高齢期を中心とした生活・就労の実態調査

文献情報

文献番号
201801019A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢期を中心とした生活・就労の実態調査
課題番号
H30-政策-指定-008
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
山田 篤裕(慶應義塾大学 経済学部)
研究分担者(所属機関)
  • 四方 理人(関西学院大学 総合政策学部)
  • 大津 唯(埼玉大学 大学院人文社会科学研究科)
  • 渡辺 久里子(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
  • 田中 宗明(みずほ情報総研㈱ 社会政策コンサルティング部)
  • 大室 陽(みずほ情報総研㈱ 社会政策コンサルティング部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
20,769,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 公的年金制度については、「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律(平成25年法律第112号)」において、高齢期における職業生活の多様性に応じ、一人一人の状況を踏まえた年金受給の在り方について検討し、その結果に基づいて必要な措置を講ずることとされている。また、平成28年に成立した「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律(平成28年法律第114号)」においても、当該規定について、法の施行後速やかに検討を加え、必要な措置を講ずることとされている。
 健康寿命の延伸や高齢期の就業意欲の高まりによって、年金を受給しつつ働く高齢者が増えてきている。また、社会の変化によって多種多様な働き方、ワーク・ライフがこれまでのものから変化している。これらを踏まえ、次期制度改正の中で年金受給の在り方を検討する必要がある。しかし近年の研究で低年金者の生活・就労実態を項目毎(たとえば老齢・障害や厚年・国年等の種別、生活保護との併給の有無等)に詳細を明らかにしたものは少なく、データに基づいた現状把握、現行制度の課題の体系的整理など基礎的な研究は多くない。
 そのような中、本研究は、大規模統計の再集計を行い、就労実態(高齢者・国民年金第1号被保険者・同第3号被保険者の就業率、就労形態、賃金水準等)や生活実態(世帯構成、家計の状況等)について把握し、実態を明らかにすることを目的とする。
研究方法
 総務省「全国消費実態調査」や、厚生労働省「国民生活基礎調査」、「老齢年金受給者実態調査」、「障害年金受給者実態調査」、労働政策研究・研修機構「60代の雇用・生活調査」等を活用し、計量経済学的手法により年金受給者の所得分布・構成や就業行動等を分析した。
結果と考察
 2016年の厚生年金保険適用拡大では、新たな賃金要件で多くの低賃金労働者を排除してしまった。一方、大幅な適用拡大が標準報酬平均額を低下させ、年金給付水準を引き下げる可能性もあった。
 男性では定年退職時の賃金低下による就業抑制効果は、従来の在職老齢年金制度の就業抑制効果と比較しても60代全般を通じて大きい。一方、男女とも65-69歳で在職老齢年金制度の就業抑制効果は確認できない。
 離職後失業した人は繰上げ受給する比率が高く、繰上げ受給が所得保障の役割を一部担っていると考えられる。
 雇用者比率増大と自営業主・家族従業員比率の減少、退職給付額や持ち家比率の減少、公的年金給付額低下による貯蓄の取崩しペース加速により、低所得者の中、被保護年金受給者の割合が将来高まることが予想される。
 障害年金を受給していても貧困状態に陥る者は少なくない。とくに精神障害による障害年金受給者は、身体障害による受給者に比べ、年金額が低く、世帯収入も低いため、困窮状態に陥りやすいと考えられる。
 障害年金受給者の世帯収入に明確な男女差はなく、これは配偶者を中心とした他の世帯員の収入が、受給者本人の年金額や就労収入の低さをカバーしているためと考えられる。
 また、女性に占める国民年金第3号被保険者割合は低下傾向にあるが、既婚女性にとって、国民年金第3号被保険者制度は今なお公的年金制度上の大きな受け皿となっていることが分かった。
結論
 今後、厚生年金の適用拡大を進めるにあたっては、政策的に世代内・世代間の給付格差を改善するよう、適用拡大を図るオプションも検討の余地がある。 
 最高裁判決を受け、定年前後の賃金低下問題は改善されていくことが期待される。ただし、この改善によって賃金低下の是正が進めば、賃金が高くなることで現在は確認できない65-69歳の在職老齢年金制度の就業抑制効果が現れる可能性もある。引き続き、新しい調査によって、現在は確認できない65-69歳の在職老齢年金制度の就業抑制効果についてモニターする必要がある。
 離職後失業した人にとって、繰上げ受給が所得保障の役割の一部を担っているとすれば、将来の繰上げ減額率改定にあたっては、そうした人々の貧困リスクへの影響も慎重に検討する必要がある。
 就業率が上昇していけば、就労収入比率の増大により、高齢者間の所得格差が大きくなることも予想され、それを是正しつつ、今後予想される被保護年金受給者をはじめとする、経済的に脆弱な高齢者の所得保障のための財源を捻出する政策オプションは検討に値する。
 障害年金受給者の中には、世帯員の収入がない場合、貧困に陥りやすい者が一定割合存在しており、所得保障の脆弱性をどのように改善していくのか検討する必要がある。
 現在、厚生年金の適用拡大が進められているが、その対象とならない国年3号が少なくないことも踏まえ、その実態を十分に踏まえながら、国年3号制度自体の在り方についても引き続き議論を行っていく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2019-11-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-11-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201801019Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
23,785,000円
(2)補助金確定額
23,785,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 482,114円
人件費・謝金 20,084,250円
旅費 174,720円
その他 28,496円
間接経費 3,016,000円
合計 23,785,580円

備考

備考
(差異がある理由)自己資金580円が発生したため、収入と支出の合計に差異が生じた。

公開日・更新日

公開日
2022-05-31
更新日
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