文献情報
文献番号
201725011A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの吸入曝露によるヒト健康影響の評価手法に関する研究 - 生体内マクロファージの機能に着目した有害性カテゴリー評価基盤の構築-
課題番号
H29-化学-一般-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
相磯 成敏(独立行政法人 労働者健康安全機構 日本バイオアッセイ研究センター 病理検査部)
研究分担者(所属機関)
- 大西 誠(独立行政法人 労働者健康安全機構 日本バイオアッセイ研究センター 試験管理部 )
- 石丸 直澄(徳島大学 大学院医歯薬学研究部口腔分子病態学分野)
- 高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部 第三室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
9,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、工業的ナノマテリアル(NM)の非意図的曝露経路であり有害性発現が最も懸念される吸入曝露において、異物除去に重要な役割を果たすマクロファージ(Mφ)のin vivo生体内反応に着目した生体影響を評価することにより、国際的に通用する高速で高効率な有害性スクリーニング評価手法を開発することである。本研究は、先行研究(H26-化学-一般-003)及び(独)日本バイオアッセイセンターで実施されたMWNT-7の発がん試験の成果に基づき、肺内において貪食されたNM の肺胞Mφ胞体内の蓄積様式(長繊維貫通、毛玉状凝集、粒状凝集)と蓄積量を基に、Frustrated phagocytosis誘発の程度に着目したカテゴリー評価を試みる点を特色としている。Mφ胞体内の3種の蓄積様式を誘発するモデルNMとしてCNT(長繊維貫通タイプ、粒状凝集タイプ)、及びTiO2(粒状凝集タイプ)の中期吸入曝露を行い、肺病変を経時的に解析し、有害性発現に連関する上記の要因の分類とその強度スケールを構築する。
研究方法
平成29年度(初年度)は予定通り、MWNT-7(長繊維貫通タイプ)を用いてC57BL/6NcrSLC♂マウスに対照群、低用量群(1mg/m3)、高用量群(3mg/m3)の暴露実験を実施し、肺負荷量、免疫機能解析、病理組織学的解析について検討した。ナノマテリアルの吸入曝露実験及び組織負荷量の研究(高橋): MWNT-7は、Taquann法処理により、凝集体・凝固体を含まない高分散検体として実験に供した(以下T-CNT7と記載)。暴露チャンバー内のT-CNT7の濃度のモニタリングして暴露濃度を管理した。MWNT-7の肺内負荷量の測定(大西):肺組織中のMWNT-7の重量をベンゾ[ghi]ペリレンをマーカーとした微量定量法(大西法:定量限界 0.04 maicrogram/肺)にて肺組織中のMWNT-7を測定した。病理組織学的評価(相磯):吸入暴露実験(分担高橋)で採取した肺について病理組織学的評価をおこなった。潅流固定を採用し、パラフィン包埋、HE染色標本を作製して病理組織学的検査を行った。線維化の観察にマッソントリクローム染色、Ⅱ型肺胞上皮細胞の鑑別にsurfactant protein C(SP-C)免疫染色を行った。また、Macrophage receptor with collagenous structure (MARCO)の免疫染色でT-CNT7貪食マクロファージの動態を解析した。ナノマテリアルの免疫制御システムへの影響評価研究(分担石丸):吸入暴露実験(分担高橋)で採取した気管支肺胞洗浄液(BALF)、BALF採取後の肺組織、顎下腺付属のリンパ節及び脾臓について免疫機能を解析した。BALF、脾臓とリンパ節の免疫担当細胞に対して、各種抗体反応後、フローサイトメトリー解析、肺組織におけるスカベンジャー受容体などのmRNAを定量RT-PCR法による解析、肺胞洗浄液中の各種サイトカイン、ケモカインのマルチプレックス解析を実施した。
結果と考察
T-CNT7の吸入暴露実験における平均質量濃度(平均値±SD)は、低用量群、高用量群それぞれ1.4±0.1 mg/m3、3.2±0.3 mg/m3であり、計画通りに実施できた。肺負荷量の測定で、1 mg/m3曝露群のマウスの肺当りのT-CNT7負荷量は、曝露後0W、1W、4W、8Wで、それぞれ6.30、4.59、5.42、5.39 μg/gで僅かな減少傾向が示された。3 mg/m3曝露群のマウスの肺当りのT-CNT7負荷量は曝露後0週、1週、4週、8週でそれぞれ10.15、9.98、10.84、10.25 μg/gで、一定に推移した。病理組織学的評価で、T-CNT7の曝露に起因した微小な病理組織変化が肺の中で時間経過とともに進行し、4週を頂点として、以降減弱することが示された。この変化は免疫機能評価(石丸)で認められたM2マクロファージの増加及びBALF中MMP12, IL-12, VEGF発現増加は組織変化との関連が示唆された。MARCO免疫染色によるT-CNT7貪食マクロファージの動態を解析で、曝露後0週にT-CNTの曝露によるT-CNT貪食マクロファージの増加が示されたが、T-CNTを貪食したマクロファージには細胞死に陥っている可能性が示唆された。
結論
「長繊維貫通型」のモデルNMとしたT-CNT7について、本研究班の目的とする、生体内マクロファージの機能に着目した有害性カテゴリー評価基盤構築の構築に有用なデータを取得することができた。
公開日・更新日
公開日
2018-06-07
更新日
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