地域のチーム医療における薬剤師の本質的な機能を明らかにする実証研究

文献情報

文献番号
201623005A
報告書区分
総括
研究課題名
地域のチーム医療における薬剤師の本質的な機能を明らかにする実証研究
課題番号
H26-医薬A-一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
今井 博久(東京大学 大学院医学系研究科・医学部 地域医薬システム学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤 秀昭(医療法人社団明芳会 イムス三芳総合病院薬剤部)
  • 富岡 佳久(東北大学大学院 薬学研究科)
  • 櫻井 秀彦(北海道薬科大学 薬学部・医療マーケティング、医療経済学)
  • 庄野 あい子(明治薬科大学 公衆衛生・疫学教室)
  • 中尾 裕之(宮崎県立看護大学 看護人間学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
3,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、超高齢社会における薬剤師の専門的な役割の検討を行い、医師や看護師などと連携したチーム医療において実効性ある薬物療法の管理という本質的な機能に関する科学的なエビデンスを構築することである。具体的には、(1)長期処方の分割調剤のインパクト、(2)検査値付き処方箋発行による患者ならびに薬剤師への影響分析、(3)地域包括ケアにおける在宅医療の薬剤師業務実態の全国調査、(4)入院患者の転倒と服用薬剤との関連性分析、の4つを大きなテーマとした実証研究を行った。とりわけ、前三者は薬剤師が患者情報を得て多職種連携(チーム医療)により専門性を発揮するという新しい本質的な機能に関するエビデンスを獲得するものである。
研究方法
まず(1)では、ある地域における長期処方の分割調剤が実施されている患者、薬剤師、医師に対して質問票調査を実施した。患者アウトカムへの影響、患者の動向(面分業の拡がり)、残薬調査など患者の適正な服薬状況、かかりつけ薬局および門前薬局と診療所間との患者情報管理の方法、医師の負担感や満足感、薬局の労力や業務内容などについての質問を行った。(2)では、調査対象患者は、調査当日に薬局に処方せんを持参した患者で患者の主疾患、年齢、性別は問わなかった。質問票の配布と記入では、処方箋を持参した患者に本調査の趣旨を説明し同意を得た患者に質問票を手渡し、調剤の待ち時間に記入を依頼した。質問票の回収は、薬の引き渡し時とした。(3)では、全国の保険薬局の管理薬剤師に対して「地域包括ケアシステムにおける薬剤師による在宅業務に関する調査」と題した一連の質問項目に回答を依頼する方法で実施した。調査の質問票は、在宅ケアを行っている薬剤師、看護師などの医療者と質問票開発会議を開催して作成した。(4)では、関東地方の15医療施設を対象とした。対象者の選定基準として平成28年10月1日から31日に退院した入院患者のうち、対象年齢を退院時65歳以上とした。転倒に関する情報は、インシデントレポートが施設間で統一されていたため、各医療機関のインシデントレポートより収集した。
結果と考察
まず(1)では、調査の観察対象者は18人であった。途中脱落者などデータの不備がある対象者を除き、解析対象者は12人(項目では13人の場合もあった)になった。患者からの結果として、分割調剤をよかったと思うかの問いには、75%の患者が良かったと回答していた。薬剤師からの結果として、患者の副作用症状の把握が可能になったのは69%であった。薬剤師の92%が、患者の服薬状況を把握できるようになったと回答した。薬剤師からの情報提供が患者の服薬状況の把握に役立ったと回答した医師は84%、薬の効果の把握に役立ったと回答した医師は77%であった。分割指示処方せんの実施に伴い、62%の医師は業務負担が軽減したと感じていた。85%の医師が、分割調剤を実施してよかったと回答した。長期処方の分割調剤は、医師にとっても肯定的な利点があることが示唆された。(2)では、前回実施した調査の「検査結果の報告書を処方せんと一緒に薬局に提出したことがある」という患者割合は低下した。しかし、積極的に薬剤の副作用や検査値と処方の関連性など分かりやすく解説する公開講座を実施している県では増加した。このことから、「臨床検査値のデータを薬局に提供する」という患者意識の高まりには、こまめに薬剤に係る公開講座開催など啓発・啓蒙活動の有用性が示唆された。(3)では、在宅訪問業務に係る多職種との連携に対して、主治医及びケアマネジャーとの連携はそれぞれ74%、68%であったが、病院薬剤師との連携は26%であった。(4)では、個々の医薬品群と転倒との間には関連は認められなかったが、睡眠薬または抗認知症薬の服薬と転倒、および睡眠薬または抗不安薬、抗認知症薬の服薬と転倒との間には関連が認められた。
結論
わが国が超高齢社会を迎えて、医療提供の主な対象者は高齢者になっている。本研究では、在宅医療を必要とする患者、病院に入院中の患者など、高齢患者を中心として、対象者に設定した。本研究の結果、分割調剤によって、薬剤師が服薬や副作用の状況を把握できるとともに、医師にとっても薬効評価や業務負担の軽減に効果的であることが示された。また、薬剤の副作用については、検査値報告書とともに処方せんが提示されることや、一般市民向けの公開講座などの啓発・啓蒙活動が患者意識を高めることにつながることが示された。一方、多職種連携という点では、在宅訪問業務に係る多職種間において、高い連携が示されたものの、薬剤間の同職種連携をより活発に行う必要性が明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201623005B
