効果的なリスクコミュニケーション手法の検討とツールの開発

文献情報

文献番号
201723019A
報告書区分
総括
研究課題名
効果的なリスクコミュニケーション手法の検討とツールの開発
課題番号
H28-食品-一般-007
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
杉浦 淳吉(慶應義塾大学 文学部)
研究分担者(所属機関)
  • 竹村 和久(早稲田大学 文学学術院)
  • 織 朱實(上智大学 地球環境学研究科)
  • 高木 彩(千葉工業大学 社会システム学部)
  • 穐山 浩(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
2,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品のリスクコミュニケーションの対象者にあわせた具体的なコミュニケーション手法を検討する。研究全体の目標は大きく次の2点に集約できる。第1に,対話集会や説明会のような対面場面での手法を検討する。第2に,個人で意思決定する場合に有効なコミュニケーション手法や活用可能なツールの開発を行う。特に今年度は,(1)対話集会や説明会のような対面場面で活用可能な手法を開発し,その効果と評価を検討する。(2)リスクコミュニケーションにおいて,個人で意思決定する際の効果測定の手法の開発を行う。(3)リスクコミュニケーションの情報伝達の際に,心理的な反発を回避できるような表現方法の検討を実験的に検討し,効果的な伝達方法を提案する。それぞれの場面で適切な手法について検討し,実施可能な情報提供手法を提案する。
研究方法
(1)アクティブ手法の開発と実践・評価 東京都世田谷区の協力を得て,「第2回せたがや食品衛生講座」(2018年1月30日開催)において,開発したリスクコミュニケーション手法の実演を社会実験として行った。以下のようなプログラムを構成した。①手法説明・参加者同意,アンケート記入(事前),自己紹介(15分),②講義(食品添加物の気になる話)(30分),③質問づくり(個人作業) (10分),④討論(質問の選定・優先順位づけ)と質疑(50分),⑥アンケート記入(事後)とまとめ(15分) 。内容については,食品リスクの専門家である分担者の穐山が開発を行い,実際に講義した。
(2)効果測定の手法の検討 行動変容に関して,食品以外のテーマを設定し,昨年度と同様の「セカンドプライスオークション」の方法を用いて,食品を対象としたリスクコミュニケーションと比較できるようにした。事例として交通安全をとりあげ,それに関係する本,およびそれと関係ない本を実験後に参加者に手渡し,その本に値付け(いくらだったら手放してよいのか)を行った。
(3)効果的な情報伝達の表現法の検討 「暮らしと食品の安全に関する調査食品」と題した調査を実施した。食品の安全について特に食品添加物の安全性について,その説明方法を複数用意し,対象者の反応を測定する実験として実施した。実施時期は2018年2月,「NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション」を調査機関として実査を行った。計1571名が実験に参加し,情報伝達の表現方法の操作が異なる3つの実験にランダムに割り当てられた。
結果と考察
(1)アクティブ手法の開発と実践・評価 リスク情報の伝達と質疑という従来の方法に対し,意見集約や政策決定のワークショップ型会議で実際に活用されている手法を応用したリスクコミュニケーションのアクティブ手法を開発し,その効果を検証した。テーマとして「食品添加物の正しい理解」を取り上げ,東京都世田谷区における実際の活用場面において,参加型手法の要素を取り入れることで,従来型の方法と比べて参加者の積極的な関与による効果がみられることを示した。特に,参加者がリスク情報の論点を整理すること,論点に対して質問を考え,質問それ自体を参加者が小グループで評価を行う手法は,特殊な質問によって質疑の場がかく乱されることなく円滑に進める上で有効であった。
(2)効果測定の手法の検討 食品との比較を行うため高齢ドライバーと若年ドライバーの危険性について情報を提示して効果を検討した。本の種類についての主効果が見られたが,提案方法の効果は認められなかった。
(3)効果的な情報伝達の表現法の検討 一面両面の効果は,単純にどちらが効果的ということではなく,リアクタンスを強めるような追加説明の表現如何により,効果が異なること,受け手の自由度を高めるような追加説明の表現如何により,効果が異なることが明らかとなった。両面呈示の場合,1)送り手の押しつけがましさに対する反感は少なくなっているものの,むしろ心理的反発がないことが「自由な意見表明の機会がある」と解釈され,対象者がもっている潜在的な忌避感がよりでやすくなること,2)化学物質に対する忌避的な態度を活性化させ,結果として選択の自由が強調されることで、その態度表明を促進したと考えられる。
結論
リスクコミュニケーションのアクティブ手法を開発し,それをカスタマイズすることで活用に効果があることを東京都世田谷区における社会実験で示した。リスクコミュニケーションの効果測定の手法開発については,食品安全を課題とした実験で効果を示した。リスクコミュニケーションにおける情報伝達の際の効果的な表現方法について実験で検討し,従来の一面呈示と両面呈示の知見に対し,受け手の自由度を高める追加表現によりその効果が異なることが示された。以上のリスクコミュニケーションの手法と効果の一般化も可能であり,研究成果は幅広く活用が可能である。

