廃棄物ライフサイクルにおける有害化学物質のリスクアセスメント手法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199800606A
報告書区分
総括
研究課題名
廃棄物ライフサイクルにおける有害化学物質のリスクアセスメント手法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
田中 勝(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 井上雄三
  • 山田正人
  • 市川 勇(以上国立公衆衛生院)
  • 木苗直秀(静岡県立大学)
  • 小野芳朗(岡山大学)
  • 吉野秀吉(神奈川県環境科学センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
有害な化学物質が便利さ(という文化)と共に家庭生活或いは地域社会の中まで入り込み、廃棄物ライフサイクル中で環境中に移行し、環境・健康リスクを増大させるという事態を起こしている。そこで廃棄物ライフサイクルにおける有害物質の環境中への移行を物質代謝サイクルにおける動態として捉え、リスクアセスメントを行うことによって製品への使用の規制をも含めた総合的な管理システムを構築することが重要な課題である。その対策及び制御には、有害化学物質の物質収支モデル及び定量的なリスクアセスメントを用いたより包括的かつシステマチックなアプローチが必要となる。本研究プロジェクトでは、これらの手法のより個別的な事例への適用を通して、より広範かつ精密な廃棄物ライフサイクルのリスクアセスメントによる評価手法を確立することを目的として、(1)人-環境系物質代謝サイクルにおける有害物質の人及び生態系への作用量の解明、(2)有害物質の毒性評価手法の開発及び(3)有害物質に対する総合的リスクアセスメントの手法の開発、に関する研究を推進する。
研究方法
1.人-環境物質代謝サイクルにおける有害物質の人及び生態系への作用量の解明:我が国における鉛に対するマテリアルフローの作成する。調査対象年度は平成7年(1995年)度とし、資源・原材料・部品については、統計年報と関係者へのヒアリングによりデータを収集した。製品における鉛使用のデータは、主に関係者へのヒアリングにより収集した。鉛の環境移行の解析を次のように行った。廃棄段階移行の鉛の移行・分配及び環境移行量の予測のために物質の移動速度フラックスを数式化し、これを用いたサブスタンスフローアナリシスにより鉛の環境移行モデル解析を行った。モデルは、鉛のプロセス間移動ラックスを「鉛の移動速度は前コンパートメントに蓄積している鉛量に比例する」という仮定に基づき、微分方程式で表現した。なお、解析ソフトとしてMicrosoft ExcelにVisual Basicで書かれたプログラムを用いた。 2.有害物質の毒性評価手法の開発:廃棄物ライフサイクルに特有な13種の金属及び有機化合物(主に単環・多環芳香族)を各試験共通の陽性対照物質の候補として選定した。また、9ケ所のごみ焼却施設の焼却底灰と飛灰、4ヶ所の最終処分場の浸出水、消毒前後の処理水を、酢酸エチル抽出及びXAD-2000樹脂処理酢酸エチル抽出法によって前処理を行い、以下の試験に用いた。①遺伝子突然変異を検知するAmes試験(菌株にSalmonella typhimurium TA98、TA100、TA92、TA94、とニトロ化合物に感受性の高いYG1021、YG1024、YG1026を用い、肝臓機能模擬代謝活性化剤添加(+S9)と非添加(-S9))、②DNA損傷を検知するumu 試験(親株Salmonella typhimurium TA1535/pSK1002とアミノ化合物に感受性の高いNM2009と低いNM2000(+S9)、ニトロ化合物に感受性の高いNM3009と低いNM1000(-S9))、③染色体異常を検知する小核試験(試験動物として金魚(Carassiusauratus)の和金及びコメット)、④DNA損傷を検知するSCG試験(被験動物として和金)。それぞれの試験では、用量作用曲線を求め、結果を相互に比較した。また、陽性対照については繰り返し試験を行い、試験法の感度及び精度を検討した。なお、⑤ラットフルボディ(Jcl-Wistar系ラットへの焼却灰経口投与)試験も行った。1%飛灰混合飼料(都市ごみ焼却施設150μm篩通過飛灰1%濃度を粉末飼料に混合)摂取群(n=11)と通常固形試料摂取の対照群(n=10)の郡内交配~出産期の母体重変化、新生児の数、雌雄判別、奇形を比較調査した。
結果と考察
1.
