地方衛生研究所における病原微生物検査に対する外部精度管理の導入と継続的実施に必要な事業体制の構築に関する研究

文献情報

文献番号
201726003A
報告書区分
総括
研究課題名
地方衛生研究所における病原微生物検査に対する外部精度管理の導入と継続的実施に必要な事業体制の構築に関する研究
課題番号
H28-健危-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
皆川 洋子(愛知県衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 調 恒明(山口県環境保健センター)
  • 四宮 博人(愛媛県立衛生環境研究所)
  • 佐野 一雄(名古屋市衛生研究所 )
  • 岸本 壽男(岡山県環境保健センター)
  • 滝澤 剛則(富山県衛生研究所)
  • 脇田 隆字(国立感染症研究所)
  • 大石 和徳(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 宮崎 義継(国立感染症研究所 真菌部)
  • 吉田 弘(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 木村 博一(国立感染症研究所)
  • 村上 光一(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 松本 昌門(愛知県衛生研究所 生物学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
2,320,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地方衛生研究所(以下地衛研)は、感染症や食中毒等の対応に科学的根拠を提供する病原体検査を担当しており、平成28年4月の改正感染症法施行により法的根拠が付与された病原体情報の収集では、国立感染症研究所(以下感染研)との密接な連携のもとに中心的役割を担っている。本研究では、(1)地衛研が実施する病原体検査の質の維持・確保にあたり内部精度管理に並んで必須となる、病原体検査の外部精度調査に必要なシステムをウイルス及び細菌について構築、(2)地衛研による検査施設への検体提供に関する追加調査を実施し、地域の病原体検査体制における地衛研の役割について検討した。
研究方法
ウイルス小班・細菌小班・項目小班の3小班体制をとり、ウイルスと細菌は検体配付を伴う精度調査を試行した。小班の相互連携を推進するとともに、全体班会議には厚生労働省結核感染症課の参加を得た。大学・保健所関係者にはWG会議を設定した。
結果と考察
1.精度保証の手法を取り入れたウイルス遺伝子検査法の研修:28年度に地衛研職員を対象に実施されたノロウイルス遺伝子検査、NoV PCR産物のシークエンス・分子系統樹解析研修対象者にフォローアップ調査を実施し、研修の効果を検討した。本技能研修で求めた検査感度は定性結果判定の閾値より1~2段階希釈高感度である。感染症法に基づく病原体検査においては定性的判定が重要で、施設間での判定のばらつきは望ましくない。外部精度調査で求める「検査感度」は、全国地衛研の検出限界が一定の範囲に収まり、定性的結果に再現性を担保できるレベルとなる。
2.感染症発生動向調査におけるエンテロウイルス病原体検査に関わる外部精度調査(EQA)導入の研究:手足口病検査を対象としてCODEHOP-snPCR法の外部精度調査試行を行い、結果解析から地衛研における検査の課題を把握するとともに、他のウイルスにも応用可能な書式等のひな型案をまとめた。エンテロウイルス71はポリオウイルスに近縁であり二類感染症「急性灰白髄炎」への備えにもつながる。ウイルス小班では季節性インフルエンザの分離等を念頭に、感染性を保持した検体を配付するシステムの必要性についても議論したが、全国各地に同時に発送するシステム構築はマンパワー等を考慮して行わなかった。ウイルス分離用検体配付システムも今後構築が必要である。
3.地方衛生研究所を対象にした赤痢菌検査の外部精度管理調査:「三類感染症検査に係る赤痢菌の同定」外部精度管理調査を27施設の参加を得て試行した。本試行を通じて病原体の送付等諸手続きに必要な書式等がそろい、他の病原体にも応用可能なひな形が得られた。2及び3で得られたひな形は、今後国により実施される外部精度管理に加え、支部や地域におおける精度調査にも活用が期待される。
4.地域の病原微生物検査の質の維持向上に資する地方衛生研究所の役割に関する研究:保健所・大学職員を招聘して連携を検討した。地衛研に期待する項目や人材育成等における問題点が共有された。
5.地方衛生研究所における病原微生物検査体制と「検査の質の確保」に関する研究:前年度の調査で自治体内検査機関への検体配付実績ありと回答された17機関に追加調査を実施した。地全協の地域別6支部全てに分散しており、将来支部単位若しくは支部相互に検体提供を実施する素地が確認できた。
※輸入感染症対策における地衛研検査機能強化の必要性:国際保健規則(IHR) 等に示された感染症の検査は、感染研が対応するが、検査依頼が急増した場合、しばしば地衛研の検査がスクリーニングに活用される。2009年新型インフルエンザ発生時は、感染研が国内発生前に診断法を開発し、厚生労働省から配布された試薬等を用いて全国地衛研がスクリーニング検査(その後地衛研の検査結果をもって確定に変更)を担当し、2016年のジカウイルスにも同様の対応がなされた。2020年オリンピックを控え、輸入感染症対策強化は急務である。
結論
感染症法改正に伴い、法に基づく検査を担当する自治体の機関は外部精度調査を受ける必要が生じたため、ウイルス(手足口病の病原ウイルス)及び細菌(赤痢菌)について、感染研に所属する各病原体の専門家と地衛研ベテラン職員が協力する形で外部精度管理システムを構築し、試行した。他の病原体への応用も可能であるが、ウイルス分離検査等には、別途システム構築を図る必要がある。
法改正及び外部精度調査の実施を契機として、病原体検査精度維持向上の必要性が自治体行政関係者にも認知されるようになった。検査精度の維持には地衛研病原体担当職員の資質向上が不可欠であり、今後、病原体の関わる健康危機対応力の向上につながるよう本研究成果の活用を図るとともに、職員研修の在り方等についても検討を要する。

