母乳中のダイオキシン類に関する研究

文献情報

文献番号
199800564A
報告書区分
総括
研究課題名
母乳中のダイオキシン類に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
多田 裕(東邦大学)
研究分担者(所属機関)
  • 森田昌俊(国立環境研究所)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 松浦信夫(北里大学)
  • 近藤直実(岐阜大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
乳児が母乳から摂取するダイオキシン類の総量を知ることを目的として、同一の母親から継続して母乳の提供を受け、母乳中のダイオキシン類の産後の濃度変化を測定するとともに、母乳哺育児が生後どの程度の量の母乳を哺乳しているかを検討した。また、児が摂取するダイオキシン類の地域差について知る目的で、各地の母乳中のダイオキシン類濃度を測定した。
研究方法
母乳中のダイオキシン類に関しては、埼玉県、東京都、大阪府、石川県の4都府県の焼却場から比較的近い地域とその他の地域の各々二カ所を選び、25歳から29歳と30歳から34歳までの二群にわけ、各群5名合計80名の初産婦を選び母乳の提供を受けた。母乳は分娩後5日、30日、150日、300日の4回採取しダイオキシン類(PCDDs+PCDFsの異性体17種類とCo-PCBの異性体3種類)の濃度を測定した。
哺乳量の測定は、母乳のみを哺育している児で、新生児期の経過や乳児健診で異常が認められない健常児を192名を対象として計測した。
各地域の母乳中のダイオキシン類濃度については、昨年度から母乳採取を行っている都府県を含めた21都府県からの概ね20名の初産婦の生後30日の母乳中のPCDDs、PCDFs、Co-PCBの濃度を測定した。
結果と考察
母乳中のダイオキシン類濃度には、4都府県間や都府県内の地域や年齢による有意な差は認められなかった。このため母乳の提供を受けた全症例を一括して集計した。母乳を哺育している例数が次第に減少するため、測定が可能な検体数は30日で72検体、150日で45検体であった。母乳中の脂肪1gあたりのダイオキシン類(PCDDs+PCDFs)の平均値(pgTEQ)は、5日目で17.30、30日目で14.81(産後5日の85.6%)、150日で14.00(産後5日の80.9%)であった。Co-PCBは同様に、11.07、9.93(産後5日の89.7%)、6.96(産後5日の62.9%)と減少し、Co-PCBはPCDDs+PCDFsに比し減少率が大きい印象があった。
母乳中の脂肪量の平均は、5日では3.05g/100gであったが、30日以降は約3.8g/100gでほぼ一定であった。このため、母乳100gあたりのダイオキシン類は産後30日が最高になった。
母乳100g中のダイオキシン類の含有量は、母乳中の脂肪1gあたりのダイオキシン類濃度に母乳中の脂肪量を乗じて計算するので、母乳中の脂肪含有量により著しく変化する。母乳中の脂肪量は授乳の始まりと終わりでは大きく変化するので、採取された母乳中の脂肪濃度の差が大きく、今後母乳中のダイオキシン類濃度を比較する際には、母乳中の脂肪1gあたりの濃度を用い、この値に標準の脂肪濃度を掛けて計算することが望ましいと考えられた。
母乳の哺乳量の調査は、母乳のみを哺乳している192名で計測した。一日に哺乳する母乳の量は生後1ヶ月頃に886.3g/dayと最高となり、その後は体重が増加するにも拘わらず、哺乳量は生後6ヶ月で697.5g/dayと減少する傾向が認められた。このため体重1kgあたりの一日の哺乳量も生後1ヶ月頃に最も多い184.5ml/kg/dayとなり、その後は漸減し、生後6ヶ月では88.6ml/kg/dayに減少していた。
今回測定したダイオキシン類濃度と母乳哺乳量は、上記の様に限られた時点のみであるため、1年間のダイオキシン類の摂取量を計算するため、ダイオキシン類濃度と母乳哺乳量が測定時点の間は直線的に変化すると仮定して母乳から摂取するダイオキシン類の量を計算した。この結果、母乳から摂取するダイオキシン量は生後6ヶ月までに約12ng/kgであり、授乳開始後早期の摂取量が多いことが明らかになった。
各地の母乳汚染状況の検討では、母乳採取と測定を終了し、結果の集計と分析を実施中である。
本研究により、母乳中のダイオキシン類濃度の変化と母乳哺乳量が明らかになったことにより、今後は1時点で採取された母乳に対しても、採取時点が産後何ヶ月目であるかによって、標準に比べて汚染が高いか否かを判定することが可能になった。さらに、母乳を哺乳した期間がわかれば、児が母乳を介して摂取したダイオキシン類の総量の推定も可能になり、児への影響の有無を知る際に蓄積量を推定することが可能になった。
結論
出産後の経過により母乳中のダイオキシン類濃度は減少し、生後の母乳哺乳量も生後1ヶ月以降減少した。
以上から、乳児が体重1kgあたり1日に摂取するダイオキシン類の量は、出生直後が多く、その後次第に減少し、母乳哺乳児が摂取する母乳量も従来の報告より減少していた。

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