サリドマイド胎芽病患者の健康、生活実態の諸問題に関する研究

文献情報

文献番号
201623014A
報告書区分
総括
研究課題名
サリドマイド胎芽病患者の健康、生活実態の諸問題に関する研究
課題番号
H26-医薬A-指定-003
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
日ノ下 文彦(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 腎臓内科)
研究分担者(所属機関)
  • 大西 真(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター )
  • 田嶋 強(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 放射線科)
  • 今井 公文(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 精神科)
  • 新保 卓郎(太田綜合病院 西ノ内病院)
  • 田上 哲也(国立病院機構京都医療センター 健診センター)
  • 長瀬 洋之(帝京大学医学部内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
12,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
サリドマイド薬禍は国が重視する薬害の一つであるが、薬禍者は50歳代となり従来から抱える整形外科的問題やリハビリ上の課題、聴覚障害、外貌等の問題以外に肥満や高血圧、脂質代謝異常、脂肪肝、慢性腎臓病(CKD)などの生活習慣病や過用症候群、疼痛等々の問題に直面するようになった。本研究班は前研究班の活動を継承してサリドマイド胎芽症(以下、サ症)者の医療上・生活上の問題点を明確にし、有効な医療及び支援のあり方を検討することを目的とする。また、ホームページ(HP)の活用も含め国際的な医療情報交換を推進して、サ症者に対する支援や取組みを世界的規模で展開するとともに、3年間で得た成果をもとにサ症の診療ガイドブックを作成する。
研究方法
1.国立国際医療研究センター病院、帝京大学医学部附属病院、京都医療センターにてサ症者の健診を継続し総括をする。アンケート記入による「こころの健康QOL(生活の質)に関する検討」も精神科スタッフにより継続する。2.3年間に検討した結果や蓄積した診療技術を集約し、内科、整形外科、リハビリ科、耳鼻科、精神科、歯科、麻酔科、看護等あらゆる分野の対策と診療方法を「サリドマイド胎芽症診療ガイド 2017」として集約する。3.第2回サリドマイド胎芽症研究会を開催し、3年間の活動を総括する。4.27年度に開催した国際シンポジウムの内容をProceedingsとして発行する。5.HPのコンテンツを充実させ患者や専門家、諸外国の研究者に向けた情報発信に努める。6.サ症者向けのアドバイスをまとめた小冊子の作成や講演会の実施等、研究班からサ症者に直接働きかける活動も実施する。
結果と考察
1.今年度受診者24名のうち塊椎、無胆嚢症は1例ずつ認められ、脂肪肝や脂質異常症、耐糖能能害、体内脂肪の増加、大腿骨の骨密度低下、高血圧を有する受診者が多かった。上肢の実測値がない場合、下肢収縮期圧から上肢収縮期圧を推定する症例もあり補正式は有用であった。サ症者は一般よりも精神的健康度が低く、障害分類によって比較すると聴覚障害のあるサ症者では、四肢障害群よりも不安や不眠傾向が強かった。2.「サリドマイド胎芽症診療ガイド 2017」を2017年3月に発行した。これは前研究班が作成した「サリドマイド胎芽病診療 Q&A」をさらに発展させたもので、サ症の歴史から診断手順、内科・整形外科/リハビリ科・放射線科・耳鼻咽喉科・歯科/口腔外科・眼科・精神科等各科の診療、臨床現場における諸問題に至るまですべてを網羅した診療ガイドブックであり、地方の慣れない医師や医療者がサ症者に接する時に必ず役立つ内容となっている。3.2017年2月18日、東京ステーションコンファランスにて第2回サリドマイド胎芽症研究会を開催した。本研究班のメンバーがそれぞれの専門分野のサ症診療について発表したほか、サ症者の肩関節手術に詳しいNottingham大学Angus Wallace教授に特別講演をしてもらった。この講演により、疼痛やADL低下を保存的治療だけでは克服できないサ症者に対し、今後、外科的治療も視野に入れるきっかけが得られたものと考える。4.27年度に開催した国際シンポジウムの内容を整備して2017年3月、“Proceedings of the International Symposium on Thalidomide Embryopathy in Tokyo, 2015”(Final edition)を発行した。この本はサ症の臨床研究および問題点の検討という意味において、現在のサ症臨床研究の国際的教科書とも呼べる内容となっており、国内の専門家のみならず欧州、豪州の研究者らに配布することで、今後我々が考えていくべき問題を提起し対策を国際的に押し進める起爆剤になるものと確信している。5.2016年3月に新設したサリドマイド胎芽症研究会HPのコンテンツを充実させて(研究会の案内や下記小冊子の掲載等)、HPはさらに有意義なものとなった。6.昨年度末に編集した小冊子「インフルエンザ対策と口腔ケア ━ サリドマイド薬禍者の皆様へ」を発行し、各サ症者に配布したほか、いしずえ全国交流会 2016で日ノ下が「サリドマイド胎芽症研究班の活動とサリドマイド被害者の健康管理」という講演を行いサ症者と直接交流を持ったが、こうした活動は研究班から直にサ症者に働きかける手法であり十分な効果が得られたと思う。
結論
本研究班の活動は多岐に渡るが、計画した活動・研究はほぼ完遂することができた。人間ドックの形式による健診や研究会の開催、診療ガイドブックや国際シンポのProceedingsおよび小冊子の作成、講演会活動、HPによる情報発信を通じ、サ症者の健康増進を押し進め、問題点やその対策を十分検討することができた。

