健診結果等を個人を軸に集積し自らの健康管理に活用できるシステムの情報内容及びその情報基盤モデルに関する研究

文献情報

文献番号
201709028A
報告書区分
総括
研究課題名
健診結果等を個人を軸に集積し自らの健康管理に活用できるシステムの情報内容及びその情報基盤モデルに関する研究
課題番号
H29-循環器等-一般-015
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
松村 泰志(大阪大学大学院医学系研究科 医療情報学)
研究分担者(所属機関)
  • 三浦 克之(滋賀医科大学 医学部社会医学講座 公衆衛生学部門)
  • 磯 博康(大阪大学大学院医学系研究科 公衆衛生学)
  • 岡田 武夫(大阪がん循環器病予防センター 予防推進部)
  • 黒田 知宏(京都大学大学院医学研究科 医療情報学)
  • 武田 理宏(大阪大学医学部附属病院 医療情報部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
15,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国民の健診事業は保険者が担っており、同一個人の生涯に渡るデータは、属した組織に分断して管理されている。近年、個人のICTの利用環境が普及し、健診データ等を自分で管理できるサービス(PHR:Personal Health Record)は受け入れられる可能性が高く、予防行動、受療行動を効果的に誘導できる可能性がある。本研究は、PHRの具体的なイメージを示すために、情報内容の検討、PHR基盤のモデルを検討することを目的とする。
研究方法
1.多様な健診のデータのうち、健康管理に役立たせる目的のために特に有効な項目を、ガイドライン等を参考にして特定した。また、受療勧奨基準は、標準的な健診・保健指導プログラム(平成30年度)に基づくのが妥当と考え、示されている基準から抜粋した。
2.保健指導について、保健師・管理栄養士にアンケートを実施し、60名から回答を得た。
3.国内企業に対しアンケートを行い15社から回答を得、2社についてヒヤリングした。更に、PHR事業を行っている事業者の調査、ヒヤリングを行った。
4.海外のPHR事業について、スペイン、ノルウェイ、フィンランド、エストニア、台湾、オーストラリア、アメリカを調査した。
5.市民の意識調査を、20代~60代の男女それぞれ250名、2500名に対し行った。
結果と考察
1.健診項目の内、健康管理に特に有効な項目は、年齢、性。身体計測値、血圧、肝機能検査、血中脂質検査、血糖検査、血色素量と考えた。優先度を下げて尿蛋白および血清クレアチニンとした。生活習慣データでは、血圧・血糖・脂質の治療状況、喫煙習慣、運動習慣、飲酒習慣、さらに、食塩、魚、野菜、果物の摂取、体重測定、血圧測定とした。また、受療受療勧奨基準値を、血圧、脂質、血統、尿蛋白について設定した。
2.保健師・管理栄養士へのアンケートの結果、予防・受療行動を誘導するために有効と思われる情報内容として、行動変容によるメリットの具体的な提示、発症例・改善例の提示、運動量、食事量の具体例、健診の経年の結果・変化から見た将来予測などが挙げられた。
3.15社の回答の結果、健康診断実施主体は、健康診断が会社12社、健保3社、特定健診は会社5社、健保10社であった。法定項目、特定健診以外に胃部レントゲン等が行われていた。健康管理システムは13社が導入していた。社員にWebで健診データの閲覧を可能とし、健康管理を促進する工夫をする健保組合があった。健診・レセプトデータを受け取り、分析結果を保険者に返し、利用者個人向けにも情報提供する事業を行う企業があった。
4.海外調査の結果、スペイン、ノルウェイ、フィンランド、エストニアでは、健診事業はないが、診療データを医療機関の外の組織が管理し、患者本人が閲覧できるようにしていた。台湾では、医療機関に健診センターが設置され、一部で受診者向けのデータ閲覧サービスを始めようとしていた。オーストラリアでは、外来サマリ、退院時サマリ、処方、検査データ等を個人がコントロールするMy Health Recordを運用し、2018年度よりオプトアウト方式とし、全国民に展開されようとしていた。米国では、100万人単位の限定した範囲を対象に健康情報交換事業(HIE)を行っており、政府系機関が実施している事例が多かったが、Apple等のPHRビジネスに参入する企業が出始めていた。
5.市民アンケートの結果、健診情報の利用は5~6割が期待していた。健康情報の入力の意思は、5割程度があると回答した。PHRサービスは、5割程度が利用したいとし、60台の男性では健診情報に対して6割、診療情報が加わると6割6分がサービスを受けたいと回答した。PHRサービスに対して支払う額は、200円/月であれば25%が支払うと回答した。
我が国のPHR事業として、特定健診のデータを被保険者番号の個人番号をキーとして集め、マイナポータルから国民が自分の健診データを閲覧するモデルが考えられる。また、健保組合が契約するサービス提供会社が、個人に対してデータ閲覧サービスを展開し、過去の健診データを預かることでPHRとするモデルも考えられる。我が国において、健診データのPHRは実現の可能性があり、国民の健康管理に有効と期待される。
結論
健康管理に特に有効な項目を選定し、妥当な受療勧奨基準を設定した。健診データの扱いは企業により多様であり、個人にデータを返すサービスを実施しているところもあった。北欧、オーストラリア、米国では、自分の診療データを閲覧できる環境が整備されていた。市民は、PHR事業に5割程度が期待しており、200円/月の支払いに応じる人が25%あった。我が国でも、健診データのPHRは実現の可能性はあり、国民の健康管理に有効と期待される。

公開日・更新日

公開日
2018-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-07-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201709028C

成果

専門的・学術的観点からの成果
PHRは、医療情報学において世界的に重要課題となっている。一方、健診データのPHRは、これまで議論されてこなかった課題であり、今回の成果は意義がある。また、公衆衛生学の予防医学の観点でも、健診データのPHRのあり方について検討されたことはなく、新しい研究テーマを提示した意義がある。
臨床的観点からの成果
PHRによる個人への継続的な情報提供は、予防医学の観点では、新しい介入方法を提示することになる。まだ、構想段階であり、その有効性は不明であるが、将来、心血管イベントに対する予防的効果を評価することになると思われる。
ガイドライン等の開発
本研究では、これまで開発されたガイドランを参考にして成果を生み出したが、新たにガイドライン等の開発はしていない。
その他行政的観点からの成果
厚生労働省では平成29年にデータヘルス改革推進本部が設置され、個人の健診結果をはじめとする健康情報や医療情報等を連結し、PHRとして個人にわかりやすく提供し、自らの健康管理・予防行動に活用できるシステムの検討が開始された。本研究は、その活動の一つとして位置づけられる。
その他のインパクト
本研究は平成29年10月から6カ月の期間で実施され、その間に成果を発表する機会がなかったが、今後、学会等で機会を得て、成果の発表していく予定である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
21件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
11件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2018-06-08
更新日
2023-06-09

収支報告書

文献番号
201709028Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
20,000,000円
(2)補助金確定額
20,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 93,281円
人件費・謝金 0円
旅費 2,838,529円
その他 12,453,190円
間接経費 4,615,000円
合計 20,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-10-29
更新日
-