報告書区分
総合
研究課題名
地域のチーム医療における薬剤師の本質的な機能を明らかにする実証研究
課題番号
H26-医薬A-一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
今井 博久(東京大学 大学院医学系研究科・医学部 地域医薬システム学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤 秀昭(医療法人社団明芳会 イムス三芳総合病院薬剤部)
  • 富岡 佳久(東北大学大学院 薬学研究科)
  • 櫻井 秀彦(北海道薬科大学 薬学部・医療マーケティング、医療経済学)
  • 庄野 あい子(明治薬科大学 公衆衛生・疫学教室)
  • 中尾 裕之(宮崎県立看護大学 看護人間学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の中心的なテーマは、薬剤師が何らかの方法により患者情報、すなわち一元的な処方薬情報、検査値情報、患者の状態情報などを得て、服用薬剤の総合的な薬効評価を行って処方の再設計を企画し、医師と連携して積極的に薬物治療のマネジメントを担うためのエビデンスを構築することである。このテーマの副次的課題として(1)ポリファーマシーや不適切な処方への介入に関する実態調査および方策に関する研究、(2)検査値付き処方箋による保険薬局薬剤師へ影響の調査、(3)長期処方の分割調剤のパイロットスタディ、(4)入院患者における服用薬剤と患者アウトカムの解析を実施してきた。
研究方法
以下では、4つの個別課題の方法を説明する。(1)では、在宅医療の全国調査を実施した。調査の質問票は、在宅ケアを行っている薬剤師、看護師等の医療者と質問票開発会議を開催して作成した。方策に関してはフォーカスグループインタビューによる方法で実施した。医師と薬剤師によるグループ会議を2回別途に開催した。会議では、ポリファーマシーや不適切な処方等の原因、改善案、および医師との協働という視点から、医師と薬剤師の協働により何を行うのがよいか、その方法についてブレインストーミングを実施した。(2)では、平成26年度に、患者は薬剤の処方箋に自らの検査値が記載されて効果的な治療や副作用防止に役立てられることを知っているのか、薬剤師が適切な薬物療法の管理をすることをどのように感じているのか等に関する意識調査を実施した。その影響を検討するために、平成28年度に保険薬局に来局した患者に「あなたは服用する薬剤の副作用を気にしますか」「検査結果の報告書を処方せんと一緒に薬局に提出したことがある」などの質問を行い検査値付きの処方箋に関する影響を分析した。(3)では、ある地域における長期処方の分割調剤が実施されている患者および薬剤師、医師に対して質問票調査を実施した。観察対象者は最終的に12人(項目によっては13人の場合もあった)で、分割調剤の導入による患者アウトカムへの影響、残薬調査など患者の適正な服薬状況、患者および薬剤師、医師の負担感や満足感などについての質問を行った。(4)では、「入院患者の持参薬の内容を確認した上で、医師に対し、服薬計画を提案するなど、当該患者に対する薬学的管理を行うこと」が厚生労働省医政局長通知(平成22年4月30日付医政発0430第1号「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」)に明記されたことに従って、患者225人の「病棟薬剤業務シート」を調査資料とし、入院時の持参薬の有無と検査所見、さらに薬剤師の情報提供(処方提案)した内容を解析した。また関東地方の15医療施設入院中の患者の服薬情報および各医療機関のインシデントレポートより転倒情報を収集した。
結果と考察
(1)在宅訪問業務に係る多職種との連携に対して、主治医とは74%であったが、病院薬剤師との連携は26%であった。また認知症患者およびがん患者の薬物治療では適切な薬物治療マネジメントが実施されておらず、副作用がかなり認められた。今回の全国調査では、多職種連携が不十分であることが明らかになり、より一層の連携が期待される。また、フォーカスグループインタビューによる方策の研究では、ポリファーマシーや不適切な処方等発生を回避するためには、まずその実態把握が必要であるとのコンセンサスを得た。(2)平成26年度では、患者は処方されている薬剤の副作用に関しては高い関心を抱き、自らの検査値が記載された用紙を求め、処方箋に検査値が記載された用紙を薬剤師に提示することに抵抗感は少ない、という者が多かった。平成28年度の調査では、積極的に薬剤の副作用や検査値と処方の関連性など分かりやすく解説する公開講座を実施している県では、検査値付き処方箋を保険薬局に提出する件数が増加していたことから、患者への啓発・啓蒙が重要であることがわかり、例えば検査値と処方薬の関係などに係る公開講座などの開催の有用性が示唆された。(3)長期処方の分割調剤は、医師にとっても肯定的な利点があることが示唆され、薬剤師にとっては業務上で多少の負担は増えるが、患者との意思疎通を図り、薬剤師としての専門性を発揮し、安全で効果的な薬物療法を実現できる可能性が示された。(4)重篤な副作用の予兆の確認、薬物の吸収・分布・代謝・排泄の体内動態を左右する肝機能、腎機能など入院時の情報に基づき入院時持参薬を解析評価し、薬剤の投与量の調節や、薬剤の変更・中止などの処方の再設計の重要性が示唆された。
結論
薬剤師は、医師や看護師等との間で多職種連携を行い患者情報の共有を図り、薬物治療のマネジメントを担うことが患者アウトカム改善につながるエビデンスが得られた。

