文献情報
文献番号
201716007A
報告書区分
総括
研究課題名
若年性認知症の人の生活実態調査と大都市における認知症の有病率及び生活実態調査
課題番号
H29-認知症-一般-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
粟田 主一(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
- 徳丸阿耶(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター病院)
- 稲垣宏樹(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
- 菊地和則(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
- 岡村毅(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
- 杉山美香(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
- 枝広あや子(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
4,529,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
日本医療研究開発機構(AMED)で実施されている「若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システムの開発」に関する研究を補完するために,1) 自治体の介護保険情報を用いた若年性認知症の有病率・生活実態把握の方法論の確立,2)認知症疾患医療センターの臨床統計を用いた若年性認知症の発生率推計の方法論の確立を目的とする研究を実施した.また,大都市の認知症の有病率と生活実態を把握するために,平成28年度に東京都板橋区高島平地区に在住する70歳以上高齢者7,614名を対象に実施した悉皆調査のデータを用いて,3)大都市の認知症有病率調査において参加率を向上させるための方法論の検討,4)大都市に暮らす高齢者の主観的な生活支援ニーズの潜在因子の分析,5)認知機能低下を認める高齢者と認めない高齢者の主観的な生活支援ニーズの比較分析,6)大都市に暮らす認知症高齢者の社会支援ニーズの実態分析を行った.これらに加えて,7)地域在住高齢者を対象とする神経画像(MRI)検査のデータを分析し,異常所見の出現率と認知機能低下との関連を検討した.
研究方法
1)厚生労働省・自治体公表資料の分析,自治体への聞き取り調査を行うとともに,東京都中野区の介護保険第2号被保険者情報より有病率・有病者数を試行的に推計した.2)全国の認知症疾患医療センター374施設の協議書・実績報告書から若年性認知症の診断名別件数を算出し,同年の18歳~64歳人口を母数とする年間発生率を推計した.3)平成28年度に実施した東京都板橋区高島平の70歳以上高齢者7,614名を対象とする悉皆調査のデータを用いて,調査参加者と非参加者の特性を比較分析した.4)健康教室に通う65歳以上高齢者150名の協力を得て生活支援ニーズリスト作成し,70歳以上高齢者7,614名を対象とする質問紙調査結果について探索的因子分析を行った.5)各因子を下位尺度とする自記式生活支援ニーズ質問尺度を作成し,下位尺度の合計得点を認知機能低下群,認知機能低下疑い群,健常群の間で比較分析した.6)MMSE23点以下で研究同意が得られた198名のうち,精神科医によって認知症の状態にあると評価された高齢者78名を対象に,社会支援ニーズの実態を分析した.7)70歳以上高齢者200名(MMSE23点以下97名,MMSE24点以上103名)の頭部MRI検査の所見を2人の放射線科医が視診で評価した.
結果と考察
1)自治体の要介護認定システムNCI251を用いた若年性認知症有病率推計と生活実態把握方法を明らかにし,東京都内の一自治体の40歳~64歳人口における若年性認知症有病率を推計した.2)認知症疾患医療センターの臨床統計データを用いて若年性認知症の発生率を推計する上での方法論上の課題を示した.3)大都市において認知症有病率調査を行う場合には訪問調査が参加率向上の鍵を握ることを示した.4)地域在住高齢者の主観的な生活支援ニーズの潜在因子として5つの因子(家事支援,社会参加支援,私的領域支援,受療支援,権利擁護)が抽出されること,5) 認知機能低下を認める高齢者(MMSE23点以下)は,認知機能低下を認めない高齢者よりも,生活支援ニーズが自覚される頻度が高く,特に受療支援や権利擁護に関する生活支援ニーズが高いこと,6)大都市に暮らす認知症高齢者の多くに複合的社会支援ニーズが認められるにも関わらず,それが充足されていないこと,7)MRI検査において,血管障害や海馬近傍萎縮などの異常所見が高頻度に認められること,認知機能低下高齢者(MMSE23点以下)では有所見率が65%ことを明らかにした.
結論
若年性認知症の実態調査では,1)自治体の介護保険情報を用いた若年性認知症有病率の推計方法を明らかにするとともに,2)認知症疾患医療センターの臨床統計データを用いた若年性認知症発生率推計の方法論的課題を明らかにすることができた.これらの結果を受けて,平成30年度は,全国複数地域の自治体と連携して介護保険情報に基づく若年性認知症の有病率推計と全国の認知症疾患医療センターの臨床統計データを用いた若年性認知症の年間発生率の推計を試みる.大都市における認知症の実態調査では,1)大都市における認知症有病率調査では訪問調査が重視すべきこと,2)地域在住高齢者の生活支援ニーズには5つの領域があり,3)いずれの領域についても認知機能低下を認める高齢者は,認めない高齢者よりも,ニーズを強く自覚していること,4)大都市に暮らす認知症高齢者にはサービスへのアクセシビリティーに課題が生じていること,5)地域在住高齢者は高い頻度でMRIに異常所見が認められることが明らかにされた.これらの結果を受けて,平成30年度は認知機能低下高齢者および認知症高齢者の生活実態の縦断的把握を試みる.
公開日・更新日
公開日
2019-05-15
更新日
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