ゲニステイン、ノニルフェノールおよびブチルベンジルフタレートのサルまたはラットを用いた体内動態試験

文献情報

文献番号
199800621A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲニステイン、ノニルフェノールおよびブチルベンジルフタレートのサルまたはラットを用いた体内動態試験
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
伊賀 達也(財団法人食品農医薬品安全性評価センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プラスチック可塑剤として用いられているn-ブチルベンジルフタレート(以下、BBP)、プラスチック添加剤または界面活性剤として用いられているp-ノニルフェノール(以下、NP)および大豆種子中に含まれるイソフラボンの一種であるゲニステイン(以下、GE)について、サルおよびラットを用いて体内動態試験を実施し、動物への体内分布、蓄積性、乳汁移行および胎児への移行等を調査研究を行う。これらの研究結果により、主に妊娠動物およびその胎児に対する化学物質の暴露の影響、つまり血中濃度推移、排泄経路の確認、標的臓器の特定、体内への蓄積性の有無、胎児または乳汁への化学物質の暴露の可能性等を把握し、ヒトに対する安全性評価を推察する一助となる事を期待する。さらに、将来的には、これらの結果が人類の健康保全および医療技術の向上に役立たせることが本研究の最終的な目的と考える。
研究方法
1)血液中放射能濃度測定試験(以下、血中濃度試験)(ラット)。雌雄ラットを用いて試験する。標識化合物を経口(以下、po)および静脈内(以下、iv)投与後、48時間までの8時点につき血液中放射能濃度を測定し、雌雄ラットにおける被験物質の血液中推移を把握する。2)尿および糞中放射能排泄試験(以下、排泄試験)(ラット)。雌雄ラットを用いて試験する。標識化合物をpo投与後4日間につき、尿および糞における標識化合物の排泄経路およびその割合を把握する。3)胎盤通過性試験および組織内放射能濃度測定試験(以下、分布試験)(ラット)。妊娠12日目の妊娠ラットに標識化合物をpo投与後、24時間までの3時点に組織を摘出し組織内放射能濃度を測定する(血液、血漿、大脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、副腎、子宮、卵巣、胎盤、乳腺、胎児;n=3)。また、妊娠18日目の妊娠ラットに標識化合物をpo投与後24時間程度までの3時点に母獣(血液、血漿、大脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、副腎、子宮、卵巣、胎盤、乳腺、羊水;n=3)および胎児(血液、脳、心臓、肝臓、腎臓;n=4)について組織を摘出し組織内放射能濃度を測定する。4)全身オートラジオグラフィー(以下、ARG)(ラット)。雌雄ラットおよび妊娠ラットを用いて試験する。標識化合物po投与後24時間までの3時点に(n=1)、オートラジオグラムを作成する。得られた結果より、標識化合物の各組織への移行性を把握する。5)乳汁中放射能濃度測定試験(ラット)(以下、乳汁中濃度試験)。分娩後10日の哺育中雌性ラットを用いて試験する。標識化合物をpo投与後 24時間までの5時点(n=3)につき、乳汁を搾乳し放射能濃度を測定する。同時期に採取した同一動物の血漿より血漿中放射能濃度を測定し、投与された被験物質の乳汁への移行の程度を把握する。6)サル血漿中GE濃度測定試験(カニクイザル)。雌雄カニクイザルに被験物質をivおよびpo投与後、24時間までの9時点につき血漿中のGE濃度を測定する。
結果と考察
BBPに関して、血中濃度試験の結果、iv投与では投与後24時間迄に速やかに血液中から消失した。po投与では投与後15-60分でCmaxに達した後、24時間迄に速やかに血液中から消失した。排泄試験の結果投与後96時間までに投与量のほぼ80-90%(尿中約75-80%、糞中約5-10%)が排泄された。分布試験の結果、妊娠12および18日目のラットに共通して、投与後2時間で最高濃度に達した後、速やかに組織中から消失した。主要分布臓器は肝臓および腎臓であった。妊娠18日目の胎児では母獣への投与後2時間で最高濃度に達した後、速やかに組織中から消失した。また、胎児においては特定の臓器へのBBPの分布は認められなかった。母獣への投与後2時間において、胎児1匹あたりの放射能分布量は投与放射能全量に対して約0.06%の移行