公開日・更新日

公開日
2018-05-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-05-25
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201723019B
報告書区分
総合
研究課題名
効果的なリスクコミュニケーション手法の検討とツールの開発
課題番号
H28-食品-一般-007
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
杉浦 淳吉(慶應義塾大学 文学部)
研究分担者(所属機関)
  • 竹村 和久(早稲田大学 文学学術院)
  • 織 朱實(上智大学 地球環境学研究科)
  • 高木 彩(千葉工業大学 社会システム学部)
  • 穐山 浩(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品のリスクコミュニケーションの手法を検討する。まず,対話集会や説明会といった対面場目でのリスクコミュニケーションの手法開発とその効果測定,普及啓発を目的として行う。次に,対話集会や説明会のような対面場面で活用可能な手法を開発し,その効果と評価を検討する。また,リスクコミュニケーションの情報伝達の際に,心理的な反発を回避できるような表現方法の検討を実験的に検討し,効果的な伝達方法を提案する。それぞれの場面で適切な手法について検討し,実施可能な情報提供手法を提案する。
研究方法
対面場面での効果的なリスクコミュニケーションとして,対象者が能動的にかかわり,熟慮にもとづく理解が促進される手法(アクティブ手法)を開発し,その実践と評価を行う。最初に大学生を対象とした効果の検証を行う。実践に関しては,東京都世田谷区の協力を得て,開発したリスクコミュニケーション手法の実演を社会実験として実施する。以下のようなプログラムを構成した。1)手法説明・参加者同意等,2)講義(食品添加物の気になる話),3)質問づくり(個人作業),4)討論(質問の選定・優先順位づけ)と質疑,5)アンケート記入とまとめ。行動変容の効果測定については,「セカンドプライスオークション」の方法を用いて,食品およびそれ以外のテーマを対象とした実験を行い,比較検討を行う。効果的な情報伝達の表現法の検討については,食品の安全について特に食品添加物の安全性について,その説明方法を複数用意し,対象者の反応を測定する実験として実施した。計1571名が実験に参加し,情報伝達の表現方法の操作が異なる3つの実験にランダムに割り当てられた。
結果と考察
(1)アクティブ手法の開発と実践・評価 リスク情報の伝達と質疑という従来の方法に対し,意見集約や政策決定のワークショップ型会議で実際に活用されている手法を応用したリスクコミュニケーションのアクティブ手法を開発した。その手順は,1)リスク情報に関して連想されるフレーズ(連想語)を書き出し,説明に対し熟考を促す,2)数名で連想語を発表し,お互いの論点を聴く,3)連想語を比較し,話し合いで重要な論点を比較する,4)集団内で決定された重要な論点に対して個人が大事だと思う論点を選ぶ,5)話し合いをもとに今後どのようなことを意識して生活するかを宣言する,である。テーマとして「食品添加物の正しい理解」を取り上げ,まずこの手法に効果があることを大学生149名を対象とした実験により閣員した。次に,東京都世田谷区における実際の活用場面において,アクティブ手法の手順を簡略化したプログラムを開発し,社会実験として実施した。その効果については参加者48名を対象とした調査から食品添加物の理解が促されたことなどを確認した。特に,参加者がリスク情報の論点を整理すること,論点に対して質問を考え,質問それ自体を参加者が小グループで評価を行う手法は,特殊な質問によって質疑の場がかく乱されることなく円滑に進める上で有効であった。
(2)効果測定の手法の検討 セカンドプライスオークションにより食品に関する本の方が関係ない本よりも高く値段をつけていたことから,行動変容に関してもリスクコミュニケーションのアクティブ手法に効果があったことが確かめられた。食品以外のテーマと食品との比較を行うため,高齢ドライバーと若年ドライバーの危険性について情報を提示して同様に効果を検討した。リスクコミュニケーションを実施した群では,交通安全についての本を無関係な本よりも高く値付けするのか検討した。その結果,本の種類については主効果が見られたが,提案方法の効果が認められなかった。
(3)効果的な情報伝達の表現法の検討 一面両面および両面呈示の効果は,単純にどちらが効果的ということではなく,リアクタンスに関連する追加説明の表現如何により,効果が異なること,受け手の自由度を高めるような追加説明の表現如何により,効果が異なることが明らかとなった。
結論
リスクコミュニケーションのアクティブ手法を開発し,その手法や事例にあわせてカスタマイズした手順により効果があることを大学生対象の「実験および東京都世田谷区における社会実験で示した。リスクコミュニケーションの効果測定の手法開発については,食品安全を課題とした実験で効果を示した。リスクコミュニケーションにおける情報伝達の際の効果的な表現方法について実験で検討し,従来の一面呈示と両面呈示の知見に対し,受け手の自由度を高める追加表現によりその効果が異なることが示された。以上のリスクコミュニケーションの手法と効果の一般化も可能であり,手法を紹介した短編動画をインターネットで公開するなど,研究成果を広く国民が活用できるようにした。

