血液製剤の病原体不活化法の評価法開発と実ウイルスとモデルウイルスとの相違に関する研究

文献情報

文献番号
201623013A
報告書区分
総括
研究課題名
血液製剤の病原体不活化法の評価法開発と実ウイルスとモデルウイルスとの相違に関する研究
課題番号
H27-医薬A-一般-007
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 義昭(埼玉医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 坂井 薫(一般社団法人 日本血液製剤機構)
  • 下池 貴志(国立感染症研究所)
  • 野島 清子(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
2,310,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血漿分画製剤や輸血用血液における病原体不活化や除去法の評価は、B型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)など培養が困難なウイルスは、性状が類似した動物由来のウイルスがモデルウイルスとして用いられてきた。その一方でモデルウイルスは実際のウイルスと本当に類似しているのか解析されたことがなかった。最近、in vitroで増殖可能なHCV株が樹立されたのでその株を用いて病原体不活化や除去法の評価を行い、モデルウイルスとの相違を明らかにすることを目的とした。特にHCVでは、免疫グロブリン分画のHCVの不活化や除去の評価をした。また、最近問題となっているE型肝炎ウイルス(HEV)は従来のエンベロープを有しないウイルスとは異なる性状を有しているとの報告があり、Cohnの分画での影響を解析した。さらに赤血球の病原体不活化は、不活化法を補助する方法としてウイルス除去法の効果を解析した。
研究方法
実験室用にスケールダウンしたCohn分画法を確立し、それに従ってエタノール分画を行なった。JFH−1(in vitroで増殖可能なC型肝炎ウイルス株)添加して17%エタノール分画を行い、それぞれの沈殿と上清に分画した。これを密度で更に分けて、それぞれのHCVの感染性、核酸量、コアタンパク量を測定した。また、HEVの研究では血漿由来のHEVを25%及び40%のエタノールで前処理してからグロブリン分画を行い、沈殿及び上清へ移行するHEV量を検討した。また、不活化の効果を評価するために必要な高力価のHEVを得るためにリバースジェネティックス法を用いて高力価のウイルスを産生する細胞株の樹立を目指した。赤血球の病原体不活化法の研究では、不活化法の効果を高めるためにウイルス除去法の検討を行った。さらに不活化法や除去法は、感染価の減少をもって評価することから高い感染価を有するウイルス液を簡便に調整できる方法を構築した。
結果と考察
17%エタノール処理によって分画を沈殿と上清に分離してそれぞれのHCVの性状を解析したところ、17%エタノール処理によって密度が異なる複数のHCVが存在していた。沈殿分画には密度が大きいHCVが存在し、感染性も検出できた。一方、グロブリン製剤となる上清からは、HCVのゲノム量は 3Log減少し感染性も検出感度以下になっていた。HCVは20%エタノール処理では、不活化されなかったが、17%エタノール処理によってグロブリン分画から効率良く除去されていたことが実験的に示すことができた。このためにグロブリン製剤によるHCV感染は、生じなかったと考えられた。また、血漿由来のHEVを25%及び40%エタノールで前処理してからグロブリン分画を行い沈殿と上清に移行するウイルスの量を検討した。その結果、40%エタノール処理では脂質が除去されHEVの密度は大きくなり、糞便由来のHEVの密度に近い値となった。また、非処理または25%エタノール前処理の血漿由来HEVは、分画II+IIIにおいて上清に84〜95%分配されたが、40%エタノール前処理では沈殿により多く分配された。分画の条件で密度が変化し、HEVの各分画への移行する比率が影響を受ける可能性があることを実験的に示した。また、血漿中の HEVは、脂質膜を有していることが実験的に示された。さらに血漿中のウイルス量は一般的に少ないので高い感染価を有する血漿を得ることは困難である。今回、リバースジェネティックス法によって細胞株が高いウイルスを産生することが確認された。HEVの除去や不活化法の評価に貢献すると期待できる。
更に赤血球製剤の病原体不活化法では、効率を高める目的で製剤中からウイルスを除去する方法を検討した。ウイルスは一般的に陰性に荷電していることから陽性に荷電している物質と結合すると考え、陽性に荷電したビーズを用いて除去効果を検討した。4時間の吸着で僅かに 1Log感染価が低下しただけであり、全く効果がなかったウイルスも存在した。pH等、至適条件を求める必要がある。また、市販されている exosome精製試薬を用いてウイルスの濃縮を行なったところ、低速遠心機程度の遠心力でウイルス液10mLを 100μLに濃縮できた。感染価も20〜100倍に濃縮された。通常の培養では得られない高感染価のウイルス液は、不活化法や除去法の評価に役立つと思われた。
結論
HCVは17%エタノールによって効率良くグロブリン分画から除去できた。HEVは細胞由来の脂質が結合しているため処理する条件によっては、Cohn分画法での挙動が変化する可能性が示唆された。また、市販のexosome 精製試薬を用いて感染性を保持したままウイルスが濃縮できた。

