文献情報
文献番号
201624014A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の安全性と発がん性リスク評価のための短・中期バイオアッセイ系の開発
課題番号
H26-化学-指定-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
吉見 直己(琉球大学 大学院医学研究科・腫瘍病理学講座)
研究分担者(所属機関)
- 塚本 徹哉(藤田保健衛生大学・病理学)
- 魏 民(大阪市立大学大学院医学研究科・分子病理学)
- 横平 政直(香川大学医学部・病理学)
- 小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター病理部・実験病理学)
- 鈴木 周五(名古屋市立大学大学院医学研究科・実験病態病理学)
- 戸塚 ゆ加里(国立がん研究センター研究所・発がん・予防研究分野)
- 伊吹 裕子(静岡県立大学・食品栄養学部・光環境生命科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
10,825,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、短・中期発がん予測バイオアッセイ系を開発し、発がん試験ガイドライン設定の方向性への提唱が目的である。既に動物実験に対する3R(代替法活用、使用数削減、苦痛軽減)の原則に、一部は動物実験そのものができない状況にあるが、ヒトに対する発がん影響を明確に反映できる代替法は現在のところないため、動物モデルでの評価法は未だに必要不可欠である。そのため、上記3Rの原則を考慮した短・中期での各臓器別の発がん試験の開発が望まれる。すなわち、動物数の軽減とともに、短期での苦痛の軽減を考慮し、従来の判定である長期の時間を要する腫瘍の顕在化に代わって、腫瘍形成を予測し得る早期に発現する病理組織学的な評価による試験法の開発を目指す。加えて、各分担者の施設で得られた臓器を、臓器専門性を有する多施設間で評価を行う共同システム構築を検討し、動物数の削減化も図る。
研究方法
主に臓器別に短・中期バイオアッセイ系の確立のために、胃、大腸、肝臓、肺臓、膀胱および前立腺に対するそれぞれの特異的な発がん物質を利用して、早期に病理形態的に観察される病変を誘導させ、その特徴を検討する。各分担者により、モデル系は異なるため、ここではその誘導方法の詳細は省略する。また、多施設共同システム構築のために昨年度作成した共通プロトコールマニュアル(各分担者の研究対象臓器に対する固定・保存・標本作製方法を統一)を実際に運用した。前年度まで新規バイオマーカー候補であるDNA損傷依存的ヒストン修飾酵素であるγH2AXに関しては、上記多施設共同システムを利用して、標的臓器以外での臓器の発現を検討した。
結果と考察
今まで、大腸と肺臓での早期がん病巣を特定できる短・中期モデルの可能性が示唆されたが、新たに、膀胱発がんで、DNA損傷依存的ヒストン修飾酵素であるγH2AXを予測マーカーとした早期病巣の特定の可能性が示され、加えて、今年度は、胃、大腸、肝臓、肺臓、前立腺で、早期に発現を認めた。しかし、発がん物質の標的臓器に必ずしも特異的に発現していなかった。そのため、γH2AXの早期の発現は各臓器での発がん予測の可能性があるものと考えられ、今後の更なる検証が必要である。加えて、本研究班でのγH2AXに関するin vitro系の実験成果から、遺伝毒性を呈する物質が関与するだけでなく、一部遺伝毒性を有しない物質でも、DNaseIが遊離することで、DNAを切断して誘導される可能性が示され、今後、こうした視点を踏まえた動物系での発現解析も、新規マーカーとしての検証と平行して、実施する必要性がある。
結論
動物を供する発がん性試験における代替法の確立は、化学物質のヒトへの安全性に対して重要である。しかし、動物実験に対する3R(代替法活用、使用数削減、苦痛軽減)の原則は決して動物を使用しないということではないため、今回の研究目標はその精神に基づいて動物での発がん、すなわち、従来からの顕在化による腫瘍形成の代わりに、腫瘍の早期病変を病理組織学的な検索で予測することを目指し、その方法の中で、多施設共同システムの構築による毒性病理専門家による判定が必須であると思われた。また、新たに早期病変での新たなバイオマーカーγH2AX発現の有用を見出した。なお、上記以外に、今年度は、化学物質暴露動物系を利用した迅速評価方法の新展開(化学物質の動物暴露24時間後での遺伝子マーカー変動により発がん性予測の可能性を示すモデルと肝臓におけるDNA付加体の網羅的な解析により、遺伝毒性化学物質と非遺伝毒性化学物質を区別できる可能性)が得られたが、研究の緒についたばかりであり、両者ともに今後の検証研究が不可欠ではあるが、化学物質の評価手法の迅速化への新たな展開として、本研究班に類似する新たな継続研究が期待される。
公開日・更新日
公開日
2017-07-12
更新日
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