文献情報
文献番号
201709014A
報告書区分
総括
研究課題名
生活習慣病予防の労働生産性への影響を含めた経済影響分析に関する研究
課題番号
H29-循環器等-一般-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
尾形 裕也(東京大学 政策ビジョン研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 山本 勲(慶應義塾大学 商学部)
- 古井 祐司(東京大学 政策ビジョン研究センター)
- 津野 陽子(東北大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
7,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
海外の先行研究によれば、従業員の健康に関連する総コストのうち、生産性の損失が4分の3を占めるのに対し、医療費は4分の1を占めるに過ぎない。生産性の損失は、プレゼンティーイズム(疾患や症状を抱えながら出勤してはいるが、業務遂行能力や生産性が低下している状態)とアブセンティーイズム(病欠)の損失コストで捉えられ、中でもプレゼンティーイズムの損失が最大となっている。健康関連コストに関し、全体最適を図るためには、労働生産性への影響を含めた経済影響分析を行う必要がある。本研究では、生活習慣病などの疾病及びその予防施策の経済影響分析に関する国際動向の把握を行うとともに、これを踏まえた日本の企業・組織における実証研究を展開し、政策的示唆を得ることを目的とする。
研究方法
先行研究に関する文献レビュー、OECD専門家会合への出席及び現地ヒアリング調査、日本の企業・組織における実証分析(コホート分析、労働経済学的分析及び中小企業における労働生産性損失分析)を実施する。
結果と考察
①文献レビュー並びにOECD専門家会合及び現地ヒアリング調査
労働市場に影響を与える健康関連リスク要因となる生活習慣としては、肥満(身体活動)、喫煙、飲酒が、また慢性疾患としては心疾患、糖尿病、がん、高血圧、関節炎及び精神疾患が大きいことが指摘されている。特に、経済的費用のうち、メンタルヘルスと生産性の関連の強さ、メンタルヘルス対策によるコスト削減の可能性が示されている。また、生産性指標に対しては、健康リスクだけではなく、職場環境や仕事特性などの組織的要因、社会人口学的要因、個人要因が関連していることが示唆されており、これらの要因を同時に検討することは、具体的な働き方などの介入策の検討に有用であると考えられる。
②日本の組織における実証分析実施のためのコホートデータベース作成
病院と保険関連企業の2組織における医療・健康情報のコホートデータを作成した(病院は3年分、企業は2年分)。過年度の健診・問診データ、医療費データ、個人属性データに、生産性指標(プレゼンティーイズム・アブセンティーイズム)のアンケートデータを連結用IDにより統合データを1年分ずつ作成している。
③健康と労働生産性の関係に関する労働経済学的研究
定量的なデータ分析について、本年度はデータの整理・構築を進めるとともに、予備的な統計解析を進めた。データ整理・構築については、レセプト情報・健康診断情報をアンケート調査情報に紐付けるとともに、同一企業を追跡したパネルデータとしてのデータベース化を進め、計量経済学的分析をするための準備を行った。さらに、健康指標のうちメンタルヘルスと企業業績(労働生産性および利益率)との関係を固定効果モデルを用いて推計した。その結果、労働者のメンタルヘルスの状態と企業業績の間には明確な関係性は把握しにくいものの、一部にはメンタルヘルスの悪化が業績を悪化させる可能性もみられた。
④中小企業における労働生産性の損失とその影響要因に関する研究
(1)労働生産性の損失と各変数との関係
アブセンティーイズム及びプレゼンティーイズムの推計については、中小企業と先行研究における大企業との間で大きな差違は見られなかった。不定愁訴とアブセンティーイズムの間に有意な相関がみられるとともに、主観的健康感、仕事満足度、ストレス、睡眠習慣、不定愁訴はプレゼンティーイズムと有意な相関関係があった。
(2)健康リスク群と労働生産性の損失との関係
