予防接種の効果的実施と副反応に関する総合的研究

文献情報

文献番号
199800662A
報告書区分
総括
研究課題名
予防接種の効果的実施と副反応に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
竹中 浩治(財団法人予防接種リサーチセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 井上栄(国立感染症研究所)
  • 千葉峻三(札幌医科大学)
  • 神谷齊(国立療養所三重病院)
  • 磯村思无(名古屋大学医学部)
  • 平山宗宏(母子愛育会・日本子ども家庭総合研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
40,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、感染症から国民を守る社会防衛の唯一の積極的方法である予防接種が、その本来の目的を達成できるために必要な事項を、基礎医学的、臨床医学的、疫学的見地から、行政的戦略の立場に立って行うことを目的としている。
すなわち、平成6年の予防接種法改正によって予防接種が国民の接種義務から努力義務となったこと、個別接種が原則となったこと等から、接種率の低下が心配されている。
一方ワクチンの改良によって予防接種の副反応の程度と頻度は減少してきているが、ワクチンの成分や添加物による新たな副反応等についても問題が指摘されてきている。副反応を疑う症例の臨床的、病理学的、病原学的研究から副反応の成因を検討することはその予防のために不可欠である。また予防接種対象疾患やその類似疾患の実態を知る疫学的研究は、予防接種の効果を判断し、接種対象者や接種方法をさらに検討するために必要である。さらに罹患時に重症化の怖れの大きいハイリスク者に対する接種の検討も必要である。
本研究班はこれら必要事項を全国的規模で総合的に研究し、国民の健康と行政的対応に貢献することを目的として実施された。
研究方法
研究班は、主任研究者の下に4つの研究テーマ並びに研究班全体の研究管理(総括)をそれぞれ担当する5名の分担研究者をおいた。研究協力者としては、予防接種ないしワクチン学の専門研究者(病原微生物学、病理学、疫学、免疫学、臨床医学、臨床検査学、等)、各都道府県から推薦された行政と連携のよい臨床医、日本医師会からブロック別等に推薦された代表医師等に協力を委嘱した。研究協力者数は全国で百名を越えるので、年度末には各自の研究内容、各地域ごとの状況報告、提言等の報告書の提出を求め、研究班総会を開催して研究発表、討議、情報の提供を行った。
研究は次の4研究分野につき分担して実施した。
(1)予防接種の効果と副反応発症要因並びに機序に関する基礎的研究
(分担研究者・井上栄)
(2)予防接種の効果と感染症の発生状況に関する研究(分担研究者・千葉峻三)
(3)予防接種副反応に関わる臨床的並びに疫学的研究(分担研究者・神谷齊)
(4)予防接種の効率的実施と健康教育に関する研究 (分担研究者・磯村思无)
結果と考察
1)ワクチンに添加されたゼラチンによる副反応としてのアレルギー反応の存在が確認され、多くのワクチンから除かれるようになったが、一部DPTワクチンの製造工程で混入した微量のゼラチンが感作を起こしていることが判明した。既に本年2月にはこの混入のないワクチンに切り替えられているが、食品等による他の感作もあることから、今後ともゼラチンアレルギーについては注意と検討が必要である。
2)麻疹の流行株に変異が起きているが、現行ワクチンは十分有効であることが確認された。ただし麻疹の流行を阻止できるだけの接種率は確保されておらず、母体の抗体価の低下に伴うと考えられる乳児期の麻疹罹患が増加している。一方麻疹罹患による細胞免疫の機能低下は乳児期と10歳以上の年長児(者)に著しいことが示された。ワクチンウイルスの免疫抑制作用は野外株よりは低いが、これらの状況を総合的に勘案した予防接種戦略を検討する必要がある。麻疹と風疹は二回接種を考慮すべき状況になってきた。
3)ロタウイルスによる下痢症の医療費負担が、全国で年間120億円に達すると推定されたので、ロタワクチンの開発や導入を費用便益効果を考えながら検討すべきである。
4)インフルエンザAウイルス感染に伴う脳炎・脳症の実態調査が開始され、8都道府県で昨シーズン中に乳幼児で34名の死亡が報告された。その病態や病理学的検討も行われ、ウイルス血症の存在が確認された。インフルエンザ予防対策としてはワクチンしかないので、高齢者や重症心身障害児などハイリスク者の施設の他、予防接種対策について検討を必要とする。なお、アジュバントの改良の進んでいる経鼻接種用ワクチンの開発推進も要望される。
5)多くのワクチンから抗原性のあるゼラチンが除去されたことにより、その分の副反応は明らかに減少した。副反応を疑う症例の確認、紛れ込み事故の防止のために、臨床検査の指針作成が進められており、また、背景疾患の継続的調査の必要性と実施方法が検討され、奈良、和歌山等からの報告があった。
6)基礎疾患のあるハイリスク小児への予防接種判断基準の検討が始められ、来年度の医師用予防接種マニュアル改正に備えて準備が進められている。
7)都道府県を通じて各市町村にアンケート調査を依頼した全国調査により、市町村の95%以上が把握された。ほとんどの市町村で年度による集計が行われており、接種対象者としては、その年に新規に接種対象年齢に達した者にそれまでの未接種者数を加えた数字で予定者数を算定している市町村が74%に達した。
接種率は、乳幼児期のポリオ、BCG、DPT、麻疹については義務接種時代と同等ないし向上しているが、風疹と日本脳炎の接種率が不十分であった。麻疹と風疹の混合ワクチン(MRワクチン)の実用化を急ぎたい。就学後の小中学生への接種率は、日本脳炎、DT、風疹のいずれも低率で、とくに個別接種を行っている地区では、きわめて低率であり、今後先天性風疹症候群や日本脳炎の多発が心配される。個別の各地域からの報告でもまったく同様の結果であった。当面、健康教育と広報の努力しかないが、その効率的な実施のための方法の検討が緊急に必要である。
結論
予防接種法改正以後も、乳幼児期におけるポリオ、DPT、BCG、麻疹の定期接種の実施状況は良好であるが、風疹と日本脳炎については不十分であり、就学後の日本脳炎、DTの追加接種と風疹予防接種の接種率は、とくに個別接種においてきわめて低く、先天性風疹症候群や日本脳炎の多発が憂慮される状況にあることが明らかになった。接種率を向上させるための健康教育や広報の工夫が緊急に必要である。
ワクチンの副反応については、近年問題となっていたゼラチンの抗原性が確認され、その除去がすすめられた結果、この部分の副反応は明らかに減少したが、食物等による感作にも検討を要する。麻疹の流行株には変異が起こっているが、ワクチンは十分に有効である。乳児期での麻疹罹患が増加傾向にあるので、風疹と共に成人後までの免疫確保に二回接種法等の検討が必要である。インフルエンザ脳症・脳炎の実態調査が開始され、乳幼児に多いことから、ハイリスク者へのワクチン接種の他に乳幼児の予防対策の検討が必要である。ロタウイルスによる下痢の医療費負担が大きいことが試算され、ロタワクチンの導入も検討する要がある。

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