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201623014B
報告書区分
総合
研究課題名
サリドマイド胎芽病患者の健康、生活実態の諸問題に関する研究
課題番号
H26-医薬A-指定-003
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
日ノ下 文彦(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 腎臓内科)
研究分担者(所属機関)
  • 大西 真( 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター  )
  • 田嶋 強( 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター  放射線科)
  • 今井 公文( 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター  精神科)
  • 新保 卓郎(太田綜合病院 西ノ内病院)
  • 田上 哲也(国立病院機構京都医療センター 健診センター)
  • 長瀬 洋之(帝京大学医学部 内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は、個々のサリドマイド薬禍者の健康状況把握や個別の対応だけに留まらず、サリドマイド胎芽症(以下、サ症)対策における系統だった基盤整備と国際化に重点を置いた。以下に目的を集約する。1)医療上・生活上の問題点を明確化する為の人間ドック健診とアンケート調査を継続、2)サリドマイド胎芽症研究会を新たに組織し、サ症に対する有効な対策および支援のあり方を学問的に検討、3)欧州を中心とする海外の専門家との交流を進め、国際的な医療情報交換を推進、4)国際シンポジウムをわが国で開催し、これを契機にグローバルな研究・支援体制を強化、5)「サリドマイド胎芽症診療ガイド」を作成し、馴染みのない医師、医療関係者でも診療や研究がし易い環境の整備、6)サ症研究会ホームページ(HP)を作成し、情報の発信・交換の窓口とする。
研究方法
1)サ症者の人間ドック健診を3医療施設で実施し総括する。合わせて、アンケート調査「こころの健康と QOL(生活の質)に関する検討」も継続する。2)サ症研究会を設立し、2年ごとに研究会を開催する。3)研究班員が欧州に複数回赴き、サ症の関連財団や主だった専門家らと交流し意見交換を図る。4)海外のサ症専門家を招いて東京で国際シンポジウムを開催し、その内容を Proceedings にまとめて発行する。5)3年間の活動をもとにあらゆる分野の対策と診療方法を総括して「サリドマイド胎芽症診療ガイド 2017」を発行する。6)サ症研究会の HP を新たに設け、日本語のみならず英語の情報も掲載して、広くわが国の薬禍者や専門家、諸外国の研究者に向けた情報発信に努める。7)継続的かつ普遍的な診療・研究体制を作る為、「サ症関連医療者ネットワーク」を新たに構築する。
結果と考察
1)3年間で57名の健診を実施し個々の薬禍者に健康上の問題点をフィードバックした。脂肪肝や脂質代謝異常、高血圧、耐糖能障害, 脂肪蓄積の存在が目立ち、生活習慣病対策の重要性が浮き彫りになった。「こころの健康と QOL(生活の質)に関する検討」によると、サ症者は一般群よりも精神的健康度が低く、聴覚障害者は四肢障害群より不安や不眠傾向が強いことが分かった。2)サ症研究会を設立し、2015年1月25日、2017年2月18日の2回、研究会を開催した。3)研究代表者ら3名の研究班員が2度欧州に赴き情報交換するとともにディスカッションも行った。訪問先はドイツのコンテルガン財団、英国の The Thalidomide Trust、スウェーデンの The EX Center や主なサ症研究家・臨床医である。知遇を得た外国人研究者、専門家らとはその後も情報交換を継続した。4)2015年11月21日、国際シンポジウムを開催し “Proceedings of the International Symposium on Thalidomide Embryopathy in Tokyo, 2015” (Final Edition) を発行した。この本は現在のサ症臨床研究の国際的教科書とも呼べる内容であり、国内外の専門家・研究者らに配布し、問題点を国際的に解決していく道筋を作った。5)本研究班のすべての検討、活動をもとに「サリドマイド胎芽症診療ガイド 2017」を発行した。これは、サ症に関してあらゆる分野を網羅した包括的教科書(本研究班の集大成)と言えるものである。6)2016年3月、サリドマイド胎芽症研究会 HP を立ち上げ、少しずつコンテンツを充実させているほか、感染予防対策の一環として小冊子「インフルエンザ対策と口腔ケア ━ サリドマイド薬禍者の皆様へ」を発行し、各サ症者に配布した。主任研究者を中心に「いしずえ」の交流会などに数回参加し、健康増進の為の講演を行うなどサ症者と直接交流するアプローチも実行した。7)2016年、「サ症関連医療者ネットワーク」を立ち上げた。これは、東京など大都市圏に限らず、地方でもサ症者が気軽に診療を受けることができるよう、サ症の臨床や検討、研究に携わったことのある全国の医師、歯科医師、看護師、コメディカル等のネットワークであるが、今後のサ症の臨床、研究に寄与するものと考えている。
結論
本研究班の活動は多岐にわたるが、計画した活動・研究はほぼ完遂することができた。人間ドックの形式による健診や研究会の開催、診療ガイドブック、国際シンポジウムの Proceedings および小冊子の作成、海外の専門家との交流、講演会活動、HP による情報発信を通じてサ症者の健康増進を押し進め、問題点やその対策を煮詰めるとともに、研究班の活動のグローバル化を推進できた。

