神経免疫学的視点による難治性視神経炎の診断基準作成

文献情報

文献番号
201711009A
報告書区分
総括
研究課題名
神経免疫学的視点による難治性視神経炎の診断基準作成
課題番号
H27-難治等(難)-一般-023
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
石川 均(北里大学 医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻)
研究分担者(所属機関)
  • 三村 治(兵庫医科大学 神経眼科治療学)
  • 吉冨 健志(秋田大学 大学院医療系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座)
  • 敷島 敬悟(東京慈恵会医科大学 眼科)
  • 平岡 美紀(札幌医科大学 眼科)
  • 中馬 秀樹(宮崎大学 医学部感覚運動医学講座眼科学分野)
  • 毛塚 剛司(東京医科大学 医学部医学科)
  • 中村 誠(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 後関 利明(北里大学 医学部)
  • 田中 惠子(新潟大学 脳研究所細胞神経生物学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,153,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
視神経疾患は幼少児から高齢者に至る男女ともに発症し、その原因は多岐にわたる。非感染性視神経炎の原因は視神経の脱髄性疾患が中心となるが、Lennon VA(2004)らにより抗aquaporin(AQP)4抗体が発見され、視神経脊髄炎(NMO)の主原因とされた。さらに抗AQP4抗体陰性のNMOの視神経炎の中に、治療反応性良好な抗myelin oligodendrocyte glycoprotein (MOG)抗体が陽性であることが報告され、視神経炎に対する考え方は大きく変化した。そのため、神経免疫学的な要素を加味しわが国の新たな視神経炎の疫学的特徴を検討し、診断、治療の指針を示す必要が生じてきた。
研究方法
全国の施設より採集した視神経症例の血液検体をCell based assay法を用い検査、分類し、さらに調査表から予後不良な因子を取りあげ検査結果と照合し、統計学的に分析した。
初年度;全国の主要な専門施設に分担研究を依頼し、倫理委員会の承認後、検体、調査表に基づく分析を開始。
2年目;251検体が全国より採集された。また調査表の予後増悪因子も明らかとなってきた。
3年目;目標数の571検体となり、 分析を行った。
結果と考察
最終的に531検体を分析した結果では、抗AQP4抗体陽性視神経炎は66症例(12.4%)、抗MOG抗体陽性視神経炎は54症例(10.2%)で陽性であった。両抗体陽性は1症例、両抗体陰性は410症例(77.2%)に認めた。罹患平均年齢は抗AOP4抗体陽性群、抗MOG抗体陽性群、両抗体陰性群それぞれ54歳、45歳、49歳で各群間に有意差は生じなかった。女性の占める比率は抗AQP4抗体陽性群は84%、抗MOG抗体陽性群で49%、両抗体陰性群は64%であった。抗AQP4抗体陽性群では他2群と比較し有意に女性の比率が高かった。各群における治療前少数視力は抗AQP4抗体陽性群, 抗MOG抗体陽性群, 両抗体陰性群それぞれ0.11±0.22, 0.14±0.22, 0.22±0.32(平均視力±標準偏差)で抗AQP4抗体陽性群は両抗体陰性群と比較し有意に低く、さらに抗AQP4抗体陽性群、抗MOG抗体陽性群共に39%、両抗体陰性群は30%が両眼発症であった。
抗MOG抗体陽性群は他2群と比較し乳頭の腫脹を示すものが76%と有意に高く、眼球運動時痛を自覚したものは抗AQP4抗体陽性群、抗MOG抗体陽性群、両抗体陰性群の順に53%、76%、47%であった。抗MOG抗体陽性群では痛みを生じた割合が有意に高かった。MRI上視神経腫脹を呈したものは抗AOP4抗体陽性群、抗MOG抗体陽性群、両抗体陰性群の順に82%、90%、67%であった。
治療に関しては抗AQP4抗体陽性群で89%、抗MOG抗体陽性群は85%、両抗体陰性群は80%でメチルプレドニゾロンのパルス療法が施行された。さらに抗AQP4抗体陽性群では32%に血漿交換療法が追加された。治療後の少数視力はそれぞれ0.58±0.57, 0.89±0.49, 0.71±0.52(平均視力±標準偏差)へ回復し抗MOG抗体陽性群では抗AQP4抗体陽性群と比較し有意に向上していた。