健康リスクと労働生産性の損失の関係を構造的に捉えると、アブセンティーイズムについては、健康リスクがある臨界点を超えたところで一気に上昇する様子がうかがえることから、顕在化したリスク者が重症化しないための介入が重要となる。一方、プレゼンティーイズムに関しては、健康リスクの上昇に伴って増加する構造であることから、若年層を含めた健康リスクが低い段階からの働きかけが有用であることがわかった。
(3)ワーク・エンゲイジメント、職場の一体感と労働生産性の損失との関係
ワーク・エンゲイジメント、職場の一体感と労働生産性の損失との関係について、アブセンティーイズムとは有意な相関が見られなかった一方、プレゼンティーイズムに関しては、ワーク・エンゲイジメント、職場の一体感と有意な負の相関があった。
労働市場に影響を与える健康関連リスク要因となる生活習慣としては、肥満(身体活動)、喫煙、飲酒が、また慢性疾患としては心疾患、糖尿病、がん、高血圧、関節炎及び精神疾患が大きいことが指摘されている。特に、経済的費用のうち、メンタルヘルスと生産性の関連の強さ、メンタルヘルス対策によるコスト削減の可能性が示されている。また、生産性指標に対しては、健康リスクだけではなく、職場環境や仕事特性などの組織的要因、社会人口学的要因、個人要因が関連していることが示唆されており、これらの要因を同時に検討することは、具体的な働き方などの介入策の検討に有用であると考えられる。
②日本の組織における実証分析実施のためのコホートデータベース作成
病院と保険関連企業の2組織における医療・健康情報のコホートデータを作成した(病院は3年分、企業は2年分)。過年度の健診・問診データ、医療費データ、個人属性データに、生産性指標(プレゼンティーイズム・アブセンティーイズム)のアンケートデータを連結用IDにより統合データを1年分ずつ作成している。
③健康と労働生産性の関係に関する労働経済学的研究
定量的なデータ分析について、本年度はデータの整理・構築を進めるとともに、予備的な統計解析を進めた。データ整理・構築については、レセプト情報・健康診断情報をアンケート調査情報に紐付けるとともに、同一企業を追跡したパネルデータとしてのデータベース化を進め、計量経済学的分析をするための準備を行った。さらに、健康指標のうちメンタルヘルスと企業業績(労働生産性および利益率)との関係を固定効果モデルを用いて推計した。その結果、労働者のメンタルヘルスの状態と企業業績の間には明確な関係性は把握しにくいものの、一部にはメンタルヘルスの悪化が業績を悪化させる可能性もみられた。
④中小企業における労働生産性の損失とその影響要因に関する研究
(1)労働生産性の損失と各変数との関係
アブセンティーイズム及びプレゼンティーイズムの推計については、中小企業と先行研究における大企業との間で大きな差違は見られなかった。不定愁訴とアブセンティーイズムの間に有意な相関がみられるとともに、主観的健康感、仕事満足度、ストレス、睡眠習慣、不定愁訴はプレゼンティーイズムと有意な相関関係があった。
(2)健康リスク群と労働生産性の損失との関係
健康リスクと労働生産性の損失の関係を構造的に捉えると、アブセンティーイズムについては、健康リスクがある臨界点を超えたところで一気に上昇する様子がうかがえることから、顕在化したリスク者が重症化しないための介入が重要となる。一方、プレゼンティーイズムに関しては、健康リスクの上昇に伴って増加する構造であることから、若年層を含めた健康リスクが低い段階からの働きかけが有用であることがわかった。
(3)ワーク・エンゲイジメント、職場の一体感と労働生産性の損失との関係
ワーク・エンゲイジメント、職場の一体感と労働生産性の損失との関係について、アブセンティーイズムとは有意な相関が見られなかった一方、プレゼンティーイズムに関しては、ワーク・エンゲイジメント、職場の一体感と有意な負の相関があった。
結論
2年間の研究計画のうち1年目の平成29年度においては、先行研究に関する文献レビューをほぼ終了し、日本の企業・組織のデータに基づく実証研究については、データベースの構築及び一部予備的な分析を行った。これらに基づき、平成30年度において本格的な研究を展開し、国際ワークショップを開催するとともに、最終報告書を作成する。
公開日・更新日
公開日
2018-07-05
更新日
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