精神障害者の地域生活支援の在り方とシステム構築に関する研究

文献情報

文献番号
201616030A
報告書区分
総括
研究課題名
精神障害者の地域生活支援の在り方とシステム構築に関する研究
課題番号
H26-精神-指定-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 順一郎(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所社会復帰研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 萱間 真美(聖路加国際大学)
  • 原 敬造(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)
  • 本田 美和子(国立病院機構東京医療センター)
  • 吉田 光爾(昭和女子大学)
  • 佐藤 さやか(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)
  • 西尾 雅明(東北福祉大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
14,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
有効かつ実現可能な地域生活中心の精神保健医療福祉システムの在り方とシステム構築における課題を検討することを目的に、5つ研究課題を設定し検討した。
1)ACT、多職種アウトリーチチームの治療的機能についての評価
2)全国の多職種アウトリーチ支援チームのモニタリング研究
3)地域生活を支えるための精神科診療所の役割に関する検討
4)精神障害者の退院促進および福祉サービスも含めた地域生活支援のあり方についての検討
5)地域社会で暮らす認知症高齢者への包括的なケア技法の効果に関する検討
6)多職種アウトリーチチームの研修のあり方についての検討
研究方法
1)ACT全国ネットワークへの実態調査をおこない、『不安を中核とする症状、問題』で日常生活上の支障をもつ利用者に提供するCBTの効果について効果検討を行った。
2)「精神科重症患者早期集中支援管理料」の届出をしている医療機関において、実施状況や提供体制、ケア内容に関する課題についての内容分析と同管理料のカルテ調査から内容分析を行った。
3)日本精神神経科診療所協会所属の診療所より無作為に抽出した診療所で、初診患者のサービス利用状況の前方視的検討を行うとともに、多機能型診療所受診中の患者属性の横断面調査を実施した。
4)全国の地域移行・定着支援事業委託を受けている事業所に対する調査に加え、市町村および都道府県に実態調査を行った。また市町村における精神保健福祉関連の資源整備状況に関する指標・データベースをビッグデータとしてWeb上で管理するシステムを構築・整備した。
5)認知症領域での包括的ケア技法Humanitudeに関し教育教材を開発し、パイロット研究ののち、自宅介護をしている市民を対象に簡易ケア教育介入の効果検証を行った。ケア教育は2時間の講習に加え、週1回の継続指導を郵送にて実施し、介護負担感に関する前後比較調査等を実施した。
6)中級以上のアウトリーチ支援経験者に対して、2日間にわたる研修プログラムを毎年提供し、効果について自記式の前後評価とヒヤリングを行った。
結果と考察
1) ACTチーム計15チームをランダムに2群に分け、介入群のスタッフにCBT研修と事例検討を2か月に1度提供した(93名が分析対象)。効果指標は利用者の不安感やスタッフのバーンアウト等である。本研究は他の競争的研究費を当て、介入・追跡期間を18か月に延長し、今後より詳細な検討を行う。
2)H28年度に「精神科重症患者早期集中支援管理料」の届出をした施設は21施設であり、管理料の算定が終了したのは7ケースであった。本制度は手厚い支援を保障することで、重症患者の退院促進に繋がっていたが、制度の普及にはさらに課題があった。
3)初診患者の前方視的調査を53ヵ所の精神科診療所で開始し、44ヵ所から2236名の6ヵ月間、40ヵ所から850名の12ヵ月間のフォローアップデータを得た。デイケアおよび障害福祉サービスを自院で運営する多機能型診療所では、外来での対応が困難とされる「ハイユーザー」患者が有意に多かった。患者のフォローアップ率、GAF改善率には診療所の属性による有意差はなかった。
4)市町村実態調査では、87.5%の市町村で地域移行支援が、82.7%の市町村で地域定着支援が行われているものの、実績が0の市町村ではそれぞれ45%、61%)であった。地域移行・定着の実施件数が多い自治体は「医療機関への働きかけ」や「研修・連携作り」などの取り組みが活発であった。Web上のデータベースシステムの原型はH28年9月に完成、同年10月から市町村に調査を依頼し情報の入力を実施した。5)政令指定都市と共同で家族介護者を対象とした介入研究を実施した。8回に分け合計約250名の市民を対象に簡易ケア教育介入を行なった、①講習前、②4週後、③12週後の前後比較で、介護負担度と認知症高齢者の認知症行動心理症状(BPSD)が有意に低下したことを確認した。
6)研修の効果評価を「重要度」と「実践度」の認識調査で行い、意図した内容について参加者の認識が深まっていることが確認された。グループインタビューでⅰ)臨床技能のレベルに合わせ獲得目標の明確化、ⅱ)継続的なスーパーヴィジョン、OJTの必要性、ⅲ)ロールプレイや事例検討などの形式の研修などが求められていることが明らかになった。
結論
退院促進についての市町村の活動の実態、精神病院のオルタナティブとしての多機能型診療所や多職種アウトリーチチームの可能性、スタッフの研修のありかた、家族などケアラーへの研修の可能性について、本研究の成果は、変化を促進するための資料提供となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2017-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201616030B
