ポピュレーションアプローチによる認知症予防のための社会参加支援の地域介入研究

文献情報

文献番号
201716001A
報告書区分
総括
研究課題名
ポピュレーションアプローチによる認知症予防のための社会参加支援の地域介入研究
課題番号
H27-認知症-一般-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
竹田 徳則(星城大学 リハビリテーション学部)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤 克則(千葉大学 予防医学センター)
  • 平井 寛(山梨大学大学院 総合研究部)
  • 加藤 清人(平成医療短期大学 リハビリテーション学科)
  • 鄭 丞媛(ジョン スンウォン)(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 老年社会科学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
1,610,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は,通いの場(以下,サロン)による地域介入とその長期追跡データの分析による認知症予防効果の検証,サロン活動や社会参加の内容の違いによって認知症予防の効果が異なるのかを明らかにすることである.
研究方法
研究方法は,第一に2016年度日本老年学的評価研究(JAGES)プロジェクト実施「健康とくらしの調査」のサロン関連回答の分析と2015年度実施JAGESプロジェクト参加7市町サロン参加者のデータや,JAGESプロジェクト参加市町のパネルデータを用いた分析,第二に地域診断閲覧ソフトとして,欧米諸国の行政や国際機関などで利用されているInstantAtlas TMを用いたシステム開発・改良として評価指標の構築を図ることなどとした.
結果と考察
その結果,1)JAGES参加38市町の回答者のうち通いの場参加者割合は,全体で15.7%,農村的地域19市町では最少が10.1%,最大28.8%で2.9倍の差,郊外的地域11市町ではそれぞれ12.7%と21.1%で1.7倍差,都市的地域8市町が12.0%と18.3%で1.5倍差という結果であった.2)通いの場への参加がきっかけで新たに運動を始めた高齢者の有無と心理社会面の変化では,通いの場参加者のうち,約半数が新たに運動を始めていた.新たに運動を始めた群はそうでない群に比べて,将来の楽しみや健康に関する情報などが増えたと感じている者の割合が有意に高かった.3)通いの場参加者における二次予防事業対象者割合とその多少による参加理由の特徴では,7市町の二次予防事業対象参加者割合は,3.4%~0.2%で3.2%ポイント差があり,二次予防事業該当者割合の多い市町ほど「友人・知人」の誘いによる参加者が多かった.4)通いの場参加後の通いの場以外への社会参加状況では,参加後に社会参加が増えたと認識した者が64.6%に上り,増えたと認識した者ほど主観的健康感が高いことが確認された.5)参加する通いの場によってプロセス(中間的な効果)に違いがあるかを探索的に検討した結果,脳トレーニング「あり」の通いの場新規参加者では高次生活機能の「請求書の支払いができる」「預貯金の出し入れができる」「年金などの書類が書ける」の各機能を維持できなかった者はいなかった一方,「なし」の通いの場新規参加者では,それらの機能維持ができていない者がみられた.また,多くの通いの場新規参加者で地域組織への参加者が増加していたが,通いの場継続参加者割合との関連は明らかではなかった.6)認知症発症リスク因子の「物忘れ」と「趣味の会やスポーツの会への参加」「仕事をしている」人の割合などとは中程度の負の相関が確認され,社会参加が多い市町村で物忘れのある人の割合が少なかった.7)「通いの場」あるいは地域間で比較できる「見える化」システムのプロトタイプを開発・改良として,評価指標群では,①インプット指標 9指標、②プロセス 7指標,③アウトプット指標 4指標,④環境指標 5指標,⑤個人・行動指標 38指標,⑥中間アウトカム指標 7指標,⑦アウトカム指標 81指標,⑧インパクト指標 9指標の合計160指標を考案した.
結論
本年度の横断及び縦断研究結果により,ポピュレーションアプローチをによる通いの場を活用した社会参加支援と地域づくりに向けた介護予防・認知症予防に有用なプロセスの一端が明らかとなった.