公開日・更新日

公開日
2018-05-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

目次
研究成果の刊行に関する一覧表
その他

公開日・更新日

公開日
2018-05-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201726003B
報告書区分
総合
研究課題名
地方衛生研究所における病原微生物検査に対する外部精度管理の導入と継続的実施に必要な事業体制の構築に関する研究
課題番号
H28-健危-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
皆川 洋子(愛知県衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 調 恒明(山口県環境保健センター)
  • 四宮 博人(愛媛県立衛生環境研究所)
  • 佐野 一雄(名古屋市衛生研究所)
  • 岸本 壽男(岡山県環境保健センター)
  • 滝澤 剛則(富山県衛生研究所)
  • 山本 容正(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 脇田 隆字(国立感染症研究所)
  • 大石 和徳(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 宮崎 義継(国立感染症研究所 真菌部)
  • 吉田 弘(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 木村 博一(国立感染症研究所、現群馬パース大学)
  • 村上 光一(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 松本 昌門(愛知県衛生研究所 生物学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
 山本容正研究分担者は平成29年3月31日付大阪府立公衆衛生研究所所長退任に伴い分担者から退いた。  平成29年4月1日より、松本昌門愛知県衛生研究所生物学部長が研究分担者として参画した。

研究報告書(概要版)

研究目的
地方衛生研究所(以下地衛研)は、感染症や食中毒等発生時の自治体対応に科学的根拠となる病原体検査を担当しており、平成28年4月の改正感染症法施行により法的根拠が付与された病原体情報の収集では、国立感染症研究所(以下感染研)との密接な連携のもとに中心的役割を担っている。本研究では、(1)地衛研が実施する病原体検査の質の維持・確保に必須となる外部精度調査システムをウイルス及び細菌について構築し、(2) 全国地衛研を対象にした「病原体検査の質確保」への取り組みに関するアンケート調査とともに、地域の病原体検査体制維持強化に地衛研が果たせる役割について検討する。
研究方法
ウイルス小班・細菌小班・項目小班の3小班体制をとり、ウイルスと細菌は検体配付を伴う精度調査システムを構築の上、試行した。小班間は密接に連携するとともに、全体班会議には厚生労働省結核感染症課の参加を得た。
結果と考察
1.精度保証の手法を取り入れたウイルス遺伝子検査法の研修:ノロウイルス検査の研修を地衛研職員を対象に行い、実習レポート提出、受講者の個別評価、個別面談を通じて技術的な助言・指導も行った。初回研修後のフォローアップを実施し、精確度、最小測定感度の確保等において研修後に有意な改善が認められた。
2.感染症発生動向調査におけるエンテロウイルス病原体検査に関わる外部精度調査(EQA)導入の研究:手足口病検査を対象とした外部精度管理調査システム構築を目的に、調査用試料調製の条件検討を行った。エンテロウイルスをCODEHOP-snPCR法で同定する場合の信頼性評価を可能とするため、保管用製品を用いてRNAを安定に保管する条件を検討した。12施設の協力を得て試行した結果、(1)少数の参加施設ならば市販の非感染性試料を用いて他疾患に対してもEQAをパッケージ化可能(2)病原体サーベイランス全体の質改善には検体採取から検査結果までのフローを評価、把握する指標開発が必要、等判明した。
3.地方衛生研究所を対象にした赤痢菌検査の外部精度管理調査
「赤痢菌」外部精度管理調査システム構築と試行を行い、手順や問題点を検証した。保存により抗原性が変化しやすい赤痢菌の継代培養法を検討し、適切な方法を確立した。候補菌株を検討のうえ菌株候補を選択した。27施設が参加した試行を通じて四種病原体の送付等諸手続きに必要な書式等を一式準備でき、今後他の病原体の外部精度調査にも応用可能なひな形等が得られた。
4. 東京都における衛生検査機関を対象とした精度管理調査事業について:長年にわたり都・特別区保健所等に検体配布等の実績のある東京都健康安全研究センターが担当した精度管理調査を中心に研究した。
5. 地方衛生研究所における病原微生物検査体制と「検査の質の確保」に関する研究
全国地衛研における検査の質確保の現状把握及び課題の抽出を目的にアンケート調査を実施した。病原体検査における信頼性確保部門体制の設置状況、検査人員体制、検査機器設備・点検等への予算確保状況や、標準作業書作成状況・標準品の要望・外部精度調査のニーズも調査し、現状と課題を把握した。
6.地域の病原微生物検査の質の維持向上に資する地方衛生研究所の役割に関する研究
保健所・大学職員を招聘して連携検討会議を開催した。地衛研に期待する具体的な項目が明らかになるとともに、人材育成等における問題点が共有された。
7. 地方衛生研究所における病原微生物検査体制と「検査の質の確保」に関する研究
自治体内の保健所、衛生検査所等に対して外部精度管理実施への協力実績のある17機関に対して追加調査を実施し、検体等の状況を把握した。
結論
感染症法改正に伴い、地衛研は外部精度調査を受ける必要が生じた。ウイルス(手足口病の病原ウイルス)及び細菌(赤痢菌)について、感染研と地衛研が協力する形で外部精度管理システムを構築し、試行した。試行を通じて病原体の送付等諸手続きに必要な書式ひな形等が得られた。今回構築した核酸・菌株配付システムは他の病原体に応用できるが、ウイルス分離検査には、別途システム構築が必要である。ひな形は、外部精度管理のみならず地域や支部単位の精度調査にも活用が期待される。
病原体検査精度の維持向上には地衛研病原体担当職員の資質向上が不可欠であり、健康危機対応力の向上につながるよう本研究成果の活用を図るとともに、職員研修についても検討を要する。
検体配付実績のある地衛研は地域別6支部全てに分散しており、将来支部単位で外部精度調査を行う素地が確認できた。
国際保健規則(IHR) 等に示された感染症についても地衛研の検査が活用されている。2020年オリンピック開催を控え、地衛研の強化は輸入感染症対策にもつながる。

