文献情報
文献番号
201624002A
報告書区分
総括
研究課題名
前向きコーホート研究に基づく先天異常、免疫アレルギーおよび小児発達障害のリスク評価と環境化学物質に対する遺伝的感受性の解明
課題番号
H26-化学-一般-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
岸 玲子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究分担者(所属機関)
- 水上 尚典(北海道大学大学院 医学研究科)
- 馬場 剛(札幌医科大学 医学部)
- 千石 一雄(旭川医科大学 医学部)
- 有賀 正(北海道大学大学院 医学研究科)
- 篠原 信雄(北海道大学大学院 医学研究科)
- 梶原 淳睦(福岡県保健環境研究所 保健科学部)
- 松村 徹(いであ株式会社 環境創造研究所)
- 松浦 英幸(北海道大学大学院 農学研究院)
- 石塚 真由美(北海道大学大学院 獣医学研究科)
- 花岡 知之(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
- 佐田 文宏(中央大学保健センター 市ヶ谷分室)
- 荒木 敦子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
- 宮下 ちひろ(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
- 池野 多美子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
41,840,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は,妊娠中の環境化学物質曝露が胎児期および小児期に与える健康影響を環境-遺伝交互作用を含めてリスク評価し,障害を予防する方策を明らかにすることを目的とする。地域ベースの37医療機関における大規模コーホートでは,妊娠初期の12週までに同意を得た妊婦を対象に,母体・臍帯血のPCBs・ダイオキシン類や有機フッ素化合物(PFAAs),ビスフェノールA(BPA),フタル酸エステル類などの環境化学物質濃度を測定し,曝露による先天異常,Small for Gestational Ageおよび低出生体重,免疫アレルギーへの影響と児の神経発達への直接的因果関係を評価する。環境-遺伝交互作用について,母児の化学物質解毒代謝酵素など一塩基多型(SNPs)解析により環境化学物質に対するハイリスク群を明らかにする。また,胎児期化学物質曝露による児のエピゲノム変化を明らかにし,さらに胎児期のエピゲノム変化が出生時,小児期から成人期へどのような影響を与えるか解明する。
研究方法
コーホート全体を追跡し,1,2,4,7歳時点のアレルギー・感染症や体格(身長・体重),1歳半,3,5,6,8歳で自閉スペクトラム症やADHD等の神経行動発達について評価した。化学物質曝露評価について,超微量血液からPCBs・ダイオキシン類・OH-PCB類の一斉分析方法を開発し,分析精度の信頼性を確認した。有機フッ素化合物(PFAAs)11種類の一斉分析測定系を確立した。微量血液試料中BPAを迅速処理,高精度で測定する生体試料分析法を同位体希釈LC/MS/MS法の分析方法を開発した。母体血中有機塩素系農薬29種類,胎児の代謝関連バイオマーカーの臍帯血中アディポサイトカイン濃度,胎児期の性腺機能の指標となる臍帯血中の性ステロイドホルモンを測定した。環境-遺伝交互作用について,化学物質の代謝酵素,核内受容体・疾患感受性関連の遺伝子領域の母児のSNPs (Fluidigm社EP1システム),および胎児期発育に必須であるインスリン様成長因子遺伝子IGF2等の臍帯血DNAメチル化と内分泌かく乱物質の曝露濃度との関連を解析した(QIAGEN社パイロシークエンサー)。
結果と考察
平成25年度の登録終了までに妊婦20,926名,出生時の新生児個票(19,280名)を回収した。2016年9月までに回収された1歳から7歳までの調査票を集計したところ,先天異常総数は623件(3.2%)で出生時の約2倍であった。頻度の高い順に先天性心疾患186人(うち先天性心室中隔欠損101人),停留精巣・触知精巣75人,および口唇・口蓋裂41人,染色体異常42人(うちダウン症26人)などであった。母体血中PFOS濃度の増加は総アディポネクチン濃度の増加と関連し,逆に体格(ポンデラル指数)の低下と関連し,その傾向は特に男児で強く認められた。PFAAs曝露は児のアディポサイトカインと成長に影響することが示唆された。母体血中農薬Parlar26濃度が高いほど女児の出生体重が低下した。一方,胎児期のフタル酸エステル類(DEHP)曝露と甲状腺濃度,精神運動発達との関連は認められなかった。母の遺伝子型で層別したところ,出生体重の減少は妊娠中の母体血漿コチニン値と用量反応関係を示し, 化学物質の代謝やDNA修復遺伝子が,たばこ煙の化合物への曝露による胎児発育への影響について大きな役割を果たす可能性が示唆された。母の喫煙と遺伝子型について,AHR-GG型,CYP1A1-AG/GG型およびXRCC1-CT/TT型をもつ妊婦では,BPDE代謝物やBPDE-DNA付加体が多く生成されるために,これらの遺伝子多型と妊娠中の喫煙の組み合わせによって出生体重の平均が145g小さくなる可能性が示唆された。IGF2メチル化とポンデラル指数との間に正の相関が認められ,さらに媒介分析の結果,IGF2メチル化がPFOA曝露によるポンデラル指数の減少を仲介しており,その影響の20%を説明できることが示された。
結論
長鎖のPFAAs曝露は臍帯血中のアディポサイトカインや性ホルモンに影響があり,いずれの影響も児の性別により異なる可能性が示唆された。本研究は,多様な化学物質の胎児期曝露が引き起こす児の成長・発育や免疫アレルギーなどの次世代影響について,一般的なヒトの集団で科学的に明らかにした。引き続き胎児期および生後の曝露評価を継続しサンプルサイズを増やす。本研究で世界的に初めて化学物質による胎生期の性腺機能への影響を明らかにしたが,今後,成長に伴い性役割行動や第二次性徴発来時期などの性機能にも影響を与えるのか,追跡により明らかにする。
公開日・更新日
公開日
2017-06-07
更新日
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