造血幹細胞移植ドナーの安全性確保とドナーの意向を尊重した造血細胞の利用の促進並びに相互監査体制の確立

文献情報

文献番号
201612001A
報告書区分
総括
研究課題名
造血幹細胞移植ドナーの安全性確保とドナーの意向を尊重した造血細胞の利用の促進並びに相互監査体制の確立
課題番号
H26-難治等(免)-一般-101
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
宮村 耕一(名古屋第一赤十字病院 造血細胞移植センター)
研究分担者(所属機関)
  • 日野 雅之(大大阪市立大学大学院医学研究科血液腫瘍制御学・血液内科学)
  • 上田 恭典(倉敷中央病院血液内科)
  • 田中 淳司(東京女子医科大学血液内科学講座・血液内科学)
  • 西田 徹也(名古屋大学医学部附属病院血液内科・血液内科学)
  • 熱田 由子(一般社団法人日本造血細胞移植データセンター)
  • 飯田 美奈子(愛知医科大学医学部造血細胞移植振興寄付講座)
  • 高梨 美乃子(日本赤十字社血液事業本部)
  • 大橋 一輝(がん・感染症センター都立駒込病院・血液内科)
  • 室井 一男(自治医科大学附属病院輸血・細胞移植部・無菌治療部)
  • 矢部 普正(東海大学医学部再生医療科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(免疫アレルギー疾患等政策研究 移植医療基盤整備研究分野)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では造血幹細胞移植ドナーの安全性の確保をメインテーマとし「①ドナー安全情報の収集・解析・情報発信、改善策の検討」、「②URPBSCTドナーの安全とQOL向上のための成績の解析」、「③造血幹細胞提供の最適化」「④相互監査システム(日本・アジア版FACT/JACIE/ACTA)の確立」を行なう。合わせてドナーの人権、安全性を担保したうえでの「⑤非血縁者ドナー細胞を利用した細胞治療の基盤整備」、「⑥血縁者間ドナー・レシピエントDNAバンクの確立」、「⑦ドナー細胞由来の造血細胞疾患についての調査」を行う。平成28年度は2年間の調査、研究をまとめ、厚生労働行政に資する提言、出版を行う。
研究方法
①ドナー安全情報管理の一元化の方向性について、日本造血細胞移植学会ドナー委員会、骨髄バンクドナー安全委員会、日本造血細胞移植データセンターと共同で検討する。アジア地区のドナー安全管理の現状について調査する。
②H26年6月に終了したURPBSCTの前向き観察研究の最終解析を行い現在あるHLA完全適合をドナー条件とする制限の解除について日本骨髄バンク医療委員会とともに検討する。
③血縁ドナーを対象に「1日末梢血幹細胞採取方法」の実施に向けた臨床研究を分担研究者の施設で施行する。
④模擬的な監査を行ない、費用、時間、効果について検討する。
⑤「非血縁者ドナーからの末梢血から樹立したCMV-CTL療法の臨床研究」を開始するとともに、その手続きについて日本骨髄バンクと手順書を作成する。
⑥米国のDNAバンクの実情についてCIBMTRのResearch Samples Repositoryの調査の結果と本邦の保存の現状の調査に基づき、新しい保存方法について提案する。
⑦ドナー細胞由来の疾患について調査ならびに基礎的な研究を行い、ドナーの細胞、レシピエントの造血の場の問題について明らかにし、適切な情報をドナーに伝える。
結果と考察
①すべてのドナー有害情報をデータセンターに集め、原因究明・再発防止については日本造血細胞移植学会と骨髄バンクが協力して行うことを提言した。報告基準としては、本研究班はアクシデント(レベル2以上)の報告に統一することを提案した。インシデントについては、学会の移植施設基準に医療安全推進室設置が義務付けられていることより、この対応は移植施設に委ね、必要なものを学会へ吸い上げるシステムの整備で対応は可能であろうと結論した。
②当研究班の調査も資し、ドナーが採取施設の近隣に居住するという条件が緩和されたが、学会の新しい施設認定基準にある「他施設のドナーについても緊急時に対応できること」が設けられたこともあり、ドナー安全性は担保されると予想され、現在まで大きな問題は報告されていない。
③単施設で「1日末梢血幹細胞採取方法」の臨床研究を行い、全例が1日で採取が終了した。これは多施設での検証を行うことが必要である。また非血縁者間末梢血幹細胞採取においても処理血液量を血縁と同じ300ml/kgとし「1日末梢血幹細胞採取方法」を行なうことにより、ほとんどの症例が1日で採取が行なわれると考えられた。
④日本では施設の良心を信頼し、相互監査を行っていないが、一部で不十分な施設もあり、海外から見れば日本の品質管理について確認できない形であり、細胞の国際交換に今後支障が出る可能性がある。しかし模擬的監査ではいくつかの軽微な逸脱事項が見つかったが、多大な労力が必要であることがわかった。
⑤再生医療に関する薬事法一部改正があり、細胞治療の基盤整備に時間を要したが、その手順を明確にできた。
⑥国内の保存状況の把握とハプロ移植における保存のプロモーションができた。細胞保存のデータベース作成についての進展はなかった。
⑦ドナー細胞由来の造血不全においては、骨髄異形成症候群で見られる遺伝子変異がないことが明らかになった。
結論
1年目に調査立案を中心に行い、2年目にはその課題を実施した。最終の3年目には結論が出たものから厚生労働行政への提言を行なうとともに、今後解決すべき継続課題を明確にした。ドナー安全は移植医療の基盤となる事項であるが、自家移植、血縁者移植、バンクを通じた移植などドナーソース別に異なる安全情報の管理、医療事故原因究明・再発予防を一元化することを提言した。造血幹細胞採取方法の適正化に関する臨床研究の実施、相互監査の試験的実施し、ハプロ移植でのドナー・レシピエントDNAなどの保存推進などにおいてはこれを推進することができた。しかし本研究は包括的かつ広域であり、さらなる研究の継続が必要である。特に、「安全」とならびもう一つの柱である「質(品質)」については、細胞処理を執り行う施設への監査はなく、国際的な細胞治療製剤の交換において支障をきたす懸念がある。

