文献情報
文献番号
201722004A
報告書区分
総括
研究課題名
ストレスチェック制度による労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場環境改善効果に関する研究
課題番号
H27-労働-一般-004
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
川上 憲人(東京大学大学院 医学系研究科 精神保健学分野)
研究分担者(所属機関)
- 井上彰臣(北里大学 医学部)
- 島津明人(北里大学 一般教育部)
- 吉川 徹(独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所)
- 堤 明純(北里大学 医学部)
- 廣 尚典(産業医科大学 産業生態科学研究所)
- 小田切優子(東京医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
8,265,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、平成27 年12 月に施行されたストレスチェック制度について、1)制度の導入による労働者の健康状態や職場環境改善への効果について評価すること、2)制度の運用上の課題を明らかにし、効果的な実施上の工夫を検討し提案することである。
研究方法
【1.ストレスチェック制度の評価】1)労働者約4000名のコホートによりストレスチェック制度の実施状況および制度の効果を評価した。2)454事業場の追跡調査により法制度施行後のストレスチェック制度の実施状況、ストレスチェック制度の実施と職場のメンタルヘルスに対する事業者の意識や活動との関連、および費用を検討した。3)平成25および27 年、平成28年労働安全衛生調査の個票データを用いてストレスチェックおよび職場環境改善と仕事関連ストレスとの関連を検討した。4)4事業場を対象にストレスチェック制度の実施状況と効果を検討した。【2.ストレスチェック制度の実施上の工夫】1)教育研修、ストレスマネジメントの工夫のために個別面接支援マニュアルのクイック版を作成し、モデル事業所で試行してその効果評価を行った。2)ストレスチェック制度を利用した職場環境改善スタートのための手引きの作成、ストレスチェック制度における職場環境改善の工夫のための参加型職場環境改善のマニュアルの開発を行った。3)厚生労働省が示す職業性ストレス簡易調査票を用いた高ストレス者の抽出基準について、労働者の抑うつ症状もしくはメンタルヘルス不調の発症に関する予測妥当性と調査集団における高ストレスのインパクトを、教育機関における約1年間の前向きで検討した。4)ストレスチェック制度における医師による面接指導およびその後のフォローアップの効果的な進め方について検討を行い、そのガイドラインを作成した。
結果と考察
【1.ストレスチェック制度の評価】1)ストレスチェック後の職場環境改善は2年間の労働生産性の増加と有意な関連性を示した。2)ストレスチェック制度施行後の2年目にストレスチェックを実施した事業場、職場環境改善活動は1年目から増加した。ストレスチェック制度の費用は1年目とほぼ同一であった。3)平成25、27年労働安全衛生調査に基づく連続横断研究では、ストレスチェックかつ職場環境改善の実施の場合に仕事関連ストレスが有意に少なかった。平成28年労働安全衛生調査に基づく横断研究でも、ストレスチェック後の職場環境改善は労働者の仕事関連ストレスの有無と有意な負の関連を示した。4)集団分析を実施しながらも職場環境改善活動が実施されなかった事業場では、制度の導入によって労働者の心理的な負担の軽減は見られなかった。【2.ストレスチェック制度の実施上の工夫】1)個別面接支援マニュアルを用いた保健師・看護師3名による面接を受けた45名のストレッサーとストレス反応が低減し,社会的支援,満足度が向上した。2)「ストレスチェック制度を利用した職場環境改善スタートのための手引き」および「いきいき職場づくりのための参加型職場環境改善の手引き」を完成した。3)抑うつ症状発症もしくはメンタルヘルス関連疾患の発症に対する高ストレス判定のオッズ比は5.1であった。4)「ストレスチェック制度における医師による面接指導のヒント集」を完成させた。
結論
ストレスチェック制度施行2年目にも、実施事業場の割合および受検率は高く、医師面接の割合は低かった。職場環境改善の実施は増加傾向にあり、労働者の仕事関連ストレスの軽減、生産性の向上に効果がある可能性が示された。現在推奨されている高ストレス者の判定法の妥当性が異なる対象者でも再確認された。セルフケア支援、職場環境改善(導入版と参加型職場環境改善)、医師による面接指導のマニュアルあるいはヒント集が完成した。今後の課題として、①ストレスチェック後の職場環境改善の普及、特に効果的な手法の普及、ツール開発、ファシリテータ研修の普及、②結果通知、ストレスマネジメントの情報提供の改善、③高ストレス者に対して医師面接の実施率を向上させる、あるいは法定外の健康相談を推奨する取り組み、④中規模事業場での取り組みを推進する方策があげられた。
公開日・更新日
公開日
2018-06-18
更新日
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