報告書区分
総合
研究課題名
精神障害者の地域生活支援の在り方とシステム構築に関する研究
課題番号
H26-精神-指定-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 順一郎(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所社会復帰研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 萱間 真美(聖路加国際大学)
  • 原 敬造(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)
  • 本田 美和子(国立病院機構東京医療センター)
  • 吉田 光爾(昭和女子大学)
  • 佐藤 さやか(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)
  • 西尾 雅明(東北福祉大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
有効かつ実現可能な地域生活中心の精神保健医療福祉システムの在り方とシステム構築における課題を検討することを目的に、5つ研究課題を設定し検討した。
1)ACT、多職種アウトリーチチームの治療的機能についての評価
2)全国の多職種アウトリーチ支援チームのモニタリング研究
3)地域生活を支えるための精神科診療所の役割に関する検討
4)精神障害者の退院促進および福祉サービスも含めた地域生活支援のあり方についての検討
5)地域社会で暮らす認知症高齢者への包括的なケア技法の効果に関する検討
6)多職種アウトリーチチームの研修のあり方についての検討
研究方法
1)ACT全国ネットワークへの実態調査をおこない、『不安を中核とする症状、問題』で日常生活上の支障をもつ利用者に提供するCBTの効果について効果検討を行った。
2)「精神科重症患者早期集中支援管理料」の届出をしている医療機関において、実施状況や提供体制、ケア内容に関する課題についての内容分析と同管理料のカルテ調査から内容分析を行った。
3)日本精神神経科診療所協会所属の診療所より無作為に抽出した診療所で、初診患者のサービス利用状況の前方視的検討を行うとともに、多機能型診療所受診中の患者属性の横断面調査を実施した。
4)全国の地域移行・定着支援事業委託を受けている事業所に対する調査に加え、市町村および都道府県に実態調査を行った。また市町村における精神保健福祉関連の資源整備状況に関する指標・データベースをビッグデータとしてWeb上で管理するシステムを構築・整備した。
5)認知症領域での包括的ケア技法Humanitudeに関し教育教材を開発し、パイロット研究ののち、自宅介護をしている市民を対象に簡易ケア教育介入の効果検証を行った。ケア教育は2時間の講習に加え、週1回の継続指導を郵送にて実施し、介護負担感に関する前後比較調査等を実施した。
6)中級以上のアウトリーチ支援経験者に対して、2日間にわたる研修プログラムを毎年提供し、効果について自記式の前後評価とヒヤリングを行った。
結果と考察
1) ACTチーム計15チームをランダムに2群に分け、介入群のスタッフにCBT研修と事例検討を2か月に1度提供した(93名が分析対象)。効果指標は利用者の不安感やスタッフのバーンアウト等である。本研究は他の競争的研究費を当て、介入・追跡期間を18か月に延長し、今後より詳細な検討を行う。
2)H28年度に「精神科重症患者早期集中支援管理料」の届出をした施設は21施設であり、管理料の算定が終了したのは7ケースであった。本制度は手厚い支援を保障することで、重症患者の退院促進に繋がっていたが、制度の普及にはさらに課題があった。
3)初診患者の前方視的調査を53ヵ所の精神科診療所で開始し、44ヵ所から2236名の6ヵ月間、40ヵ所から850名の12ヵ月間のフォローアップデータを得た。デイケアおよび障害福祉サービスを自院で運営する多機能型診療所では、外来での対応が困難とされる「ハイユーザー」患者が有意に多かった。患者のフォローアップ率、GAF改善率には診療所の属性による有意差はなかった。
4)市町村実態調査では、87.5%の市町村で地域移行支援が、82.7%の市町村で地域定着支援が行われているものの、実績が0の市町村ではそれぞれ45%、61%)であった。地域移行・定着の実施件数が多い自治体は「医療機関への働きかけ」や「研修・連携作り」などの取り組みが活発であった。Web上のデータベースシステムの原型はH28年9月に完成、同年10月から市町村に調査を依頼し情報の入力を実施した。5)政令指定都市と共同で家族介護者を対象とした介入研究を実施した。8回に分け合計約250名の市民を対象に簡易ケア教育介入を行なった、①講習前、②4週後、③12週後の前後比較で、介護負担度と認知症高齢者の認知症行動心理症状(BPSD)が有意に低下したことを確認した。
6)研修の効果評価を「重要度」と「実践度」の認識調査で行い、意図した内容について参加者の認識が深まっていることが確認された。グループインタビューでⅰ)臨床技能のレベルに合わせ獲得目標の明確化、ⅱ)継続的なスーパーヴィジョン、OJTの必要性、ⅲ)ロールプレイや事例検討などの形式の研修などが求められていることが明らかになった。
結論
退院促進についての市町村の活動の実態、精神病院のオルタナティブとしての多機能型診療所や多職種アウトリーチチームの可能性、スタッフの研修のありかた、家族などケアラーへの研修の可能性について、本研究の成果は、変化を促進するための資料提供となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2017-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201616030C

