文献情報
文献番号
201624021A
報告書区分
総括
研究課題名
妊娠期のPFAAs・OH-PCB曝露による次世代への甲状腺機能攪乱作用と生後の神経発達へ与える影響の解明
課題番号
H26-化学-若手-006
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 佐智子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
1,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
有機フッ素化合物(PFAAs)やポリ塩化ビフェニル(PCB)は人体へ長期間蓄積し、胎児に移行する。これまで血中PFAAs濃度と注意欠陥・多動性障害等の児の発達障害との関連や、PCB代謝物の水酸化PCB(OH-PCB)曝露と5-6歳の注意力低下との関連が報告された。そのメカニズムとして脳神経の発生・発育時期の甲状腺機能異常は脳神経発達の障害を招く(Haddow et al. 1999)ことから、化学物質の胎児期曝露が胎児成長に必須である甲状腺ホルモン値を攪乱して神経行動障害を引き起こす可能性が示唆される。しかし、PFAAsの中でも特に長炭素鎖であるPFNA、PFUnDAはわが国で生産量が多いが、胎児期の曝露が甲状腺ホルモン値撹乱および脳神経系発達へ与える影響について過去に全く検討されておらず、またPCBの中でも甲状腺ホルモンに似た構造を有するOH-PCBについては、先行研究は非常に少ない。したがってわが国における検討が急務の課題である。
そこで、申請者らは出生前向きコホートを用いて、長炭素鎖PFAAsおよびOH-PCBの妊娠期曝露による母児甲状腺機能攪乱作用への影響と幼児期発達傾向との関連を明らかにし、化学物質胎児期曝露による次世代への健康リスク評価を行った。
そこで、申請者らは出生前向きコホートを用いて、長炭素鎖PFAAsおよびOH-PCBの妊娠期曝露による母児甲状腺機能攪乱作用への影響と幼児期発達傾向との関連を明らかにし、化学物質胎児期曝露による次世代への健康リスク評価を行った。
研究方法
出生前向きコホート「環境と子どもの健康に関する北海道スタディ」の大小2つのコホートを用いた。平成28年度は、札幌市内一産科医院で実施した小規模コホートに参加する514組の母児のうち、妊娠期母体血中OH-PCB濃度と母児甲状腺ホルモン値データおよび生後の神経行動発達調査のデータが揃う98組の母児を対象とし、母体血中OH-PCB濃度および母児甲状腺ホルモン値が児の6・18か月の神経行動発達(Bayley Scale of Index Development second edition:BSID-Ⅱ)へ与える影響について検討した。北海道全体の産科医院を対象とした大規模コホートでは、H26、27年度で1,000組の母児について母体血中および臍帯血中甲状腺ホルモン値、抗甲状腺抗体の測定を行った母児のうち、すでに母体血中PFAAs11種類の濃度が測定された782組の母児を対象にPFAAs濃度と母児甲状腺ホルモン値の関連を検討した。
結果と考察
小規模コホートでは、ΣOH-PCB濃度が高いと6か月時のPsychomotor Development index(PDI)が低くなる傾向(p=0.071)がみとめられた。また、児の出生時FT4値が高いと男児では18か月のMental Development index(MDI)が有意に高く、女児では6か月のPDIが有意に低かった。OH-PCB曝露が、母児甲状腺ホルモンの影響を介してBSIDへ与える影響についてMediation analysis(媒介分析)による検討を行ったが、有意な関連はみとめられなかった。
大規模コホートでは、母体血中PFTrDA濃度が高いと母のTSHが有意に高かった(p = 0.033)。児については性別で層別化して解析したところ、男児では母体血中PFOS濃度が高いと、臍帯血中TSHが有意に高かった(p=0.001)。また、PFOSが高いと臍帯血中FT3が高くなる傾向、PFTrDAが高いと臍帯血中TSHが高くなる傾向、PFDAが高いと臍帯血中FT4が低い傾向がみとめられた。女児では母体血中PFDoDA濃度が高いと臍帯血中TSHが低くなる傾向がみとめられたが(p <0.100)、有意な関連ではなかった。抗甲状腺抗体TgAbとの関連検討では、男児では、母体血中PFHxS濃度が高いと臍帯血中TgAb濃度が有意に高く、PFDA、PFTrDA濃度が高いとTgAbが有意に低かった。一方、女児ではPFOA、PFNA(濃度が高いとTgAbが高い傾向がみとめられたが、有意ではなかった。
大規模コホートでは、母体血中PFTrDA濃度が高いと母のTSHが有意に高かった(p = 0.033)。児については性別で層別化して解析したところ、男児では母体血中PFOS濃度が高いと、臍帯血中TSHが有意に高かった(p=0.001)。また、PFOSが高いと臍帯血中FT3が高くなる傾向、PFTrDAが高いと臍帯血中TSHが高くなる傾向、PFDAが高いと臍帯血中FT4が低い傾向がみとめられた。女児では母体血中PFDoDA濃度が高いと臍帯血中TSHが低くなる傾向がみとめられたが(p <0.100)、有意な関連ではなかった。抗甲状腺抗体TgAbとの関連検討では、男児では、母体血中PFHxS濃度が高いと臍帯血中TgAb濃度が有意に高く、PFDA、PFTrDA濃度が高いとTgAbが有意に低かった。一方、女児ではPFOA、PFNA(濃度が高いとTgAbが高い傾向がみとめられたが、有意ではなかった。
結論
妊娠期母体血中OH-PCB曝露は児6か月時のPDIスコアを高くする傾向がみられたが、攪乱された甲状腺ホルモン値による介在影響はみられなかったことから、OH-PCB曝露による直接作用に加え、甲状腺ホルモン値以外の要因がPDIスコアに影響している可能性が示唆された。
母体血中PFAAs濃度と母児甲状腺ホルモン値との関連を検討したところ、すでに規制が進み、北海道スタディで経年的に母体血中濃度が減少しているPFOSに加え、代替物質であるPFAAでは短・長炭素鎖ともに母児の甲状腺ホルモン値に影響を与えること、児では影響に性差がみられる可能性が示唆された。また、男児においてはPFAAの胎児期曝露が国内の妊婦・新生児スクリーニング検査で一般的に測定されているT4値だけではなく、検査では測定されないが体内で直接臓器へ作用するT3濃度へ影響する可能性も示唆された。
母体血中PFAAs濃度と母児甲状腺ホルモン値との関連を検討したところ、すでに規制が進み、北海道スタディで経年的に母体血中濃度が減少しているPFOSに加え、代替物質であるPFAAでは短・長炭素鎖ともに母児の甲状腺ホルモン値に影響を与えること、児では影響に性差がみられる可能性が示唆された。また、男児においてはPFAAの胎児期曝露が国内の妊婦・新生児スクリーニング検査で一般的に測定されているT4値だけではなく、検査では測定されないが体内で直接臓器へ作用するT3濃度へ影響する可能性も示唆された。
公開日・更新日
公開日
2018-05-29
更新日
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