建築物環境衛生管理に係る行政監視等に関する研究

文献情報

文献番号
201625004A
報告書区分
総括
研究課題名
建築物環境衛生管理に係る行政監視等に関する研究
課題番号
H26-健危-一般-007
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
大澤 元毅(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 林 基哉(国立保健医療科学院 統括研究官)
  • 金 勲(キム フン)(国立保健医療科学院 生活環境研究部 )
  • 開原 典子(国立保健医療科学院 生活環境研究部 )
  • 鍵 直樹(東京工業大学 大学院情報理工学研究科)
  • 柳 宇(工学院大学 建築学部)
  • 東 賢一(近畿大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
6,150,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
建物の大規模化,用途の複合化,建築設備技術の発展などに対応するため,建築物における衛生的環境の確保に関する法律(以下,建築物衛生法)による監視にも不断の見直しが不可欠である。一方近年,同法の建築物環境衛生管理基準を満足しない割合(以下,不適率)の改善が進まない状況が続き,管理手法,監視方法・体制などの環境衛生管理のあり方が問われている。本研究は,建築物における環境衛生管理に着目して,現状の把握及び問題点の抽出,原因の究明,対策の検討等を体系的に実施し,今後の建築物環境衛生管理に関する行政監視のあり方について提案を行おうとするものである。
研究方法
1)新しい設備と衛生管理状況の把握
新しい建築設備も対象に空気環境測定及び詳細な実地調査(通常項目に加え,浮遊真菌・細菌,VOC,PM2.5等)を行うとともに,環境衛生実態及び維持管理状況,不適率の経年変化等に関する既往資料の収集・分析を実施した。
2)環境衛生管理項目の検討
詳細な実測調査と対比させるための健康に関する質問紙調査を実施した。東京都,大阪市内の施設に打診し,約650名の協力回答を得た。今年度はSBS関連症状に着目して前向き縦断調査を継続した。
3)衛生管理監視手法のあり方の提案
二酸化炭素濃度と相対湿度に関する文献調査,エビデンス収集・レビューを継続し、空調設備の設計・管理上の課題に関して検討を行った。全国の生活衛生担当者(142団体)を対象に,空気環境測定6項目に係る「報告徴取」「立入検査」「行政報告」の手順や運用について質問紙調査を行い,130票の回答を得た。
結果と考察
1)不適率データ分析から,建築物衛生法や省エネ法など法規制の枠組み変化とともに,東日本大震災などが大きな影響を及ぼしていることを確認した。さらに東京都の立ち入り検査資料解析より,対象建物の空調方式のうち,全体制御方式と個別制御方式が夫々3割程度,約4割が全体制御方式との実態を示し,パッケージエアコン(PAC)への対応の必要性が強く示唆された。東京と大阪で計11施設(延52空間)を対象に詳細実測調査を実施し,質問紙調査の解析にも供した。顕著な乾燥状態がPACを用いた個別空調方式建物で恒常化しており,その傾向は東京より大阪で顕著であった。二酸化炭素,VOC,ホルムアルデヒドに濃度超過はなかったが,超音波加湿器使用或いは(全熱交換)換気停止に伴う浮遊細菌数のAIJ維持管理基準値超過が見られた。また,PM2.5は全般に低かったが,空調方式次第でI/O比に大きな差が生じており,エアフィルタの効用と必要性が示された。
2)質問紙調査には,建物の基本属性と運用実態に関する「建築物調査項目」,執務者(従業員)の個人属性,職業性ストレスなどに関する「従業員調査項目」,VOC・真菌・細菌等に係る「詳細測定項目」,温度・湿度・二酸化炭素に係る「連続測定項目」などを含む。
3)環境衛生担当者を対象に適合判定の運用実態に係るアンケート調査を実施し,判断手順等に曖昧さがあること,中でも項目としては相対湿度の判断が難しいことなどが明らかとなった。全体班会議において項目ごとに議論を深め,行政監視に係る課題と求められる対応のリスト化を行った。
結論
【温度】空調設備の品質,運用管理の巧拙や省エネ設定などにも規定されるため不適率は上昇傾向にある。特に夏期の28℃超過,冬期の冷放射,空間的な温度差などが顕著で,技術とリテラシー両面から啓発努力が必要。また,タスクアンビエント,PACなど,均質・定常を前提としない空調方式には,総合的な環境指標・評価方式の採用検討が望ましい。
【相対湿度】過度の乾燥が懸念されるが,全国的な不適率は高止まり状態にある。空調の加湿機能(能力)低下,過剰換気,室内温度差が原因と見られるが,加湿水汚染,省エネ,換気制御方法等と関連するため,管理基準の整備,設計時の指導,管理の運用改善などが望まれる。
【二酸化炭素】換気量の減少と外気濃度の上昇に伴い,不適率は全国的に上昇傾向にある。温暖化対策で換気削減を迫られる一方,世界的なリスク見直しも進行しており,情勢は流動的。
【気流・一酸化炭素・浮遊粉じん】何れも現行基準における不適合率は低いが,気流には冷風・乾燥風の頻発への対応,一酸化炭素には燃焼廃気リスクの管理,浮遊粉じんにはフィルタの効用見直しなどの課題がある。
