災害時の精神保健医療に関する研究

文献情報

文献番号
201717040A
報告書区分
総括
研究課題名
災害時の精神保健医療に関する研究
課題番号
H27-精神-指定-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
金 吉晴(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 災害時こころの情報支援センター 成人精神保健研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 寛(公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構 兵庫県こころのケアセンター)
  • 荒井 秀典(国立長寿医療研究センター)
  • 松本 和紀(東北大学大学院・医学系研究科 精神神経学分野・予防精神医学寄附講座、みやぎ心のケアセンター)
  • 前田 正治(福島県立医科大学医学部災害こころの医学講座 災害精神医学、ふくしま心のケアセンター)
  • 富田 博秋(東北大学災害科学国際研究所 災害精神医学分野)
  • 鈴木 友理子(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 成人精神保健研究部)
  • 神尾 陽子(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・思春期精神保健研究)
  • 松下 幸生(国立病院機構久里浜医療センター)
  • 大塚 耕太郎(岩手医科大学医学部神経精神科学講座)
  • 井筒 節(東京大学教養学部 教養教育高度化機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
災害や事故・事件などの予期せぬ出来事は、身体的外傷や生活環境上のストレスのみならず、被災者または被害者の心に測り知れない深い傷を残すことは明白である。それにもかかわらず、自然災害が頻発する日本において、被災地域住民の精神健康が問題視されるようになったのは1990年代からであり、その歴史は浅い。災害精神保健活動のあり方が被災者の心理的ウェルビーングに重要な影響を与え、また、心理対応に携わるあらゆる従事者が統一的な介入・支援方針のもとで活動をするうえで、こころのケアの指針の共有を目的としたマニュアルやガイドラインの重要性は否めない。世界有数の自然災害大国である日本では、自国の災害経験で蓄積されたノウハウに基づき、数々のガイドラインが作成されてきた。国内におけるこころのケアに関する最初のマニュアルとなった2003年に制定された災害時地域精神保健医療活動ガイドラインは、2001年の付属池田小事件の際に問題となった専門家間の見解の相違を踏まえて作られたものであり、以降被災者のメンタルヘルスケアの充実のために当センターは20点以上のガイドライン・マニュアルを作成、国内に普及してきた。これらの過去に日本で蓄積された知識を、近い将来国内において精神保健に携わる専門家らが被災支援の経験をもとに適宜獲得した新しい知識を反映することのできる「生きた」ガイドラインとし、また、対国外においては災害大国日本で培われたノウハウを共有することによる国際精神保健機構への貢献の可能性を視野に入れたうえで、体系的にガイドラインを整理し、内容の充実と今後のより幅広い普及にむけて包括的に再構成・最新化することは意義があると考える。
研究方法
そのために2000年から2015年までに発行・出版された緊急時こころのケアに関する国内外の文献を対象に、以下の12点にわたる(1) 書籍、(2) ガイドライン、(3) 研究報告書を収集、これらの対象文献で記した文献を一望化し、整理するために、コンテンツ・マトリックスを (1) 目次・見出し埋め、(2) カテゴリー化、(3) 接合作業、(4) 概要埋め、手順に沿って作成した。上記の手順で作成されたコンテンツ・マトリクッスを用いて、災害時こころのケアに関する文献を比較考察した。
結果と考察
以下について検討を終了し、各項目の修正、複数の文献の内容の統合が行われた。
【システム・原理】
1. 災害時精神保健医療体制(システム)の差異
2. 災害時における地域精神保健医療活動のめざすところとその内なる課題
3. プログラム評価
【アセスメント】
1. 災害時精神保健医療活動において行われるアセスメント
2. 災害時におけるアセスメント、スクリーニング実施の弊害の可能性について
【初期】
1. 初期の定義
2. PFA
3. アセスメント
4. 体制
5. 教育現場
【中長期】
1. 不明確な中長期の定義
2. 中期、長期介入を行ううえでの留意点
3. 中長期にスクリーニング、モニタリングを実施・継続する重要性
【心理療法】
1. 心理的危機
2. 心理療法の説明
3. 危機介入・緊急支援
4. 悲嘆
5. 心理教育
【リスクコミュニケーション】
1. リスクコミュニケーションの定義
2. 精神保健医療活動におけるリスクコミュニケーションの役割
3. リスクコミュニケーションについての留意点
【準備・訓練】
1. 国内外における災害時精神保健活動のための準便・訓練についての方向性
2. 国海外における国家指針としての災害時メンタルヘルス訓練の体系化と専門家要請の枠組み
結論
これまでのガイドラインには十分なエビデンスに基づいていない記述が多く、また内容、構成にも多くの相違があった。今回、ほぼ漏れの無い全項目型の包括的ガイドラインのフレームワークが作成され、今後は国内外の文献をリアルタイムで精査するとともに、内容を常に更新し、またweb上に公開して災害時の精神保健医療対策に貢献することが可能となった。

