糖尿病腎症重症化予防プログラム開発のための研究

文献情報

文献番号
201709009A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病腎症重症化予防プログラム開発のための研究
課題番号
H28-循環器等-一般-007
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
津下 一代(公益財団法人 愛知県健康づくり振興事業団 あいち健康の森健康科学総合センター)
研究分担者(所属機関)
  • 岡村  智教(慶應義塾大学医学部)
  • 三浦 克之(滋賀医科大学医学部)
  • 福田  敬(国立保健医療科学院)
  • 植木浩二郎(国立国際医療研究センター)
  • 矢部 大介(京都大学大学院医学部)
  • 後藤 資実(名古屋大学医学部)
  • 和田 隆志(金沢大学大学院医薬保健学総合研究科学)
  • 安田 宜成(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 森山美知子(広島大学大学院医歯薬保健学研究科)
  • 佐野 喜子(神奈川県立保健福祉大学)
  • 樺山 舞(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 村本あき子(あいち健康の森健康科学総合センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 糖尿病性腎症は病期に合わせた適切な医療や生活習慣に対する包括的な管理により、腎機能の悪化を予防できるというエビデンスが蓄積している。しかしデータヘルス計画等において、糖尿病未治療・中断、管理不良者が多数存在することが明らかとなった。日本健康会議の宣言2として、国保等による重症化予防の推進が掲げ、国保等と医師会、専門医など地域関係者が連携して、ハイリスク者に対する対策を講じることを求めている。
 我々は、平成27年度に実現可能性を考慮した「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を開発した。昨年度は参加自治体の実証支援、評価の仕組みを提案した。今年度は自治体保健事業の課題を抽出し、実施体制や事業評価の仕組みを改善することを目的とした。対象者のデータを国保データベース等を活用し継続的に取得する体制を整え、プログラム効果の分析方法を検討した。
研究方法
1)ストラクチャー、プロセス評価:プログラムをもとにチェックリスト化した進捗管理シートを作成、地域における重症化予防対象者の実態把握→庁内・医師会との連携→計画書・マニュアル作成→事業実施→事業評価→次年度に向けた修正という各段階について、「未着手」「着手」「達成済」の進捗を管理した。96自治体に対し、研修会やホームページによる情報提供、ワークショップや電話・メール相談などの実証支援を行い、ストラクチャー、プロセス評価の視点からプログラム実施上の課題を抽出、横展開をする際に必要な運用のあり方について検討する。
2)アウトプット、アウトカム評価:96自治体よりデータを収集し、アウトプット、アウトカム評価の視点から対象者ベースラインや1年後の変化についての分析を行う。この2年間は参加自治体の多くが新規事業として体制づくりや企画、実施に取り組んだため、「各自治体が実施しやすいところから始める」という進め方をした。その結果分析した対象者には偏りがあることには留意しつつ、今後全国へ横展開していく際に改善すべき点を明らかにする。自治体が保有する健康情報(検査値・問診・医療費・疾患名・薬剤名・介護・透析・保健指導記録等)を活用して、各地域で事業評価できるデータベース構築、PDCAを回した保健事業が実現されるための事業評価システムのあり方についても検討する。
3)プログラム改訂と普及のための方策の検討:現在のプログラムは、エビデンスを踏まえながらも自治体の実情に合った方法でスタートを切れるよう、基本的な考え方や事業の進め方、参考例等を表記し、概括的な表現にとどめている。研究班の実証事業により得られた知見を踏まえ、様式の修正やプログラム普及・改善のための提言について検討する。
結果と考察
1)ストラクチャー、プロセス評価:参加自治体間で対象者抽出基準、プログラム内容、地域の連携体制に自治体による取組格差がみられたが、他自治体の取り組みをヒントに改善している。進捗管理シートの分析から、庁内チーム形成や医師会への相談、事業計画は進む一方、かかりつけ医との具体的な連携方策、マニュアル作成は達成率が低かった。専門医、都道府県、国保連合会による市町村支援の状況も地域差が明らかであった。
2)アウトプット、アウトカム評価:91自治体7,290例の対象者登録データを分析した。2年間連続して健診を受診しデータを比較が可能な者は、平成30年2月現在で追跡率37.8%であった。BMI、血圧、HbA1cなどにおいて有意な改善を認めたが改善幅は小さく、腎機能悪化防止につながるかの評価はさらなる追跡が必要である。今後、国保データベース(KDB)を活用し、医療機関受診状況、総医療費、薬剤の使用状況を把握、抽出された対象者全員に対する医療保険者としての評価を検討していく必要がある。
3)<糖尿病性腎症重症化予防プログラムの改訂、標準化に向けた研究班からの10の提言>をまとめた。①糖尿病性腎症重症化予防プログラムの普及と質の向上、②自治体における事業の目的や達成目標とする時期を明確にすること、③目的に合った対象者選定法(病期等)を考慮すること、優先順位の考え方、④自治体がリーダーシップを発揮し、医療機関(専門医・医師会等)等と相談して、本事業で目指すこと、⑤病期や年齢、併存疾患等に合わせた介入プランを立てること(要リスクマネジメント)⑥保健指導人材への研修、⑦評価方法の標準化:国保データベース(KDB)の積極的な活用、国保・後期高齢者医療広域連合の連携を図ること、⑧自治体における組織的な体制づくり、⑨他保険者等と連携した取り組み、⑩保険者努力支援制度の評価:客観的評価を検討すること、を提言した。
結論
自治体間の取組格差が大きく、レベルや社会資源に合わせたプログラムと評価が必要とされる。データ登録が緒についたところであり、効果分析は残された課題である。

