諸外国のフィジシャン・アシスタント(PA)に関する研究

文献情報

文献番号
201706020A
報告書区分
総括
研究課題名
諸外国のフィジシャン・アシスタント(PA)に関する研究
課題番号
H29-特別-指定-020
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
武田 裕子(順天堂大学 大学院医学研究科 医学教育学)
研究分担者(所属機関)
  • 小曽根早知子(筑波大学医学医療系地域医療教育学)
  • 武田多一(三重大学医学部附属病院災害医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,028,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 平成28年度厚生労働科学特別研究事業「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査研究」において、医師のタイムスタディが実施され、過酷な勤務実態が改めて示された。医師がその高度な医学的専門性を発揮し、本来担うべき業務に精注できる働き方改革を進める中で、日本には存在しない職種である「フィジシャン・アシスタント(Physician Assistant: PA)」が注目されている。
 そこで、わが国へのPAの適用を検討する際の基礎資料として、本研究では、諸外国におけるPAの設立経緯や背景、養成課程、業務範囲、他の職種との役割分担などについて、情報収集と分析・比較を行う。
研究方法
PAが最初に設立され50年経過した米国、米国と同様の状況で14年前から一部の州にて保険医療制度の中でPAが導入されているカナダ、2005年に制度が導入された英国を対象に調査を行った。インターネットを用いた検索及びPubMedによる文献検索、書籍による情報収集に加え、米国およびカナダのPA関連学会やPA養成課程を有する大学を訪問し、専門家や教育担当者、学生から聴き取りを行った。訪問した大学は、米国Stanford大学、カナダToronto大学、英国St. George's大学ならびにQueen Mary大学である。訪問後も、電子メールにて質問事項を送り資料提供を求めた。さらに、PAが導入さていないケベック州の医療機関(McGill大学附属病院)を訪問し、Nurse PractitionerとPAの役割の違いについても調査した。米国では、受診する立場として非医療関係者にPAに関する認識を尋ねた。
結果と考察
米国のPAの歴史は50年に上り、専門職としての地位を築いている。特に2003年のレジデント勤務時間制限、オバマケア導入による医療者不足と医療ニーズの増大により急速に増員され、年間約1万人が養成されるに至っている。英国でも、深刻な医療者不足を背景に2000年代に導入が始まった。EUの労働時間規制による医師の勤務時間減少に伴いプログラム数は10倍に増えている。カナダでは1999年にPA制度が導入され、現在4つの州で740名が勤務している。いずれの国でも、修士課程レベルのカリキュラムで、密度の高い実践的な教育を受け、約2年という短期間で育成されている。
PAはプライマリ・ケアに留まらず、内科、外科ほか各専門分野で、監督する医師が定めた範囲で医師の診療方式に沿って診療を行っている。医師及び他の医療職の業務負担軽減に貢献し高い評価を得て、患者からも信頼されている。その背景には、充実した教育体制、厳しい資格試験と再認定制度の構築に加え、絶対的な医師不足の認識が国民と共有されている社会情勢がある。
日本でも、人手不足が深刻な診療科や、過酷な勤務環境で医師が疲弊しているような医療機関においては、PAのような高い専門性を持った医療職が現場に貢献できる可能性は高い。特に、職務内容が明確でタスクを伝えやすく、繰り返し従事することでスキルが確実にアップする手技を中心にした外科系の領域ではPAの果たす役割は認識されやすいと推察する。
今後、わが国においてPA導入を検討するにあたっては、教育システムの構築も同時に検討される必要がある。すでに現場では、能力の高いコ・メディカルスタッフが医師の業務軽減につながるようなサポートを担っている場合もあり、医療の有資格者からのPAへの移行も検討に値するであろう。今回は視察の対象ではなかったが、オランダでは、社会人大学院として医療機関で雇用されながら修士課程に在籍し、職場での研修により資格を取得する方式が取られている。サイエンス系の学部卒業者に修士課程でPA資格取得の教育を行う英国の方式よりも、日本では取り組みやすいかもしれない。
結論
 調査した米国、カナダ、英国とも、厳しい現状認識を医療界と為政者が共有し、患者も実感していることが、PAの導入と普及を推進している。また、能力の高いPAが、医師をはじめ他の医療職や患者の信頼を得ることでさらに発展している。PAの存在により医師を含む医療者が業務負担軽減を実感しており、主に給与面で医療コストを削減できていることが、PAの養成を後押ししている。
 本研究課題は、医師の過酷な勤務状況改善を出発点としているが、そうした現状が患者も含めどれくらい広く認識されているか、また、医師や他の医療者が業務負担をどう受け止めているかが、わが国におけるPA導入に関する議論に影響するであろう。PAの導入は、医師の労働環境改善や医師不足の解消にとどまらず、医療安全や医師による専門診療の充実にも関係する。医療の受け手である国民の理解を得ながら、検討が進むことを期待する。

公開日・更新日

公開日
2018-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-07-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201706020C

収支報告書

文献番号
201706020Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,028,000円
(2)補助金確定額
3,028,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 221,805円
人件費・謝金 0円
旅費 2,617,443円
その他 188,752円
間接経費 908,000円
合計 3,936,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2018-07-03
更新日
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