考察
今回の結果からわが国の視神経炎の中で抗AQP4抗体陽性は12.5%、抗MOG抗体陽性が10.2%となった。乳頭腫脹が抗MOG抗体陽性視神経炎で76%に、一方抗AQP4抗体陽性群では34%に認められた。本結果は抗MOG抗体陽性視神経炎は視神経の末梢側、すなわち眼窩内前部に炎症の首座が存在し、一方、抗AQP4抗体陽性群では末梢への炎症波及はむしろ少ないことが示唆された。
初診時の視力は両抗体陰性群と比較し抗AQP4抗体陽性群が有意に低下していたが、その値は抗AQP4抗体陽性群, 抗MOG抗体陽性群, 両抗体陰性群それぞれ0.11±0.22, 0.14±0.22, 0.22±0.32であり、治療後の視力に関しては、抗MOG抗体陽性群では治療に対する反応性が明らかに良好で82%の症例で0.3以上の回復、さらに74%が0.7以上へ回復した。一方、抗AQP4抗体陽性群では0.58であった。
以上の結果から、難治性視神経炎の診断、治療、その予後説明において抗AQP4抗体検査は必須で、さらにMRIによる病変部位の確認、特に抗体陽性例に対してはメチルプレドニソロンパルス療法、パルス療法無効例に対しては血漿交換療法が必要である。

結論
抗AQP-4抗体陽性視神経炎は既報通り比較的高年齢の女性に多く視機能予後は不良であるが、抗MOG抗体陽性視神経炎は発症時の炎症所見は強いものの、治療に対する反応は良好で視機能予後良好であった。

公開日・更新日

公開日
2018-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201711009B
報告書区分
総合
研究課題名
神経免疫学的視点による難治性視神経炎の診断基準作成
課題番号
H27-難治等(難)-一般-023
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
石川 均(北里大学 医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻)
研究分担者(所属機関)
  • 三村 治(兵庫医科大学 神経眼科治療学)
  • 吉冨 健志(秋田大学 大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学)
  • 敷島 敬悟(東京慈恵会医科大学 眼科)
  • 平岡 美紀(札幌医科大学 眼科)
  • 中馬 秀樹(宮崎大学 医学部感覚運動医学講座眼科学分野)
  • 毛塚 剛司(東京医科大学 医学部医学科)
  • 中村 誠(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 後関 利明(北里大学 医学部)
  • 田中 惠子(新潟大学 脳研究所細胞神経生物学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本の視神経炎の大規模疫学調査は1995年(Wakakuraら)にさかのぼる。当時視神経脊髄炎(NMO)は多発性硬化症(MS)の一亜型と定義されていた点を考慮する必要がある。2004年、Lennon VAらにより抗aquaporin(AQP)4抗体が発見され、NMOはMSとは全く別の範疇の疾患であることが報告された。さらに抗AQP4抗体陰性のNMOの視神経炎の中に、治療反応性良好、一方で易再発性の抗myelin oligodendrocyte glycoprotein (MOG)抗体が陽性であることが報告され視神経炎に対する考え方は大きく変化した。
そのため、神経免疫学的な要素を加味しわが国の新たな視神経炎の疫学的特徴を示す必要性が生じてきた。そこで今回日本の視神経炎の特徴を再考するに至った。
研究方法
全国の施設より採集した視神経症例の血液検体をCell based assay法を用い検査、分類し、さらに調査表から予後不良な因子を取りあげ検査結果と照合し、統計学的に分析した。
初年度;全国の主要な専門施設に分担研究を依頼し、倫理委員会の承認後、検体、調査表に基づく分析を開始。
2年目;251検体が全国より採集された。また調査表の予後増悪因子も明らかとなってきた。
3年目;目標数の571検体となり、 分析を行った。
結果と考察
最終的に531検体を分析した結果では、抗AQP4抗体陽性視神経炎は66症例(12.4%)、抗MOG抗体陽性視神経炎は54症例(10.2%)で陽性であった。両抗体陽性は1症例、両抗体陰性は410症例(77.2%)に認めた。罹患平均年齢は抗AOP4抗体陽性群、抗MOG抗体陽性群、両抗体陰性群それぞれ54歳、45歳、49歳で各群間に有意差は生じなかった。女性の占める比率は抗AQP4抗体陽性群は84%、抗MOG抗体陽性群で49%、両抗体陰性群は64%であった。抗AQP4抗体陽性群では他2群と比較し有意に女性の比率が高かった。各群における治療前少数視力は抗AQP4抗体陽性群, 抗MOG抗体陽性群, 両抗体陰性群それぞれ0.11±0.22, 0.14±0.22, 0.22±0.32(視力±標準偏差)で抗AQP4抗体陽性群は両抗体陰性群と比較し有意に低く、さらに抗AQP4抗体陽性群、抗MOG抗体陽性群共に39%、両抗体陰性群は30%が両眼発症であった。
抗MOG抗体陽性群は他2群と比較し乳頭の腫脹を示すものが76%と有意に高く、眼球運動時痛を自覚したものは抗AQP4抗体陽性群、抗MOG抗体陽性群、両抗体陰性群の順に53%、76%、47%であった。抗MOG抗体陽性群では痛みを生じた割合が有意に高かった。MRI上視神経腫脹を呈したものは抗AOP4抗体陽性群、抗MOG抗体陽性群、両抗体陰性群の順に82%、90%、67%であった。両抗体陰性群に比較し抗MOG抗体陽性群は有意に腫脹の比率が高かった。
治療に関しては抗AQP4抗体陽性群で89%、抗MOG抗体陽性群は85%、両抗体陰性群は80%でメチルプレドニゾロンのパルス療法が施行された。さらに抗AQP4抗体陽性群では32%に血漿交換療法が追加された。治療後の少数視力はそれぞれ0.58±0.57, 0.89±0.49, 0.71±0.52(視力±標準偏差)へ回復し抗MOG抗体陽性群では抗AQP4抗体陽性群と比較し有意に向上していた。

