膜処理法を導入した小型生活排水処理装置の実用化に関する研究

文献情報

文献番号
199800601A
報告書区分
総括
研究課題名
膜処理法を導入した小型生活排水処理装置の実用化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
大森 英昭(財団法人 日本環境整備教育センター)
研究分担者(所属機関)
  • 海野 肇(東京工業大学)
  • 木曽祥秋(豊橋技術科学大学)
  • 小林高臣(長岡技術科学大学)
  • 長岡 裕(武蔵工業大学)
  • 山本和夫(東京大学環境安全研究センター)
  • 山本康次(大阪府立公衆衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小型合併処理浄化槽は、下水道と同等の処理性能を有する生活排水の処理施設として開発・実用化され、急速に普及しつつあるが、水環境の保全に対する社会的要請の高まりから、今まで以上に高度な処理機能を有することが求められてきている。しかしながらその一方、未だに単独処理浄化槽の設置がいまだ5割強を占めているのが実状である。
また、病原性大腸菌O-157やクリプトスポリジウムなど経口摂取によって下痢症等を引き起こす感染性微生物が大きな社会問題となっており、浄化槽放流水の衛生学的な安全性を確保する方策の確立が求められている。
本研究は、このような社会背景の下、水処理技術として、近年、著しく技術革新が行われている膜分離技術に焦点を当てて、これを活用した小型合併処理浄化槽の汚水処理技術を研究・開発することを目的とした。
研究方法
し尿処理等の各種汚水処理に関する膜分離技術及び申請者らがこれまでに行った研究の成果を踏まえて、生活排水の処理への膜分離技術の適用可能性について研究し、必要となる技術の研究開発を行った。具体的な研究課題は以下のとおりである。
(1)膜と担持微生物のハイブリッドによる硝化・脱窒反応の高度化
膜を設置した好気反応槽内に適切な多孔質担体を投入し、これに微生物を担持させ、この担体内に好気と嫌気の相異なる環境の共存を実現することで、1つの好気反応槽内で硝化・脱窒反応を行う装置の開発を検討した。
(2)膜分離型小型合併処理浄化槽の維持管理方法に関する研究
膜分離型小型合併処理浄化槽において必要な膜の薬品洗浄について、①洗浄の時間の短縮、②活性汚泥の硝化反応に対する影響の把握、③容易な膜洗浄後における薬品の処分方法、に係わる検討を行った。また、種汚泥として活性汚泥以外の汚泥や市販のシーディング剤が使用可能か否や検討した。
(3)メッシュろ過による汚泥濃縮に関する研究
中・小規模浄化槽における簡易な汚泥濃縮に対応できる方法として、重力濃縮とメッシュろ過を併用する回分式の汚泥濃縮法の処理特性について実験的検討を行った。
(4)超音波処理によるファウリング防止技術の開発
超音波処理デバイスを実装した膜処理システムの開発とその技術の基礎的研究として、膜処理法におけるファウリングに対する超音波処理と水洗浄の効果の検討を行った。
(5)ARモデルを用いた膜分離活性汚泥法の膜目詰まり過程の予測手法の開発
膜分離活性汚泥法の、膜目詰まりの過程に関して、ある法則性を持った数値の並びとしてとらえるARモデルを用いた予測手法について検討した。
(6)浸漬型膜分離活性汚泥法における微生物生態系を利用した汚泥管理
汚泥の引き抜きがされていなかった膜分離型浄化槽の活性汚泥と下水処理場におけるパイロットプラント運転における活性汚泥の構成する細胞内外成分を測定し比較することにより、浮遊微小フロックの動態と原生動物との関係などについて検討を行った。
(7)膜分離装置を組み込んだ小型合併処理浄化槽の開発に関する研究
