文献情報
文献番号
201621005A
報告書区分
総括
研究課題名
飲食店の労働災害防止のための自主対応を促進するサポート技術の開発とその展開方法に関する研究
課題番号
H27-労働-一般-003
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
酒井 一博(公益財団法人 大原記念労働科学研究所)
研究分担者(所属機関)
- 佐々木 司(公益財団法人 大原記念労働科学研究所 )
- 鈴木 一弥(公益財団法人 大原記念労働科学研究所 )
- 余村 朋樹(公益財団法人 大原記念労働科学研究所 )
- 松田 文子(公益財団法人 大原記念労働科学研究所 )
- 石井 賢治(公益財団法人 大原記念労働科学研究所 )
- 佐野 友美(公益財団法人 大原記念労働科学研究所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
6,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は,飲食業の労働災害防止のための自主対応を促進するサポートツール開発とその展開方法を策定するために,小規模飲食店の半構造化面接,飲食店従業員の疲労,睡眠など生活全般を捉えて飲食店向けのチェックリスト(安全文化評価ツール,アクション型チェックリスト)の試行版を作成し,モデル職場で実施し,評価することであった。
研究方法
チェックリスト試行版の項目に,長時間労働や早朝・深夜勤務が多い飲食店の特徴による労働負担要因を入れることを念頭において,営業時間の異なる2つの飲食店A(11時~22時30分)と飲食店B(18時~2時)を対象として,飲食店従業員の毎日の生活時間,睡眠,疲労感・疲労部位を測定した。また労働負担の高かったB飲食店において,7日間にわたって営業時間中の繁忙時の動作をビデオ記録,および位置検知装置で捉え,併せて前傾姿勢,心拍数,体表面温度を指標として労働負担を評価して,項目を選定した。同時に,安全文化評価ツール,アクション型チェックリストを飲食店向けに改定することを目的として評価構造の簡易化と項目の選定を行った。それらを踏まえて,社員・契約社員5000名,約200店舗規模の企業が所属する飲食店グループをモデル研究とし,350部の質問紙を送付して,項目案に対する必要性を評価させ,試行版における項目の精緻化を行った。また飲食店向けの安全文化評価ツール,アクション型チェックリストをさらにブラッシュアップするために,現場での意見聴取としての半構造化面接を行った。
結果と考察
同じ形態の飲食店においても,営業時間の在り方が従業員の労働負担に大きく影響をもたらしていた。とくに夜型の働き方が睡眠開始時刻を遅延させ,睡眠の質を悪化させて,業務中の疲労を進展させていた。したがって労働安全衛生対策ツールにも業務中のみならず,生活を踏まえた項目の有効性が示唆された。そのような背景要因を受けて行われたB飲食店での労働負担調査では,業務中の客の人数や出入りが従業員の移動頻度と関連して繁忙度の指標となっていた。また多忙な時間帯には時間帯ごとの最大歩行速度,平均歩行速度が増加していた。歩行速度は運ぶ物によって自発的に調整されていたが,多忙な場合には比較的速い均一な歩行速度になる例があり,多忙度に伴う転倒などのリスクが示唆された。また厨房従業員とホール従業員の労働負担の違いが客観的に明かになった。厨房従業員は姿勢変化が頻繁でなく,単位時間あたりの労働密度が高い特徴がある一方,ホール従業員は労働密度が高くないものの,清掃を含めて長時間労働となっているのが特徴であった。そのため,注文の空いた際に取られる小休止で疲労対策をとっていたことが考えられた。安全文化評価ツールの項目選定については,選定した項目については飲食業においても当てはまる内容となっていると考えられた。また,職位間で回答に差が見られたことから,飲食業においても職層間比較という調査構造は有効であると思われた。追加の面接調査の結果からは,飲食店向けのワーディングの重要性,安全性より生産性を重視するリスクを念頭に置くこと,手順書を改善しようとする姿勢を確認することが有効と思われた。一方,本研究で作成した具体的なアクションチェックリストに関しても,現場活用のための改善についての意見と共に飲食店の現場の労働安全衛生を取り巻く特徴が示唆された。
結論
本年度は,実態調査,面接調査,安全文化評価ツール,アクション型チェックリストの試行版作製,モデル職場での実施を行った。実態調査からは,従業員の睡眠や休息など生活全般から生じる労働負担と業務中に生じる労働負担と合わせて労働安全衛生対策ツールを開発することの有効性が示された。試行版ツールのモデル研究からは,質問項目や評価構造を中小規模職場でも容易に使用出来るように簡易にする必要性が要求された。その際,とりわけ小規模飲食店では,作業者のバックグラウンドが多様であることや,労働安全衛生を担う人材不足から,労働者に焦点をあてた労働安全衛生概念の受け入れが乏しいことが示唆され,これらの要因を加味してツールを開発することが有効であることが示唆された。これらの要因を考慮して,最終年度では飲食店向けの安全文化評価ツール,アクション型チェックリスト開発し,シンポジウムを開催する中で広く意見を取り入れて,飲食業の労働安全衛生対策の実効性を高めていく。
公開日・更新日
公開日
2017-06-06
更新日
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