食品添加物等の遺伝毒性発がんリスク評価のための新戦略法に関する研究

文献情報

文献番号
201723002A
報告書区分
総括
研究課題名
食品添加物等の遺伝毒性発がんリスク評価のための新戦略法に関する研究
課題番号
H27-食品-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター変異遺伝部)
研究分担者(所属機関)
  • 杉山 圭一(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 安井 学(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 戸塚  ゆ加里(国立研究開発法人 国立がん研究センター研究所)
  • 高村 岳樹(神奈川工科大学工学部)
  • 出水 庸介(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
<研究目的>
遺伝毒性試験は発がん性物質のスクリーニング試験であると同時に、その遺伝毒性メカニズムが、発がん性リスク評価の上で重要な情報となる。本研究では、OECDが提唱する「有害性転帰事象(AOP)」を取り入れた遺伝毒性評価ストラテジーと、追跡型試験系を開発し、遺伝毒性発がんリスク評価法の精緻化を目指す。発がんのAOPとは分子初期事象(MIE)である「化学物質→DNA付加体→突然変異」を意味し、1.DNA付加体検出、2.付加体合成、3.遺伝子ターゲットによるゲノム中への付加体導入を技術の核心とする。また、DNAの一次構造に変化を与えないエピ遺伝毒性物質にも注目し、エピ遺伝毒性物質の評価系の開発も行う。
研究方法
<研究方法>
第1ステップであるDNA付加体の検出は、化学物質によるDNAの初期損傷を質量分析機器で網羅的に解析する。化学物質を暴露したバクテリアDNAをアダクトーム解析し、責任付加体の変異原性解析を行った。第2のステップは付加体の化学合成と、オリゴヌクレオチド化である。ヘテロサイクリックアミンであるPhIP、BaP、MeIQX、IQ等の付加体を含むオリゴヌクレオチドの大量合成を試みた。第3のステップではバルキーDNA付加体のdG-C8-PhIPをTATAM法によりXPCもしくはERCC6を改変細胞のゲノムDNAに導入し、DNA損傷に関与する修復機構の解明を試みた。
第2の研究テーマは上記の発がんAOPからはずれるエピ遺伝毒性物質の検出と評価系の開発である。凝集遺伝子FLO1プロモーター活性を指標としたエピ変異原検出系の構築を行った。
結果と考察
<結果と考察>
第1ステップであるDNA付加体の検出においては、職業性胆管がんの原因物質であることが示唆されている1,2-ジクロロプロパン(DCP)の変異原性誘発メカニズムの解明のためDCPに由来する付加体の探索を行ったところ、デオキシグアノシン由来の付加体であるDCP86が同定できた。第2のステップの前半は付加体の化学合成と、オリゴヌクレオチド化であり、ヘテロサイクリックアミンであるPhIPとIQの修飾オリゴヌクレオチドの合成を行った。PhIPの付加体はdGのC8位にPhIPのアミノ基が結合したものが知られており、その付加体を部位特異的に含むオリゴヌクレオチドの合成を試みた。また、ベンゾピレン(BaP)の付加体合成も行った。第2のステップの後半は、DNA付加体による突然変異の検出である。dG-C8-PhIPをTATAM法によりXPCもしくはERCC6を改変細胞のゲノムDNAに導入し、その突然変異頻度と変異スペクトルを正常細胞と比較したところ、大きな違いは観察されなかった。
第3の研究テーマは上記の発がんAOPからはずれるエピ遺伝毒性物質の検出と評価系の開発である。FLO1レポーター活性に及ぼすプルプリンの効果については、凝集性に対する効果と矛盾ない濃度依存的なGFP蛍光強度の上昇が確認された。
結論
<結論>
化学物質による発がんのAOPの分子初期事象(MIE)は、遺伝毒性・変異原性で有り、このプロセスは「化学物質→DNA付加体(損傷)→突然変異」に集約される。DNA付加体解析により、特定な付加体が検出されなければ、エピ遺伝毒性物質とすることができる。一方、DNA付加体が検出されたからといっても、変異原性があるわけでは無い。修復や、損傷乗り越えDNA合成がおきれば突然変異は起こさない。TATAM法はこれら性質を定性・定量的に解析できる。TATAM法で明らかな突然変異誘発が認められない場合、本化学物質は遺伝毒性非変異原物質(非遺伝毒性物質)とし、発がんの懸念は無いと判断することができる。このような分子レベルで可視化された変異メカニズムの情報の蓄積が、最終的にin silicoで化学物質の変異原性・発がん性の定量的予測を実現させるものと考える。