公開日・更新日

公開日
2019-05-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-05-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201716001B
報告書区分
総合
研究課題名
ポピュレーションアプローチによる認知症予防のための社会参加支援の地域介入研究
課題番号
H27-認知症-一般-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
竹田 徳則(星城大学 リハビリテーション学部)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤 克則(千葉大学 予防医学センター)
  • 平井 寛(山梨大学大学院 総合総合研究部)
  • 加藤 清人(平成医療短期大学 リハビリテーション科)
  • 鄭 丞媛(ジョン スンウォン)(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 老年社会科学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は,通いの場(以下,サロン)による地域介入とその長期追跡データの分析による認知症予防効果の検証,サロン活動や社会参加の内容の違いによって認知症予防の効果が異なるのかを明らかにすることである.
研究方法
本研究3年間では,2015年度が,1.日本老年学的評価研究(JAGES)プロジェクト参加自治体の協力を得てサロンの実態調査実施,2.愛知県武豊町や他市町での蓄積データを用い,例えばサロン参加有無別での認知症発症をエンドポイントにした分析データベースの構築と分析.2016年度は,3.2015年度実施調査の横断分析として,認知症発症との関連が示唆されている健康行動と心理社会指標や生活機能の分析,4.既存蓄積データの分析,5.JAGESプロジェクト2013年調査に回答した14万人を対象に再度郵送調査,6.地域診断支援システムを試作.2017年度は,7.2016年度実施JAGESプロジェクト「健康とくらしの調査」及び20157年度実施JAGESプロジェクト参加市町の通いの場参加者調査データ並びに過去蓄積のパネルデータなどの分析,8.介護予防・認知症予防支援に有用な地域診断支援システムの改良を図り評価指標を考案することであった.
結果と考察
本研究の主な知見は以下の通りである.
1.縦断分析
1)認知症による要介護状態発生をアウトカムとした操作変数法を用いたサロン参加有無別での7年間の追跡分析では,サロン非参加群に比べて参加群は認知症発症が3割抑制されることを明らかにした.
2)地域在住高齢者を5年間追跡した分析による認知症チェックリストとして,認知症発症関連50変数中13変数が抽出され,そのスコア化と発症割合では15点満点中3点だと3.3%,9点以上で43.6%が5年間で認知症発症を予測するチェックリストを開発し一般公開した.
3)サロン参加とサロンまでの距離別でみたソーシャル・キャピタルの助け合いの指標では,開催時期が早い750m圏で長期間開催されている地域では良好な変化が起こっていた.
4)社会参加の有無と物忘れの有無では,3年間の2時点で社会参加「なし」に比べ社会参加「あり」は,4年後の物忘れの発生を半減させる可能性を明らかにした.
5)サロンプログラムに脳トレーニング「あり」のサロン参加者では,高次生活機能低下者が少なく,また,地域組織への継続参加者割合が10%未満のサロンでは,10%以上サロンに比べ新規サロン参加者の新たな地域組織参加率は低い傾向があった.
2.横断分析
1)JAGESプロジェクト参加の7市町サロン参加者における二次予防事業該当リスク者割合は,平均1.3%で全国の二次予防事業参加者0.8%を上回っている可能性を確認,サロン参加がきっかけで新たに運動を始めた者は5割でそのうち2つ以上が半数を占め,新たに運動を始めた者はそうでない者に比べて,心理社会面の良好な変化が15%程度高いこと,サロン参加後に社会参加が増えたと認識した者が64.5%に上り,増えたと認識した者ほど主観的健康が高いことを明らかにした.
2)JAGESプロジェクト参加8市町のサロン155箇所の運営実態では,運営母体は社会福祉協議会が半数,開催会場は公民館7割,開催頻度は月1回が4割と複数回5割,運営にかかわる1回あたりボランティア数は平均1箇所10.5名,参加者は21.3名,プログラムでは健康体操,お茶おしゃべり,室内ゲームが多い傾向などを明らかにした.
3)JAGESプロジェクト参加38市町の調査回答者におけるサロン参加者割合は,全体では平均15.7%,最小10.1%から最大28.8%でその差は2.9倍で地域要因の違いが背景にあると考えられた.
4)地域診断支援(サロンベンチマーク)システム構築として,サロン運営に関する資源および参加に伴う参加者ならびに事業評価の指標として,インプット(9項目)・プロセス(7項目)アウトプット(4項目)・環境(5項目)・個人(38項目)・中間アウトカム(7項目)・アウトカム(81項目)・インパクト(9項目)の抽出・整理を行い,サロンベンチマークシステムの改良に反映して運用に向けた実用化を図った.
結論
本研究による横断及び縦断研究の結果,ポピュレーションアプローチによる通いの場を活用した社会参加支援と地域づくりによる認知症予防効果のエビデンスとそれに至るプロセスの一端を明らかにするとともに地域診断に有用な評価指標を提示した.