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
2018-11-21

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
2018-11-21

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201717040B
報告書区分
総合
研究課題名
災害時の精神保健医療に関する研究
課題番号
H27-精神-指定-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
金 吉晴(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 災害時こころの情報支援センター 成人精神保健研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 川上 憲人(東京大学大学院医学系研究科  精神保健学分野)
  • 加藤 寛(公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構 兵庫県こころのケアセンター)
  • 荒井 秀典(国立長寿医療研究センター)
  • 松本 和紀(東北大学大学院・医学系研究科 精神神経学分野・予防精神医学寄附講座・みやぎ心のケアセンター)
  • 前田 正治(福島県立医科大学医学部災害こころの医学講座 災害精神医学・ふくしま心のケアセンター)
  • 中島 聡美(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 成人精神保健研究部)
  • 富田 博秋(東北大学災害科学国際研究所 災害精神医学分野)
  • 鈴木 友理子(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 成人精神保健研究部)
  • 神尾 陽子(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・思春期精神保健研究部)
  • 松下 幸生(国立病院機構久里浜医療センター)
  • 朝田 隆(東京医科歯科大学)
  • 大塚 耕太郎(岩手医科大学医学部神経精神科学講座)
  • 井筒 節(東京大学教養学部 教養教育高度化機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東日本大震災被災者への長期的な精神保健医療対応は継続しており、阪神淡路大震災(1995)などの例を見ても、長期的なトラウマ、悲嘆反応、生活ストレスへの対応には困難が予想される。他方で現地の支援者には疲弊も見られ、より効果的な支援に向けての専門家からの助言ならびに支援者支援が必要である。東日本大震災以降、いくつかの研究班が調査、支援研究を行ってきたが、それらの成果を統合し、長期的支援の課題に向けてデータに基づいた課題整理と対策を助言するとともに、現地での支援システムについての研究ベースでの提言が望まれている。またこの経験、知見を今後の災害への対応に活用する必要があり、事前の準備性の向上、急性期の対応、中長期の支援、またPTSDや複雑性悲嘆(遺族)への治療的対応などをシームレスに展望し、包括的なガイドラインにまとめる必要がある。また東日本大震災、阪神淡路大震災での被災者支援活動の成果、実態を調査した。
研究方法
東日本大震災による精神疾患の新規罹患とこれに関連する要因、震災後に罹患した精神疾患の持続期間と回復に関連する要因、阪神・淡路大震災などの過去の大災害、および東日本大震災後の活動状況について、保健所や精神保健福祉センターなどの行政機関の役割、個人の災害への備えとソーシャルキャピタル(SC)との関連、原発事故による外傷反応、放射線被ばくに対する慢性不安、あいまいな喪失状況、コミュニティの分断、スティグマにまつわる問題との関連、岩手、宮城、福島県下の精神科医療機関の災害対応の実態等を検討した。また2000年から2015年までに発行・出版された緊急時こころのケアに関する国内外の文献を対象にレビューを行った。
結果と考察
新規罹患した精神疾患についての相談の頻度は仮設住宅在住の被災者で一般住民にくらべて高かった。専従機関を設置しなかった仙台市での取り組みは評価される。特に高齢者に対しては、独居や障がい者・障がい児がいる世帯への支援強化が重要だと考えられた。複雑性悲嘆は、通常の悲嘆の区別しにくく、QOLや対人関係の障害があっても見逃されやすい。東日本大震災での揺れの激しさや押し寄せる津波の破壊力は、メディア報道を通じて被災地から離れた地域にも伝達された。仮設住宅でのアルコール問題については、全体では約60%の支援者が経験しており、朝や昼間からの飲酒や飲酒による健康被害を相談されたものの割合が高かった。
 ガイドラインに関しては、以下について検討を終了し、各項目の修正、複数の文献の内容の統合が行われた。
【システム・原理】
1. 災害時精神保健医療体制(システム)の差異
2. 災害時における地域精神保健医療活動のめざすところとその内なる課題
3. プログラム評価
【アセスメント】
1. 災害時精神保健医療活動において行われるアセスメント
2. 災害時におけるアセスメント、スクリーニング実施の弊害の可能性について
【初期】
1. 初期の定義
2. PFA
3. アセスメント
4. 体制
5. 教育現場
【中長期】
1. 不明確な中長期の定義
2. 中期、長期介入を行ううえでの留意点
3. 中長期にスクリーニング、モニタリングを実施・継続する重要性
【心理療法】
1. 心理的危機
2. 心理療法の説明
3. 危機介入・緊急支援
4. 悲嘆
5. 心理教育
【リスクコミュニケーション】
1. リスクコミュニケーションの定義
2. 精神保健医療活動におけるリスクコミュニケーションの役割
3. リスクコミュニケーションについての留意点
【準備・訓練】
1. 国内外における災害時精神保健活動のための準便・訓練についての方向性
2. 国海外における国家指針としての災害時メンタルヘルス訓練の体系化と専門家要請の枠組み
結論
大規模災害に関して、これまでの研究では十分に注目されてこなかったいくつかの知見が明らかとなった。これまでのガイドラインには十分なエビデンスに基づいていない記述が多く、また内容、構成にも多くの相違があった。今回、ほぼ漏れの無い全項目型の包括的ガイドラインのフレームワークが作成され、今後は国内外の文献をリアルタイムで精査するとともに、内容を常に更新し、またweb上に公開して災害時の精神保健医療対策に貢献することが可能となった。