公開日・更新日

公開日
2018-06-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201723002B
報告書区分
総合
研究課題名
食品添加物等の遺伝毒性発がんリスク評価のための新戦略法に関する研究
課題番号
H27-食品-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター変異遺伝部)
研究分担者(所属機関)
  • 杉山 圭一(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部 )
  • 安井 学( 国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部 )
  • 正田 卓司(国立医薬品食品衛生研究所  有機化学部 )
  • 出水 庸介(国立医薬品食品衛生研究所  有機化学部)
  • 戸塚 ゆ加里(国立研究開発法人 国立がん研究センター研究所)
  • 高村 岳樹(神奈川工科大学工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
<研究目的>
遺伝毒性試験は発がん性物質のスクリーニング試験であると同時に、その遺伝毒性メカニズムが、発がん性リスク評価の上で重要な情報となる。本研究では、OECDが提唱する「化学物質と生体の相互作用から個体での毒性発現までのメカニズムを関連づけて説明する手法(AOP)」を取り入れた新たな遺伝毒性評価ストラテジーと、階層からなる追跡型試験系を開発し、遺伝毒性発がんリスク評価法の精緻化を目指す。主たる研究テーマは、発がんのAOPの分子初期事象である「化学物質→DNA付加体→突然変異」のプロセスを定性、定量的に解析する試験系の構築である。第2の研究テーマは初期の発がんAOPからはずれるとされるエピ遺伝毒性物質の検出と評価系の開発である。
研究方法
<研究方法>
(A)化学物質→DNA付加体に関する研究:①ヒトGSTT1を導入したTA100株に1,2-ジクロロプロパン(DCP)を曝露しDNA付加体を解析した。②ヘテロサイクリックアミンであるPhIP、MeIQx、IQ、ベンツピレン付加体の合成を試みた。
(B)DNA付加体→突然変異に関する研究: dG-C8-PhIP およびCycdG 付加体の修復機構を明らかにするために、GGRに関与するXPC遺伝子、TCRに関与するERCC6遺伝子をそれぞれノックアウト(KO)した細胞を用いてTATAM解析を実施した。
(C)エピ遺伝毒性物質の検出と評価に関する研究:ヒトDNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT1)、形質転換酵母(ヒトDNMT酵母)を用いて、凝集反応と、新規に開発したレポーターアッセイ系によりエビ遺伝毒性物質の検出を行った。