公開日・更新日

公開日
2019-05-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-05-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201716001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
認知症発症と心理社会的側面との関連を縦断研究により明らかとするために分析手法には操作変数法を用い,社会参加の場である地域で展開されている通いの場(サロン)参加者は,非参加者に比べて認知症発症が3割抑制されるという因果関係を明らかにした.また,認知症予防に至る心理社会的側面のプロセスの変化を明示するとともに通いの場毎や地域間の評価に有用な地域診断支援システムとしてサロンベンチマークを開発した.
臨床的観点からの成果
認知症発症予防のための生物医学的観点での対応策が未達の現状に対して,その予防に向けたハイリスクアプローチの限界を補完するポピュレーションアプローチによる認知症予防のエビデンスを示すとともに,現在全国7万箇所以上で展開されている通いの場(サロン)を活用することによって,社会参加促進と地域づくりを包含した認知症予防の可能性を示唆した.
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
NHKラジオ名古屋2016年6月7日:「夕刊ゴジらじ」認知症チェックリストと認知症予防生放送解説.
中日新聞2016年6月8日:朝刊「認知症リスク簡単チェック 自覚し予防に活用を」掲載.
NHKテレビ名古屋2016年12月6日:ほっとイブニング「サロン参加で介護・認知症予防」放映.
NHKテレビ名古屋2016年12月13日:ほっとイブニング「社会参加促進による認知症予防」報告会放映.
日経メディカル2017年7月号特集:認知症は減らせる.「認知症チェックリスト」掲載.

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
48件
講演会及び研究成果報告会にて講師を務め認知症予防の普及・啓発を実施

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
竹田徳則,近藤克則,平井寛,他
認知症を伴う要介護認定発生のリスクスコアの開発:5年間のAGESコホート研究
日本認知症予防学会誌 , 4 , 25-35  (2016)
原著論文2
Hikichi, H., Kondo, K., Takeda, T., et al
Social interaction and cognitive decline: Results of 7-years community intervention
Alzheimer's & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions , 3 (1) , 23-32  (2017)
https://doi.org/10.1016/j.trci.2016.11.003
原著論文3
Seungwon Jeong ,Yusuke Inoue, Katsunori Kondo, et al
Correlations between forgetfulness and social participation: region-level diagnosing indicator
International Journal of Environmental Research and Public Health(in press)  (2018)
原著論文4
渡邉良太,竹田徳則,林尊弘,他
フレイルから改善した地域在住高齢者の特徴—JAGES縦断研究
総合リハビリテーション , 46 , 853-862  (2018)
原著論文5
林尊弘,竹田徳則,加藤清人,近藤克則
通いの場参加後の社会参加状況と健康情報・意識に関する変化:JAGES通いの場参加者調査
総合リハビリテーション , 47 (11) , 1109-1115  (2019)
原著論文6
竹田徳則
地域で継続して生活するためにフレイルと心理社会面に着目した作業療法
作業療法ジャーナル , 53 (11) , 1128-1134  (2019)
原著論文7
加藤清人、竹田徳則、林尊弘、他
介護予防制度改正による二次予防 対象者割合の変化:複数市町デー タによる検討―JAGES横断分析
地域リハビリテーション , 15 (5) , 382-388  (2020)

公開日・更新日

公開日
2019-05-15
更新日
2023-05-01

収支報告書

文献番号
201716001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,093,000円
(2)補助金確定額
2,093,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 720,735円
人件費・謝金 0円
旅費 745,972円
その他 143,307円
間接経費 483,000円
合計 2,093,014円

備考

備考
預金利息14円

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
-