考察
わが国の抗AQP4抗体、抗MOG抗体陽性率、臨床経過を比較、検討した報告はない。今回の結果から視神経炎の中で抗AQP4抗体陽性は12.5%、抗MOG抗体陽性が10.2%となった。さらに抗AQP4抗体陽性群は女性が84%をしめ、かつ高年齢に多い傾向であった。また乳頭腫脹が抗MOG抗体陽性視神経炎で76%に、一方抗AQP4抗体陽性群では34%に認められた。本結果は抗MOG抗体陽性視神経炎は視神経の末梢側、すなわち眼窩内前部に炎症の首座が存在し、抗AQP4抗体陽性群では末梢への炎症波及はむしろ少ないことが示唆された。
初診時の視力は抗AQP4抗体陽性群, 抗MOG抗体陽性群, 両抗体陰性群それぞれ0.11±0.22, 0.14±0.22, 0.22±0.32であり、臨床的には初診時の視力より抗AQP4抗体陽性、抗MOG抗体陽性の有無を推測することは不可能であった。さらに治療後の視力に関しては、抗MOG抗体陽性群では治療に対する反応性が明らかに良好で82%の症例で0.3以上の回復、さらに74%が0.7以上へ回復した。

結論
抗AQP-4抗体陽性視神経炎は既報通り比較的高年齢の女性に多く視機能予後は不良であった。一方、抗MOG抗体陽性視神経炎は発症時の炎症所見は強いものの、治療に対する反応は良好で視機能予後良好であった

公開日・更新日

公開日
2018-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201711009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
抗アクアポリン(AQP)4抗体、抗ミエリンオリゴデンドロサイトグリコプロテイン(MOG)抗体は視神経脱髄性疾患の主原因である。今回、日本全国から視神経炎患者血液検体(n=531)を収集し、臨床調査表と照合し、その特徴をまとめた。抗AQP4抗体は12.4%で陽性、また抗MOG抗体は10.2%で陽性となった。視神経の脱髄性疾患の原因は人種により大きくことなり、現在までわが国で抗AQP4抗体、抗MOG抗体の陽性率を調査した報告はなく、この値は非常に学術的に価値のあるものとなった。
臨床的観点からの成果
抗AQP4抗体陽性視神経炎は高齢女性に好発し、メチルプレドニソロンパルス療法に抵抗する例も多く、しばしば血漿交換療法を必要とし、視野障害も多彩で視機能予後は不良であった。一方、抗MOG抗体陽性視神経炎は、40~50歳の男女に同等に発症し、初発時は乳頭炎が多く、多くの症例で眼窩痛、眼球運動時痛を訴え、MRI上視神経の腫脹も強いが治療に対しての反応性は非常に良好であった。特に抗MOG抗体陽性視神経炎はほとんどが視神経炎の単独発症であった。
ガイドライン等の開発
ガイドラインに関しては現在、日本神経眼科学会、日本眼科学会と協議中である。
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
難治性視神経炎のシンポジウムは第122回日本眼科学会総会(大阪)においてシンポジウムを開催した。

発表件数

原著論文(和文)
16件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
講演1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kezuka, T,Ishikawa, H
Diagnosis and treatment of anti-myelin oligodendrocyte glycoprotein antibody positive optic neuritis.
Jpn J Ophthalmol. , 62 , 101-108-  (2018)
原著論文2
Ishikawa, H,Kezuka, T,Shikishima, K, et al.
Epidemiogic and Clinical Characteristics of Optic Neuritis in Japan.
Ophthalmology , 126 (10) , 1385-1398-  (2019)

公開日・更新日

公開日
2021-06-08
更新日
2022-06-06

収支報告書

文献番号
201711009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,878,000円
(2)補助金確定額
3,878,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,263,247円
人件費・謝金 575,692円
旅費 141,210円
その他 172,851円
間接経費 725,000円
合計 3,878,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2019-02-22
更新日
-