全国がん登録を基盤とした長期記述疫学研究用特定匿名化情報の整備に関する研究

文献情報

文献番号
201708020A
報告書区分
総括
研究課題名
全国がん登録を基盤とした長期記述疫学研究用特定匿名化情報の整備に関する研究
課題番号
H29-がん対策-一般-015
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
柴田 亜希子(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センターがん登録センター)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 秀美(愛知県がんセンター研究所 遺伝子医療研究部)
  • 井上 真奈美(国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センターコホート連携研究部)
  • 大木 いずみ(栃木県立がんセンター がん予防情報相談部)
  • 金村 政輝(宮城県立がんセンター研究所 がん疫学・予防研究部)
  • 西野 善一(金沢医科大学 医学部公衆衛生学)
  • 林 櫻松(リン インソン)(愛知医科大学 医学部公衆衛生学)
  • 東 尚弘(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センターがん登録センター)
  • 堀 芽久美(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計・総合解析研究部)
  • 片野田 耕太(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計・総合解析研究部)
  • 松田 智大(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センターがん登録センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
7,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2016年から施行されているがん登録等の推進に関する法律(がん登録推進法)では、登録情報の十分な活用と国民への結果の還元が求められている。米国では、National Cancer Instituteが、協力州から基本的な州がん登録情報その他のがん診療情報の提供を受けてSEER(The Surveillance, Epidemiology, and End Results) Dataを約40年以上にわたって整備維持している。そのデータは簡単な申請で研究者に提供されているため、定型の公表集計値以外の部位や組織型の罹患率や生存率の記述疫学研究等に幅広く活用されている。我が国ではがん登録推進法に基づき保存された2016年罹患の全国がん登録情報の提供が2019年1月に開始予定である。本研究は、全国がん登録情報の提供開始前に、がん登録推進法その他関連法令等と照らし、我が国の実情に即して長期持続可能な、全国がん登録を基盤とする住民ベースのがん罹患の匿名化された情報の提供並びに全国がん登録届出情報以外の「がん診療情報」の収集の仕組み(日本版SEER)の提案を目的とする。初年度にSEERの全体像を理解し、最終年度に日本の実情に即した仕組みを提案する。
研究方法
SEERの制度や組織の仕組みを理解するために、ウェブサイト等の公開情報の調査及び公開情報で不明な点の現地聞き取り調査を、SEER Dataの内容や利用手続きを理解するためにSEER Dataを用いた記述疫学研究を2年計画で実施する計画とした。研究班は、研究分担者の実績に応じて、前者を担当する仕組み検討班と後者を担当する記述疫学研究班の2つの作業部会で構成した。仕組み検討班の研究分担者は、将来的に、SEER協力州に相当する都道府県の候補となり得る都道府県の、がん登録に見識のある研究者とした。聞き取り調査の訪問先は、SEERの最も古い1973年からの9つの協力州の一つであるUtah Cancer Registry(ユタ州がん登録) とSEER事務局に決定し、2017年8月29日、31日にそれぞれを訪問した。2つの作業部会は、それぞれの調査で知り得たことを班会議その他で共有し、調査の効率化を図った。(倫理面への配慮)本研究においては人体から採取された試料は用いないが、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に準拠し研究を遂行し、必要に応じて国立がん研究センター倫理審査委員会の審査を受けることとした。
結果と考察
SEER事業が住民ベースで診療情報を含む高品質のデータを整備し続ける仕組みについては、SEER事業が、資金提供、教育及び登録システムの環境整備支援を条件とした、データの提供元である州がん登録との共同研究事業であることが要であることが分かった。また、米国では、非特定化データと匿名化データの区別があり、非特定化データを用いる研究は「人を対象とする研究」と見なさないとする法規則が前提として存在した。SEER Dataは、氏名除去、個人識別符号除去、生年月日の年齢表記と生年処理、診断日の年月処理、生存期間の生存期間表記、地理情報のCountyまでの処理の匿名加工済みの非特定化データであり、原情報への復元可能性は否定されないが、利用者との利用規約において、提供された情報から万が一個人を識別できてしまった場合は事務局に報告すること、その情報は削除すること、少数集計値では公表しないこと、を規定することで配慮していた。現在の日本の住民ベースのがん登録は、公的研究事業ではなく、がん登録推進法に基づく国の事業であり、各都道府県は法定受託事務を行っている。また、日本の場合、個人情報保護法における「匿名化」の定義は、米国の匿名化データの定義(個人情報は除かれて、原情報に連結不可能)に近い。このような法的、環境的差異を踏まえ、がん登録推進法その他の関連法令等及び自らの医療情報の提供に関する我が国の国民意識と照らして、日本版SEERに導入可能な点を整理する必要があることが分かった。
結論
平成29年度は、概ね、研究計画とおりに進捗した。SEER Dataの実利用、ユタ州がん登録とSEER事務局の公開情報調査分析及び訪問を通して、SEER事業が長期にわたり継続可能な背景要因について、米国の医療制度、研究体制及び法制度、文化との関連づけを行いながら整理した。特に、SEER事業のような長期に渡る公的研究事業が我が国では維持されにくいこと、研究と個人情報保護のバランスに関する米国と我が国の法体系及び国民意識の違いを焦点に、平成30年度は、引き続き、我が国において、がん登録データの発生源である医療機関から「がん診療情報等」を収集し、がん登録推進法下で比較的活用しやすいと想定される情報である「特定匿名化情報」として提供可能なあり方を検討する予定である。

公開日・更新日

公開日
2018-08-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201708020Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,800,000円
(2)補助金確定額
9,788,000円
差引額 [(1)-(2)]
12,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,549,295円
人件費・謝金 159,546円
旅費 3,937,075円
その他 881,566円
間接経費 2,261,000円
合計 9,788,482円

備考

備考
差額482円は自己資金である

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
-