が認められた。ARGの結果、雌雄非妊娠ラットおよび妊娠ラットに共通して肝臓および腎臓において放射能強度が高値となり、各組織に分布するより前に速やかに消失した。乳汁中濃度試験の結果、極く僅かではあるがBBPの乳汁への移行が示唆されたものの、投与後48時間までには乳汁および血漿中の放射能濃度はほとんど消失した。
NPに関して、血中濃度試験の結果、iv投与では投与後24時間迄に速やかに血液中から消失した。po投与では投与後30-120分でCmaxに達した後、24時間迄に速やかに血液中から消失した。排泄試験の結果、投与後96時間までに投与量のほぼ100%(尿中約70%、糞中約30%)が排泄された。分布試験の結果、妊娠12および18日目のラットに共通して、投与後1.5時間で最高濃度に達した後、速やかに組織中から消失した。主要分布臓器は肝臓および腎臓であった。妊娠18日目の胎児では母獣への投与後6時間で最高濃度に達した後、速やかに組織中から消失した。また、胎児におけるNPの主要分布臓器は心臓および腎臓であった。母獣への投与後6時間において、胎児1匹あたりの放射能分布量は投与放射能全量に対して約0.006%の移行が認められた。ARGの結果、BBPとほぼ同様の傾向となった。また、投与後24時間では腸内容物を除いたほとんど全ての組織からNPは消失した。乳汁中濃度試験の結果、極く僅かではあるがNPの乳汁への移行が示唆されたものの、投与後48時間までには乳汁および血漿中の放射能濃度はほとんど消失した。
GEに関して、血中濃度試験の結果、iv投与では投与後24時間迄に経時的に血液中から緩やかに減少し、po投与では投与後15分でCmaxに達した後、若干の濃度上昇を伴いつつ緩やかに減少した。ivおよびpo投与のいずれも、投与後24時間ではGEの血中へ残留が僅かに認められた。排泄試験の結果、投与後96時間までに雄で投与量の約35.7%尿中約27.8%、糞中約7.9%)雌で50.7%(尿中約33.1%、糞中約17.7%)が排泄された。分布試験の結果、妊娠12および18日目のラットに共通して、投与後0.5時間から投与後24時間まで肝臓、腎臓、腸管内容物では高い放射能強度を維持していた。その他のほとんどの組織において放射能濃度が経時的に上昇する傾向を示し、特に副腎、乳腺等において顕著な上昇を示した。妊娠18日目の胎児では母獣と同様の推移を示した。また、特定の臓器へのGEの分布は認められなかった。母獣への投与後24時間において、胎児1匹あたりの放射能分布量は投与放射能全量に対して約0.08%の移行が認められた。乳汁中濃度試験の結果、投与後24時間において極く僅かではあるがGEの乳汁への移行が示唆された。サル血漿中GE濃度測定試験の結果、ほぼラットと同様の経時的推移を辿ったことから、ラットと同様の体内挙動をすることが推察された。一方、po投与後の結果から用量依存性のないGEの血漿中暴露が認められたことから、サルでは5mg/kgの用量でpo投与した場合、吸収に飽和の傾向が認められた。
結論
ラットにおける体内動態においてBBP、NPともに類似した挙動を示した。つまり、BBPおよびNPは体中に入った後、肝臓による初回通過効果を受ける一方、組織に分布する前に投与量のほとんどが尿として排泄された。主要分布臓器は腎臓および肝臓となり、生殖器をはじめとしたその他の組織には特異的な分布は認められなかった。また、BBPおよびNPの乳汁移行性、胎児移行性は極く僅かであり、移行後の消失も速やかであった。一方、GEは投与後、腎臓を主とした排泄経路により尿として排泄されたが、その排泄量は投与量の3割から5割に留まった。投与直後において肝臓に主に分布していたGEは抱合を受け腸管循環を経て経時的に組織全体に移行し、特に肝臓、腎臓以外では副腎、骨髄、生殖器等への高濃度での分布が認められた。乳汁および胎児へも投与後24時間において極く低濃度ではあるが、他組織と同様にGEが移行することが確認された。カニクイザルでは、ラットと血中GE濃度推移と類似した血漿中GE濃度が経時的推移を辿ったことから、ラットと同様の体内挙動をすることが推察された。

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