結果と考察
<結果と考察>
職業性胆管がんの原因物質であることが示唆されているDCPはGSTT1ではなく別の代謝経路にて活性化し、デオキシグアノシンと付加体であるDCP86を形成した。ヘテロサイクリックアミンであるPhIPの部位特異的修飾オリゴヌクレオチドの合成は完了し、安定的に供給できるルートを確立した。MeIQx付加体またはIQ付加体の無保護合成を達成するためにリガンド、塩基、溶媒等の反応条件の検討を行ったが、いまだ付加体はできていない。dG-C8-PhIP付加体はその自然突然変異頻度よりも約3倍高かった。XPCもしくはERCC6を改変細胞と比較したが、大きな違いは観察されなかった。
ヒトDNMT酵母で顕著に認められる凝集反応に対して、ヒストン修飾剤もDNMT阻害剤と同様に濃度依存的な影響を示すことを明らかにした本系が世界初のDNMT阻害剤およびヒストン修飾剤両化学物質(エピ遺伝毒性物質)のファーストスクリーニング系に応用できる可能性を示唆するものである。
結論
<結論>
化学物質による発がんのAOPの分子初期事象(MIE)は、遺伝毒性・変異原性で有り、このプロセスは「化学物質→DNA付加体(損傷)→突然変異」に集約される。 一方、この仮定されたMIEが定性・定量的に正当であるかを検証する必要があると考えられる。そのためには「化学物質→突然変異を」のデータを取得、解析する必要がある。DNA付加体解析により、特定な付加体が検出されなければ、非遺伝毒性物質とすることができる。この場合、エピ遺伝毒性の可能性が示唆される。一方、DNA付加体が検出されたからといっても、変異原性があるわけでは無い。修復や、損傷乗り越えDNA合成がおきれば突然変異は起こさない。おそらく、大部分のDNA付加体は修復されるが、その一部は修復されず、突然変異を引き起こすものと考えられる。TATAM法はこれら性質を定性・定量的に解析できる。十分で特徴的な突然変異がみとめられた場合、本化学物質は遺伝毒性物質(遺伝毒性変異原物質)と判断される。また、TATAM法で明らかな突然変異誘発が認められない場合、本化学物質は非遺伝毒性物質とし、発がんの懸念は無いと判断することができる。このような分子レベルで可視化された変異メカニズムの情報の蓄積が、最終的にin silicoで化学物質の変異原性・発がん性の定量的予測を実現させるものと考える。変異原性は化学物質にあるのではなく、化学物質によって引き起こされるDNA付加体(損傷)にある。この当たり前の考え方は、遺伝毒性(変異原性)の評価の合理化にも繋がると考える。