膜分離型小型合併処理浄化槽の実用化段階になった装置を戸建住宅に設置し、3ヶ月に1回の保守点検、及び6ヶ月に1回の清掃と膜の薬品洗浄により装置の管理を行い、処理水質の安定性、MLSS濃度及び透過流束の経時変化等を調べた。
結果と考察
上記研究課題については、それぞれ以下のとおりである。
(1)多孔質担体を投入した好気反応槽では、有機質除去能は十分に高く維持されるが、脱窒能力を十分に高い値に維持するためには硝化反応を促進させるための無機炭素源を適切に供給する必要があることなどが明らかとなった。
(2)次亜塩素酸ナトリウム溶液を膜ユニットに注入後、チオ硫酸ナトリウム水溶液を注入した結果、膜の透過流束が回復するとともに、反応槽内での硝化に対する影響はなかった。また、種汚泥としては、余剰汚泥脱水ケーキは使用可能であるが、シーディング剤は使用できないことがわかった。
(3)目開き100、200μmのメッシュでは、ろ過開始後5分程度で直接放流が可能なろ過水(SS<20mg/l)が得られ、メッシュろ過法による回分式汚泥濃縮法は簡易な操作で有効に濃縮できることが明らかとなった。
(4)超音波を照射しながらの水洗いにより膜を完全に初期の状態に戻せることが明らかになり、高効率で簡便な膜再生方法を確立できた。
(5)膜の目詰まりの過程に関して、状態量にAR係数をとり状態方程式および観測方程式をカルマンフィルタのアルゴリズムに当てはめることにより、観測データに追尾したAR係数を自己回帰パラメータにより逐次求めることができ、予測が可能であることがわかった。
(6)細胞外成分である単位MLVSS当たりの蛋白量、全糖量、TOC量は、膜分離活性汚泥の汚泥が、他の汚泥(A20法汚泥、SBR汚泥、下水処理場汚泥等)に比べて低かった。また、細胞外構成成分は、主として酢酸とアセトアミドであった。なお、粒径2μ以下の分散細胞の消長と遊泳型微小原生動物の動態の間には密接な関係にあることがわかった。
(7)戸建住宅に設置した膜分離型小型合併処理浄化槽では、3ヶ月に1回の維持管理、6ヶ月に1回の薬品洗浄と清掃で、膜の透過性能に問題が生じることはなく、試験期間を通じ処理水質もBODは5~10㎎/l以下の良好で安定した水質を維持できた。また、窒素除去能に関しては3週間程度の立ち上がり期間が必要であった。
結論
膜分離型小型合併処理浄化槽の実証試験では、3ヶ月に1回の維持管理、6ヶ月に1回の薬品洗浄と清掃で、安定したBOD除去機能、膜の透過性能を維持することができた。
膜を使用した浄化槽では、膜の透過性の維持が重要であるが、膜の閉塞の予測方法としてARモデルが示され、膜の閉塞の防止あるいは除去に超音波処理が有効であることが明らかとなった。超音波処理では、塩素剤を使用しない点でも実用化が望まれた。今後の課題としては、膜面への活性汚泥の付着を防止するためのばっ気の必要量の検討、あるいは膜の透過性と活性汚泥の粘性、活性汚泥の細胞外成分等との関係について把握することがあげられた。
一方、汚水の処理性能としてはBOD除去以外にN除去、P除去機能の付加が期待されているところである。反応槽内に多孔質担体を投入することにより、好気的な環境と嫌気的な環境を同時に作りだし、BOD除去に加えN除去を行った実験では、BODは容易に除去されたが、N除去については不十分となり今後運転手法等についての検討が必要とされた。
浄化槽を清掃する場合には、余剰汚泥を濃縮した後で清掃するのが経済的であり効率的である。間欠的に操作できるメッシュろ過分離法は、小・中規模施設における簡易な余剰活性汚泥の濃縮法としての有用性と効果が明らかとなったが、信頼性を高めるため、さらに性状の異なる汚泥を用いて検討するとともに、凝集剤の必要性について検討することが必要であった。

公開日・更新日

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