一類感染症の患者発生時に備えた治療・診断・感染管理等に関する研究

文献情報

文献番号
201617014A
報告書区分
総括
研究課題名
一類感染症の患者発生時に備えた治療・診断・感染管理等に関する研究
課題番号
H26-新興行政-指定-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 康幸(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 国際感染症センター 国際感染症対策室)
研究分担者(所属機関)
  • 西條 政幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 下島 昌幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部 第一室)
  • 黒須 一見(東京都保健医療公社荏原病院 感染対策室)
  • 冨尾 淳(東京大学大学院医学系研究科 公衆衛生学)
  • 足立 拓也(東京都保健医療公社豊島病院 感染症内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
3,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の役割は,一類感染症の患者に医療を提供する第一種感染症指定医療機関(指定機関)を支援し,国の厚生行政に貢献することである.国際的懸念のある公衆衛生上の緊急事態に認定された西アフリカにおけるエボラ出血熱(EVD)の流行が終息した機会に,EVDに対する指定機関の対応をまとめて課題を抽出し,チェックリスト等を作成することとした.一方,EVD以外の疾患についても幅広く情報収集し,指定機関への還元も図ることとした.
研究方法
指定機関を対象とした研修会を開催し,討議や質問紙調査を通じて,EVD流行前後の医療提供体制の変化について調査した.また,国内におけるEVD疑似症患者対応事例についても情報収集を図り,指定機関の現状と課題を把握することとした.さらに,チェックリストの原案を特定指定機関の研究協力者に批判的に検討してもらった.また,WHOが開催する専門家会議への参加や西アフリカにおける現地調査などを通じて,情報収集を行なった.
結果と考察
指定機関の医師・看護師を対象に,東京と大阪で研修会を開催し,全国から指定機関48施設と行政機関等が参加した.EVDに対するファビピルビルの有効性について検討したほか,2016年8月に発生したスペインで初めてのクリミア・コンゴ出血熱症例を紹介し, EVDの二次感染は消化器症状の強い重症患者のケアの際に発生しやすく,先進国では集中治療に関わった看護師が高リスクと考えられることを解説した.類似の研修会が自治体ではほとんど実施されていないため,参加者の満足度は高く,各機関の交流の場になりつつある.今後も国内で患者が発生するリスクが小さい一類感染症については,国レベルで指定機関を支援することが望ましいと考えた.  
 参加した指定機関と行政機関に対して実施した質問紙調査によれば, EVD流行前後で改善の見られた項目は,マニュアル,検査機器,個人防護具(PPE)であった.管理運用体制は地域間で違いがあるものの,多くの施設で変化がないとする回答であった.2015年度のワークショップで扱った遺体のケアに関する訓練を実施した指定機関は9施設に留まった.医療従事者が安全にかつ安心して医療を実践できる体制を整備するためには,スタッフの増加と設備・機材の予算の確保などを図る必要がある.
 感染症病床の種別および病床数,診療従事者および診療実績,院内組織体制,外部機関との連絡・連携,広報・コミュニケーション,教育・訓練,健康・安全管理,感染制御, PPE,廃棄物処理・清掃,施設・設備,物資,診療,検査,患者・家族支援,死後のケアと多岐に及ぶ包括的な「第一種感染症指定医療機関における一類感染症対策チェックリスト(第1版)」を作成した.各指定機関の現状把握および要改善点の抽出が行われ,一類感染症への対応能力の向上の一助となることが期待される.また,指定機関からのフィードバックをもとに継続的に改訂を行うとともに,効果的なチェック体制についても検討していく必要がある.
 医療従事者のEVD 集団感染を経験した西アフリカの代表的な医療機関ではラッサ熱の患者に対して,患者トリアージ,ゾーニング,手指衛生などの基本的な対策が徹底されることで,医療従事者の感染は発生していない.また,WHOが開催する専門家会議(VHFの臨床管理:ベルリン;開発途上国におけるEVDの臨床管理:ロンドン;PPEの標準化と新規開発:ジュネーブ)に出席し,国際ガイドラインの策定等に関わった.
結論
医療従事者等を対象とした研修会を開催するなど,指定機関の支援を行った.また,EVDに対する最新の抗ウイルス療法や欧米における医療,西アフリカにおける現地調査,国内で発生したEVD疑似症患者の対応や指定機関における準備状況の調査も併せて行った.国際化時代における健康危機管理のために寄与するものと期待される.