公開日・更新日

公開日
2018-06-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201723002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒト細胞を用いて1分子のDNA損傷の発生モデルを開発し、その運命を解析する手法を開発した。これにより個々のDNA付加体の変異原性の強さと変異スペクトルの解析が可能となった。また、この系をDNA修復に異常を持つ疾患由来の細胞で応用し、構築した。エピジェネテック作用を示す化学物質の検出する酵母のプラットフォームも開発した。両試験系とも遺伝毒性の研究としては極めてユニークであり、その成果は学術的に高く評価された。
臨床的観点からの成果
DNA修復に異常を持つ疾患由来の細胞の比較し、DNA損傷修復の差により疾患のメカニズムを探求する系として優れていると考える。また、エピジェネテック作用を検出する系は、日常に存在するこれまでに知られなかった食品中にエピ変異原物質の検出に有効である。
ガイドライン等の開発
非遺伝毒性発がん物質の検出には齧歯類細胞を用いた形質転換試験の利用が検討されている。本エピジェネテック検出系は非遺伝毒性発がん物質の検出にも優れ、さらにハイスループットで、コストもかからないことから代替法として利用可能と考えられる。
その他行政的観点からの成果
現在、OECDでは、AOPに基づく毒性評価の精緻化を実現化しようとしているが、今回我々が提唱する(1)DNA損傷、(2)DNA修復、(3)突然変異の発生をKEYイベントとし、段階的に評価する手法は、まさにAOP原理に基づく効率的な評価法である。
その他のインパクト
ヒト細胞を用いて1分子のDNA損傷の発生モデルを開発に関して第44回日本環境変異原学会学会賞(2015年)を受賞した。また、同時に学会の公開シンポジウムで食の安全に関する講演を福岡で行い、ケーブルテレビで放映された。
凝集反応を利用した新規エピジェネティック変異原検出法の開発の研究は、2017年度第2回関東支部例会で発表され、技術賞を獲得した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
29件
学会発表(国際学会等)
12件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kanemaru Y, Suzuki T, Niimi N, Grúz P, Matsumoto K, Adachi N, Honma M, Nohmi T.
Catalytic and non-catalytic roles of DNA polymerase κ in the protection of human cells against genotoxic stresses.
Environ Mol Mutagen , 56 , 650-662  (2015)
10.1002/em.21961
原著論文2
Keka IS, Mohiuddin, Maede Y, Rahman MM, Sakuma T, Honma M, Yamamoto T, Takeda S, Sasanuma H.
Smarcal1 promotes double-strand-break repair by nonhomologous end-joining.
Nucleic Acids Res. , 43 , 6359-6372  (2015)
10.1093/nar/gkv621
原著論文3
Sassa A, Kanemaru Y, Kamoshita N, Honma M, Yasui M
Mutagenic consequences of cytosine alterations site-specifically embedded in the human genome.
Genes and Environment , 38 , 17-17  (2016)
10.1186/s41021-016-0045-9
原著論文4
Petkov, PI, Schultz TW, Honma M, Kirilov K, Kotov S, Mekenyan OG
Predicting in vitro genotoxicity by mouse lymphoma L5178Y thymidine kinase mutation assay (MLA): Accounting for simulated metabolic activation of chemicals.
Computational Toxicology , 4 , 45-53  (2017)
原著論文5
Gadaleta D, Porta N, Vrontaki E, Manganelli S, Manganaro A, Sello G, Honma M, Benfenati E.
Integrating computational methods to predict mutagenicity of aromatic azo compounds.
J Environ Sci Health C Environ Carcinog Ecotoxicol Rev. , 35 , 239-257  (2017)
10.1080/10590501.2017.1391521
原著論文6
Grúz P, Shimizu M, Sugiyama KI, Honma M.
Mutagenicity of ω-3 fatty acid peroxidation products in the Ames test.
Mutat Res. , 819 , 14-19  (2017)
10.1016/j.mrgentox.2017.05.004
原著論文7
Sugiyama, K., Furusawa, H., Grúz, P., Honma, M
Detection of epigenetic mutagens including anthracene-derived compounds using yeast FLO1 promoter GFP reporter gene assay
Mutagenesis , 32 , 429-435  (2017)
10.1093/mutage/gew041
原著論文8
Suzuki T, Matsumoto K, Honma M, Nohmi T
Impact of DNA polymerase ζ mutations on genotoxic thresholds of oxidative mutagens.
Mutat Res. , 828 , 10-14  (2018)
10.1016/j.mrgentox.2018.02.001
原著論文9
You X, Ando T, Xi J, Cao Y, Liu W, Zhang X,Honma M, Masumura K, Luan Y.
Gene mutation and micronucleus assays in gpt delta mice treated with 2,2',4,4'-tetrabromodiphenyl ether.
Mutagenesis , 33 , 153-160  (2018)
10.1093/mutage/gey00
原著論文10
Kasamatsu T, Kitazawa A, Tajima S, Kaneko M et al
Development of a new quantitative structure-activity relationship model for predicting Ames mutagenicity of food flavor chemicals using StarDrop™ auto-Modeller™
Genes Environ. , 43 (16) , 1-17  (2021)
doi.org/10.1186/s41021-021-00182-6
原著論文11
Honma M, Yamada M, Yasui M, Horibata K et al
In vivo and in vitro mutagenicity of perillaldehyde and cinnamaldehyde.
Genes Environ , 43 (30) , 1-11  (2021)
doi.org/10.1186/s41021-021-00204-3
原著論文12
Honma M, Yamada M, Yasui M et al
Genotoxicity assessment of food-flavoring chemicals used in Japan
Toxicology Reports , 9 , 1008-1012  (2022)
doi.org/10.1016/j.toxrep.2022.04.026

公開日・更新日

公開日
2018-06-18
更新日
2022-06-10

収支報告書

文献番号
201723002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,000,000円
(2)補助金確定額
7,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,679,424円
人件費・謝金 866,140円
旅費 1,001,943円
その他 452,493円
間接経費 0円
合計 7,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-07-02
更新日
-