文献情報
文献番号
201622015A
報告書区分
総括
研究課題名
マリントキシンのリスク管理に関する研究
課題番号
H27-食品-一般-009
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
長島 裕二(東京海洋大学 学術研究院)
研究分担者(所属機関)
- 佐藤 繁(北里大学 海洋生命学部)
- 荒川 修(長崎大学 水産学部)
- 大城 直雅(国立医薬品食品衛生研究所)
- 松浦 啓一(国立科学博物館)
- 石崎 松一郎(東京海洋大学 学術研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
17,008,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
食中毒を起こすフグ毒、シガテラ毒、貝毒等のマリントキシンは、人の健康危害因子として重要である。中でもフグ食中毒は、わが国の魚貝類による自然毒食中毒で最も多く発生し致死率が高い。このため、厚生労働省通知で食用可能なフグの種類、部位、漁獲海域を定め、都道府県条例等でフグ取扱いの施設と人を制限してリスク管理しているが、フグの高毒性化、交雑種フグの出現、フグ毒以外の毒化、巻貝によるフグ毒中毒など新たな問題が発生し、フグとフグ毒に対するリスク管理を強化、見直す必要がある。毒素検査法や有毒生物種判別法は喫緊の課題である。貝毒のリスク管理において、特定物質であるサキシトキシン(STX)にかわる標準品の選定が急がれている。こうした状況のもと、本研究では、1)フグ毒検査法の検討、2)フグ等の毒性評価、3)遺伝子によるフグ類等の種判別、4)フグ類の形態分類、5)PSP標準品の検討を行った。
研究方法
フグ毒検査法の検討では、フグ毒抽出法、添加回収試験によるHPLC-FLD法の妥当性、抗TTXポリクローナル抗体の作製を試みた。フグ等の毒性評価では、コモンフグ凍結魚と生鮮魚の筋肉の毒性、筋肉の毒性に及ぼす凍結解凍の影響、しらす加工品に混入したフグ稚魚の種と毒性を調べた。遺伝子によるフグ類等の種判別では、交雑種フグの両親種を判別できる特異的なDNAマイクロサテライトマーカーの探索と、有毒巻貝種判別では、加工品に対応できるPCR条件を検討した。フグ類の形態分類では、フグ類標本を詳細に研究し、日本産トラフグ属の形態分類の再検討を行った。PSP標準品の検討では、デカルバモイルSTX(dcSTX)の大量調製法を開発し、マウス試験におけるAOAC法との同等性を評価した。
結果と考察
フグ毒検査法の検討では、抽出法を簡便化した方法は現行の参考法に比べて精度が劣ることはなく、毒性値が最大で1.2倍高かった。HPLC-FLD法は抽出液中のマトリクスの影響を受けることは少なく、検出感度と精度は良好であり、食品の安全性を確認する方法として有用であることが示された。TTXにEDTとキーホールリンペットヘモシアニンを架橋させた抗原がウサギに対して高い抗体価を示し、抗TTXポリクローナル抗体として有望である。フグ等の毒性評価では、コモンフグ筋肉の毒力は生鮮魚ではほとんどが無毒であり、凍結解凍により毒性の高い皮から筋肉に毒が移行することが確認された。しらす加工品にコモンフグ、シマフグ、ナシフグ、ヒガンフグの稚魚の混入がみられ、1ロットから微量(56 ng/g)のTTXが検出されたが、それ以外からTTXは不検出または定量下限値(30 ng TTX/g)未満であった。遺伝子によるフグ類等の種判別では、核DNAマイクロサテライトのTATC反復配列がマフグとシマフグ間交雑種の判別に有効であることが示され、巻貝加工品は新たに作製したプライマーで種判別が可能になった。フグ類の形態分類では、コモンフグとクサフグに分類学上の問題があることがわかり、コモンフグとクサフグの学名が変更されたが、標準和名に変更がないのでフグのリスク管理に影響はない。日本産フグ科魚類を中心に、画像を多用したわかりやすいWEB版分類ガイドを作成し、厚生労働省ホームページに掲載するための準備を進めている。PSP標準品の検討では、STXやゴニオトキシンを原料にしてdcSTXを高収率、高純度で調製する方法を確立した。dcSTXの基準変換係数はSTXとほぼ等しいことがわかり、生物試験の標準化に使用できることが明らかになった。
結論
マウス試験法にかわるフグ毒検査法を検討し、フグ毒抽出法を改善し、HPLC-FLD法の有用性が確認された。抗TTXポリクローナル抗体の作製に成功し、今後、イムノクロマト法に基づくTTX検査キットの開発が期待される。コモンフグ筋肉の毒性は、主に皮からの移行によることが確認されたので、生鮮なうちに皮を剝ぐなどして筋肉への毒の汚染、移行を防ぐことで、フグ中毒のリスクを低減できると考えられる。しらす加工品に混入したフグ稚魚の一部試料からTTXが検出されたが、その量は極めて低く、フグ稚魚が混入したしらす加工品を食べた場合、健康被害への影響はないと考えられた。交雑種フグのうち、マフグとシマフグの交雑種で両親種を区別できる有望なマイクロサテライト領域が見出された。フグ科魚類の形態分類を整理し、わかりやすいWEB版のフグ類同定ガイドの作成に取り組んでいる。さらに、STXの代替標準品としてdcSTXの有用性が示されるなど、マリントキシンのリスク管理に向けた幅広い取組みが行えた。
公開日・更新日
公開日
2017-07-04
更新日
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