公開日・更新日

公開日
2017-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201617014B
報告書区分
総合
研究課題名
一類感染症の患者発生時に備えた治療・診断・感染管理等に関する研究
課題番号
H26-新興行政-指定-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 康幸(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 国際感染症センター 国際感染症対策室)
研究分担者(所属機関)
  • 西條 政幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 下島 昌幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部 第一室)
  • 黒須 一見(東京都保健医療公社荏原病院 感染対策室)
  • 冨尾 淳(東京大学大学院医学系研究科 公衆衛生学)
  • 足立 拓也(東京都保健医療公社豊島病院 感染症内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は一類感染症の中でも国内で患者が発生するリスクが比較的高いと考えられるウイルス性出血熱に注目し,先行研究班(H23-新興-一般-006)が作成した診療の手引き(以下,手引き)の内容を関係者に周知し,第一種感染症指定医療機関(以下,指定機関)が患者に医療を提供する準備をする際の支援を行い,国の厚生行政に貢献することを目的とした.
研究方法
研修会における討議と質問紙調査,文献的検討,WHOが主宰する専門家会議への出席,国内外における支援・調査等を通じて情報収集や指定機関における課題の抽出を行なった.
結果と考察
 初年度は折からの西アフリカにおけるエボラ出血熱(EVD)の流行を受けて,指定機関の緊急支援,ガイダンスの作成,派遣専門家の研修,国外視察等を実施した. 全国の19施設に研究者が赴いて,実働,または机上訓練を含む研修会を開催したほか,指定機関の検査技師を対象としたバイオセーフティ研修会も開催した.2年目以降は東京,大阪等で研修会を継続し,EVD疑似症患者対応事例などの検討を行った.また,初年度には厚労省の要請を受けて,流行国への派遣候補者となった国内専門家を対象に研修を行った.
 初年度にはEVDの患者を診療ケアする際に着用する個人防護具(PPE)のガイダンスをまとめ,2年目以降は遺体搬送手順を検討し,研修会等で還元した.わが国で開発されたファビピラビルの有効性と安全性を検討し,国内で使用する場合の手順等についてまとめた.また,欧米の医療機関と比較し,わが国の指定機関がBSL3実験室を利用しにくい状況を明らかにした.
 西アフリカにおけるEVDの流行はわが国にも影響を及ぼし,一類感染症の疑似症患者に対する入院勧告が感染症法施行以来,初めて行われたことは特筆すべきことである.症例定義が変更された2014年10月~2015年10月までに発生した疑似症患者9例中8例についてまとめた.各施設で組織的な対応が実施されたが,移送・診療体制,職員の健康管理,患者とのコミュニケーション,廃棄物処理などには課題が見出された.また,質問紙調査では疑似症患者の対応を行わなかった指定機関においても同様の課題があることを明らかにした.これらの課題を抽出して改善を図るツールとして,指定機関向けのチェックリストをまとめた.改訂した手引きと合わせて今後活用されることが期待される.
 また,一般国民を対象としたEVDに関する意識調査を実施し,支援者を流行国に派遣することについては消極的な意見を持つ者が多いことを明らかにした. 
結論
西アフリカで発生したEVDの過去最大の流行はわが国にも影響を及ぼし,疑似症患者に対する入院勧告を含めた一連の行政対応が行われた.本研究班は患者に医療を提供する指定機関を支援するため,研修会を開催するなど即応的な対応をしたほか,EVDに対する最新の抗ウイルス療法や欧米・アフリカにおける医療,国内で発生したEVD疑似症患者の対応や指定機関における準備状況の調査も併せて行った.指定機関向けのガイダンスや手引きの改訂、準備状況評価のためのチェックリストを作成した.今後の一類感染症患者に対する医療の向上や健康危機管理の面で貢献したと考えられる.

公開日・更新日

公開日
2017-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201617014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行を通じて明らかとなったわが国の第1種感染症指定医療機関の現状と課題について、英語論文として公表した。
臨床的観点からの成果
西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行に関連して、国内で患者が発生した際の対応について、第1種感染症指定医療機関を対象とした研修会を開催した。また、検体を安全に取り扱うためのバイオセーフティ研修会も実施した。感染症の患者に対する医療の向上と職員の健康安全管理の分野で貢献したものと考えられる。
ガイドライン等の開発
西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行に関連して、エボラ出血熱に対する個人防護具(暫定版)を作成したほか、ウイルス性出血熱診療の手引きを改訂した。第1種感染症指定医療機関が準備をする上での課題を発見することを目的としたチェックリストを作成した。
その他行政的観点からの成果
西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行に関連して、国内で疑似症患者が発生した際に対応する第1種感染症指定医療機関を支援したほか、流行地に派遣される予定の専門家に対しても研修会を開催した。ウイルス性出血熱診療の手引きは厚生労働省によるウイルス性出血熱への行政対応の手引きに参考文献として引用された。国際感染症に対する危機管理の分野で貢献したものと考えられる。
その他のインパクト
西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行に関連して、全国19施設で開催した第1種感染症指定医療機関を対象とした研修会は新聞等で取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
16件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
26件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Toyokawa T, Hori N, Kato Y
Preparedness at Japan’s hospitals designated for patients with highly infectious diseases
Health Security , 15 (1) , 97-103  (2017)
10.1089/hs.2016.0056.
原著論文2
Tanizaki R, Ujiie M, Kato Y, et al.
Comparative study of adverse events after yellow fever vaccination between elderly and non-elderly travellers: questionnaire survey in Japan over a 1-year period
J Travel Med , 23 (3) , taw012-  (2016)
10.1093/jtm/taw012.

公開日・更新日

公開日
2017-06-06
更新日
2019-08-01

収支報告書

文献番号
201617014Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,000,000円
(2)補助金確定額
4,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 407,140円
人件費・謝金 31,200円
旅費 1,707,822円
その他 931,561円
間接経費 923,000円
合計 4,000,723円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-05-21
更新日
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