人-環境物質代謝サイクルにおける有害物質の人及び生態系への作用量の解明:統計資料、文献等より日本における鉛のマテリアルフローを特定した。年間約40万トンの鉛が国内で流通している。製品段階で部品段階の鉛の95%を説明できることを明らかにした。また、生活環境に身近な製品では、鉛蓄電池(19万トン)、自動車(7万6千トン)、電化製品(2万6千トン)、塩化ビニル製品(2万5千トン)に多く使用されていることが分かった。一方、鉛のリサイクル割合は、製品段階で使用される鉛の約50%(16万5千トン)であった。マテリアルフローにおける物質の環境移行モデルを構築し、aで求めたデータを入力して解析を行った。その結果、生産段階では蓄積が起こらないとしたモデルが実際のマテリアルフローをより正確に再現するものと考えられた。また、鉛は自然環境と産業廃棄物処理過程に著しく蓄積する傾向があり、これらの過程におけるリスク管理の重要性が示された。これらのモデル及び解析は、各廃棄物処理段階での有害物質管理のプライオリティを決定するツールとして利用できることを示した。 2.有害物質の毒性評価手法の開発:異なる遺伝子毒性試験法において、感度の補正及び結果の相互比較のために、廃棄物関連試料中に存在する化学物質の中から、陽性対照物質を設定した。細菌試験において、S9mix代謝活性挿入系ではBenzo[a]pyreneが、非挿入系では1,8-Dinitropyreneが、また魚類試験系ではBenzo[a]pyreneがそれぞれ特定した。なお、繰り返し精度は他の生化学的な指標に匹敵する変動係数の範囲(20~100%)にあるが、さらなる精度向上のためには試験法の簡易化・迅速化による試験回数の増加を図る必要があることを示した。これらの結果は、廃棄物処理分野に遺伝子毒性試験法を適用するためのプロトコルとして利用できる。一方、都市ごみ焼却施設焼却灰及び都市ごみ最終処分場の浸出水の溶媒又は樹脂抽出・濃縮試料による各種遺伝子毒性試験から以下のことを明らかにした。①有意な遺伝子毒性を示す応答が得られた試料数は他の試験と比べてAmes試験が少なかった。②各試料に対する応答の大きさは試験法により異なっていた。③焼却灰や浸出水において、遺伝子毒性を示すニトロ化合物の存在が示され、浸出水では消毒によりこの種の化合物が生成される可能性が示唆された。④ラットによる経口投与する試験では、受胎率の低下、出生数の増加、雌雄比率の変化が観察された。これらの結果は、廃棄物処理分野へ遺伝子毒性試験が適用可能であることを示すものであり、これまで各所で単発的に得られていた毒性試験結果を総合評価する基礎資料となる。
結論
製品段階で鉛の95%のフローを明らかにし、使用・廃棄・処理・処分における鉛の分配(蓄積)状態及び環境への移行量を推定する基礎データを得た。また、環境移行モデルを用いたサブスタンスフローモデルを用いて、資源~最終処分に至る全コンパートメント及び環境(気圏・土壌圏・水圏)の鉛の蓄積を推定し、本モデルが有害化学物質管理のツールとして利用できることを明らかにした。一方、種々の遺伝子毒性試験法の比較によって適切な陽性対象物質を明らかにし、廃棄物分野へ応用するための本法のプロトコル化を示した。また、浸出水及び焼却灰や飛灰への適用から各種試験の応答特性を明らかにするとともに特定物質の存在も明らかにすることができ、スクリーニング法として本法が廃棄物分野に応用可能であることを示した。
様式A(4)

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