文献情報
文献番号
201701007A
報告書区分
総括
研究課題名
公私年金の連携に注目した私的年金の普及と持続可能性に関する国際比較とエビデンスに基づく産学官の横断的研究
課題番号
H29-政策-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
中嶋 邦夫(株式会社ニッセイ基礎研究所 保険研究部 兼 年金総合リサーチセンター)
研究分担者(所属機関)
- 上村 敏之(関西学院大学 経済学部)
- 北村 智紀(ニッセイ基礎研究所 金融研究部)
- 佐々木 隆文(東京理科大学 経営学部)
- 西久保 浩二(山梨大学 大学院総合研究部)
- 西村 淳(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部)
- 柳瀬 典由(東京理科大学 経営学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
2,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
研究目的は、私的年金の普及と持続に影響する要因の解明と、さらなる普及に向けた政策提言である。具体的には、諸外国の制度や状況と比較分析して日本の課題を精査し、エビデンスに基づく政策検討のために実証分析を行う。社会保障制度改革国民会議は、公的年金の給付水準の調整を補う私的年金での対応の支援の検討を求めている。
研究方法
研究方法は、(1)退職給付、(2)個人型年金、(3)受給方法、の各テーマを進めつつ、横断的に (4)公私年金の連携に注目して総合的に政策提言を検討する。3年計画の1年目(今年度)は、文献調査やヒアリング等を通じて現状や課題を確認した。テーマ2と3では、老後準備商品の利用状況や、公的年金の繰下げと私的年金の組み合わせの選好、主観的時間選好率等の行動経済学的要素、金融や税制優遇の理解度、等を計測する実験経済学を応用した個人アンケート調査を実施した。
結果と考察
研究結果は次のとおり。テーマ1(退職給付)では、(1) 企業財務と企業年金の関係については、企業年金財政を起点にした経路と企業の投資決定を起点とした経路の両者が研究されていた、(2) 米国における私的年金(引退貯蓄)の普及施策では、同国の専門家は2006年年金保護法を高評価し、課題として小規模企業での普及を指摘した。連邦政府は様々な簡易型制度を導入して導入や運営の敷居を下げた、(3) 労使団体からは、近年は退職給付への関心が薄いこと、業種や規模などでは傾向がつかめないこと、などの情報を得た。研究者からは、アンケート調査の意義や実施時の注意点などの情報を得た、である。テーマ2(個人型年金)では、(4) 個人年金保険加入率の年齢効果は50代後半から下降し、世代効果は概ね横ばいだった、(5) 金融について全般的に不明と回答する人は主観的にも「詳しくない」と自覚しているが、預金以外について誤答している人等はリテラシーの低さを自覚していない傾向があった、(6) 金融や税制に全般的に正答する人は老後準備に積極的だが、不明と回答する人は消極的だった、である。テーマ3(受給方法)では、(7) 75歳支払い開始の据置終身年金の主観的評価額はフェアバリューと有意な差がなく、85歳開始のものは相当割安に評価されていた、(8) 私的年金額への税制優遇や有用な情報提供が、公的年金の繰り下げを選択しない人を減らす傾向がある、である。テーマ4(総合検討)では、(9) 高齢者世帯の支出構造は若年世帯と、雇用収入の割合は年齢や世帯で、大きく異なる。所得保障制度を通してみると、従前は高齢者を保護の対象と考え、生活保護基準を基礎とした年金額を非課税で保障する体系であった、(10) オーストラリアでは、老後の所得保障水準に3段階の指標を設定し、公的年金・企業年金・個人貯蓄それぞれの達成するべき範囲を明確化して国民と共有している、である。
結論
結論や示唆は次のとおり。テーマ1(退職給付)では、(1) 企業財務と企業年金の関係には様々な研究があり、アンケートによる意思決定の直接的な調査が期待される、(2) 必ずしも手本ではないかもしれないが、米国の現状や問題意識、問題解決への着眼点には学ぶべき点があり、米国の拠出建て制度の変化を踏まえた議論は極めて有意義、(3) 退職給付のあり方は多様でアンケート調査は有益だが、調査票の設計や調査対象の検討が重要になる、である。テーマ2(個人型年金)では、(4) 年齢効果と世代効果の非合理的な傾向は、公的年金の縮減傾向に対する理解が広まること等を通した是正を期待したい、(5) 全般的に不明と答える人は経済的準備の前に生活設計の助言が、誤答が多い人は誤った生活設計や準備になっている可能性について助言が、必要な可能性がある、(6) 金融・税制リテラシーの高さと老後準備行動の2極化が進まないよう、リテラシーを高める方策や老後準備を促進するなどの介入が必要となる、である。テーマ3(受給方法)では、(7) 受給開始が高齢となる据置終身年金を市場に導入するには政策的なインセンティブが必要である、(8) 公的年金の繰り下げ受給を促進するには、私的年金への相対的な優遇や有用な情報提供を行うべき、である。テーマ4(総合検討)では、(9) 多様で能動的な高齢者像を想定し、若年時の就労に基づく年金を基本としつつ、就労継続や社会参加を支援する所得保障制度が求められる、(10) 日本でも、基礎年金・厚生年金・公的年金以外でそれぞれ賄うべき部分といったモデル家計支出・充分性指標を決定すべき、である。
公開日・更新日
公開日
2018-11-27
更新日
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