芳香族アミンの膀胱に対するin vivo遺伝毒性および細胞動態の短期解析

文献情報

文献番号
201725022A
報告書区分
総括
研究課題名
芳香族アミンの膀胱に対するin vivo遺伝毒性および細胞動態の短期解析
課題番号
H28-化学-若手-005
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
豊田 武士(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター・病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
1,550,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
膀胱がんの原因物質には、染料・顔料の製造原料として汎用される芳香族アミン類が多く含まれ、平成27年12月に報告された民間事業場での膀胱がん多発事例にもその関与が疑われている。本研究では、当該事業場で扱われていた芳香族アミンをラットに短期間投与し、膀胱における病理組織学的検索ならびにγ-H2AX(DNA損傷マーカー)をはじめとする毒性・発がん関連因子の発現解析を実施する。平成29年度は、膀胱がんとの関連が指摘される5項目の遺伝子群(細胞増殖・DNA損傷・Hedgehog経路・クロマチン修飾・クロマチン再構築)の発現動態を検索し、芳香族アミンへの曝露初期に生じる遺伝子動態の特徴を明らかにした。
研究方法
膀胱がん多発事例が報告された民間事業場で使用されていた5種の芳香族アミン(o-トルイジン、o-アニシジン、2,4-キシリジン、p-トルイジン、アニリン)のうち、平成28年度に実施したラットを用いた解析の結果、病理組織学的所見およびγ-H2AX形成/Ki67発現の増加を誘導したo-トルイジンおよびo-アニシジンの2種を、本年度の解析対象として選択した。6週齢の雄F344ラットに、0.8% o-トルイジンおよび1% o-アニシジンを4週間混餌投与した。また、無処置対照群に加え、遺伝毒性膀胱発がん物質であるN-butyl-N-(4-hydroxybutyl)nitrosamine(BBN)飲水投与群ならびに非遺伝毒性膀胱発がん物質である3%ウラシル混餌投与群を併せて設置した。4週間の投与終了時に解剖し、膀胱粘膜を凍結採材後、RNAを抽出した。PCRアレイを用いて、膀胱がんとの関連が指摘される5項目(細胞周期・DNA損傷・Hedgehog経路・クロマチン修飾・クロマチン再構築)各84遺伝子について、RT-PCR法による発現解析を行った。
結果と考察
検索した5項目の遺伝子群はいずれもo-アニシジンおよびBBN投与群で近い発現パターンを示し、両物質の病理組織学的所見の類似と一致していた。一方、o-トルイジン投与群の4週時点での変動遺伝子数はo-アニシジン投与群と比較して少なく、粘膜傷害機序の違いならびにγ-H2AX形成の一過性の増加を反映する結果となった。検索した5項目のうち、細胞周期・DNA損傷・Hedgehog経路関連遺伝子では多数の発現変動がみられ、これらは膀胱発がん過程の初期に重要である可能性が示唆された。特に粘膜上皮の分化に関与するHedgehog経路関連遺伝子は、o-トルイジンおよびo-アニシジン投与群で発現上昇を示す一方、非遺伝毒性膀胱発がん物質であるウラシル投与群では変動がみられない遺伝子が複数(Foxe1, Bmp5, Runx2)見出され、芳香族アミンによる膀胱発がんに重要な役割を果たしている可能性がある。一方、クロマチン修飾・クロマチン再構築関連遺伝子の発現変動は比較的少なく、これらは膀胱発がん過程の後期に関与する可能性が考えられた。
結論
本研究の結果から、膀胱粘膜の遺伝子発現解析によって、o-アニシジンは遺伝毒性膀胱発がん物質であるBBNと近い発現パターンを示すこと、細胞周期・DNA損傷・Hedgehog経路関連遺伝子がo-トルイジン・o-アニシジンの曝露初期に特徴的に変動することが示唆された。被験物質はいずれも芳香族アミンとして基本的な構造を有することから、本研究の成果は芳香族アミン全般のリスク評価における基礎データとして活用し得る。