公開日・更新日

公開日
2018-05-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-09-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201709009B
報告書区分
総合
研究課題名
糖尿病腎症重症化予防プログラム開発のための研究
課題番号
H28-循環器等-一般-007
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
津下 一代(公益財団法人 愛知県健康づくり振興事業団 あいち健康の森健康科学総合センター)
研究分担者(所属機関)
  • 岡村 智教(慶應義塾大学医学部)
  • 三浦 克之(滋賀医科大学医学部)
  • 福田 敬(国立保健医療科学院)
  • 植木浩二郎(国立国際医療研究センター)
  • 矢部 大介(京都大学大学院医学研究科)
  • 後藤 資実(名古屋大学医学部附属病院)
  • 和田 隆志(金沢大学大学院医薬保健学総合研究科)
  • 安田 宜成(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 森山美知子(広島大学大学院医歯薬保健学研究院)
  • 佐野 喜子(神奈川県立保健福祉大学)
  • 樺山 舞(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 村本あき子(あいち健康の森健康科学総合センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病性腎症対策では病期に合わせた適切な医療と生活習慣の包括的な管理が重要である。新規透析導入を抑制するため、日本健康会議「健康なまち・職場づくり宣言2020」において国保等による対策強化が掲げられた。われわれは先行研究(27年度)にて「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を開発、地域関係機関が連携して受診勧奨・保健指導を戦略的に進めるプログラムを提案した。本研究班では、自治体等がプログラムを進める上での課題を明らかにし、全国で実現可能な運用方策について検討すること、プログラム評価方法を検討し、効果分析の基礎を作ることを目的とした。
研究方法
1)研究班は96自治体(91市町村、5広域連合)の実証支援を実施、そのプロセスを検証することにより、運用の改善方策を検討した。進捗管理シートの分析やワークショップ(WS)、ヒアリング、個別相談より運用上の課題を整理した。
2)事業評価シートやデータ登録シートを配布、定期的なデータ回収を行った。健診・レセプト情報は各自治体で国保データベース(KDB)システム等を活用して抽出、班共通フォーマットに匿名化情報を登録してもらった。データ登録状況、ベースライン、介入1年後までの追跡状況、検査値変化、短期のeGFR変動と検査値の関連について分析した。
3)実証支援結果について重症化予防WG会議、関係学会等に報告した。「糖尿病性腎症重症化予防プログラムの改訂、標準化に向けた提言」について検討した。
結果と考察
1)計画、実施、評価の各段階別に課題を整理し対策につなげた。計画段階では、対象者抽出基準の決定(実施自治体33%)、介入方法の決定(同39%)、医師会への相談(同24%)であったため、計画書ひな形、対象者抽出や介入方法の考え方を図示した資料を作成、計画段階から医師会に相談することを推奨した結果、ほぼ全自治体での実施につながった。実施段階では、マニュアル作成(同36%)を促進するため、運営マニュアルや各種教材、医療機関連携様式等を提供した。WSを開催、指導スキルの向上と運用改善のための助言を行った。評価段階では、自治体間の取り組み格差が大きかった。そのため、WSでは事業評価や継続性のある事業の組み立てに焦点を当てた。参加者からのWS評価は高く、今後の都道府県・地域単位での研修に活用できると考えられる。
2)登録データのうち、糖尿病性腎症の病期判定が可能であった5,422例を分析対象とした。男性3,359例、女性2,063例、65.83±7.13歳、ベースラインはBMI24.9±3.9㎏/m2、HbA1c7.11±1.36%、eGFR73.06±17.76 ml/min/1.73m2、病期は2期以下77.5%、3期21.5%、4期0.92%であった。レセプト情報の登録のあった3,304例について血糖管理状況を見たところ、HbA1c8.0%以上が349例(10.6%)、そのうち糖尿病薬処方ありは226例、糖尿病薬処方なしは123例(35.2%)であった。2年間連続データがあり前後比較が可能であった1,901例において、BMI、血圧、HbA1c等で有意な改善を認めたが、改善幅は小さく、プログラムが腎機能悪化防止につながるか、さらなる追跡が必要である。75歳「以上」と比較すると「未満」の方に改善項目が多く、病期の低い方に改善項目が多い傾向であった。75歳未満の1,869例を対象に、「1年間にeGFRが5ml/min/1.73m2以上低下」に関連する要因を分析した結果、男性、BMI高値と有意な関連があった。「eGFRが年間10%以上低下」者は全体の3割を占めるが、短期的にはリスクとの明らかな関連を認めることができなかった。今回は1年間の短期的な評価であるため、今後さらに長期間経過を追跡して、腎機能悪化の危険性がある人を効率よく把握できる方法を示していくことが肝要である。
3)自治体の実証支援において、①自治体間の進捗格差、②対象者追跡や事業評価体制が不十分、③優先すべき対象者の明確化が必要、④事業対象と評価指標の不整合、⑤指導スキル向上の必要性、⑥地域での体制支援のあり方等について課題が明らかとなった。課題や研究班が行った対策について厚生労働省重症化WGに報告、「糖尿病性腎症重症化予防の更なる展開に向けて(平成29年7月10日、重症化予防WG)」の公表につながった。2年間の研究のまとめとして「糖尿病性腎症重症化予防プログラムの改訂、標準化に向けた研究班からの10の提言」を作成した。
