文献情報
文献番号
201703015A
報告書区分
総括
研究課題名
人工知能を活用した副作用症例報告の評価支援の基盤整備と施行的評価
課題番号
H29-ICT-一般-005
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
今任 拓也(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
研究分担者(所属機関)
- 潮田 明(国立研究開発法人 産業技術総合研究所人工知能研究センター)
- 渡辺 環(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 安全第二部)
- 斎藤 嘉朗(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
- 相原 道子(横浜市立大学大学院 医学研究科 環境免疫病態皮膚科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
12,767,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
市販後医薬品安全対策の骨格を成すものは、医薬品・医療機器等法の第六十八条の十に規定される副作用等の報告である。この製薬企業などによる副作用報告は、年々増加傾向にある。2015年には、海外症例35万件、国内症例5万件となっており、増加の一途を辿る副作用報告を効率的かつ適切に評価することが必要となっている。そこで、本研究は、副作用判定における人的作業の効率化を図るため、近年、ディープラーニングなど新たな技術が提唱され、医療の分野を含め、様々な分野において注目を集めている人工知能を用いて、副作用評価支援システムの構築およびその人工知能を用いた副作用判定の試行的な評価を行うことを目的としている。
研究方法
今年度は、副作用評価判定に人工知能を応用するためのアノテーション作業、表記ゆれ解消のための機械学習用辞書の構築および副作用判定モデルの構築のための副作用に特徴的な因子の探索を行った。アノテーション作業には、web形式で使用可能であるテキストアノテーションツール「brat rapid annotation tool」を用いた。データソースは副作用個別症例報告の経過欄のテキストデータとした。表記ゆれ解消のための機械学習用辞書の構築には、標準的病名約2万5千語をベース用語とし、webより医療関係用語を抽出した。抽出された用語を高次元のベクトルで表現するためのニューラルネットワークを学習させ、ベクトルの近さで用語の類似度を評価する類似度評価器を作成した。副作用に特徴的な因子の探索には、医薬品副作用データベース(JADER)を用い、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)および中毒性表皮壊死融解症(TEN)に特徴的な因子を探索し、ロジスティック回帰モデルを用い、SJSおよびTENに対する曲線下面積を算出し、判別能を評価した。
結果と考察
本研究で使用する副作用報告個別症例の情報は、原則非開示情報とされており、情報の二次利用および外部施設へのデータの提供が考慮されていなかったため、データの精査を行い、使用可能なデータを決定した。また、専門医による助言に基づき、診断基準が明確であり、検査値情報の必要性の低いSJSおよびTENを対象副作用とした。次にテキストデータを過不足・曖昧なく機械に伝えるためのアノテーション作業を開始した。さらに、表記ゆれ解消のため、webより抽出した標準的病名約2,5000語をベースにしたニューラルネットワークによる類義表現抽出実験より類似度評価器を作成し、特定の医療関連用語とほぼ同義かあるいは置換可能なレベルで類似した用語を効率よく収集できることを確認した。また、JADERを用いた解析では、性別、年齢区分(未成人、成人、高齢者)、予後不良、発症までの期間(10日以内または10日以上)および被疑薬(ロキソプロフェンナトリウム水和物および総合感冒薬(一般)の有無)がSJSおよびTENに特徴的な因子と考えられ、SJSおよびTENとそれ以外の重症薬疹との判別については、予後不良、ロキソプロフェンナトリウム水和物および総合感冒薬(一般)の有無が他の因子に比べて判別能が高いことが認められた。
結論
現段階では、データが限定されているが、可能な限りデータを追加することにより、精度の高いシステムの構築を目指す。今年度実施した使用可能なデータの精査およびアノテーションは、機械が副作用を正確に評価するために最も重要な要素である。精度の高い副作用評価判定モデルの構築に向け、次年度以降もアノテーション作業および機械学習用辞書の作成を継続し、副作用判定モデルの重み付けのためにテキストマイニングの手法を用い、添付文書から吸収・排泄などの体内動態、薬理作用などといったさらなるSJSおよびTENに特徴的な因子の検討を行う。
公開日・更新日
公開日
2018-10-24
更新日
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