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
2018-11-21

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
2018-11-21

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201717040C

成果

専門的・学術的観点からの成果
東日本大震災を初めとする災害後の精神保健に係る中長期的支援、調査研究の成果を集約し、国内外の文献を渉猟して災害時精神保健医療の文献データベースとガイドラインの作成を進め、国際的にも例の無い包括的ガイドラインのフレームワークを完成させた。
臨床的観点からの成果
災害時の心理対応について、時相別、災害の種類別に知見を整理し、急性期のデブリーフィングやトラウマ焦点化療法が適用にならないことを明らかにし、PFAなどの心理的支援の有用性を検証した。
ガイドライン等の開発
ガイドラインはフレームワークが完成したところであるが、近日中に完成版を公開し、以前に主任研究者が作成した災害時地域精神保健医療活動ガイドライン(2003)と同様、各行政機関に周知をする予定である。
その他行政的観点からの成果
東日本大震災後の被災三県の心のケアセンターの支援活動と連携し、運営会議等でこの研究班の成果に基づいた助言、討論を行い、行政的な災害時精神保健医療対応に貢献した。
その他のインパクト
従来の災害時精神保健医療に関する国内外のガイドライン、教科書等の資料は、すべて特殊な目的のために作成され、内容に偏り、不統一があり、真に包括的なものは存在していない。本研究班の成果物である包括的ガイドラインは国内外で唯一のものであり、これをプラットフォームとして広く世界に共有出来る知的財産を作成する。

発表件数

原著論文(和文)
20件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
22件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Maiko Fukasawa, Yuriko Suzuki, Akiko Obara, Yoshiharu Kim
Effects of Disaster Damage and Working Conditions on Mental Health Among Public Servants 16 Months After the Great East Japan Earthquake
Disaster Medicine and Public Health Preparedness , 15 , 1-9  (2018)
doi: 10.1017/dmp.2017.127.
原著論文2
Narita Z, Yamanouchi Y, Mishima K, Kim Y, et al
Training types associated with knowledge and experience in public health workers
Archives of Public Health , 80 (44)  (2022)
10.1186/s13690-022-00788-4

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
2024-03-18

収支報告書

文献番号
201717040Z