【ホルムアルデヒド】不適合率は低水準だが,対象物質を拡張する場合は見直しを要する。
【その他】浮遊微生物,VOC,エンドトキシンなど,実効性と実現性に配慮して活用検討を継続する必要がある。
【体制・運用等】技術的基準整備と効率的な運用のためには,建築物衛生法に係る環境衛生管理(監視・指導・啓発・審査・立入り)の規定整備,行政監視体制整備に加え,人材開発の充実が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201625004B
報告書区分
総合
研究課題名
建築物環境衛生管理に係る行政監視等に関する研究
課題番号
H26-健危-一般-007
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
大澤 元毅(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 林 基哉(国立保健医療科学院 統括研究官)
  • 金 勲(キム フン)(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 開原 典子(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 鍵 直樹(東京工業大学 大学院情報理工学研究科)
  • 柳 宇(工学院大学 建築学部)
  • 東 賢一(近畿大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
建物の大規模化,用途の複合化,建築設備技術の発展などに対応するため,建築物における衛生的環境の確保に関する法律(以下,建築物衛生法)による監視にも不断の見直しが不可欠である。一方近年,同法の建築物環境衛生管理基準を満足しない割合(以下,不適率)の改善が進まない状況が続き,維持管理手法,監視方法・体制などの環境衛生管理のあり方が問われている。
本研究は,建築物における環境衛生管理に着目して,現状の把握及び問題点の抽出,原因の究明,対策の検討等を体系的に実施し,公衆衛生の立場を踏まえた,今後の建築物環境衛生管理に関する行政監視のあり方について提案を行おうとするものである。
研究方法
1)新しい設備と衛生管理状況の把握
新しい建築設備も対象に空気環境測定及び詳細な実地調査(通常項目に加え,浮遊真菌・細菌,VOC,PM2.5等)を行うとともに,環境衛生実態及び維持管理状況,不適率の経年変化等に関する既往資料の収集・分析を実施した。
2)環境衛生管理項目の検討
詳細な実測調査と対比させるための健康に関する質問紙調査を実施した。東京都,大阪市内の施設に打診を行い,SBS関連症状に着目して前向き縦断調査を継続した。
3)衛生管理監視手法のあり方の提案
二酸化炭素濃度と相対湿度に関する文献調査,エビデンス収集・レビューを継続し、空調設備の設計・管理上の課題に関して検討を行った。全国の生活衛生担当者(142団体)を対象に,空気環境測定6項目に係る「報告徴取」「立入検査」「行政報告」の手順や運用について質問紙調査を行った。
結果と考察
1)不適率データ分析から,建築物衛生法や省エネ法など法規制の枠組み変化とともに,東日本大震災などが大きな影響を及ぼしていることを確認した。さらに東京都の立ち入り検査資料解析より,対象建物の空調方式のうち,全体制御方式と個別制御方式が夫々3割程度で,約4割が全体制御方式を採用している実態が示され,パッケージエアコン(PAC)への対応の必要性が強く示唆された。東京と大阪で計11施設(延52空間)を対象に詳細実測調査を実施し,質問紙調査の解析にも供した。顕著な乾燥状態がPACを用いた個別空調方式建物で恒常化しており,その傾向は東京より大阪で顕著であった。二酸化炭素,VOC,ホルムアルデヒドに濃度超過はなかったが,超音波加湿器使用或いは(全熱交換)換気停止に伴う浮遊細菌数のAIJ維持管理基準値超過が見られた。また,PM2.5は全般に低かったが,空調方式次第でI/O比に大きな差が生じており,エアフィルタの効用と必要性が示された。
2)質問紙調査は,建築物調査項目,従業員調査項目,詳細測定項目,連続測定項目などを含む。SBS関連のオッズ比は全般に女性の方が高く,影響が大きいこと,年齢は上気道症状は若い世代ほど顕著で,温度の低下,相対湿度の低下,絶対湿度の低下と有意な関係を見い出した。
3)環境衛生担当者を対象に適合判定の運用実態に係る質問紙調査を実施し,判断手順等に曖昧さがあること,中でも項目としては相対湿度の判断が難しいことなどが明らかとなった。全体班会議において項目ごとに議論を深め,行政監視に係る課題と求められる対応のリスト化を行った。
結論
【温度】空調設備の品質,運用管理の巧拙や省エネ設定などにも規定されるため不適率は上昇傾向にある。特に夏期の28℃超過,冬期の冷放射,空間的な温度差などが顕著で,技術とリテラシー両面から啓発努力が必要。また,タスクアンビエント,PACなど,均質・定常を前提としない空調方式には,総合的な環境指標・評価方式の採用検討が望ましい。
【相対湿度】過度の乾燥が懸念されるが,全国的な不適率は高止まり状態にある。空調の加湿機能(能力)低下,過剰換気,室内温度差が原因と見られるが,加湿水汚染,省エネ,換気制御方法等と関連するため,管理基準の整備,設計時の指導,管理の運用改善などが望まれる。
