文献情報
文献番号
201622008A
報告書区分
総括
研究課題名
食品添加物等の遺伝毒性発がんリスク評価のための新戦略法に関する研究
課題番号
H27-食品-一般-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター変異遺伝部)
研究分担者(所属機関)
- 杉山圭一(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
- 安井学(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
- 戸塚ゆ加里(独立行政法人 国立がん研究センター研究所)
- 高村岳樹(神奈川工科大学工学部)
- 正田卓司(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
遺伝毒性試験は発がん性物質のスクリーニング試験であると同時に、その遺伝毒性メカニズムが、発がん性リスク評価の上で重要な情報となる。本研究では、OECDが提唱する「有害性転帰事象(AOP)」を取り入れた遺伝毒性評価ストラテジーと、追跡型試験系を開発し、遺伝毒性発がんリスク評価法の精緻化を目指す。本研究では、発がんのAOPの分子初期事象(MIE)である「化学物質→DNA付加体→突然変異」に注目し、1.DNA付加体検出、2.付加体合成、3.遺伝子ターゲットによるゲノム中への付加体導入を技術の核心とする。また、DNAの一次構造に変化を与えないエピ遺伝毒性物質にも注目し、エピ遺伝毒性物質の評価系の開発も行う。
研究方法
第1ステップであるDNA付加体の検出は、化学物質によるDNAの初期損傷を質量分析機器で網羅的に解析する。化学物質を暴露したバクテリア、細胞、動物個体でのDNAアダクトーム解析と、変異原性の検討を行った。第2のステップは付加体の化学合成と、オリゴヌクレオチド化である。ヘテロサイクリックアミンであるPhIP、MeIQX、IQ等の付加体を含むオリゴヌクレオチドの大量合成を試みた。第3のステップはDNA付加体を持つオリゴヌクレオチドを遺伝子ターゲットによりヒト細胞に導入し、個々のDNA付加体の変異原性を定性・定量的に解析することである(TATAM法)。また、DNA損傷に関与する修復酵素のノックアウト細胞を作成し、修復機構を解明する。
第2の研究テーマは上記の発がんAOPからはずれるエピ遺伝毒性物質の検出と評価系の開発である。DNAメチル化阻害物質に対し凝集性阻害を示すトランスジェニック酵母の系がエピ変異原ファーストスクリーニング系に有用かを検討した。
第2の研究テーマは上記の発がんAOPからはずれるエピ遺伝毒性物質の検出と評価系の開発である。DNAメチル化阻害物質に対し凝集性阻害を示すトランスジェニック酵母の系がエピ変異原ファーストスクリーニング系に有用かを検討した。
結果と考察
第1ステップ(A)であるDNA付加体の検出においては、職業性胆管がんの原因物質であることが示唆されているジクロロプロパン、ジクロロメタンをグルタチオン-S-転移酵素を高発現するバクテリアに暴露し、ジクロロメタン由来と考えられるN2-GSH-Me-dGが検出した。また、このDNA付加体がC:G->T:Aトランジッションを誘導していることを示した。第2のステップ(B)の前半は付加体の化学合成と、オリゴヌクレオチド化である。ここではヘテロサイクリックアミン(HCA)であるPhIPとIQの修飾オリゴヌクレオチドの合成を行った。PhIPの付加体はdGのC8位にPhIPのアミノ基が結合したものが知られており、その付加体を部位特異的に含むオリゴヌクレオチドの合成を試みた。PhIPはオリゴ内で互変異体が存在していることを示しており、変異原性との関連に興味が持たれた。一方、IQのDNA付加体に関しては保護基の脱保護を行い、逆相HPLCにて精製したところ、高い純度のIQ付加体を得ることができた。
第2のステップ(B)の後半は、DNA付加体による突然変異の検出である。PhIPとIQのDNA付加体は、DNA除去修復機構(NER)によって修復されると考えられている。NERに関与するXPCおよびERCC6遺伝子のノックアウト細胞の樹立に成功した。
第3の研究テーマ(C)は上記の発がんAOPからはずれるエピ遺伝毒性物質の検出と評価系の開発である。DNA methyltrasferase (DNMT)阻害剤に応答性を示したヒトDNMT酵母の凝集性を指標にその応答性を検討したところHistone deacetylase阻害剤であるTrichostatin Aとアリザリンは、凝集促進作用を示した。本系はDNMT阻害剤に加え、ヒストンを作用点とする化学物質についても、ヒトDNMT酵母の凝集性を指標に検出できる可能性を示した。
第2のステップ(B)の後半は、DNA付加体による突然変異の検出である。PhIPとIQのDNA付加体は、DNA除去修復機構(NER)によって修復されると考えられている。NERに関与するXPCおよびERCC6遺伝子のノックアウト細胞の樹立に成功した。
第3の研究テーマ(C)は上記の発がんAOPからはずれるエピ遺伝毒性物質の検出と評価系の開発である。DNA methyltrasferase (DNMT)阻害剤に応答性を示したヒトDNMT酵母の凝集性を指標にその応答性を検討したところHistone deacetylase阻害剤であるTrichostatin Aとアリザリンは、凝集促進作用を示した。本系はDNMT阻害剤に加え、ヒストンを作用点とする化学物質についても、ヒトDNMT酵母の凝集性を指標に検出できる可能性を示した。
結論
化学物質による発がんのAOPの分子初期事象(MIE)は、遺伝毒性・変異原性で有り、このプロセスは「化学物質→DNA付加体(損傷)→突然変異」に集約される。DNA付加体解析により、特定な付加体が検出されなければ、エピ遺伝毒性物質とすることができる。一方、DNA付加体が検出されたからといっても、変異原性があるわけでは無い。修復や、損傷乗り越えDNA合成がおきれば突然変異は起こさない。TATAM法はこれら性質を定性・定量的に解析できる。TATAM法で明らかな突然変異誘発が認められない場合、本化学物質は遺伝毒性非変異原物質(非遺伝毒性物質)とし、発がんの懸念は無いと判断することができる。このような分子レベルで可視化された変異メカニズムの情報の蓄積が、最終的にin silicoで化学物質の変異原性・発がん性の定量的予測を実現させるものと考える。変異原性は化学物質にあるのではなく、化学物質によって引き起こされるDNA付加体(損傷)にある。この当たり前の考え方は、遺伝毒性(変異原性)の評価の合理化にも繋がると考える。
公開日・更新日
公開日
2017-07-04
更新日
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