文献情報
文献番号
201622002A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの経口曝露による免疫毒性に対する影響
課題番号
H26-食品-一般-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部)
研究分担者(所属機関)
- チョウ ヨンマン(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部)
- 西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
- 広瀬 明彦(安全性生物試験研究センター安全性予測評価部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ナノ銀(AgNP)は食品・食品容器包装用途として経口曝露のみならず、消臭・殺菌剤として化粧品として経皮からも曝露されるが、その毒性影響に関する報告は限られている。本研究ではAgNPの経皮経口複合曝露による免疫毒性の検討及びナノマテリアルの食品関連分野を中心とした曝露状況やリスク評価に関する国際動向の調査を目的としている。
研究方法
雌BALB/cマウスを用い、実験1)では直径10 nm AgNP(濃度 0.1 µg、1 µg及び10 µg)と卵白アルブミン(OVA、2 µg)との混合物の経皮曝露後、抗原であるOVAを腹腔内投与し、AgNPのアジュバント作用の有無、実験2)では各サイズのAgNP(直径 10、60及び100 nm、濃度49 µg)とOVA(100 µg)との混合物の経皮曝露後、皮膚のランゲルハンス細胞に及ぼす影響を検討した。サイズの異なるAgNPの腹腔内投与による急性毒性に関する研究として、実験3)ではAgNP投与後の肝臓内銀濃度及び活性酸素種 (ROS)関連 mRNAの発現、実験4)ではAgNPの投与量の影響について、また、実験5)ではN-acetyl-l-cysteine (NAC、2000 mg/kg bw)を経口投与1時間後、AgNP 10nm (0.2 mg)を腹腔内投与し、AgNPによる急性毒性に対する抗酸化剤の影響について検討した。国際動向調査については、欧州食品安全機関(EFSA)が主催している食品及び飼料分野におけるナノテクノロジーのリスク評価に関する科学ネットワーク2016に関して調査した。
結果と考察
実験1)は、いずれのOVA処置群でも、感作4週後のマウス血清中のOVA特異的な血中IgG1及びIgEが溶媒対照群(Vehicle)群と比較して有意に増加したが、投与群間の差はなく、AgNP投与による有意なアジュバント作用は見られなかった。実験2)は、AgNP曝露による皮膚のランゲルハンス細胞内のバーベック顆粒に明らかな変化はなかった。実験3)は、AgNP 10 nm群の肝臓内銀濃度が他の群に比べ有意な高値を示した。実験4) は、AgNO3群で投与30分後より立毛及び活動低下が、投与1時間後より有意な体温低下が、投与3時間後より死亡又は瀕死状態になった。AgNP 10 nm 0.2 mg群で5時間後より立毛及び活動低下が、6時間後より有意な体温低下が認められた。また、AgNP 10 nm 0.2 mg群及びAgNO3群で相対肝臓重量が増加した。病理組織学的には、AgNP 10 nm 0.2 mg群及びAgNO3群で、肝臓のうっ血、肝細胞の空胞化及び胸腺皮質の単細胞壊死が有意に認められた。細胞質内封入体及び胸腺髄質の単細胞壊死はAgNP 10 nm 0.2 mg群でのみ認められた。実験5) は、投与6時間後よりAgNP群で活動低下と有意な体温の低下が認められた。7時間後よりNAC+AgNP群で活動低下が認められた。AgNP群及びNAC+AgNP群で相対肝臓重量の増加が見られた。病理組織学的には、AgNP群でのみ、肝臓のうっ血、肝細胞の空胞化、細胞質内封入体、単細胞壊死、胸腺皮質の単細胞壊死及び腸間膜リンパ節傍皮質の単細胞壊死が有意に認められ、NAC+AgNP群では観察されなかった。
国際動向調査において、EFSAの再評価では生殖毒性評価の情報が欠落しているのでADIは設定しなかったが、慢性影響試験の結果からは、現状の暴露調査による暴露量とは、十分なマージンがあると結論付けていた。マイクロ/ナノプラスチックの特にシーフードに焦点を当てた食物連鎖を通した健康懸念については、食品中のマイクロプラスチックの同定および定量に関する報告や、海洋生物における実験的証拠により、栄養段階の間で移動する可能性があることを示した報告があるものの、同定・分析する手法が確立されていないため、まだリスク評価ができる段階でなく、今後の技術開発が必要とされた。
国際動向調査において、EFSAの再評価では生殖毒性評価の情報が欠落しているのでADIは設定しなかったが、慢性影響試験の結果からは、現状の暴露調査による暴露量とは、十分なマージンがあると結論付けていた。マイクロ/ナノプラスチックの特にシーフードに焦点を当てた食物連鎖を通した健康懸念については、食品中のマイクロプラスチックの同定および定量に関する報告や、海洋生物における実験的証拠により、栄養段階の間で移動する可能性があることを示した報告があるものの、同定・分析する手法が確立されていないため、まだリスク評価ができる段階でなく、今後の技術開発が必要とされた。
結論
OVA+AgNPの経皮曝露後、OVAを腹腔内投与する本モデルにおいては、AgNPの明らかなアジュバント作用は認められなかった。AgNPの腹腔内投与において、10nm 群のみに観察された急性毒性は、循環器不全が死亡原因と関連している可能性が示唆され、そのメカニズムの一つとして酸化的ストレスの関与が考えられたが、機序については心筋や神経への恵与など更に詳細な検討が必要である。国際動向については、食品添加物への応用については、食品への接触面への適用を避けるための三層構造のフィルムへのナノマテリアルの開発が進んでいるが、容器からの食品への溶出を試験する手法に関しては、疑似溶媒、溶出後の粒子サイズの変化などの条件を考慮する必要があると考えられた。
公開日・更新日
公開日
2017-07-04
更新日
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