公開日・更新日

公開日
2017-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-07-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201612001B
報告書区分
総合
研究課題名
造血幹細胞移植ドナーの安全性確保とドナーの意向を尊重した造血細胞の利用の促進並びに相互監査体制の確立
課題番号
H26-難治等(免)-一般-101
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
宮村 耕一(名古屋第一赤十字病院 造血細胞移植センター)
研究分担者(所属機関)
  • 日野 雅之(大阪市立大学大学院医学研究科血液腫瘍制御学)
  • 上田 恭典(倉敷中央病院血液内科)
  • 田中淳司(東京女子医科大学血液内科学講座)
  • 西田 徹也(名古屋大学医学部附属病院血液内科)
  • 熱田 由子(一般社団法人日本造血細胞移植データセンター)
  • 飯田 美奈子(日本赤十字社血液事業本部)
  • 高梨 美乃子(愛知医科大学医学部造血細胞移植振興寄付講座)
  • 大橋 一輝(がん・感染症センター都立駒込病院・血液内科)
  • 室井 一男(自治医科大学附属病院輸血・細胞移植部・無菌治療部)
  • 矢部 普正(東海大学医学部再生医療科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(免疫アレルギー疾患等政策研究 移植医療基盤整備研究分野)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律」の成立により、ドナーの人権と安全性の確保及び造血幹細胞の品質管理を通じ、わが国の患者に平等に最善の時期に最適な移植ソースを利用した移植を受けることができるよう努めることが行政並びに医療機関に義務付けられた。本研究では造血幹細胞移植ドナーの安全性の確保をメインテーマとし、「①ドナー安全情報の収集・解析・情報発信、改善策の検討」、「②URPBSCTドナーの安全とQOL向上のための成績の解析」、「③造血幹細胞提供の最適化」「④相互監査システム(日本・アジア版FACT/JACIE/ACTA)の確立」を行なう。合わせてドナーの人権、安全性を担保したうえでの「⑤非血縁者ドナー細胞を利用した細胞治療の基盤整備」、「⑥血縁者間ドナー・レシピエントDNAバンクの確立」「⑦ドナー細胞由来の造血細胞疾患についての調査」を行う。
研究方法
1年目に調査立案を中心に行い、2年目にはそれを実施した。最終の3年目には結論を出し厚生労働行政への提言を行なうとともに、今後解決すべき継続課題を明確にした。
① 血縁ドナーの安全情報の管理をデータセンターに引き継ぐ作業を支援する。日本造血細胞移植学会と骨髄バンクのドナー安全情報一元化について調査する。アジア地区のドナー安全管理の現状について調査する。
② H26年6月に終了したURPBSCTの前向き観察研究の最終解析を行い現在あるHLA完全適合と地域の制限の解除について検討する。
③ 造血幹細胞移植支援機関の役割を共有する。血縁ドナーを対象に「1日末梢血幹細胞採取方法」の実施に向けた臨床研究を施行する。
④ URPBSCT採取施設の認定基準に含まれる「院内で行われる血液細胞処理のための指針」の遵守について相互監査を行なう。
⑤ 非血縁者ドナーからの末梢血を利用した細胞療法の手続きについて日本骨髄バンクと手順書を作成する。
⑥ 米国のDNAバンクの調査を行うとともに、本邦の保存の現状を調査し、わが国での設立を提案する。
⑦ ドナー由来細胞による障害について調査ならびに研究を行い、適切な情報をドナー、患者に伝える。
結果と考察