結論
自治体間の取組格差が大きく、段階や社会資源に合わせたプログラムと支援が必要である。地域で継続的に効果分析を進めていくために、KDBを活用した標準的な対象者抽出と評価の仕組みを構築すること、保健事業の標準的な実施方法を示していくことが重要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2018-05-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-09-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201709009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
平成27年度先行研究において開発された糖尿病腎症重症化予防プログラムを基に実証研究を開始した。96自治体の実証支援を行うなかで運営上の課題を整理するとともに、保健事業対象者のデータを収集、ストラクチャー・プロセス・アウトプット・アウトカムの視点から事業評価を試みた。対象者の抽出基準や方法を明確にすることや自治体の状況に合わせた段階的なプログラムが必要であること、評価のためにはKDB等を活用したシステム環境整備や長期的な追跡が重要であることが示唆された。
臨床的観点からの成果
健診およびレセプト情報をもとに、腎症3,4期や第2期でのeGFRの低下速度や45/ml/min/1.73㎡未満の人を優先するなど事業対象者を抽出する基準を示した。抽出された対象者を糖尿病性腎症重症化予防プログラムへとつなげるフローを作成した。91自治体7,290例の対象者データを登録した。翌年度健診では、BMI、血圧、HbA1c等において有意な改善を認めたが改善幅は小さくさらなる追跡が必要である。
ガイドライン等の開発
・本研究班で作成した糖尿病性腎症重症化予防プログラム暫定案は日本健康会議重症予防ワーキンググループにて一部修正の上、平成28年4月国版糖尿病性腎症重症化予防プログラムとして発表された。
・平成29年7月10日重症化予防ワーキンググループの取りまとめとして、「糖尿病性腎症重症化予防の更なる展開に向けて」が公表され、市町村・後期高齢者医療広域連合・都道府県・糖尿病対策推進会議・医師会等の関係団体・国保連合会などにおける課題を示し、取り組み推進に向けた事例・留意点などを整理された。
その他行政的観点からの成果
糖尿病性重症化予防プログラムの取り組みを行う自治体へのインセンティブの導入として、保険者努力支援制度を活用する体制づくりが行われた。市町村および都道府県による重症化予防の取組状況が評価されることになり、取組の後押しになることが期待される。
その他のインパクト
・週刊保健衛生ニュースにて厚生労働省より「糖尿病性腎症重症化予防の更なる展開に向けて」を公表され、市町村、後期高齢者医療広域連合、都道府県、糖尿病対策推進会議、医師会等の関係団体、国保連合会などにおける課題を示したことが取り上げられた。
・同雑誌より、日本健康会議より平成27年に発表された「健康なまち・職場づくり宣言2020」における29年度目標達成状況について糖尿病性腎症重症化予防は654市町村が実施していることなどが取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
40件
Diabetes Update、Diabetes Strategy、糖尿病学、Diabetes Journal、第三期特定健診・特定保健指導ガイドなど
その他論文(英文等)
5件
Nephrol Dial Transplant 、Clin Exp Nephrol 、J Occup Health.
学会発表(国内学会)
54件
日本糖尿病学会年次学術集会シンポジウム、日本公衆衛生学会総会、日本糖尿病性腎症研究会、糖尿病学の進歩、慢性腎臓病シンポジウム、日本糖尿病合併症学会など
学会発表(国際学会等)
5件
第5回織田記念国際シンポジウム The 18th IFHMA International Congress
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
6件
厚生労働省糖尿病性腎症重症化予防プログラム(初版、改訂版)、糖尿病性腎症重症化予防に関する事業実施の手引き、国保中央会 糖尿病性腎症重症化予防セミナーの研修プログラム
その他成果(普及・啓発活動)
129件
厚生労働省糖尿病性腎症重症化予防セミナー、厚生労働省市町村職員を対象とするセミナー、各都道府県糖尿病性腎症重症化予防研修会、医師会学術講演会、ポスター、動画

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2018-06-08
更新日
2020-03-19

収支報告書

文献番号
201709009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,900,000円
(2)補助金確定額
9,900,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 500,843円
人件費・謝金 1,013,215円
旅費 1,581,865円
その他 5,904,077円
間接経費 900,000円
合計 9,900,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-11-14
更新日
-