成果

専門的・学術的観点からの成果
①退院促進に関する市町村の現状分析とモニタリングのためのウエブ・データベースの作成、②初診患者のフォローアップや横断調査により明らかにした多機能型診療所の意義、③「精神科重症患者早期集中支援管理料」の浸透度の調査から検討した多職種アウトリーチチームの可能性、④多職種アウトリーチチームへの今後必要な研修のあり方、⑤ユマニチュードという支援技法のケアラーである家族への支援の効果。
地域生活中心の精神保健医療福祉システム構築のためのオルタナティブな装置の包括的な資料を提供。
臨床的観点からの成果
①市町村の退院促進に向けた取り組みの限界を呈示、②精神科診療所初診患者の初のフォローアップ研究、③「精神科重症患者早期集中支援管理料」の緩和要件の明確化、④アウトリーチにおける認知行動療法の効果測定、⑤モデル研修の効果検証、⑥家族によるユマニチュード利用の有効性の検証。
新たな精神保健医療福祉システムを構築にあたっては、大胆な治療構造の変化が必要であることを示唆。
多機能型診療所の拡大、アウトリーチチームへの優秀な人材確保、市民のケアへの参加促進、などへ転換していくことの意義を示唆。
ガイドライン等の開発
ガイドライン作成は特に行わず
その他行政的観点からの成果
・多機能型診療所の構想は、今後の診療報酬改定、地域精神医療計画に資料として提供が可能
・「精神科重症患者早期集中支援管理料」は今後の診療報酬改定における要件緩和の資料に
・ユマニチュードは健康先進都市戦略を進める福岡市の協力を得て今後も推進
その他のインパクト
各研究課題は、今後、日本精神神経学会を含む各種学会において発表予定。また、市町村の精神保健福祉行政のウエブ・データベースづくり、アウトリーチチームの認知行動療法、多機能型診療所構想、ユマニチュードは、今後も多研究費を活用して研究継続予定

発表件数

原著論文(和文)
15件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
13件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
47件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
福岡市健康先進都市戦略リーディング事業として採用された
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-06-08
更新日
2020-06-09

収支報告書

文献番号
201616030Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
19,200,000円
(2)補助金確定額
19,200,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,253,290円
人件費・謝金 4,102,767円
旅費 2,682,420円
その他 6,731,552円
間接経費 4,430,000円
合計 19,200,029円

備考

備考
自己資金 29円

公開日・更新日

公開日
2017-11-16
更新日
-