薬剤耐性(AMR)アクションプランの実行に関する研究

文献情報

文献番号
201718025A
報告書区分
総括
研究課題名
薬剤耐性(AMR)アクションプランの実行に関する研究
課題番号
H29-新興行政-指定-005
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
大曲 貴夫(国立国際医療研究センター 国際感染症センター)
研究分担者(所属機関)
  • 今中 雄一(京都大学 医学部 医学研究科)
  • 村木 優一(京都薬科大学 医療薬科学系 臨床薬剤疫学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
8,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬剤耐性菌が世界中に拡大し問題となっているなかで、わが国は2016年4月に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」を発表した。本アクションプランでは1 普及啓発・教育、2 動向調査・監視、3 感染予防・管理、4 抗微生物剤の適正使用、5 研究開発・創薬、6 国際協力主要6分野で目標を掲げて活動を推進していく。アクションプランでは現時点では各領域に於いてエビデンスの不足している部分を挙げ、これに対する研究開発もその達成すべき項目に掲げている。具体的には、動向調査・監視においては日本における薬剤耐性の状況を包括的に示すことが必要である。医療関連感染症の発生状況を院内だけでなく院外からも収集し、地域や医療機関での対策に役立て、かつ日本の代表性のある統計を得る必要があるが、この体制は確立されていない。また抗菌薬適正使用の推進のためには感染症診療の適切性を評価するサーベイランスが必要だが、本邦ではまだ整理されていない。さらに、抗菌薬使用量も日本全体での使用状況は十分には示されていない。アクションプランを確実に実行するためには上記の書けている知見を得ていくことが必要である。本研究では薬剤耐性(AMR)対策アクションプランの目標の達成のために必要とされるサーベイランス、教育啓発の手法開発、AMRの医療経済的影響について研究を行うことを目的とする。
研究方法
1. 医療関連感染(HAI)サーベイランスに関する研究
地域及び全国レベルで評価が可能なHAIサーベイランスシステムについて、対象項目と必要な指標について検討し選定する。

2. 抗菌薬使用量(AMU)サーベイランスに関する研究
各医療機関での医療報酬明細書、国のレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)、卸購入情報を活用し、現在の本邦の既存のサーベイランス研究や事業でカバーされていない高齢者施設等、および地域での抗微生物薬の使用実態、内服抗菌薬使用量等について研究を計画する

3. 抗微生物薬適正使用(AMS)サーベイランスに関する研究
日本国内での医療機関等でのAMSプログラムの施行状況(スタッフの配置状況、AMSの組織的な扱い、評価指標(プロセス・アウトカム)等)、有効性・経済性等に関して現状を調査し、医療機関におけるAMSを質的・量的に評価する。

4. AMR対策の教育啓発に関する研究
医療者と一般市民の間のAMRとその対策に関する意識の乖離を調査する。また厚生労働省によって作成される診療ガイドの医療現場における遵守状況の調査を計画する。

5. AMRの医療経済的評価に関する研究
医療機関における薬剤耐性感染症(ARI)の疾病負荷に与える影響と医療経済的評価に関する研究を推進する。大規模データに基く進捗管理システムに関する研究を推進する。
結果と考察
医療関連感染(HAI)サーベイランスに関する研究では、日本における薬剤耐性の状況を包括的に示すために必要な指標を検討し、これらの指標を組み込んだサーベイランスプラットフォームを開発した。抗菌薬使用量(AMU)サーベイランスに関する研究では日本における都道府県毎の卸での抗菌薬販売量を算出し、抗菌薬使用量の算出に必要なソフトウェアを開発し実際に実用可能かを検討した。抗微生物薬適正使用(AMS)サーベイランスに関する研究では医療機関での抗菌薬適正使用プログラム詳細の調査に着手し、用いられるべき指標の開発検討を行った。また抗微生物薬適正使用の手引き 改訂のための対象分野の検討を行った。AMR対策の教育啓発に関する研究では国民の抗菌薬に関する意識の現状を調査し、意識は短期間では変化しないことを示した。小学校の学童向けのAMRの教育ワークショップをもとにした教育支援ツールを開発し、今後各地域で教育が行える基盤を作った。また地域の優良事例をウェブサイト上で紹介し、各地での地域連携を支援した。AMRの医療経済的評価に関する研究では、アウトブレイクによって病院には対策費用だけでなく逸失収入も含めて、大きな経済的負担をもたらしうる事が示された。アウトブレイクを起こさないこと、起こった際には早期に終息させることが経済的にも重要なことが示された。
結論
本研究ではAMRが社会に与える負荷を明らかにしながら、耐性菌・医療関連感染症・抗菌薬使用量・抗菌薬の適正使用に関するサーベイランスのプラットフォームを整備することで、状況改善に必要なインフラの構築を開始した。またAMR対策に関する国民の教育啓発推進の環境を整備した。次年度以降もこの研究を継続し、AMRアクションプランの実行に資する成果を提示しつつ、直接にAMRアクションプランを実行していく予定である。

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201718025Z