャル・キャピタルと関連していることが示唆された。東京都では不妊検査等助成事業の広報開始後の特定不妊治療費助成事業の妻の年齢が有意に低くなっており、若い年齢層への重点的な経済的支援が早期の治療に有効である可能性が示唆された。一方で、台湾の事例から全額補助方式を導入する場合の課題が明らかになった。ART妊娠歴と累積妊娠率の関連に関する疫学研究から、ART妊娠歴があり若い年齢で治療を再開した場合は、妊娠歴の無い症例と同等以上の妊娠率が期待できる可能性も示唆された。

公開日・更新日

公開日
2019-07-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-07-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201807010Z