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201725022B
報告書区分
総合
研究課題名
芳香族アミンの膀胱に対するin vivo遺伝毒性および細胞動態の短期解析
課題番号
H28-化学-若手-005
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
豊田 武士(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター・病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
膀胱がんの原因物質には、染料・顔料の製造原料として汎用される芳香族アミン類が多く含まれ、平成27年12月に報告された民間事業場での膀胱がん多発事例にもその関与が疑われている。本研究では、当該事業場で扱われていた5種の芳香族アミン(o-トルイジン、o-アニシジン、2,4-キシリジン、p-トルイジン、アニリン)をラットに短期間投与し、膀胱における病理組織学的検索ならびにγ-H2AX(DNA損傷マーカー)をはじめとする毒性・発がん関連因子の発現解析を実施する。曝露初期における細胞動態への影響と毒性機序を明らかにし、芳香族アミンのリスク評価に資するデータの取得を目的とする。
研究方法
膀胱がん多発事例が報告された民間事業場で使用されていた5種の芳香族アミン(0.8% o-トルイジン、1% o-アニシジン、0.4% 2,4-キシリジン、0.2% p-トルイジン、0.6%アニリン)を、6週齢の雄F344ラットに4週間混餌投与した。膀胱発がん性が知られているo-トルイジンおよびo-アニシジンについては、用量依存性を検討するため、濃度を下げた低用量群(それぞれ0.4%、0.3%)を設置した。また、無処置対照群に加え、陽性対照として遺伝毒性膀胱発がん物質であるN-butyl-N-(4-hydroxybutyl)nitrosamine(BBN)飲水投与群を、さらに遺伝子動態解析における対照群として、非遺伝毒性膀胱発がん物質である3%ウラシル混餌投与群を設けた。投与2日、1週間、2週間、投与終了時(4週間)および2週間の休薬後に膀胱を採材し、膀胱粘膜の病理組織学的検索および免疫組織化学的手法によるγ-H2AX形成/Ki67発現解析を実施した。膀胱粘膜におけるγ-H2AX/Ki67陽性細胞をカウントし、陽性率を対照群と比較した。また、γ-H2AX/Ki67陽性細胞を、その局在に基づいて基底細胞(basal cell)、中間細胞(intermediate cell)、表層細胞(umbrella cell)の三種に分類し、各被験物質および投与期間による差異について検討した。遺伝子発現動態解析のため、投与終了時(4週)に対照群、0.8% o-トルイジン、1% o-アニシジン、3%ウラシル、0.05% BBN投与群の膀胱粘膜上皮の一部を凍結採材し、RNAを抽出した。PCRアレイを用いて、膀胱がんとの関連が指摘される5項目(細胞周期・DNA損傷・Hedgehog経路・クロマチン修飾・クロマチン再構築因子)各84遺伝子について、RT-PCR法による発現解析を行った。
結果と考察
病理組織学的検索では、0.8% o-トルイジン投与群の膀胱にはヒトでの急性毒性に相当する出血性病変から、び漫性の粘膜上皮過形成に至る経時的な病変の変化が認められた。膀胱上皮におけるγ-H2AX形成/Ki67発現を検索した結果、0.8% o-トルイジンと1% o-アニシジン投与群では、γ-H2AX/Ki67陽性細胞の有意な増加が認められた。1% o-アニシジン投与群では2日から4週にかけて経時的に増加したのに対し、0.8% o-トルイジン投与群では2日から1週にかけて一過性の上昇を示し、その発現パターンは異なっていた。一方、2,4-キシリジン、p-トルイジン、アニリン投与群では、明らかな膀胱病変およびγ-H2AX/Ki67誘導は観察されなかった。以上の結果から、o-トルイジンおよびo-アニシジンは膀胱に対してin vivo遺伝毒性を示すことが明らかとなった一方、両者の膀胱粘膜傷害機序は異なる可能性が示された。膀胱粘膜の遺伝子発現解析では、o-アニシジンは遺伝毒性膀胱発がん物質であるBBNと近い発現パターンを示すこと、細胞周期・DNA損傷・Hedgehog経路関連遺伝子がo-トルイジン・o-アニシジンの曝露初期に特徴的に変動することが明らかとなった。
結論
本研究の結果から、検索した5種の芳香族アミンのうち、o-トルイジンおよびo-アニシジンはラット膀胱に対してin vivo遺伝毒性を有すること、基底細胞がその主な標的となることが示された。一方、経時的な病理組織学的検索から、両者の膀胱粘膜傷害機序は互いに異なることが明らかとなった。膀胱粘膜の遺伝子発現解析では、o-アニシジンは遺伝毒性膀胱発がん物質であるBBNと近い発現パターンを示すこと、細胞周期・DNA損傷・Hedgehog経路関連遺伝子がo-トルイジン・o-アニシジンの曝露初期に特徴的に変動することが示唆された。被験物質はいずれも芳香族アミンとして基本的な構造を有することから、本研究の成果は芳香族アミン全般のリスク評価における基礎データとして活用し得る。

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201725022C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の結果から、検索した5種の芳香族アミンのうち、o-トルイジンおよびo-アニシジンはラット膀胱に対してin vivo遺伝毒性を有することが示された。一方、経時的な病理組織学的検索から、両者の膀胱粘膜傷害機序は互いに異なることが明らかとなった。膀胱粘膜の遺伝子発現解析では、o-アニシジンは遺伝毒性膀胱発がん物質であるBBNと近い発現パターンを示すこと、細胞周期・DNA損傷・Hedgehog経路関連遺伝子がo-トルイジン・o-アニシジンの曝露初期に特徴的に変動することが示唆された。
臨床的観点からの成果
該当なし
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
被験物質はいずれも芳香族アミンとして基本的な構造を有することから、本研究の成果は芳香族アミン全般のリスク評価における基礎データとして活用し得る。
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Toyoda T, Yamada T, Ogawa K, et al.
Distinct differences in the mechanisms of mucosal damage and γ-H2AX formation in the rat urinary bladder treated with o-toluidine and o-anisidine
Archives of Toxicology , 93 (3) , 753-762  (2019)
10.1007/s00204-019-02396-8

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
2023-04-28

収支報告書

文献番号
201725022Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,550,000円
(2)補助金確定額
1,550,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 997,037円
人件費・謝金 0円
旅費 391,862円
その他 161,101円
間接経費 0円
合計 1,550,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2019-05-29
更新日
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