公開日・更新日

公開日
2018-05-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-05-25
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201723019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
開発した「アクティブ手法」のうち,東京都世田谷区で実用化の検討を行った手法は,質問内容の選定において,参加者自身が質問する内容を検討・選定するという手続きをとっており,質疑における参加者の満足度に関して手続き的公正の観点から意義のあるものといえる。また,情報の伝え方の実験において,心理的抵抗を低減させる表記方法を考案し,その効果を実証した。以上の2点は社会心理学的観点における成果であるといえる。
臨床的観点からの成果
東京都世田谷区におけるリスクコミュニケーションの機会において,研究班メンバーが食品添加物の理解についての講義と質疑について研究成果を活用して行った。このことは,従来の自治体が行ってきたやり方とは異なり,参加者が公平に討論に参加する機会を得ただけではなく,質問の数も従来のやり方よりも多くを遂行することができた。こうした手法は,今後の自治体でのリスクコミュニケーションの手法に生かせるものであった。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
東京都世田谷区で行ったリスクコミュニケーションの実施においては,主催者である世田谷区保健所以外にも,食品の安全性に関係するステークホルダーの参加や省庁職員の見学もあった。開発したリスクコミュニケーションの手法を実際に経験,観察することにより,今後のリスクコミュニケーションを行う際に参考となる機会を提供していた。
その他のインパクト
東京都世田谷区の広報誌およびWEBサイトで取り上げられている。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
杉浦淳吉・竹村和久・高木彩 他
リスクコミュニケーションのアクティブ手法の開発と効果・普及
日本社会心理学会第58回大会発表論文集 , 58 , 37-37  (2017)
原著論文2
竹村和久・杉浦淳吉・高木彩 他
セカンドプライスオークション法を用いたリスクコミュニケーションの効果測定
日本社会心理学会第58回大会発表論文集 , 58 , 38-38  (2017)
原著論文3
高木彩・穐山浩・杉浦淳吉 他
参加型リスクコミュニケーション手法の有効性に影響を与える個人差要因の検討
日本食品化学会誌 , 26 (3) , 119-124  (2019)
https://doi.org/10.18891/jjfcs.26.3_119

公開日・更新日

公開日
2018-05-25
更新日
2022-06-03

収支報告書

文献番号
201723019Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,400,000円
(2)補助金確定額
3,400,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 782,079円
人件費・謝金 559,730円
旅費 131,850円
その他 1,142,647円
間接経費 784,000円
合計 3,400,306円

備考

備考
306円は自己資金である。

公開日・更新日

公開日
2018-06-11
更新日
-