公開日・更新日

公開日
2018-05-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-05-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201726003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
平成28年4月施行改正感染症法により知事の事務とされた病原体検査を、自治体で主に担っている地方衛生研究所の検査精度維持向上に必要な、外部精度調査システムをウイルス核酸及び細菌について構築し、感染症法に基づく病原体検査の質確保の素地を確立した。手足口病・無菌性髄膜炎等の原因となるエンテロウイルス遺伝子検査について、ウイルス核酸検出感度に関するデータが得られた。ウイルス遺伝子検査の質担保は、新型コロナウイルス感染症検査ニーズ増大に伴う体制強化においても不可欠である。
臨床的観点からの成果
本研究成果は、感染症法に基づく病原体検査精度の向上につながることが期待される。ポリオのほかウイルス遺伝子検査に基づき診断される新型インフルエンザ・MERS等ニ類感染症、赤痢等三類感染症、デング熱等四類感染症及び手足口病等五類感染症の診断精度向上に伴い、主に小児科・感染症内科領域に効果が期待される。
ガイドライン等の開発
細菌(三類感染症の病原体を想定)及びウイルス核酸(エンテロウイルス71を用いて試行)について、外部精度調査実施に活用できるプロトコル、書式等をとりまとめた。
その他行政的観点からの成果
平成26年改正感染症法により知事の事務とされた病原体検査を担う地方衛生研究所の検査精度維持向上を目的として、外部精度調査システムをウイルス及び細菌について構築・検証した。感染研と連携分担して地衛研が実施する検査結果はWHOによる国際保健規則(IHR)に示された感染症制御にも関係し、健康危機管理上も重要である。2019年以降地衛研の主要な業務となっている新型コロナウイルス検査では、2018-19年度に実施した後続研究とともに地衛研病原体検査担当者育成及び検査精度管理を行う根拠となっている。
その他のインパクト
特記すべきことなし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
第81回日本公衆衛生学会に抄録を提出中
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
細菌及びウイルス核酸について各々病原体検出に関する外部精度調査システムを構築した。
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2018-05-31
更新日
2023-06-27

収支報告書

文献番号
201726003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,784,000円
(2)補助金確定額
2,784,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,481,360円
人件費・謝金 0円
旅費 827,732円
その他 10,908円
間接経費 464,000円
合計 2,784,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2019-02-25
更新日
-