文献情報
文献番号
201718001A
報告書区分
総括
研究課題名
性感染症に関する特定感染症予防指針に基づく対策の推進に関する研究
課題番号
H27-新興行政-一般-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
荒川 創一(神戸大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 中瀬 克己(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
- 釜萢 敏(公益社団法人 日本医師会)
- 白井 千香(大阪市立大学 大学院医学研究科)
- 余田 敬子(東京女子医科大学 医学部)
- 濱砂 良一 (産業医科大学 医学部)
- 三鴨 廣繁(愛知医科大学 大学院医学研究科)
- 川名 敬(日本大学 医学部)
- 伊藤 晴夫(千葉大学 医学部)
- 砂川 富正(国立感染研究所 感染症疫学センター)
- 石地 尚興(東京慈恵会医科大学)
- 高橋 聡(札幌医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,617,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
1.感染症法に基づく感染症発生動向調査における性感染症定点把握4性感染症の直近の状況を精査。2012年以降急増している梅毒について、先天性梅毒児の臨床像・治療実態を調査。2.性感染症対策における自治体の3つの課題に関して研究。3.予防啓発スライド普及活用に加えて、大人向けの性感染症予防啓発資料としてのQ&A集の作成。4.経年的に行ってきた性感染症のセンチネルサーベイランスの継続実施。5.病院でのスクリーニング検査における梅毒血清学的検査からみた梅毒流行状況の推定。6.妊娠期梅毒の実態アンケート調査を実施。7.咽頭梅毒の診断・治療上の注意点を喚起。8.Mycoplasma genitaliumの薬剤耐性の頻度、薬剤耐性の機序について検討。9.梅毒治療の標準化に当たり、梅毒治療ペニシリン内服療法の現状を把握。10.クラミジア・トラコマティスと淋菌の検出が可能な迅速核酸増幅法の臨床研究。
研究方法
1.性感染症発生動向について感染症サーベイランスシステム(NESID)から抽出し解析。主治医および母親に同意が得られた先天梅毒13症例を調査。2.アンケートの解析、岡山地域の性感染症情報の積極的把握、学術雑誌や自治体担当職員が参加する研究会およびホームページにおいて研究成果を公表。3.教導ツールを作り、性感染症予防啓発の効果的なアプローチ方法を探索。4.4モデル県の10月ひとつきに医療機関を受診した性感染症患者を集計し、疫学的手法により、全国の10万人対年罹患率を推計。5.愛知医科大学病院で梅毒RPR定性・TPLA定性検査が実施された症例を後方視的に調査。6.日本産科婦人科学会の研修施設を対象として、「性感染症による母子感染実態」アンケート調査を実施し妊娠期梅毒を検討。7.梅毒受診時咽頭所見、性器及び皮膚病変の有無、病期、感染経路について後ろ向きに検討。8.男子尿道炎より分離されたM. genitalium株におけるマクロライド耐性、キノロン耐性関連遺伝子変異を検討。9.梅毒の治療にあたっている日本性感染症学会員に対しアンケート調査実施。10.Xpert CT/NGと従来の方法との結果の診断一致率を算定。
結果と考察
1.発生動向調査から見た5類定点把握疾患の動向については、概ね例年並みであった。梅毒は5年間に渡り、毎年増加し続けている。2.多くの自治体で、定点医療機関の見直しや、変更についての検討をしていない。今後、適切な定点医療施設の変更を検討すべきと考えられる。3.医療関係者から、スライド内容の問い合わせや意見があり、また、学校関係者から、スライドを使用する際の条件や問い合わせ、健康教育の依頼があった。実践的な効果について、まずは多くの対象者に目に留めてもらうことが重要である。4.梅毒は、2016年に男女とも明らかに増加していた。特に、男女とも20代で最も多かった。5.梅毒I期およびII期患者においてもT. pallidumの髄液中への侵入を認めた。感染早期から病原体のPCRによる髄液検査が必要かどうかを検討する必要性がある。6.5年間で発生した166名の妊娠期梅毒のうち、20名の先天梅毒が発生していた。先天梅毒20例のうち、6例では死亡か後遺症が残っている。7.初診時の口腔咽頭所見としては、第2期病変である口狭部粘膜、特に軟口蓋の粘膜斑が明らかとなった。8.M. genitaliumのマクロライド耐性は著明に進んでおり、キノロン耐性も徐々に増加している。9.日本性感染症学会ガイドラインは普及している。10. 拡散増幅迅速診断は有用であり、淋菌へのMEPMの治療薬可能性が示唆された。
結論
1.先天梅毒の発生も含め、直近の発生動向の把握、定期的に広く情報還元する事、そして効果的な対策に繋げる事が重要である。2.有効な対応の普及には自治体人材の強化が必要である。3.予防啓発ツールの普及には、配布方法や対象に合わせた情報量や質の整理が必要である。4.若年者の梅毒罹患が増加していることが明らかになった。5.基本的スクリーニング検査としての梅毒抗体の結果を確実に評価する診療体制の構築が重要である。6.梅毒について妊婦、胎児(新生児)へその蔓延が波及していることが分かった。7.咽頭梅毒に関する情報を広く臨床医に発信して啓発することは、有効な梅毒蔓延防止対策の一つとなる。8.我が国で検出されるM. genitaliumでは、マクロライド耐性、MFLX耐性遺伝子が増加している。9.梅毒の拡散に歯止めをかけるために、治療が確実である筋注製剤の導入が望まれる。10.迅速核酸増幅法による検出においても、従来の核酸増幅法に劣らない結果が得られた。
公開日・更新日
公開日
2018-06-05
更新日
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