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201623014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
延べ57名の人間ドック健診を実施し、前研究班から始めた調査によりサリドマイド胎芽症(サ症)者の様々な臨床医学的特徴と問題点を把握、学術誌に発表した。国内外の専門家を招いて国際シンポジウムを開催してサ症の様々な問題について国際的な意見交換を行い、その成果を Proceedings として発行した。都合2回渡欧し、サ症を扱う財団やスペシャリストを訪問して専門分野における国際交流の道筋を作った。また、本研究班の集大成として、臨床的テキストである「サリドマイド胎芽症診療ガイド 2017」も作成した。
臨床的観点からの成果
大勢のサ症者に人間ドック健診を実施し各人に健康上の問題点をフィードバックした。すべての検討、活動をもとにあらゆる分野の対策と診療方法を集約して、臨床現場で実際に役立つ「サリドマイド胎芽症診療ガイド 2017」を発刊した。サ症者が医療上の問題を抱えた際、医療関連施設に受診し易いよう「サ症関連医療者ネットワーク」を構築したほか、気道系や口腔の感染症を予防する為の小冊子「インフルエンザ対策と口腔ケア」も作成し、各サ症者に配布した。また、主任研究者を中心にサ症者の交流会で健康に関する講演を行った。
ガイドライン等の開発
サ症診療の規範となる「サリドマイド胎芽症診療ガイド 2017」を作成した(平成29年3月31日発行)。本書には、サ症診断の手順も記されており、現時点でのわが国の診断基準を示したものと考えて差し支えない。
その他行政的観点からの成果
「サ症研究会」を設立し、2015年1月と2017年2月に研究会開催。ネット上に研究会HPを新設し日本語、英語による情報発信開始 (http://thalidomide-embryopathy.com/)。「サ症関連医療者ネットワーク」は、サ症に関わる医師、研究者、医療従事者間でコンタクトが取り易くなるほか、行政からの情報発信や関連医療機関の把握に活用可。The Thalidomide Trust と情報交換したPopulation Mortality はサ症者を把握する為の貴重な国際的資料。
その他のインパクト
2015年11月21日、International Symposium on Thalidomide Embryopathy in Tokyo をソラシティカンファレンスセンターで開催(シンポジスト:海外から8名の専門家と研究班員)。2016年3月、サ症研究会HPを立ち上げ。2015年10月27日付けの讀賣新聞朝刊で医療ルネサンス「薬害の背景 回収遅れたサリドマイド」が掲載(日ノ下コメント有り)。NHK ETV 特集「薬禍の歳月~サリドマイド事件50年~」が同年2月13日、7月11日に放送。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
Tajima T et al.Clin Radiol 71:1199 e1. Shiga T et al.Birth Defects Res A Clin Mol Teratol 103:787. 等
その他論文(和文)
4件
栢森良二. サリドマイド薬害の教訓. 薬局 66:15. 栢森良二.【顔面神経とその周辺-最近の進歩とトピックス】陳旧性顔面神経麻痺のリハビリテーション. JOHNS 31:739 等
その他論文(英文等)
1件
Consideration of the Light and Dark Sides of Medicines: The Thalidomide Example. Adv Case Stud.
学会発表(国内学会)
4件
曽根英恵, ほか. 第35回日本心理臨床学会秋季大会. 横浜, 9月, 2016. ほか3件。
学会発表(国際学会等)
1件
Shiga T, et al. The 55th Teratology Society’s Annual Meeting. Montreal, 6月, 2015
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
本研究班により、サリドマイド胎芽病がサリドマイド胎芽症と呼称することが決められた。
その他成果(普及・啓発活動)
8件
サリドマイド胎芽症診療ガイドブック 2017。国際シンポの Proceedings。小冊子「インフルエンザ対策と口腔ケア サリドマイド薬禍者の皆様へ」作成。HP 開設。講演活動数回。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shiga T, Shimbo T, Yoshizawa A.
Multicentre Investigation of Lifestyle-Related Diseases and  Visceral Disorders in Thalidomide Embryopathy at around 50 years of age.
Birth Defects  Research Part A: Clin Mol Teratol , 103 (9) , 787-793  (2015)
原著論文2
Tajima T, Wada T, Yoshizawa A, et al.
Internal anomalies in thalidomide embryopathy: results of imaging screening by CT and MRI.
Clin Radiol , 71 (1199) , e1-e7  (2016)

公開日・更新日

公開日
2017-06-22
更新日
2018-06-21

収支報告書

文献番号
201623014Z