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201623005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ポリファーマシー(PP)や不適切な処方(PIM)の原因、改善案、医師との協働という視点から、医師と薬剤師の協働により何を行うのがよいか、その方法についてブレインストーミングを実施した。その結果、患者側、医療者側(特に医師、薬剤師)、制度側からの多様な原因が複合的作用により発生しており、回避には、PPやPIM等の発生の実態把握が必要であるとのコンセンサスを得た。また、全国調査を実施し、その実態、多職種連携の状況、認知症やがんの患者の薬剤の存在率や原因、薬剤師の介入効果などを明らかにした。
臨床的観点からの成果
分割調剤が始まり、臨床からのエビデンスが必要である。パイロット調査を行い、今後に向けた研究に資する臨床からの知見が得られた。薬剤師からの結果として、患者の副作用症状の把握が可能になったのは、薬剤師の69%であった。薬剤師からの情報提供が患者の服薬状況の把握に役立ったと回答した医師は84%、薬の効果の把握に役立ったと回答した医師は77%であった。62%の医師は業務負担が軽減したと感じていた。患者との意思疎通を図り、薬剤師としての専門性を発揮し、安全で効果的な薬物療法を実現できる可能性が示された。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
国際専門誌にわが国のポリファーマシーの実態や副作用のprevalenceを示し、わが国の医療政策(医薬品の提供政策)に活用された。また、長期処方の分割調剤は制度が開始されてから最初のデータなので政策の反映や浸透を計る資料に使用された。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
19件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
37件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Imai H, Nakao H, Shinohara H, et al.
Prevalence, Potential Predictors, and Genotype-Specific Prevalence of Human Papillomavirus Infection among Sexually Active Students in Japan.
PLoS ONE , 10 (7)  (2015)
10.1371/journal.pone.0132462.
原著論文2
Onda M, Imai H, Takada Y, Fujii S,et al.
Identification and prevalence of adverse drug events caused by potentially inappropriate medication in homebound elderly patients: a retrospective study using a nationwide survey in Japan.
BMJ Open , 5 (8)  (2015)
10.1136/bmjopen-2015-007581.
原著論文3
Iwabuchi H, Imai Y,Imai H,et al.
Evaluation of Postextraction Bleeding Incidence to Compare Patients Receiving and Not Receiving Warfarin Therapy: a Cross-sectional, Multicentre, Observational Study.
BMJ Open , 4  (2014)
10.1136/bmjopen-2014-005777.
原著論文4
Yako-Suketomo H, Katanoda K, Imai H,et al
Practical use of cancer control promoters in municipalities in Japan.
Asian Pac J Cancer Prev. , 15 (19)  (2014)
原著論文5
渡辺智康,毎熊隆誉,今井博久,他
療養病蓮における入院9週目以降での薬剤師の介入効果 -病院薬剤業務における処方提案-
医療薬学 , Vol.42 ( No.8) , 1-7  (2016)
原著論文6
七海陽子,恩田光子,今井博久
全国調査による分析的観察研究からの考察
日本薬師師会雑誌 , 第68巻 (第1号) , 35-39  (2016)
原著論文7
恩田光子,今井博久,春日美香,他
薬剤師の在宅医療サービスによる残薬解消効果
医学品情報学 , Vol.17 (No.1) , 21-33  (2015)
原著論文8
恩田光子,今井博久,七海陽子,他
薬剤師による在宅患者訪問に係る業務量と薬物治療アウトカムの関連
薬学雑誌 , Vol.135 ( No.3) , 519-527  (2015)

公開日・更新日

公開日
2021-07-19
更新日
2021-07-21

収支報告書

文献番号
201623005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,900,000円
(2)補助金確定額
3,900,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 101,920円
人件費・謝金 151,760円
旅費 820,736円
その他 2,793,539円
間接経費 0円
合計 3,867,955円

備考

備考
経費節約による

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-