① ドナー安全情報の管理は血縁と非血縁で異なる点を明らかにでき、その一元化の必要性について確認でき、それに向けて検討が開始された。アジアにおいてはドナー安全の認識度が十分でないことがわかり、我が国のドナー手帳の英訳版を作成し配布した。自家造血幹細胞採取における有害事象については今後の課題として残こされた。
② URPBSCTの治療成績とドナーの有害事象について調査を行い、現在ある制限撤廃について、バンク委員会と検討し資料を厚生労働審議会造血幹細胞移植委員会に供され平成27年度に制限解除の決定にいたった。平成28年度には、この制限解除による不都合な報告は受けていないことを確認した。
③ 支援機関の役割並びにその実践について班会議を通じて理解を得た。「1日末梢血幹細胞採取方法」の単示説での臨床研究が終了し、今後は多施設での検証を行う。URPBSCTで可能となれば、施設の負担は大幅に減ることが示唆された。
④ 試験的に施行した外部監査により予想外の改善点を認識することができたが監査準備のために労力を要すことも確認された。海外調査では移植施設において安全・品質管理の担当部門があり、定期的、突然の監査に対応していることがわかった。凍結に関するアンケートの結果、ドナーへの説明、ガイドライン遵守について十分でないことが明らかになった。
⑤ 再生医療に関する薬事法一部改正があり時間を要したが、その手順を明確にできた。
⑥ CIBMTRは臨床データとサンプルデータを一元的に管理していることがわかった。全国調査では血縁者間ドナー・レシピエントの790ペアーの細胞保存がおこなわれており、PTCY全国アンケート調査では2割の施設でペアーでの保存がされていることがわかった。今後も引き続き細胞の保存を進める必要がある。
⑦ 移植後ドナー造血細胞由来の悪性リンパ腫の発生を報告した。移植後のドナータイプの造血不全における遺伝子変異について解析したが、骨髄異形成症候群に見られる異常はなかった。
結論
本研究は厚生労働行政の施策の推進に資するための政策研究であり、具体的には「移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律」にある「ドナーの人権と安全性の確保」を行なうための基盤整備を行なう研究である。本研究ではドナー安全情報管理の一元化が喫緊の課題であることを提言した。安全と品質管理を保障する「相互監査」については、理想と現実の差が確認された。安全・品質の保障、細胞治療の基盤整備、検体バンクの確立は、わが国発のイノベーションに必須の事項でありこれを推し進める必要がある。

公開日・更新日

公開日
2017-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-07-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201612001C

収支報告書

文献番号
201612001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,320,000円
(2)補助金確定額
4,320,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,145,274円
人件費・謝金 209,204円
旅費 1,354,980円
その他 890,654円
間接経費 720,000円
合計 4,320,112円

備考

備考
通信費において不足分があったため。

公開日・更新日

公開日
2018-01-31
更新日
-