食品を介したダイオキシン類等の人体への影響の把握とその治療法の開発等に関する研究

文献情報

文献番号
201622031A
報告書区分
総括
研究課題名
食品を介したダイオキシン類等の人体への影響の把握とその治療法の開発等に関する研究
課題番号
H27-食品-指定-017
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
古江 増隆(九州大学 大学院医学研究院皮膚科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 赤羽 学(奈良県立医科大学 公衆衛生学講座)
  • 内 博史(九州大学 大学院医学研究院皮膚科学分野)
  • 香月 進(福岡保健環境研究所)
  • 二宮 利治(九州大学 大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野)
  • 申 敏哲(シン ミンチョル)(熊本保健科学大学 保健科学部リハビリテーション学科)
  • 園田 康平(九州大学 大学院医学研究院眼科学分野)
  • 今福 信一(福岡大学医学部皮膚科)
  • 福士 純一(九州大学病院 整形外科)
  • 江崎 幹宏(九州大学病院 病態機能内科)
  • 古賀 信幸(中村学園大学 栄養科学部)
  • 月森 清巳(福岡市立こども病院)
  • 辻 博(西日本短期大学 社会福祉学科)
  • 中西 洋一(九州大学 大学院医学研究院呼吸器内科学分野)
  • 山下 謙一郎(九州大学病院 神経内科)
  • 石井 祐次(九州大学 大学院薬学研究院分子衛生薬学分野)
  • 竹中 基(長崎大学医歯薬学周防豪研究科皮膚病態学分野)
  • 上松 聖典(長崎大学病院 眼科)
  • 川崎 五郎(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科口腔腫瘍治療学分野)
  • 戸高 尊(公益財団法人北九州生活科学センター)
  • 三苫 千景(九州大学病院油症ダイオキシン研究診慮センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
183,959,000円
研究者交替、所属機関変更
宇谷厚志(平成28年11月11日)→竹中基(平成28年11月12日) 村井弘之(平成28年12月31日)→山下謙一郎(平成29年1月1日)

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類が生体に及ぼす慢性影響を把握し、油症患者に残存する症状を緩和する方法を開発する。
研究方法
油症検診の結果をもとに生体内におけるダイオキシン類の毒性、動態を検証した。基礎的研究では、動物モデルを用いてダイオキシン類の毒性、代謝や排泄、母児間の影響を検証し、培養ヒト細胞を用いてダイオキシン類受容体(AhR)の活性を抑制しうる薬剤の探索を行った。
結果と考察
油症検診結果より現在の患者の状況を把握した。平成27年度検診受診者は644名で50歳以上が全体の86.5%を占めた。自覚症状では全身倦怠感が最も多く73.4%にみられた。他覚所見では、肝・胆・脾エコーの有所見率が74.6%と最も高かった。眼科的所見、口腔カンジダの発現率など患者に有意に高い所見はなかった。
臨床追跡、疫学調査を行った。平成27年度に実施した地域住民495人を対象にした環境調査における血液中総ダイオキシン類及びPCB平均濃度はそれぞれ24 pg TEQ/g lipid、214 pg/g lipidだった。また、血液中2,3,4,7,8-PeCDF濃度は中央値で10.5 pg/g lipidだった。平成27年度に実施した桂枝茯苓丸の臨床試験にて3ヵ月の内服前後で全身倦怠感、皮膚症状の軽減がみられた。平成28年度福岡県検診において甲状腺自己抗体の陽性率とPCB濃度との相関を検証したところ、抗サイログロブリン抗体は血中PCB高濃度群において低濃度群に比較し有意に高頻度で、PCB曝露が甲状腺機能に慢性影響を及ぼしていると示唆された。患者における脳機能的結合異常を検出するための安静時機能的MRIの解析法を確立した。ダイオキシン類曝露が免疫機能の及ぼす影響を明らかにすべく、NK細胞数に影響を与えるIL-12と、NK細胞が産生するIFN-について検証したところ、IL-12は増加傾向でIFN-は患者で有意に低値であった。患者において活性化が示唆される制御性T細胞が発現している血清CD27においては患者と健常人の発現値との間に有意な差はなかった。
ダイオキシン類の生体内動態、次世代への影響を検証した。平成27年度、患者の血液中平均総 TEQ(WHO2005)は64 pg TEQ/g lipid、2,3,4,7,8-PeCDF平均濃度は94 pg/g lipidだった。2,3,4,7,8-PeCDFの半減期とその変化を油症発生以降に生まれた患者と直接曝露した患者に分けて検証した。二世患者では血中2,3,4,7,8-PeCDF濃度が低くも増加していた。2,3,4,7,8-PeCDF濃度が10~20 pg/g lipidである、多くが油症発生以前に出生した一世患者ではダイオキシン類濃度は平衡状態に低濃度の側から近づいていた。患者より出生した女系の次々世代では、男児出生割合が0.38と低く、母体の分娩時血中ダイオキシン類推定濃度、中でも2,3,4,7,8-PeCDF濃度が高い場合に次世代の男児出生割合が低下した。しかし、母体のAHR遺伝子多型と次世代及び次々世代の男児出生割合との間に明らかな傾向はみられなかった。
基礎的研究ではダイオキシン類の生体内動態、毒性の把握、次世代への影響、治療薬の探索を行った。マウスにベンゾピレンを経気道的に投与し油症の動物モデルを作成した。ラットを用いた実験において、ベンゾピレンは末梢感覚神経であるA線維に選択的に作用し、伝導速度を緩徐化し、患者のしびれなどの感覚異常を引き起こした可能性が示唆された。桂枝茯苓丸に強いAHR活性抑制、抗酸化機構の活性化がある事、その作用に寄与する成分が桂皮に含まれるシンナムアルデヒドであることを明らかにした。これまで代謝されにくいと考えられてきた2,4,6-三塩素置換ベンゼンを有するPCB182は非常に代謝され易い事が明らかになった。2,3,7,8-tetrafluorodibenzo-p-dioxin (TCDD)が AHR を介して育児母の prolactin レベルを低下させ、育児抑制ひいては児の発育障害を惹起するとの新たな機構が見出した。TCDDの4 つの塩素原子をフッ素原子に置換した 2,3,7,8-tetrafluorodibenzo-p-dioxin (TFDD)をラットへの単回経口投与したところ、ダイオキシン様の急性毒性は示さず細胞レベルで TCDD に対して拮抗作用を示した。
結論
油症発生50年近く経過した現在も、患者及び継世代への影響がみられた。今後もダイオキシン類が生体に及ぼす慢性の影響を把握し、油症患者に残存する症状を緩和する方法を開発すべく探求を継続する。最後に、研究を通じて明らかになった様々な知見についてはホームページ、油症新聞等で広く公表した。

公開日・更新日

公開日
2017-11-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-07-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201622031Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
209,713,000円
(2)補助金確定額
209,713,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 52,955,519円
人件費・謝金 20,219,008円
旅費 3,978,234円
その他 106,807,877円
間接経費 25,754,000円
合計 209,714,638円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-07-05
更新日
-