一類感染症等の患者発生時に備えた臨床的対応に関する研究

文献情報

文献番号
201718021A
報告書区分
総括
研究課題名
一類感染症等の患者発生時に備えた臨床的対応に関する研究
課題番号
H29-新興行政-指定-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 康幸(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 国際感染症センター)
研究分担者(所属機関)
  • 西條 政幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 賀来 満夫(東北大学大学院医学系研究科 感染制御・検査診断学分野/総合感染症学分野)
  • 倭 正也(りんくう総合医療センター 感染症センター)
  • 豊川 貴生(沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 感染症内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の役割は患者に医療を提供する特定及び第一種感染症指定医療機関をワークショップの開催などを通じて支援し,国の厚生行政に貢献することである.2013-16年の西アフリカにおけるエボラ出血熱(EVD)の流行は, 欧米においても27名の患者が治療され,知見が蓄積されてきている.患者の発生がなかったわが国においてもこれらの知見を学び,課題を明らかにしておく必要性がある.また,海外で常時発生している感染症の予防も重要である.わが国において海外渡航者に対して推奨すべき予防接種を整理しておくことが望ましい.
研究方法
文献および国外視察を通じて,一類感染症等の臨床的対応に関連する情報を収集した.指定医療機関の医療従事者を対象とした研修会で情報を還元するともに課題の抽出を行った.先行研究班による「第一種感染症指定医療機関における一類感染症対策チェックリスト」を批判的に検討した.
結果と考察
EVDに関する臨床的な情報は近年増加しており,特に実際に症例を経験した欧米からのそれはわが国においても参考になることが多い.その後に発生したラッサ熱などにも知見が活用されていることがわかる.抗ウイルス薬,感染管理,集中治療においても当初予定した情報を収集することができた.
 今回のEVD流行を契機に新たに指定医療機関制度を導入した米国の事情は興味深い.国家的プロジェクトとして設置されたセンターを通じて,医療従事者の研修,指定医療機関の評価などが行われている.治療を担当する高度な医療機関においても施設の構造は様々であるが,病室内設備や個人防護具(PPE),動線などの考え方には共通点が多く,各施設の実状に合わせた対策はわが国にも参考になると考えられた.
 わが国では,欧州で行われているような指定医療機関による相互評価が有効な対策になりうると考えられる.そのような相互評価のツールとして,先行研究班によってチェックリストが作成された.今回のチェックリストの改訂では,実際にEVD患者の診療を行った米国の医療機関を対象に実施された研究に基づいた推奨を取り込み,また複数の院内感染対策担当者の試用を通じたフィードバックを反映させ,より実用的になったと考えられる.
 患者に対する集中治療は症例が少ないものの知見は増えてきた.高度に隔離された空間でフル PPEを装着して血液浄化療法を施行するには注意深い感染対策が必要とされる.このような高度な医療を提供できる施設は集約化されており,わが国においても対応できる施設の選定や診療体制作りが今後必要になると思われる.
治療や医療従事者の曝露後発症防止において,抗ウイルス薬やワクチンも有効な手段になると考えられる.特にファビピラビルは比較的多くのRNAウイルスの増殖を抑制するため,ウイルス性出血熱に対する治療の効果を調べる研究が徐々に開始されている.実際にEVDやラッサ熱の患者にも使用されており,国際的にもファビピラビルによる治療がひとつの選択肢となりつつある.ウイルス性出血熱行政の手引きによれば,一類感染症の治療に関する専門家会議を通じて患者に投与する可能性があり,抗ウイルス薬やワクチン開発の状況について,継続したモニターが必要と考えられた.
東京と大阪において,指定医療機関と行政関係者を対象として,マダガスカルで流行したペストや研究分担者による新しい知見の紹介を含めた研修会を開催した.行政と指定医療機関の間で定期的な話し合いを持ち,患者発生時に円滑に対応できるよう期待するものである.
また,わが国における海外渡航者に対する推奨予防接種リストをまとめた.今後,活用されることを期待する.
結論
西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行時に患者を実際に診療した欧米からの文献や現地視察を通じて,一類感染症等の臨床的対応に関連する情報を収集した.特に連邦政府の支援下で医療機関における対策を大幅に強化した米国の進展は参考になることが多いと考えられた.抗ウイルス薬・ワクチン,感染管理,集中治療の各分野において,次年度以降,診療の手引き等に整理すべき課題を抽出することができた.第一種感染症指定医療機関の医療従事者や行政関係者を対象とした研修会を開催したほか,指定医療機関が相互評価を行う際に使用できる先行研究班によるチェックリストを改訂した.また,わが国における海外渡航者に対する推奨予防接種についてもまとめた.国際化時代における健康危機管理に寄与するものと期待される.

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201718021Z