公開日・更新日

公開日
2017-06-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201623013B
報告書区分
総合
研究課題名
血液製剤の病原体不活化法の評価法開発と実ウイルスとモデルウイルスとの相違に関する研究
課題番号
H27-医薬A-一般-007
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 義昭(埼玉医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 坂井 薫(一般社団法人 日本血液製剤機構)
  • 下池 貴志(国立感染症研究所)
  • 野島 清子(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血漿分画製剤や輸血用血液における病原体不活化や除去法の評価は、性状が類似した動物由来のウイルスがモデルウイルスとして用いられてきた。その一方でモデルウイルスは実際のウイルスと本当に類似しているのか解析されたことがなかった。最近、in vitroで増殖可能なHCV株が樹立されたのでその株を用いて病原体不活化や除去法の評価を行い、モデルウイルスとの相違を明らかにすることを目的とした。特にHCVでは、免疫グロブリン分画のHCVの不活化や除去の評価をした。また、最近問題となっているE型肝炎ウイルス(HEV)は従来のエンベロープを有しないウイルスとは異なる性状を有しているとの報告があり、血漿分画製剤の安全性確保のためにCohnの分画でのウイルスの挙動を解析した。さらに赤血球の病原体不活化は、不活化法を補助する方法としてウイルス除去法の効果を解析した。
研究方法
 実験室用にスケールダウンしたCohn分画法を確立し、それに従ってグロブリン分画でのHCVと牛下痢症ウイルス、及びHEVの挙動を解析した。JFH−1(in vitroで増殖可能なC型肝炎ウイルス株)を添加して20%と17%エタノール分画を行なった。これを密度で更に分けて、それぞれのHCVの感染性、核酸量、コアタンパク量を測定した。また、血漿由来のHEVを25%及び40%のエタノール、界面活性剤等で前処理してからグロブリン分画を行い、沈殿及び上清へ移行するHEV量を解析した。また、不活化の効果を評価するために必要な高力価のHEVを得るためにリバースジェネティックス法を用いて高力価のウイルスを産生する細胞株の樹立を目指した。赤血球の病原体不活化法の研究では、不活化法の効果を高めるためにウイルス除去法の検討を行った。さらに不活化法や除去法のために高い感染価を有するウイルス濃縮法を検討した。
結果と考察
工程の17%エタノール処理によって、グロブリン製剤となる上清からはHCVの感染性は検出限界以下となり、廃棄される沈殿の方に移行した。HCVのモデルウイルスである牛下痢症ウイルスも同じ挙動を示した。沈殿と上清のHCVの性状を解析したところ、17%エタノール処理によって沈殿分画には密度が大きいHCVが存在し、感染性も検出できた。一方、グロブリン製剤となる上清からは、HCVのゲノム量は 3Log減少し感染性も検出感度以下になっていた。HCVは17%エタノール処理によってグロブリン分画から効率良く除去されていたことが実験的に示すことができた。このためにグロブリン製剤によるHCV感染は、生じなかったと考えられた。また、血漿由来のHEVを25%及び40%エタノール、界面活性剤で前処理してからグロブリン分画を行い沈殿と上清に移行するウイルスの量を検討した。その結果、40%エタノールや界面活性剤処理では脂質が除去されHEVの密度は大きくなり、糞便由来のHEVの密度に近い値となった。また、非処理または25%エタノール前処理の血漿由来HEVは、分画II+IIIにおいて上清に84〜95%分配されたが、40%エタノールや界面活性剤の前処理では沈殿により多く分配された。分画の条件で密度が変化し、HEVの各分画への移行する比率が影響を受ける可能性があることを実験的に示した。また、血漿中の HEVは、脂質膜を有していることが実験的に示された。さらに血漿中のウイルス量は、一般的に少ないので除去等の評価に用いる高力価のHEVを得るためにリバースジェネティックス法を用いて細胞株に遺伝子導入したところ、高いウイルスを産生することが確認された。HEVの除去や不活化法の評価に貢献すると期待できる。
 赤血球製剤の病原体不活化法では、細胞透過性が良いメチレンブルーの誘導体を用いることで高い不活化効果が得られた。さらに効率を高める目的で製剤中からウイルスを除去する方法を検討した。ウイルスは一般的に陰性に荷電していることから陽性荷電したビーズを用いて除去効果を検討したが、有効な除去効果は得られなかった。また、除去や不活化の評価に必要な高感染価を有するウイルス液を得るために市販されている exosome精製試薬を用いてウイルスの濃縮を行なった。ウイルス液10mLを 100μLに濃縮でき、感染価も20〜100倍に濃縮された。通常の培養では得られない高感染価のウイルス液は、不活化法や除去法の評価に役立つと思われた。
結論
 HCVは17%エタノールによって効率良くグロブリン分画から除去できた。HEVは細胞由来の脂質が結合しているため処理する条件によっては、Cohn分画法での挙動が変化する可能性が示唆された。また、市販のexosome 精製試薬を用いて感染性を保持したままウイルスが濃縮できた。

公開日・更新日

公開日
2017-06-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201623013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
の感染系がなかったのでその詳細は不明であった。今回、培養可能なC型肝炎ウイルス(HCV)であるJFH−1株を用いてグロブリン分画での挙動を解析したところ、HCVは 20%エタノールで不活化されるのではなく17%
エタノール分画で効率良く除去されることを実験的に明らかにできた。また、除去される機序も明らかにすることができた。これまでHCVを用いた詳細な検討はなく、グロブリン製剤の安全性評価に有用な成果を得ることができた。
臨床的観点からの成果
グロブリン製剤によるHCV感染は、日本では明らかな症例はない。今回、実験的にグロブリン製剤の工程中にHCVが除去されることを明らかにできた。臨床的に感染がなかった理由を疫学的な解析だけでなく実験的に示すことできた。
ガイドライン等の開発
 該当なし
その他行政的観点からの成果
過去の凝固因子製剤やフィブリノゲン製剤によってHCV感染が生じたが、免疫グロブリン製剤による感染は日本では報告されていない。今回の研究によって免疫グロブリンの分画において20%エタノールでは、HCVは不活化されなかったが、17%エタノール処理工程によって効率良く除去されることを実験的に明らかにできた。この機序によって過去のグロブリン製剤によるHCV感染が防止できていたと考えられた。また、HEVのCohn分画での挙動を明らかにしたことは、血漿分画製剤の安全性確保のために重要な情報になる。
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-05-28
更新日
2022-06-09

収支報告書

文献番号
201623013Z