【二酸化炭素】換気量の減少と外気濃度の上昇に伴い,不適率は全国的に上昇傾向にある。温暖化対策で換気削減を迫られる一方,世界的なリスク見直しも進行しており,情勢は流動的。
【気流・一酸化炭素・浮遊粉じん】何れも現行基準における不適合率は低いが,気流には冷風・乾燥風の頻発への対応,一酸化炭素には燃焼廃気リスクの管理,浮遊粉じんにはフィルタの効用見直しなどの課題がある。
【ホルムアルデヒド】不適合率は低水準だが,対象物質を拡張する場合は見直しを要する。
【その他】浮遊微生物,VOC,エンドトキシンなど,実効性と実現性に配慮して活用検討を継続する必要がある。
【体制・運用等】技術的基準整備と効率的な運用のためには,建築物衛生法に係る環境衛生管理(監視・指導・啓発・審査・立入り)の規定整備,行政監視体制整備に加え,人材開発の充実が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-07-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201625004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
既往資料の少ない、民間特定建築物における室内環境の実情を示す資料を蓄積した。環境管理基準なかでも、夏期冷房時の温度超過、冬期暖房時の相対湿度不足などが恒常化している実態は、建築利用者に健康影響を及ぼすおそれを示している。
臨床的観点からの成果
縦断的環境調査と質問紙調査との対比から、建築物の環境と健康影響との関係(広義のBuilding Related Illness)が示唆される資料を得た。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」及び関連管理基準・運用の見直し・改善に向けて、その基盤整備のため、29年度から新たな厚労科研課題が立ち上げられた。
その他のインパクト
クールビズ論議に際し、生活衛生課に実態資料並びに根拠となった論文資料を提供した。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
平成27年生活衛生研修会発表(厚生労働省生活衛生課)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
柳宇,鍵直樹,大澤元毅 et al.
個別方式空調機内におけるカビ増殖特性に関する研究
空気調和・衛生工学会論文集 ,  (No.218) , 31-38  (2015)
原著論文2
柳宇,四本瑞世,杉山順一 et al.
高齢者福祉施設における空気環境に関する研究 第1報-遺伝子解析法を用いた微生物汚染実態詳細調査の結果
空気調和・衛生工学会論文集 ,  (No. 215) , 19-26  (2015)
原著論文3
柳宇,鍵直樹,東賢一 et al.
高齢者福祉施設における空気環境に関する研究 第2報-室内温湿度・CO2濃度の長期間連続測定結果
空気調和・衛生工学会論文集 ,  (No. 229) , 15-22  (2016)
原著論文4
東賢一
室内空気汚染の健康リスク
臨床環境医学 , 25 (2) , 76-81  (2016)
原著論文5
Azuma K, Ikeda K, Kagi N et al.
Evaluating prevalence and risk factors of building-related symptoms among office workers: Seasonal characteristics of symptoms and psychosocial and physical environmental factors
Environ Health Prev Med , in press (in press)  (2017)
原著論文6
Azuma K, Ikeda K, Kagi N et al.
Prevalence and risk factors associated with nonspecific building-related symptoms in office employees in Japan: relationships between work environment, Indoor Air Quality, and occupational stress
Indoor Air , 25 (5) , 499-511  (2017)

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
2018-07-26

収支報告書

文献番号
201625004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,150,000円
(2)補助金確定額
6,150,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,525,685円
人件費・謝金 646,725円
旅費 1,788,416円
その他 1,189,613円
間接経費 0円
合計 6,150,439円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-03-15
更新日
-